ようこそ!エルル村へ!
「ということで、新しい村人たちを連れてきたわ!」
そう私が宣言して、荒廃した村から攫ってきた十数人ほどの人を紹介したら、使用人のみんなは驚いて目を見開いた。
まあ、街で、砂糖やら塩などを買い込みに行ったと思ったら、20人ほどの人を連れて帰ってきたらそりゃあ驚くに違いない。
そして攫われた人達も、突然村の一員ですと言われて戸惑ったりしている。
というか、攫うまでも結構大変だった。
治癒の霧で、霧の中にいた人達の傷や体調の悪さ、一時的にも栄養失調などの症状を治したまではよかったんだけど、あまりに突然の出来事に、村の人達は夢でも見たのかという感じで呆然としてしまったのだ。
突然の出来事に、戸惑う村人たちをカンナ達がなんとか説得して、エルル村に来てくれることに了承してもらったけれど。
唯一事情を知っていたあの枝を振り回す少年も、元気になった妹の姿を見て、最初はとても戸惑っていた。でもすぐに、事の流れを理解したようで、私にお礼を言って、村人たちの説得に協力してくれた。
あの少年は、あの村では結構上の立場だったらしく、彼が声をかけると、村の人は大体説得に応じてくれた。子供なのに、すごい少年だ。
そして、エルル村に連れて来られたその少年はというと、村一帯に広がる畑の様子を見て、目を点にさせていた。
畑には最初に植えた種や苗がそこそこ大きく成長している。荒廃した村の畑は、本当にボロボロだったので、植えたものが綺麗に並んで青々しい元気な姿を見せるエルル村の畑に驚いているのだろう。
思いの外に広く畑を作ったので、収穫時期ともなれば人手が足りない状況だったろうから、こうやって改めて人をこの村には連れてきたのは、そういう意味でも正解だったかもしれない。
新しい住人の住まいは元々ユリウスが建ててくれた家がまだ余っているので、それを使ってもらうことになった。
これでなんだかんだ、三十人ぐらいの人が住むいっぱしの村になってきた気がする。
いや、どちらにしろ少ないけれども。
新しい住人は、老人や女性、子供が多い。というかそれぐらいしかいない。
あの少年が話してくれたように、村のほとんどの働き盛りの男たちは、盗賊になってしまったのだろう。
私が新しい住人の紹介をすると、エルル村のみんなは、新しい住人を暖かく迎え入れてくれた。
かなりお腹が空いているらしいみんなに消化に良さそうなスープをメイデが作ってくれて、みんな一緒に美味しそうに食べる。
治癒魔法薬の効果で、一時的な栄養失調の症状は緩和しているとはいえ、お腹は空く。
それに、メイデの料理は世界一おいしいもの。
時折笑顔も見えて、なんだか楽しい感じだ。
よかった、みんなが快く受け入れてくれた。なんとかなりそうだ。
周りの状況を見て、ほっとすると、皆でスープを食べているところよりもちょっと離れたところに突っ立っているユリウスが目に入った。
やっぱりユリウス、なんだか様子がおかしいのよね。
あの村で魔法を使ってから、なんか考え込んでいるような感じ。
ずっとしゃべらないし、ちょっと深刻な顔してる。
なんだか気になるけれど……。
「エルル様、新しい住人に服を与えてもいいですか? それと水浴びもさせたいのですが?」
ユリウスの様子を見ていると、そう声をかけられて、視線を外して声をかけてきた人を見た。
元私の屋敷の洗濯婦をしていたマリーが、人の良さそうな朗らかな笑みを見せていて、その手には、新しい住人の子供の手を握っている。
おいしいスープを飲めて嬉しそうな顔だけど、その子の服はボロボロで、顔も泥だらけ。他の子達も同じレベルだ。
「もちろん良いわよ。先に川に連れて行って。服は後から持ってこさせるから」
私が許可を出すと、マリーは新しい住人達を連れて、川の方に向かっていった。
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「マリー、持ってきたわよ!」
そう言って、魔法の絨毯の上に大量に積まれた布や服を見せた。
マリーはお礼を言って、川で体を洗う女の子やご婦人方の方を向いて、新しい服が来たことを伝えてくれた。
ご婦人の方々は、緊張しているのか、ちょっと遠慮が見える。でも子供達は、もう順応しているようで、新しい服に飛びついて、きゃっきゃと騒ぎだした。
へへ、女の子だね。
あれ? そう言えば、ここ、女の子ばかりで、男の子がいない?
「あれ、マリー、男の子たちは、どうしたの?」
「もう少し川下で体を清めてもらっています」
「ええ!? 危険じゃない!? だって、子供しかいないでしょう!? 誰か一緒についていってるの?」
あの村に成人した男性はいないはず。みんな子供で、一番大きいので、あの枝を地面につついていた少年だ。
穏やかな流れの川ではあるけれど、足でもすべって溺れたら大変。
「ローランさんが、自分が見てるから平気だとおっしゃって」
「ローランって誰?」
「エルル様がお連れになった村の長ですよ。一番大きい男の方、エルル様が少年とお呼びになっていた」
「じゃあ、まだ子供じゃない! あの子、村長だったの? とりあえず、川で足でも滑ったら大変よ。私、服を持って行くついでに見てくるわ」
「し、しかし、ローランさんが……」
マリーは何故か渋って止めようとしてきたけれど、私は居ても立ってもいられず、川下へと急いで向かうことにした。








