招かれざる訪問者①
エルル村の入口で、ジャスパーやカンナと言ったエルル村初期メンバーと、私とユリウス、ローランで待ち構えていると、ガイア王国の使者と名乗った団体さんがやってきた。
十数人ほどの団体で、なんだか派手な格好のでっぷりとした体型のおじさんと、鎧を着込んだ人が十人程、それにフードを被った人が二人ほど。
私は、『おうおう私のエルル村になんのご用や?』とばかりに睨みつけているけれども、使者の団体さんは、私の睨みつけを全く気にしていないご様子。
それもそのはず、私とユリウスはユリウスの姿隠しの呪文で、使者には見えないようにしているのだ。
私たち2人は見た目が派手で、一目見ればガイア人ではないってことがわかってしまう可能性がある。
この村にアナアリアの魔術師がいるというのが、ばれるのが一番恐ろしいことらしく、ユリウスはすごく敏感である。
ということで、現在私たちは、透明人間なのだ。
しかも、エルル村の皆は私達の姿が見えるという仕様になっている。
どんな仕組みか私には全く見当がつかない。
ユリウスって本当になんでも出来る。
私は前世の記憶から、青い猫型ロボットとユリウスの姿が重なった。
「おやおや! 想像よりもご立派な村ですねぇ。あ、私、この地を治めるアイルコット卿の使者をやってます、マグナス=カラミルフェンリットと言いまして、とりあえずこの村の代表者を呼んでもらってよいですかねぇ」
使者の人が気持ち悪いぐらいねっとりとした口調で、カンナに声をかけた。
というかこの領主の使者って人、嫌な感じ。
だってさっきから、村をじっくり眺めているように見えて、エルル村の可愛い女の子たちのお尻を追いかけている。
目線がエロいのである。
「代表ならば、私でございますが」
とジャスパーが、前に出てそう答えてくれた。
ユリウスも私も、その存在が表沙汰になると困るので、急遽村長代理としてジャスパーが対応してくれることになった。
なにせジャスパーおじさんは、ガイア人だし、おひげも生えてるし、清潔感のあるおじさまなのでめちゃくちゃ村長っぽい。
「ほーう? あなたが村長ですか? 思ったよりも普通ですねぇ。近隣の村人を攫って、勝手に村を作るような極悪非道な方には見えませんよ」
そう言って、使者のひとはニタニタと笑った。
何と失礼な! ジャスパーのおじさんは、極悪非道なんかじゃありません!
見た目通りの爽やかジェントルマンだ!
だいたい、ひとを攫ったのはジャスパーじゃなくて、私だもの!
というか、やっぱりこの使者って人、なんというか生理的に無理な感じのするおじさんだ。
だって、さっきから隙を見ては、エルル村の若い女性陣の体を、特にカンナのお尻をチラ見してる。
「この村が、近隣の村人を攫って人を増やしているという噂の村ですか? そうは見えませんが」
使者の隣にいたフードを深く被った人が、そのエロそうな使者に声をかけてきた。
その人はフードのせいで顔が見えないのだけど、可愛らしい女の子の声でちょっとびっくりした。
「見た目で騙されてはいけませんよぉ。人攫いの規模ややり口を聞くと、どうやらこの村にはわるーい魔術師がいるみたいですからねえ」
と使者の人は話して、村人たちをじろりと見渡した。
手口で魔術師がいるってばれてる!?
あ、確かにいつも私ったら豪快に攫ってるもんね
で、でも、私は悪い魔術師なんかじゃないわよ!
良き魔術師! だって人攫う時は、ちゃんと許可を取ろうとしてるもん!
思いのほかに鋭い使者にちょっとビクビクしていると、使者は、また口を開いた。
「まあ、こんなちんけな村に魔術師がいるというのも、信じられませんけどねえ。今の時代、魔法が使えるってだけでガイア王国では英雄扱い。女も金も思いのままらしいじゃなですか。わざわざ辺境に住もうなんて、相当な変わり者ですよぉ。ほら、最近じゃ、ちょっと魔法が使えるだけで、平民のくせに聖女とか言われている小娘もいるそうで……嘆かわしい世の中ですねぇ。……あ、魔法使いの先生、気分を害さないでくださいね。あなた方のように、我ら尊い血筋を持つ者に仕えようとする魔術師先生は、身の丈に合った生き方を選んでおいでですから、素晴らしいと私は思っておりますからねぇ」
と言って、使者と名乗った人が、フードを被った2人に視線を向けた。
絶対、素晴らしいなんて思ってないよね、あのおじさん。
フードを被った2人が少しピリっとした雰囲気を出してきた。
あの2人、どう見ても使者の一団と比べると、醸し出すオーラが、なんか違う。
先ほどの使者の話ぶりを聞くに、あの2人はどうやら用心棒的な存在? しかも、魔術師の。
確かに、ただならぬ気配を感じる。あれは、魔力の気配だ。
ヤバイかもしれない。
私とユリウスはユリウスの魔法で感知されないようになっているけれど、実力のある魔術師ならばその魔法を見抜いてしまう可能性がある。
まあ、術者はアナアリア最強の魔術師のユリウスなので、その可能性は相当低いとは思うけれど、用心はした方がいいかも。
「……悪い魔術師ですか。見たところ、そこまで非道な行いをしたようには見えませんが。村人たちも特に拘束されている様子もない」
フードを被った長身のスラッとした体形の人がそう言った。声を聞いた感じ、この人は男の人だ。
このフードの二人は、男女のペアらしい。
「そうですかぁ? まあまあ、そんなに早く決断を下さなくとも、ここにいる魔術師が善良かどうか、なーに、少し話を聞けばわかります」
そう言って、使者はジャスパーの方を見た。
「ということで、ここに魔術師がいるのは分かっていますよ。ああ、ああ、変なことはしないでくださいねぇ。このように、私にも魔術師の方が二人もついていますからねぇ。もし、そちらの魔術師が暴れようものなら……わかりますでしょう? では、ジャスパーさん、あなたが村の代表のようですが、あなたが魔術師ですかぁ? 見えませんけどねぇ」
あまりにもなんか小ばかにしたような言い方に、絶対あいつ性格が悪いとエルル村の誰もが思ったに違いない。
ユリウスが顔をローランの方に向けると、ローランは、ユリウスの意図を理解したのか頷いた。
そして、すたすたと使者の前に出る。
「魔術師は俺だ。だが、一言言わせてもらえば、近隣の村人を勝手に攫った覚えはない」
おお、ローランが名乗り出た。そしてさりげなく私の名誉も守ってくれた!
そうそう勝手に攫ってないもん。ちゃんと「いいわよね?」って言ってから問答無用で攫ったもん!
それにしても、ユリウスとローランのアイコンタクトも自然だったし、私が知らないところで二人で打ち合わせでもしていたのかもしれない。
私の名誉まで守ってくれたローランが前に出てくると、使者は最初面食らったような顔をして、そしてバカにしたように笑った。
「ええ? こんな子供がですかぁ? ははぁ、なるほど、なるほど。小さい子供の純粋な気持ちを利用したわるーい大人がいるようですねぇ。いやー私も見習いたいものですよぉ」
と言って、使者はジャスパーに意味ありげな視線を向けた。
多分、ローランがジャスパーに騙されてこんな小さな村で魔術師をやっていると思われたようだ。
全然違うのに! ローランは勝手に魔術師になったの! 勝手に!
私の愛するエルル村に悪い大人なんていないわよ!
と言うか、さっきから話し方といい、態度といい、失礼過ぎじゃない!?
本当に腹立つんだけど! あとちょいちょいエロい目でカンナを見るのはやめてほしい!
「俺は子供じゃない!」
そう言うと、ローランの周りが音を響かせて、強風が吹いた。
自然に起こる風とは違う、魔術特有の風圧を感じる。
あれは、魔法陣や印を結んでの綺麗な魔力の流れを感じなかったので、ローランの感情に反応して、魔力がちょっと暴走したっぽい。
ローランは、天才だけど、子供扱いされると、触るもの皆傷つける勢いでご機嫌が斜めになるのがたまに傷だ。
しかし、この突然の風魔法は使者にとっては、恐ろしいものだったらしく、小さくヒッと悲鳴をこぼすと、フードを被った人達の後ろに隠れた。
なんてこった!想像以上に使者が気持ち悪い!
ということで、次の更新は早めにしたい…!と思います。
早くこの男をどうにかしたい。








