大きな街でお買い物に出かけました
今日は、大きな街まで遠出して、塩や砂糖と言った食材を買い込む予定。
かなり距離があるけれど私の魔法でひとっ飛び。
私とカンナ、そしてその大きな街に行ったことがあるという元々ガイアで商人をやっていたジャスパーさんも連れていく。
みんなと一緒に空を飛ぶってなると、なんか乗り物的なものが必要だと思って、
赤い絨毯に魔法陣を描いて、空飛ぶ絨毯を作った。
空飛ぶ絨毯とか、夢がある。
「エルル様は目立ちますので、フード付きの外套を着てください」
そう言って、カンナが私に大きめな外套をかけてくれた。
マナアリア人は、髪の色とか
目の色が派手なのが多いからね。確かに私みたいな赤い髪の女が来たら、ガイアの街だと目立つかもしれない。
「エルル、どこに行く?」
いざ絨毯に乗って出発と言うところで、ユリウスがやってきた。
「街に、食料とか生活用品を買い込みに行くのよ。まだ備蓄はあるけど、念のためね」
「分かった。私も行こう」
とユリウスが即答して、当然のように絨毯に乗ろうとしてきた。
「いや、ユリウスは、村を守っててよ!」
「村には、防護魔法をかけている。問題ない。何かあればすぐにわかるようにもなっている」
「えー、でもユリウス目立つし、街なんか行ったら、何か騒動起こしそう」
私がそう言うと、ユリウスは、首を傾げて、私のことをまじまじと見た。
「エルルの方が、何か騒動を起こしそうだと思うが」
「私は常識人だもの! 全然平気よ!」
何を言うのかと思ったら、私が騒ぎを起こすわけがない!
まったく!
「まあまあ、お二人とも。仲良くいきましょう。エルル様、ユリウス様も一緒なら、心強いですよ。それに、断っても素直に言うことを聞くお方じゃないでしょう?」
ジャスパーのおじさんがそう言ってくれて、『まあ、確かに』と思った私はしぶしぶ頷いた。
ということで、街への買い出し部隊は、私、カンナ、ジャスパーのおじさんと、ユリウスというメンバー。
しょうがないから、ユリウスは荷物持ちだ。
ーーーーー
魔法の絨毯でひとっ飛びして、この辺り一帯の中では最も大きな街、エウグスティンに着いた。
初めての街でなんだかテンションが上がる!
それにしてもこの街、活気がない。
これが、ここ一帯で一番大きな街、なんだ……。
ちょっと意外。
手持ちの宝石をガイアのお金に変えて、目的のものを買うべく、街の市場のようなところに進む。
市場といえば、本来なら一番活気がある場所のはずなのに……やっぱり元気がないというか……。
人々の顔が暗い。それに人々で賑わう筈の市場なのに人も少ない。
思いの外に活気のない市場で、砂糖や塩といった調味料を始め、様々な保存食を購入する。
荷物持ちとして連れてきたユリウスに、あれもこれもと買ったものを持たせた。
高く積み上がる荷物の山。
しかしユリウスは、涼しげな顔で、塔のように高く積まれた荷物を芸術的なまでのバランスで、持ち歩いている。
これは……。
「ユリウス、魔法使ったでしょう!?」
私がジト目でそう言うと、ユリウスは頷いた。
「ああ、使った。荷物はまだまだいくらでも持ち運べる。買いたいものがあるなら、好きなだけ買えばいい」
「言われなくても、買うけれど! あんまり目立つやり方しないでくれる!? 一応私たちは、アナアリアの逃亡者だし、それがバレて、万が一騒ぎになったら大変でしょう? ただでさえ、ガイアでは魔法使いが少ないんだから……」
こーんなに高く荷物を積み上げられたら、目立っちゃう。
まあ、今のところ目立ってる様子はないんだけど。
「そうですよ、ユリウス殿。私も持ちますので、少しお譲りください」
と、ジャスパーさんが声をかけたけれど、ユリウスは首を横に振った。
「いや、それには及ばない。他者からはこの荷物が見えないようにしてある」
「え、それって魔法をかけてるってこと……?」
私は慌てて、解析の魔法陣を展開させると、ユリウスの持っている荷物に集中した。
たしかに、安定と軽量と、光系の幻術の魔法が発動している。
気づかなかった……。いつの間に。
いつ魔法陣を描いたの? それとも陣を描くのは省略? 詠唱は? それも破棄して発動したの? あれほどの細かい魔法を私に気付かれずに、一瞬で……?
やっぱり、どうしようもないほどの力の差を感じる。
本当は、ユリウスにたくさん荷物を持たせて、荷物持ちのユリウスが『重いでぷー』と情けない顔して言ってくれたら面白いのにって思ってたのにー!
くやしー! なんとなしにユリウスの顔が、『おやおやこんなこともできないのか。さすが四天王の最弱』と言っている気がしてくる!
「わ、私だって、それぐらいのこと、ちゃんと時間をかければ出来るんだから! そうだ! なんだったら荷物はみんな宙に浮かせちゃえばいいのよ! そうした方が楽じゃない! 見てなさいよ、ユリウス!」
私はそう言って、魔法の絨毯を作った時と同じ要領で呪文を唱えていく。
「エルル、やめておけ、まだお前はこの街の魔素量に慣れて……」
何事かをユリウスが言おうとしたタイミングで、私の呪文が完成した。
あれ? でもこの感じ、なんかいつもと違う。魔力の動きが止まらない?
そう思った瞬間には遅かった。
ユリウスが持っている荷物にだけ掛けようとした魔法が、周辺にまで及んだ。
市場で売られているリンゴや魚や野菜が、ぶわーっと盛大に宙を舞う。
あ、あれ……?
突然の出来事に、市場が騒然となった。
あ、ヤバい。
私は慌てて、魔法を解除した。宙にフワフワと浮いていた市場の品物は全て元の位置に戻ったけれども、市場の騒ぎは収まらない。
「エルル、君は人の話をもう少し聞いた方がいい」
ユリウスが、額に指を当ててそう言った。
「だ、だって、できると思ったんだもの!」
いや、正確にはできたんだけど! できはしたんだけど、思いの外に規模がでかすぎたというか、なんというか!
「とりあえず、エルル様、ここはこの場を急いで離れた方が良さそうです。もう大体買いたいものは買いましたし、このまま帰りましょう!」
そうカンナに促されて私たち一行は駆け足でその場を離れた。
魔法の絨毯を隠していたところに着いた頃には、元々体力のない私の息は上がっていた。走るって辛いのね……!
あんまり走ったことないから、すっごく、疲れた……。
ちらりとユリウスを見てみたけれど、彼はいつも通り涼し気な顔だった。
意外と体力あるのか……。
そんなどうでもいいことを考えながら、絨毯に乗り込み、我らがエルル村に向かって、絨毯を飛ばした。
しばらく絨毯の上で、涼しい風を感じながら進んでいくと、幾分心が落ち着いてきた。
せっかく街に着いたのに、あんなちょっとした騒ぎを起こしてしまうなんて……。
「あの、さっきは、ごめんなさい」
私は改めて、先ほどの謝罪をした。もうちょっと買いたいものがあったかもしれないのに、あんな感じに慌てて帰らせてしまってすみません。
いや、だって、できると思って……。
「大丈夫ですよ、エルル様、なんだかんだで、あのようなハプニングも楽しいものです」
「そうですよ。慌てるエルル様も大変可愛らしかったですし」
カンナとジャスパーがそう言ってくれて、ホッとした。
恐る恐るユリウスを見ると、なんか呆れたような顔で私を見ている気がする。
その顔が、『四天王の面汚しめ』と言っているような気がする。
「な、なによ、その顔!どうせ、四天王の面汚しめって思ってるんでしょう!ふーんだ、言っておくけど、あなたの方が面汚しなんだからね!」
「そんなことは思っていないが……」
とユリウスが不思議そうに首をかしげてそう言った。
「思ってないけど、なんなのよ?」
「いや、ただ、素直で可愛いなと思っただけだ」
……。
はあ!?
「な、な、な、なに言ってんのよ!? ちょ、ちょっと、そんなこと言って、からかわないでくれる!?ユリウスのバカ! この四天王の面汚し!」
「からかっていないが」
いいから黙っててよ! という気持ちでユリウスを睨むと、彼は肩をすくめて、水筒に入れていた水を飲んだ。
カンナとジャスパーがおやおやお二人さん仲がよろしいようで、みたいな感じで、微笑ましい笑顔を浮かべて私とユリウスを見ている気がする……!
なんだか気恥ずかしくなって、ふんと顔を逸らした。
ユリウスめ、涼しい顔で思ってもないことを!
私のことなんて、興味ないくせに、あんなこと、可愛いとか言うなんて。
ユリウスは聖女のアエラに会えば、きっと彼女のことが好きになる。
だって、そういう運命だもん。
いつか他の人を好きになる人なんだから、そんな風に、こう期待を持たせないで欲しい。
ユリウスは、顔だけはいいから、なんか、やっぱりドギマギするし、顔だけはいいからね! 顔だけは!
まあ、性格も、悪くない気もするけれど……。
いやいやだめだだめだ! ユリウスは私のこと、四天王の面汚し扱いするし、彼の運命の恋の相手はもう決まってるんだから!