四天王の最強となれば有名人のようです
(エルル、どうした? 大丈夫か?)
脳内にユリウスの声が響いた。
聖女のパーティーに目を奪われていた私はユリウスを見上げる。
ユリウスが心配そうに私のことを見ていた。
(ユリウス……)
そう言えば、ユリウスは、アエラを見てどう思ったのだろう。
前世で読んでいた漫画の中では、好意を寄せる相手だ。国を裏切ってまで、聖女の側にいたユリウスの描写を思い出す。
なんでだろう。……なんだか、胸がざわざわする。
(本当に、どうしたんだ?)
改めてユリウスにそう問われて私は首を振った。
(ううん、なんでもないわよ。突然の出来事に驚いただけ! あれが聖女なのね)
私はできる限り冷静を装って脳内でそう返した。
私の強がりは、なんとなくユリウスに伝わってるかもしれない。
ユリウスは、いぶかし気に眉を寄せた。
(エルル、何か不安があるなら言ってくれ)
(別に不安なんてないわよ! というか、あの聖女さん達、どうするつもりなのかしら?)
私はそう言って、視線を聖女に移した。
思いっきり話を逸らそうとする私にユリウスは不満げな雰囲気だったけれど、ユリウスもそちらを見て頷く。
(しばらく様子を見よう。その間、私達の姿は見せないままにする。だから、あまり目立った動きはするな。触れたり、声を出したりして相手に気付かれた場合は、この魔法の効力はなくなる)
(わかってるわよ)
そう言いながら、聖女ご一行の様子を見る。
あの使者と倒された護衛達はゴレアムに拘束されてどこかに運ばれた。
あんなのもっとボコボコのボコンボコンにしたうえで外に放り出せばいいのに!
と、私が憤っていると、ふと、アエラと目があった、気がした。
いや、でも私の姿は、ユリウスの魔法のおかげで、見えていないはず……。
(まさか……、そんな、バカな)
ユリウスの焦ったような声が脳内に響いたと思ったら、アエラが、確実に私達の方を見てにっこり微笑んだ。
「そちらに、どなたかいらっしゃいますね? どなたでしょう?」
アエラが柔らかい声でそう言った。
え? ま、まさか、ばれ、ばれてる!?
思わずユリウスの方を見ると、ユリウスが珍しく焦ったような顔でアエラを凝視している。
焦ったのは、私たちだけではない。
私たちのことは見えないはずだと知っているエルル村の住人のローランは、アエラを睨んだ。
「な、なにもないところに向かって、何を言っているんですか!」
そうローランは主張してくれたけれども、そんなローランの主張には気に留めない様子で、グイードが訝し気にアエラが見ている方向、つまり私とユリウスがいるところを睨む。
「何か見えるのか、アエラ?」
と言いながら、近くにやってきたグイードがなんと私たちに向かって剣を向けた。
おおう、と思わず声が漏れそうになった。
グイードはおそらく適当に振り上げた剣なんだろうけれど、思いのほかにその剣の切っ先が私の顔と近い!
思わず後ずさりすると、庇うようにユリウスが私を後ろに下がらせた。
突然そんな長い剣を振り回すのはやめてよ!
さっきから悪い使者をばったばったと薙ぎ倒したりと、自由にやっておりますけれど、ここ一応室内だからね! エルル村の家屋だからね!
私は不満たらたらで、グイードを睨むとその少し後ろにいるローランが眼に入った。
私に向けられた剣の切っ先を見て、顔面が蒼白になっている。
あ、これは、良くない兆候だ。ローラン、すごく怒ってる。
「……やめろ! そんなものを向けるな! 風の門、放て!」
ローランは震える唇で呪文を唱えた。
ローランの魔法は大成功して、グイードに向かって突風の魔法が発動して吹っ飛ぶ。
ローランは、ちょっと直情型だからね。同じ村人が剣を向けられて、怒ったのだと思う。
気持ちは分かる。私だって、エルル村の誰かが、剣なんか向けられた時には、もうボコボコのボコンボコンにしたくなるもの。
ローランの魔法の風で、壁にぶつかったグイードだったけれど、すぐに体勢を立て直して剣を構えた。
あまりダメージを受けていないのは、装備している王家の鎧のおかげだろうね。あれは色々と特別な魔法効果が付与されてるから。
私が前世の知識を頼りに脳内解説していると、グイードが剣に魔力を補填させた。
「突然、どういうつもりだ? やはりお前は村人を攫った悪党なのか!? アエラ、そいつから離れろ!」
グイードが、ローランを睨みながらそう声をかけたけれど、アエラは首を横に振った。
「いいえ、殿下、落ち着いてください! ローランさんもです! すみません、私が不躾なことを言ってしまったから……。彼らは、悪い方ではありません。私には、分かります!」
そう言って、アエラは困ったようにグイードに訴えかける。
そして、聖女とも言うべき慈愛に満ちた優しいまなざしを私とユリウスに向けてくれた。
私がその微笑みについ見惚れていると、隣で深いため息が聞こえた。
「まさか、私の魔法が暴かれるとはな……」
ユリウスが観念したようにそう呟くと、私たちを覆っていた魔力の流れが変わった。
おそらく透明人間の魔法が溶けたのだろう。
私達の姿が、目に見えるようになると、王子とアエラの側にいた妖精が驚いたように目を見開いた。
「ええ!? ちょっと、あれって、アナアリアの……!?」
そう言って、妖精のリリシュが甲高い声を出すと、王子も同じく戸惑うような視線を向ける。
「アナアリア人!? いや、それよりも、その男の顔、見たことがある。……お前は、まさか、魔王軍四天王のユリウス=エルドラード=グリフスか!?」
四天王時代にブイブイ言わせていたユリウスさんは、どうやらガイア人の中でも有名みたい。
グイードがちょっと狼狽したご様子でそう言うと、さすがに敵国の四天王だとは分かってなかったアエラも驚いた顔をした。
「……今は四天王ではない」
そう不機嫌そうに返したユリウスに、ローランが近くに歩み寄る。
「すみません、師匠、俺、エルル様に剣を向けられて、それで、カッとなって……」
「ああ、分かっている。お前がしてなければ私がしていた」
ユリウスが、珍しくなんか師匠っぽい感じで、ローランにそう言うとアエラに視線を移した。
「それより、そこの女、何故私たちが隠れていると分かった」
そう言って、ユリウスは威圧的な態度でアエラを見た。








