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すでに悪いこと(人攫い)をしてました 前編

まずは落ち着こう。

焦る時間じゃない。


ベッドからむくりと起き上がった私は、とりあえず深呼吸をした。

衝撃の事実の連続で、思わず倒れ込んだのは昨日。

深呼吸で少し落ち着くと、サイドテーブルに置いてあった鏡を手に取り、自分の顔をまじまじと見る。


赤い瞳に、赤い髪。

鏡の中には、15歳にしては幼い見た目の輝かんばかりの美少女がいた。


少女漫画『ガイアの聖女アエラ』に出てくる悪役のエルルとうり二つの容姿だ。


エルルはロリ系な見た目の悪役で、ちょっと短気で、一番最初に主人公に絡んで、死ぬ四天王。


『大魔法使いのこの私が! 四天王のエルル様が! お前なんかにーやられるなんてー!』

といかにも悪役な言葉を吐き捨てて、聖女アエラとその仲間に倒される。



いやだ……!


絶対に嫌...!


そうだ、聖女に狙われないように大人しく過ごせば.....助かる?


と一瞬考えたけれど、今までの自分の行いを思い出して、首を横に振った。


あ、だめだ。

だって私……殺されても文句言えないようなことを、もうすでに、やってしまっている……。



絶望する私の耳にドアをノックする音が聞こえた。

ハッとして、どうにか返事をすると、昨日私を支えてくれたメイドがやってくる。


緊張した面持ちで、私と目が合うとびくりと肩を震わせた。


私もぞわぞわと嫌な汗をかく。


「……そんなに怯えなくていい」

メイドの登場にビビる自分の内面とは裏腹に、なんだか不遜な口調になってしまった。

これはもう癖かも。

きっと私、誰かに倒されたら、ビビる内心とは裏腹に、『お前なんかにやられるなんて―!』って三下みたいなことを吐くに違いない。


メイドは私の言葉に少しきょとんとした顔をしたけれど、茶器類を運んできてくれて、私の紅茶を用意してくれた。


「ありがとう」


私がそう言うと、メイドは、さらに体を硬直させた。


きっと私らしくないことを言ったから、ビックリしたんだろう。


このメイドは、いや、このメイドに限らず、私の屋敷にいる使用人は全員私を、恐れている。

いや、恐れるだけじゃなくて、憎んでもいる、はず。


だって、私が、彼らを無理やりガイア王国からさらってきてここで働かせているんだから。



強い魔力の力に恵まれ、魔王様を愛し、魔王様に愛されていると妄信し、魔王様がもっと自分を好きになってもらえるように、努力をしてきた私は、ずっと幸せだった。

魔王様に統治された国、魔王様の考えた完全なる法の元に生きることは、なによりも幸せで素晴らしいと信じていた。

だから、ちょくちょくガイア王国に足を運んでは、人を連れ去って使用人にしてしまっていたのだ!そうしたほうが連れ去られた人も幸せだと信じていたから!



それは完全に善意だった。

ここに住んだ方が、幸せなんだから、他の人もこの幸せな魔王様の国で、過ごせばいいのにって、私は良いことをしているって、そう思ってやっていた。


魔王様を妄信していた私は、魔王軍の侵略に抵抗するガイア王国って、なんてバカなのかしらってずっと嘲笑っていた。

魔王様の国で暮らせること以上に幸せなことはないと妄信していたから……!


でも、前世の記憶を得て、前世の私の倫理観や、考え方が頭に入ってきて、私は、気づいてしまった。

私の善意は、とっても迷惑で、愚かな行いだったと……。


以前の私が、魔王様を敬愛しているのと同じぐらい、ガイア王国の人々も自国の歴史や文化や土地、そこに住まう家族を愛しているんだ。

その愛を、幸せを、無理やり奪って、しかも略奪した国に住まわせて、幸せになるはずがないじゃないか。


このままじゃダメだ......!

聖女に殺されるかどうか以前の問題として、私がこのままじゃいやだ。


私は覚悟を決めて顔を上げるとメイドに話しかけた。

「ねえ、お前、名前はなんていうの?」


私の質問に、メイドは不思議そうに眼を瞬かせた後、小さな声で「カンナです」と答えた。


初めて、使用人の名前を、私は聞いた。

彼らに名前があるとは考えたことがなかった。

カンナはよく見れば、私と同じ年ぐらいの女の子だった。

私は今更ながら、そんなことを初めて認識した。


「……そう、カンナ。あなたには、家族がいるの?」


「家族は、いません。父も母も流行り病で亡くなってしまって、村の人から、私も、その、病気を疑われ、隔離されそうになってたところで、エルル様に連れてこられたので」


カンナの言葉に少しホッとしてしまった。


家族を引き離したのが私じゃないってことにホッとして、そんな自分の愚かさに落ち込んだ。

だって、私は他にも何人も、ガイア王国の人をさらっている。

全員が全員カンナのような境遇じゃないだろう。

きっと、家族と離れ離れになって、私を恨んでいる人はいるはずだ。


今までの私は、家族と離れ離れになるのが辛いということを知らなかった。


私には家族と呼べるような者がいないから分からなかったのだ。

魔王国アナアリアは3歳までは親元にいられるけど、4歳から13歳まで、全ての子供が一つの施設に収容されて育てられる。

そこで、魔術の訓練をし、魔王様の法や教えを学び、魔王様を親のように慕って過ごす。

一度も会ったことがない魔王様を愛し、愛されていると思い込みながら過ごす……。


「カンナ、ガイア王国に戻りたい?」


カンナの目を見るのが怖くて、下を向きながらそう問いかけると、カンナが一歩足を下げたのが分かった。


そしてカンナは驚くべきことに、床に膝を突いて、低頭した。

「お許しください! エルル様! 私は何かいけないことをしてしまったのでしょうか!? もう私にはここ以外に行く場所などありません! どうか、このままこちらにいさせてください! お願いします! お願いします!」


必死に涙ながらに訴えかけてくるカンナにびっくりして、思わず息を呑んだ。


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