べ、べ、べつに!そういうんじゃないんだからね!
魔力が尽きることがない?
確かに、私はいまだかつて、自分の魔力の許容量を計りきれたことがない。魔神官から言われて、自分の魔力の許容量を計るための実験は何度もしたけれど、どれもうまくいかなかった。
てっきり私の魔力操作が下手なことで、うまく計れないのだと思っていたのだけど……まさかそんな隠れた才能があったとは!
さすが、最年少四天王にして、天才魔術師の私!
と思っていると、ユリウスが重い溜息を吐いた。
「私たちは、魔王にとって、四天王の一人とは言っても所詮はアナアリアという国を維持するための代替できる歯車の一つでしかなかった。だがエルルが魔力の永久機関になり得るとしたら……! ああ、今思えば、エルルが細かい魔法を使うのが苦手なのも、魔力が増え続けていくために調整が難しかったということか……? くそ、なんで私はもっと早く気づかなかったんだ!」
と、ユリウスは吐き捨てるように言って忌々しげに唇を噛んだ。
ユリウスが何かを相当悔やんで、焦っているのはわかるんだけど。
どうしよう。ユリウスの言いたいことが、私よくわからない。
ユリウスの話が事実だとして、なんでそんな世界の終わりだみたいな反応をしてるんだろう。
別に、大したことないっていうか、魔力が尽きないってむしろ良いことよね? 何か悪いことがあるのだろうか?
「ユ、ユリウス? なんでそんなに焦ってるの? それって悪いことなの?」
恐る恐る伺うと、ユリウスは生気のないような顔で私を見た。
「……場合によっては、非常に悪い。確認したいのだが、君のその体質を魔王は知っているのか?」
「魔王って、あの魔方陣よね? 私は自分からそういうことが出来るってわざわざ話したことはないけど、でも隠したりもしてない。知ってるかどうかは、正直、分からないけど……。でも、そう言えば、私、魔術の研究機関に入ってから、自分の魔力の許容量を計る実験ばかりをやらされていた気がする」
私がそうユリウスに伝えると、ユリウスはかすかに目を細めて「そうか」と呟いた。
「魔王に知られてさえいなければ、どうにかなる可能性はあるかもしれないが……あまりそれを期待しない方がいいだろうな」
ユリウスは改めてそう呟きながら私の近くにやってきた。
その顔は先程までの焦ったような顔ではなく、どこか覚悟を決めた人のような雰囲気。
そんな彼の雰囲気に呑まれて呆然としていると、ユリウスは、そのまま私の背中に腕を回して……。
「は!? え、ちょっと、ユリウス……!」
何とユリウスが唐突に私を抱きしめて来た!
なんで、抱きしめて来たの!?
私ったら、いつの間にかユリウスの腕の中だ!
「エルル、もうこれからは目立つような行為は控えるんだ。今日みたいに大規模魔法を使うことはしないでくれ。魔王に君の存在を知られるわけにはいかない」
「な、な、何よ一体! ていうか、離してってば!」
と言って、手をユリウスの胸に押し当てるけれど、ユリウスの力が強くて、ビクともしない。
「何があっても守ってみせる。決して魔王には渡さない」
「さっきから、なんの話をしてるの!?」
私がそう言って顔を上げると、思いのほか近くにユリウスの顔があった。
あのユリウスが、なんだか泣きそうな顔をしている。
感情が表に出ることがあまりないユリウスは、アナアリアでは氷の貴公子と言われていて、エルル村を作ってからは多少表情が豊かになってきた気もするけれど、それでも私よりもいつも大人で、冷静で、しっかりしてて……。
そのユリウスが、泣きそうな顔をしている。
吸い込まれそうなユリウスのブルーの瞳から目が離せない。
私このまま……。
「あれ、なんか向こうに誰かいるよー!」
「ギャっ!」
唐突に第三者の声が聞こえた私は、びっくりしてユリウスを突き飛ばした。
火事場のバカ力とはこのことだろうか。
先程までビクともしなかったユリウスが、押されて二歩ほど私から離れた。
あ、危ない。
私ったら、さっき一体何を考えていたんだ……。
私が改めてユリウスを見ると、彼は声をかけてくれた人に向かって振り返るところだった。
私も、ちょっと場所をずらしてユリウスがいて見えなかった声の主を確認する。
あ、ローランだ。それに後ろには、村の子供達がいる。
髪が濡れていることから察するに水浴びが終わってここまできたのだろう。
さっきの声は、子供達の声っぽいな。
ローランは、ユリウスの陰からひょっこり顔を出した私と目が合うと、驚いた顔をした。
「あ、その、エルル様も一緒だったのですね。すみません、2人でいたところをその、邪魔してしまって……」
とローランは、顔を赤らめて恥ずかしげにそう言うと、視線を外した。
あ! この反応は!
ローランは、あれだよね、完全に勘違いしてるよね?
私とユリウスの仲を勘違いしてるよね!?
ローランが恥ずかしそうに顔を赤らめているのを見ていたら、私もつられて恥ずかしくなってきた!
や、違う、違うんだよ! さっきのは、なんていうか、ただ……ただ見つめ合っていたというか、抱きしめられて……。
と先ほどまでのことを改めて思い出して、さらに顔が熱くなった。
いや、ユリウスったら何を私にしてるんだ!
あんな、あんな風に抱きしめたり、見つめたりしたら、私、私……。
どうしよう恥ずかしくて頭がおかしくなりそう!
だいたいあんな場面見せられたらローランじゃなくても勘違いするよ!
なんであんなことするのよ! ユリウスなんて、聖女のこと好きになる癖に!
「ロ、ロ、ロ、ローラン! 勘違いしないでよね! べ、別に私とユリウスはそんなんじゃないわよ! 今のは、なんか、あれよ! ユリウスがなんかおかしくなっただけよ!」
私がとっさにそう声を荒げると、ユリウスが不満そうに私を見下ろした。
「別に、おかしくなったわけではない。……だが、冷静ではなかったことは認めよう。君には無礼を働いてしまった。……少し頭を冷やしてくる。防護結界魔法を強化しなければならないしな」
そう言ってユリウスは、そのままあっさりと去っていった。
ザッザッザとか足音させて、ものすっごくあっさり去っていくユリウス。
振り返りもしない。
なんというか、あっさりしている。
私ときたら、まだ顔は熱いし、ドキドキしてると言うのに!
私が不満げにユリウスの背中を睨んでいると、「あの、エルル様……」とローランが遠慮がちに私に話しかけてきた。
「何?」
私はローランの方を見ずにそう言って、忌々しいユリウスが去っていった方を睨む。
いやだって、ユリウスときたらいきなりあんなことしといて、あーんなあっさり去っていくとはどういうことだろうか!
「あの、ユリウス様とエルル様は、恋仲なんですか?」
「だから違うって言ってるでしょう!?」
ローランがそんなことを言ってきたので、振り返ってローランを睨みつけつつそう言うと、睨まれたというのに、ローランは嬉しそうに微笑んだ。
「そう、でしたか。……よかった」
何がよかったんだ! まったく!
「とりあえず! 水浴びが終わったなら帰るわよ! エルル村の集落に!」
私はなんだか釈然としないイライラを抱えながらそう言って、ローランと子供達と一緒にドスンドスンと村に帰ることにした。








