見つめ合うと胸がちくりとするお年頃
敵国の四天王の一人だということで、少し戸惑っていた様子のアエラだったけれど、ユリウスをまじまじと見て頷くと口を開く。
「私には、神様からもらった力がありますから。私には、あなた方が悪い方には思えません」
アエラはそう言って微笑んだ。
なんとも恐ろしいユリウスを前にしても、この笑顔。さすがアエラさんだわ。
漫画の中のアエラさんを思い出しつつ私はうんうんと頷いた。
そうそう、アエラさんは、神様からもらった特別な力がある。
魔王を倒すため妖精界を旅立ったリリシュが、聖女となり得る存在のアエラを見つけて神様と呼ばれる偉い人の力をアエラに授けたのだ。
妖精族はこの国ではなかなかめったにお目にかかれない、特別な存在。魔術を人間に教えた種族らしいけれど、人間世界の魔素になじまず、元々住んでいる妖精界に基本的には引きこもっている。
けれど、人間界の荒廃は妖精界の荒廃につながるということで、魔王のせいで荒れる人間界を救うためにリリシュが旅立ち、アエラに出会い、力を与える。なんだかとってもファンタジーだ。
だからアエラは人間の魔術師が使えないような奇跡みたいなすごい特別な魔法が、使える。
「神? おめでたいな。そのようなもの、いるわけがない。……まあいい。どちらにしろ、私達の存在を知られたからには、生きて帰すわけにはいかなくなったな」
ユリウスがまるで悪役みたいなセリフを放つと、一緒に殺気のようなものが飛んできた。
私に向けられてるものじゃないのに、鳥肌が立った。
こわい。そう言えば、忘れがちだけど、ユリウスは、アナアリアの四天王最強で……。
「何を!」
ユリウスのまるで悪役みたいなセリフと殺気に反応したグイードが、魔力を込めた剣をユリウスめがけて振り下ろしていく。
しかし、ユリウスには届かずに途中で見えない壁に遮られて止まった。
「く、魔法の障壁か!」
そしてユリウスは面倒そうに片手を振ると、グイードは、吹き飛んで強く壁に叩きつけられた。
ローランが風の魔法で吹き飛ばしたのとはレベルが違う威力で壁に叩きつけられたグイードは、先程と違ってすぐには起き上がれそうにない。
しかし、さすがともいうべきか、なんとか剣を杖代わりによろよろと立ち上がった。
立ち上がっただけでもすごい。
「ほう? あれを受けて立ち上がるか」
ユリウスが面白そうにそう言うんだけど、さっきからユリウスがほんと悪役四天王みたいなことしか言わないからなんか私ハラハラしちゃうんだけど!
フラグって奴じゃないの? ねえ大丈夫!?
あと、この場にいる皆さんお忘れかもしれないけど、ここエルル村の家の中だからね!
あんまり暴れないでよね!?
「ユリウス師匠、容赦ないな……」
ローランが私の隣で、そう呟いた。
ね、そう思うよね。後、セリフの悪役っぷりがもうすごいよね。
ていうか、ユリウス本気で、彼らを殺すつもりなのだろうか……。
でもあの殺気は本物だ。今でも私鳥肌が立ってる。
私、聖女たちご一行は、正直、怖い。
だって、私を殺すかもしれないし……。
でも、彼らがここで殺されたりするのも、嫌だ。
だって、私は、漫画の知識があるから知ってる。
彼らはすごくいい人だもん。ここで、アエラの物語を終わらせたくない。
「ユ、ユリウス、もういいじゃない。あの人達、そんな悪い人たちじゃないし、あの嫌な感じの使者を追い払ってくれたじゃない!」
私がユリウスの腕をとってそう伝えると、ユリウスは眉を寄せて唸るように「エルル……」と名を呼んだ。
しばしの沈黙。
その間に、聖女が、倒れそうなグイードの元に駆けていく。
グイードのところに心配そうに駆け寄った聖女が、振り返って私とユリウスを見た。
「まずは、話し合いませんか? ……私には、やっぱりあなた方が悪い人には見えない。何か理由があるのでしょう? 力になれるはずです」
仲間を傷つけられて、きっと彼女だって動揺もするし、怒りだってあるだろうに、それを感じさせず強い瞳でユリウスを見た。
ユリウスとアエラが見つめ合う。
チクリと胸が痛んだ気がした
なんか、こんな時にあれだけど、なんだか、私、見つめ合う二人を見るの辛い。
「……エルルは、彼らを殺してほしくないのだな?」
胸の痛みに沈んでいると、ユリウスに話しかけられた。
「え!? あ、うん。そう、死んでほしくない。悪い人じゃないのは、私が保証するわ!」
「そうか……。わかった。私も先ほどは短絡的な思考に走ってしまった。彼らには、使い道があるかもしれない」
そう言ってユリウスは溜息をついたようにして息を吐くと、グイードの元に歩み寄った。
「すまない、立てるか?」
そう差し伸べた手をグイードはパシッと払いのけた。
「気やすく近寄るな」
うん、まあ、自分で吹き飛ばしたくせに、『立てるか?』なんて言われてもね、嫌みだよね。
「王子、大人しくしていてください。それと傷を癒します。目を閉じて」
アエラがグイードにそう言うと、グイードの額に自分の額をくっつけた。
ああ! あれは!
アエラお得意の回復魔法!
おでことおでこをコツンとするだけで、傷がみるみるうちにふさがるというすごい能力!
そうこれこそが! 彼女が聖女と言われる魔法の一端である。
何を隠そう、回復魔法と言うのは、アナアリアには存在しない。
似たようなものがあるとしても魔神官が作る治癒薬ぐらいだろうか。
回復系の魔法っていうのは、ものすっごく貴重なのだ!
思わずミーハー魂がうずいて、アエラの魔法の脳内解説で盛り上がっていると、傷の癒えたグイードが、立ち上がった。
敵対心むき出しの顔でユリウスを睨む。
その間で困ったような顔を浮かべる聖女。
まるで一人の女を取り合う三角関係みたいな場面だなって、漫画で予習済みの私は思った。
そう、思って、やっぱりなんだか、もやもやした。
おかしいな。
前世で漫画を読んでいた時は、こういう場面、好きだったのにな……。








