こうやって自由に生きていく
ユリウスと私とアンゼフさんと一緒に、山までお出かけ。
「これは野いちごですよ。甘くて大変美味です」
屋敷で働いてくれていたアンゼフさんという方が、そう言って、野いちごを摘んでいく。
アンゼフさんは、元々狩人だったらしく、山の幸に大変お詳しい。
私もアンゼフさんと一緒に野いちごを摘んではカゴに入れていく。
アンゼフさんは、山の食べ物を見つけることにおいては天才的で、ちょっと離れた場所にあるベリーを見つけては、「向こうにベリーがあるみたいです」とか言って、発見してしまう。すごい。
おかげで、私のカゴは、紫や赤色といった様々なベリーがたくさん入っている。
満足げに私がカゴの中を見ていると、ひょいと長い指が、私のカゴから野いちごを3粒ぐらい掴んだ。
あ……!
と思って、その手の持ち主を見ると。
ひょいひょいと野いちごを口に運んで、満足げに咀嚼をする人物が……。
「アンゼフの言う通りだな。野いちごは美味しい」
「ちょっと! ユリウス!勝手に食べないでよ!」
「いいじゃないか。新しい野いちごを収穫できたのだから」
「収穫できたからって、その度にユリウスが勝手に食べたら、全然増えないじゃない!」
「仕方ない。これも全て山の恵みが美味しいのが悪い」
山の恵みのせいにした! なんてことを言うんだ!
山に入った最初の方なんて、水で洗いもせずそのまま食べるのか!?と、採れたて野いちごを食べることを躊躇していたというのに!
一度恐る恐る口にしてから、このようにつまみ食いの名人に……。
私はこれ以上ユリウスに野いちごを食べられるわけにはいかないと、背中にカゴを隠した。
これ以上はだめ!
ベリーをたくさん使ったケーキをメイデに作ってもらうんだから!
私がベリーの入ったカゴを背中に隠すと、ユリウスが、少ししょんぼりした。
子供か。
そんな私たちのやりとりなど気にせず案内人のアンゼフさんは新しい食べ物を見つけたようで、かがんで、手招きしてくれる。
私もユリウスもアンゼフさんのところに行って、彼が指し示すキノコを見た。
「これは、食べられるキノコです。旨味があって、良い出汁がとれます」
白っぽいキノコを根元から摘みながらアンゼフさんが教えてくれる。
「ほう。ならば私も手を貸そう」
とユリウスが偉そうに言って、アンゼフさんと一緒にキノコを摘み始めた。
ユリウスは山に入ってから、異様にテンションが高い。
初めて山にハイキングに来た子供のようだ。
「アンゼフ……これは、どうだ? 食べられるのか?」
ユリウスが、茶色いキノコを見つけてそう聞くとアンゼフさんが首を横に振った。
「それはダメですね。毒を持っています」
「ふむ。先ほど見つけた食べられるキノコと似ていると思ったが……」
「似ているように見えても別の種類です。傘の色はまったく一緒ですが、白いイボが付いているでしょう? これが付いているのは毒キノコなのですよ」
「なるほど、キノコというのはなかなかに奥が深い」
キノコを見つめながらふむふむと頷くユリウス。
キノコ狩りも楽しめていらっしゃるようで良かったです。
そのあと、山葡萄やらの果物から、クレソンやらの野草を摘んで村に帰った頃には、夕方近かった。
「たくさんとれましたね。エルル様」
「ええ! アンゼフのおかげよ!」
「エルル様に喜んでいただけたのならば、このアンゼフ、何よりでございます」
アンゼフさんが、そう言って笑ってくれて、私もなんだか嬉しい気持ちになった。
「ふふ、みんなが一緒についてきてくれて本当に良かった。私1人だったら、きっと何もできないもの」
「私どもも、エルル様と共に行けて幸せです。エルル様についてきたものは皆、一度ガイアの人間に、裏切られた者達です。再びこの地で、暮らすことに不安もありますが……故郷を懐かしく思う気持ちも同じぐらいあります」
そう言ってアンゼフは、村の方に目を向けた。
そして「みんながああやって、笑顔で居られるのは、エルル様のおかげです」と言って、目を細めて愛しそうに微笑んだ。
視線の先には、楽しそうに畑をいじったり、大きな口で笑いながらおしゃべりしているみんなが見える。
そのうちの1人が、私たちに気づいて手を振った。
アンゼフが「エルル様とユリウス殿がお戻りになりましたよ!」と言って手を振り返した。
みんなが笑顔で出迎えてくれて、私もつられて笑顔になった。
「エルル、お前は愛されているな」
隣でユリウスがそう言った。
愛されている……?
なんだか、その言葉が不思議に感じて、ユリウスの目を見返した。
私は、ずっと魔王に愛されていると、思って生きてきた。誰かに、愛されていると思うことは幸せで、安心できた。
でも、魔王はいなかった。いたのは、私達のことを人形に仕立て上げようとしている魔法陣がいただけ。
だから、私は、結局誰にも愛されたことがないのだと思っていたけれど……。
そうだったのか。私は、愛されていたのか。
ちゃんと私を見てくれる人はいたんだ。
魔王なんてよくわからない者じゃなくて、いつも身近に、私に笑顔を向けてくれる人達がいる。
なんだか、幸せだ。
これからもこうやって、大好きな人たちと、ずっと一緒に楽しく生きていたい。
魔王とかいうよくわからないもののいうことをなんの疑問も持たずただ従うだけとは違う。
魔王が幸せだと言ったことを、幸せだと思い込んで生きていくのとは違う。
これは自分で選んで、自分で見つけた幸せだ。これが自由と言うのかもしれない。
私は、これからも、こうやって、自由に、生きていきたい!
「私も、皆のこと好き、愛してる……」
そう、思わずそう呟くと、ユリウスの目が見開いた。
あ、なんか、私ったら、結構恥ずかしいことを口走ったような。
慌ててユリウスから顔を逸らした。
するとユリウスの手が私の頭を撫でた。
その優しい手つきに驚いて、再び、ユリウスを見上げると、ユリウスがあの綺麗な顔で誰をも魅了するような微笑みを私に向けていた。
「エルル、私も君を」
「エルル様! おかえりなさい!」
「カ、カンナ、ただいま」
ユリウスが何事か言った言葉は、笑顔で駆けよってくれたカンナの声で掻き消えて、聞こえなかった。
なんて言ったんだろう……?
聞き直そうかと思ったけれど、テンションの高いカンナがさらに口を開いた。
「聞いてください、エルル様! エルル様がいない間に、この新しい村の名前を考えていたんです!」
「村の名前?」
「はい、やっぱり名前がないと、不便ですから。それで、皆で考えて、これが一番いいんじゃないかと思うものを見つけて、あ、でも、もしかして、エルル様はすでに村の名前決めてましたか?」
「ううん、決めてない。どんな名前にしたの?」
「色々候補はあったのですが、やっぱり村のみんなが一番好きな、愛しているものの名前を入れたいってことになって……」
一番好きなものの名前を入れるってことは、肉? みんなお肉好きだし……肉の村?
それはちょっとやだなぁ。
「エルル村にしたいってなって、どうですか?」
へえ、エルル村ね。良かった、肉の村じゃなくて。なるほど、エルル……。
あれ?
「エルル!? それ私!」
「はい! 私たちの大好きな人の名前の村なんです」
「ええ!? 私の名前でいいの!? そもそもこの村は皆の村で……」
「いいんじゃないか。住むのなら、思い入れのある名前の方がいいだろう」
ユリウスにもそう言われて、ぐるぐると頭の中で考える。
エルル村って、好きな人の名前の村って皆が言ってくれて、恥ずかしい。照れてしまう。
でも、でも……嬉しい。
「私たちが決めた村の名前ですが、お気に召しませんでしたか?」
そう言ったのはコックのメイデだ。
いつの間にか、みんなが周りにいる。
ああ、やっぱり、私、皆のこと、好きだ。
何を躊躇することがある。
私は大きく息を吸い込んだ。
「いいわ、この村に私の尊い名前を付ける名誉を与える! 今日からここはエルル村よ! この村は、このエルル様が、何があっても守ってあげるわ! そう、この私は! エルル村を最も愛し、エルル村にもっとも愛された者! エルル=ファルミル=グレイスデーンなんだから!」
そう私が高らかに宣言すると、周りの皆が声を上げて喜んでくれた。
そうして、ガイア王国の辺境に、エルル村が誕生した。
こんにちは!
ブクマ・評価も含め、いつも読んでくださっている皆さん本当にありがとうございます!
実はですね、当初このお話はエルルが自由に生きるんだ!とか言っているあたりで終わる予定だったんです。
ギリギリまで、予定通りここで完結しようか迷っていたのですが、もう少しだけ続けようと思います。
まだ明かされてない謎みたいなものもありますし、恋愛もまだまだですしね!
となると、もう全然四天王じゃないのに、タイトルに四天王がついている感じになるので、タイトル変更した方がいいのかと迷いますが……そちらは一旦保留……。
ということで、引き続きお付き合いいただければと思います!