招かれざる訪問者④
ユリウスが狼狽えたその隙に、私はあいつをボコンボコンのボコボコにするため、愚かなる使者の肩を掴もうと、した。
「な、なんだ!? き、貴様! はなせ! はなせ! 痛い! 痛い!」
私の目の前で、そいつがギャーギャー叫び始める。
確かに私は、今まさに、そいつをボコボコのボコにするつもりで近づいたけれど、まだ何もしてない。
使者の後ろを見ると、鎧を着こんだ人が使者の腕を取って、ひねり上げていた。
あの鎧、元々セクハラが連れてきていた護衛団の一人だ。
後ろに待機していたはずの護衛の人が、使者の腕をひねり上げている。私はその後ろの他の護衛の人たちを見たけれど、一人を除いて護衛の人たちは驚き戸惑っていた。
戸惑う護衛の中で、落ち着ている様子の護衛は、腕を組んだ。
「呆れた。我が王国はここまで腐り果てていたとは。このような者がはびこっているのはこの領地だけだと思いたいな」
その腕を組んだ護衛が、そう落ち着いた声を発した。
他の戸惑っている護衛とは、明らかに雰囲気の違う悠然とした佇まいに思わず目が行く。
「お前、何者だ!? ぐ、いた!」
使者が彼の様子に圧倒されつつそう声を荒げたところで、取り押さえた人に再度力強く腕を絞られたのか、悲痛の声を上げた。
「黙れ外道。このお方をどなたと心得る!」
そう言って、使者を取り押さえた人が、声を張った。
そして皆の注目を浴びながら、悠然と構えるその人は、顔まで隠す大きな兜をゆったりとした動作で取り外した。
そこから、ヘイゼル色の艶のある髪が零れ落ちる。
意志の強さを感じさせる切れ長の目。
ああ、見たことある。この人は……。
「我がガイア王国の第三王子であられる。グイード=ファンス=グリンウンド殿下で
いらっしゃるぞ!」
水戸の紋所が目に入りそうな展開に思わず固まった。
グイードって、第三王子って……ということは、一緒にいたフードを被った女の人は。
頭が真っ白になりそうなほどの衝撃にめまいがしそうだったけれども、使者は憤怒の表情で第三王子を名乗る男を睨み据えた。
「王族!? そ、そのようなこと信じられるわけなかろう! こんなところに殿下がいるわけがない! 護衛! この王族を騙る愚か者を取り押さえよ! 早く!」
とわめき倒すと、戸惑っている様子の護衛達が、戸惑いながらも剣を抜き、グイードと名乗った王子に弱腰で向き合った。
王子は、そんな彼らの様子に不敵な笑みを浮かべて、剣の一振りで未だ戸惑いを見せる護衛の一団を薙ぎ倒す。
あー。うん。
そうそう、王子の剣はチートでね、魔力を宿すことができるんだよね。
たった一振りで、力自慢な男20人分の威力を発揮する。
面白いように、人が倒れていく様子を見ながら、そう脳内解説する。
なんだか彼らの正体に確信を持った私は逆に落ちついて来た。
優男風の男が屈強な鎧を着こむ男たちを薙ぎ払った姿を目の当たりにして、さすがの使者も言葉を詰まらせた。
ふふ、ざまーみろよ!
……でも、なんかユリウスにかっこいいことを言った手前、私が助けたかったような気もするけれど。
私は、カンナを助けようとして差し出していた右手をこっそりと戻した。
そのタイミングで、この部屋の扉が開く。
扉にはフードを被った小柄な人が立っていた。と、その後ろにちょっと戸惑った様子のローラン。
小柄の人のマントから、さっと何かがふわりと飛び出した。
ピンク色の長い髪、黄緑色のおおきな瞳、人の顔程の大きさの、羽根の生えた小さな人型の生き物。
妖精と呼ばれる伝説上の生き物が、宙を飛んで、グイードの前に人差し指を突きつけた。
「あー、グイード殿下! やっぱり私達の合図なしに始めてるー! せっかく、村の人から情報を集めていたのに! 無駄骨じゃない!」
元気な声で妖精がそう言うと、鼻を鳴らして腕を組んだ。
その様子が面白かったのか、フードを被った女性が柔らかく笑い声をあげた。
「ふふ、リリシュ、人を指で指しちゃだめですよ」
とっても可憐な声が響く。
ふふふって言う笑い声だって、本当に鈴を転がすような感じで、どうやったらあんな笑い方ができるのだろう。
窘められた妖精は、フンと鼻を鳴らして腕を組んだ。
「はは、すまない。この男が、あまりに見るに堪えなかったものでね。それで、村人からはどのような話を?」
グイードは愛しそうな視線をフードの人に向けると微笑んだ。
「ローランさんにもご協力いただいて、色々と伺いました。やはり、無理やり連れてこられたという噂は嘘のようです。皆望んでこの村に来たと言ってました」
そう答えた彼女は、そのままはらりとフードを取る。
すると、長い綺麗な黒髪と、血色の良い健康的な肌に、ほんのり色付いた頬に唇、ふさふさなまつ毛に彩られた綺麗な瞳が露わになった。
やっぱり、そうだよね。
実物は、漫画で見た時よりもとってもきれいに感じる。
前世の私が大ファンになった女の子。
私はこの子みたいになりたかったのだ。
「妖精を連れた、黒髪の女……。まさか、お前、聖女と呼ばれている村娘か!?」
使者から驚きの声が漏れた。
今さら気づくなんて、鈍いわね。
私なんて、王子の正体を知った時点で気づいたもんね!
そう、彼女こそが……。
「あら、もうばれてしまいましたね。はい、こんにちは。私はアエラ。聖女と呼ばれていますが、ただの魔術師ですよ」
聖女アエラ。
前世の世界で愛読していた漫画の主人公だ。
「君の力を前にして、『ただの』とつけられると、他の魔術師が名乗り出せなくなるぞ」
そう言って、アエラの元に、穏やかな笑みを湛えたグイードがやってきた。
第三王子であるグイードは、王家の剣に魔力を込めて戦う魔法戦士。
「殿下に聖女殿、こやつはいかがしますか?」
そう言って、使者を取り押さえていた鎧の騎士が問いかけた。
使者を取り押さえたこの人は、おそらくもともと王子の護衛隊長だった凄腕の剣士ゴレアムだ。
「判断は殿下にお任せします」
そう言って微笑むアエラの肩には、ピンクの長い髪をもつ妖精のリリシュ。
そしてその後ろには、この状況に戸惑っている天才魔術師のローラン。
「とりあえず、この場はお引き取り願おう。処分は追って伝える」
そう思案気につぶやく王子の言葉を聞きながら、私は5人が集合した場面にとうとう出くわしたことに頭が真っ白になりそうだ。
魔法剣士であり、王子のグイード。
天才魔術師ローラン。
凄腕の重戦士ゴレアム。
妖精のリリシュ。
そして、聖女アエラ。
漫画の中で、私を殺す聖女のメンバーが目の前で全員揃っていた。








