国から出ることにしました
「ほら! 早くこの魔法陣の中に入りなさい! 荷物はちゃんと持ったわよね!? 大丈夫!?」
私は転移魔法陣の中に屋敷の使用人を押し込めながらそう声をかける。
そう今日は記念すべき、アナアリア魔王国を旅立つ日だ!
ユリウスに宣言したし、私はこの国を出る!
それで、好きなように生きるのだ! この国にいたら、私はずっと魔王様のことを考えちゃうし、こんな気持ちのままじゃもう、魔王軍の四天王っていう役割も、務められない。
だから、自由に生きる!
好きなものに囲まれて、何かに縋ることなく、自分の力で、自分がしたいと思ったことをする!
目指すは、元々使用人達を逃がす予定だった、ガイア王国の辺境の地。
山裾の小さな土地で、野ざらしの場所だけど、私には、魔法があるし、気合でどうにか乗り切ってみせよう!
「問題ありません、エルル様!」
旅立つ準備万端のカンナがそう言ってくれて、私は、自分の手の甲をナイフで切った。
「よしっ! 行くからね! 転移酔いに注意しなさい!」
そう言って、魔法陣に、私の血を垂らした。
転移の魔法陣が光ると、グラッと視界が歪んで、脳みそががくがく揺れる感覚がする。
カンナ達の、きゃだかヒッだかの小さな悲鳴が聞こえるけれど、これはもうしょうがない。
もっと転移魔法がうまい人がやればそこまで転移酔いはひどくないらしいけれど、元々四天王クラスじゃないと扱えないような大魔法だからね! これ!
つまりそんな大魔法を使えてる私がすごいってことだからね!
と、小さく悲鳴を上げる使用人の方々に心の中で弁明していると、いつの間にか地に足が着いた感覚がして、揺れが収まった。
目を開けると、さんさんと輝く太陽の光。
そして目の前には大きな山!
ここは、ガイア王国辺境の地。元々暮らしていたアナアリア魔王国と距離があるけれども、ぎりっぎり、アナアリアの状況を私の魔法で確認できる場所。
ガイア王国の中でもはずれの方なので、目立つことをしなければ、ガイア王国にも気づかれずこっそり生きていけるかも。
これから私たちは、ここで小さな村を作っていくのだ……!
と思って、後ろを振り返って、驚愕した。
「あれ……? なんで、こんな立派な建物があるの?」
前視察したときには何もなかったはずなのに、今は石造りの立派な家が、数軒建ち並んでいる。人の気配は、ない。
真新しい建物が、並んだ様子を見て、使用人の人が、「さすがエルル様! 家屋は事前に建ててくださったのですね!」と喜んでいるが、私エルル、まったくそんなことしたつもりはない。
私は使用人達と一緒に、家だけが揃った人のいない町へ足を向けて、その奥に、一際大きなお屋敷があるのに気づいた。
目に気配察知の魔法陣を展開させる。
あれ? あの大きなお屋敷に、人の気配がある……?
というか、あの気配……。
「皆は、ここにいて! 私は確かめることがあるから!」
そう使用人達に言い残して、私はズンズンと大きな屋敷に向かう。
一体どういうつもり!?
こんなことして……!
と荒ぶる心とともに、屋敷に踏み入り、目的の人物がいる部屋の扉を盛大に開け放した。
「ちょっと! ユリウス! あなた、どういうつもり!?」
私が部屋に入ってそう怒鳴り込むと、大きなソファで本を読んでいたらしいユリウスは、ゆっくりと顔を上げた。
「やっときたか。随分遅かったな」
のんびりそう言うユリウスにイラッとした。
「遅かったな、じゃないわよ! どういうつもりか聞いてるの! なに!? やっぱり私を国家反逆罪か何かで、捕縛するつもりなの!? 言っとくけどそんなことしたら、私だって、ユリウスが、城の防衛魔法に不正を働いてるって言っちゃうんだからね」
「捕縛? そんなことするわけないだろう」
「じゃあなんでここにいるのよ! 私は、もうアナアリア王国とは関わりたくないの! ここで自由に暮らしていくんだから!」
「ああ、それがいいだろう。悪くない選択だ」
「そうでしょう? そう言ってくれてありがとう……じゃなくて! だからなんでユリウスがここにいるのよ!」
「何故って、私もここに住むつもりだからだ」
「へ?」
「なかなか悪くない選択だと思ってね」
そう言って、ユリウスは悠然と微笑んだ。
いや、いやいやいや。
だって、ユリウスまで、国を抜けたら、大騒ぎどころじゃないよね? だって、ユリウスは魔王軍第一の最強の四天王、でしょう?
戸惑う私に構わずユリウスはサイドテーブルに本を置くと、立ち上がって、私の近くまでやってきた。
「エルル、これからよろしく頼むよ。裏切者同士、仲良くしようじゃないか」
そう言って、意地悪そうに笑うユリウスを見て、私はやっと事態を飲み込むと「ええええええーーー!?」と、淑女らしからぬ大きな声を上げたのだった








