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魔法研究同好会

俺は魔法研究同好会の入会手続きを済ませてしまった。研究部に入れなかったなら俺はもう同好会でも良かった。けれども…


「さて、3人に増えた事だし、ちょっと生徒会に報告してみようかな?会費が増えるかもしれないしね」


「先輩、それより先に自己紹介しましょう。えーっと私は植田千佳って言います。2年生です、よろしくね」


「僕は3年の天野風馬です。この魔法研究同好会の会長をしています」


「俺は早乙女大知です。知ってるかもしれませんが魔法が使えません。魔法が使えるようになるのが目標です」


「さて自己紹介も済んだことだし、仲良くなる為にトランプでもしますか?それともウノとかの方がいい?オセロもあるよ!」


「先輩、そんなにいっぱい言ったら早乙女くんが困っているじゃないですか。ここはひとまずお茶でも入れて落ち着きましょう」



とても魔法を研究してそうに見えない。植田はヤカンをコンロにかけて湯を沸かし始めた。天野は扇子で顔を仰ぎながら湯が沸くのを優雅に待っている。俺もただただ静かに待った。


数分後、ヤカンの中の湯が沸騰し、ボコボコと音がすると、植田は用意した湯飲みに湯を注ぐ。温められた湯飲みは、一度湯を捨て、急須に入れられたお茶が注がれ、手元にやってくる。熱々のお茶を俺は一口飲むと、植田は笑顔で俺の顔を覗き込む。


「落ち着いた?」


「はい、落ち着きました…」


「さあ〜早乙女くんも落ち着いた所で、何やる〜?」


子供の様にはしゃぐ天野に俺は先程感じた事を質問する。



「あの〜、魔法の研究ってしないんですか?」


俺の問いかけに、天野は喜んでいた表情から一転、困った顔をして答えてくれた。


「魔法を研究しようにも、魔法館は魔法研究部の貸し切り状態だからね〜。したくても出来ないのさ」


「本当は魔法館は放課後は開放されてて、安全性が確保されれば誰でも利用できるんだけどね。魔法館を使用するにあたって、教師以外の安全性の監督役が魔法研究部部長の岩崎先輩。それか実力が同等かそれ以上の生徒会メンバーが同伴でないと使えないの」


つまりは岩崎か、それ以上の魔法実力者の同伴がないと魔法館は使えない。誰でも利用できるが、現状は魔法研究部の専用となっているようだ。となれば、やはり魔法館を利用するのは魔法研究部に入るのは必須だ。


同好会でも良かったと思った俺がダメだったのか…。落ち込んでいると植田があたふたしながら良い事を教えてくれた。


「あぁ〜、でも魔法同好会も1週間に1度だけ魔法館の使用が許されているよ。だから元気出して〜」


「本当ですか⁉︎先輩!」


「確かに植田くんの言う通りだ。1週間に1度なら魔法館を使用することが可能だ。だけど、それは日曜日になるけどね。いや〜魔法研究部の人達は熱心でさ〜、月曜から土曜まで研究しっぱなしさ」


「日曜日…ですか」


「ちなみに、まだ1回も当同好会で魔法館を利用した事はないよ」


魔法研究をした事ない魔法研究同好会。それならこの研究する気がない状態ってのも納得がいく。だが俺が魔法を使えるようになるには、他に道は無いと思った。


「俺はそれでも良いです!日曜日でも学校に通います!」


「えっ⁉︎本当に?」


俺が諦めると思ったのか、天野はびっくりしてそう言った。広げてる扇子をピシャッと閉め、制服の胸ポケットへしまう。そして立ち上がり…


「それなら生徒会に報告ついでに、日曜日に魔法館の使用許可も取ってくるよ。なんせ先生方がいないと学校休みだから入る事すらできないしね〜」


と言って部室ならぬ会室から出て行った。お気楽な会長とは反対に、俺は不安が募る。少しでも解消すべく、同好会の経緯でも植田に聞いてみることにした。


「植田先輩、この同好会はどういった同好会なんですか?魔法研究という部活があるのにここは同好会で、しかも会員が2人しかいないですよね?なぜなんでしょうか」


「おそらくここに来る人はみんなそうだと思うけど、魔法研究部に入れなかった人が来るんだよ。最初から好き好んでこの同好会に入る人はいないね」



お茶が入った湯呑みを持って、俺の隣にちょこんと座る植田。さらに話を続けた。



「私もそう、魔法研究部に入ろうと思ったら実力が足りなくて入れないってなってここに来たんだ。私と同じく他も何人かはこの同好会に入ったんだけど、さっきも言った通り魔法研究部が魔法館を独占状態になっていて、まともに魔法研究が出来ないからみんな辞めちゃったの」


「そうだったんですか…。植田先輩は何故残ったんですか?」


「ええっ⁉︎そ、それは〜…」


驚いた様に植田がこちらを向く。ズレた眼鏡を掛け直しながら俯く彼女は、さっきよりも頬が赤くなっていた。


「えーっと、質問を変えます…。なんで魔法研究同好会は魔法研究部と合併しないんですか?そうすれば魔法館は研究部と同様に使えると思うのですが…」


「確かにそうだよね、でも会長は今の研究部とはやりたい事が違うみたい。私も詳しくは知らないけど、『魔法研究部に入ったら、同好会を立ち上げた意味がないからな〜』って言ってたのを聞いた事があるよ」


ふと、先程の集会での瀬川を思い出した。魔法研究部部長の岩崎の魔法を見ても、感心してなかった彼女は、天野会長と同じ気持ちだったのだろうか。


「魔法で文字や像を作ったりするんじゃなくて、もっと違うことに研究したいって事でしょうかね…でもそんなに研究熱心には見えなかったですけど…」


「確かにそう思うよね、普段の会長はあんな感じだし、活動内容もただただ遊んでいるだけだし…」



ますますよく分からない状態に陥っていく…。研究には拘りがあるのに、活動をしていない。まぁ魔法研究部が魔法館を使っているからというのは理解できるが、同好会で魔法館を1度も使用した事がないというのは、やはり研究する気は無いんじゃないかと思ってしまう。


それならばいっそ、ダイレクトに聞いた方がいい。俺は植田に質問をした。


「先輩は、天野会長の魔法を見た事がありますか?」


えっ!と言ってこちらを振り向く彼女。俺の問いかけに対しての答えは予想外なものだった。



「実は会長の魔法を見た事はないんだ。私にはちょっと会長の魔法は強すぎるみたい」



人間は魔法に対しての耐性が完璧ではなく、強い魔法を目の当たりにすると、恐怖感を感じたり、頭痛や目眩など調子が悪くなることがある。一般的には魔力が多い人は耐性が高く、魔力が少ない人は耐性が低い。


俺は天野の事を、それ程までの魔力を持っている人だとは思えないのだが…。現に彼からは魔力があまり多くは感じられなかった。魔力に敏感な俺でさえも感じないのだから、一般人から見ても、一般人に見えるだろう。



「流石は会長だよね〜。去年は魔法使いとしての実力は、ずっと今の生徒会長に次いで2位だったみたいだよ」


「えっ⁉︎先輩、それ本当ですか?」


驚く俺に驚く植田。一瞬間が空いて、うんと植田は頷く。



「ってことは会長が3年の今では、学園内で見ればナンバー2か…。凄いな…」


「ちなみに魔法研究部部長の岩崎先輩は会長よりも実力も下みたいだよ。私から見たら凄いけど、なんかちょっと嫌な感じだよね」


魔法としての実力が下なのに待遇が優遇されていれば、そう思うのは当たり前だ。でもそれは個人として見た場合だが…。集団として見れば研究部と同好会、比べるまでもない。


それでもやる気が感じられないこの同好会。天野と植田からすれば、今のこの環境がいい状態なのだろうか。ゆる〜くまったりとしたこの同好会が。少なくとも植田にとってはいい状態なのは間違いなさそうだ。


会長に対して調べる必要がありそうだ。



「先輩、この後の同好会で何か重要な用事とか手続きってありますか?」


「えーっと、特に無いけど。どうしたの?」


「ちょっと俺、用事思い出したので今日は早退してもいいでしょうか?」


「別に問題ないけど…。明日も同好会はあるからね、ちゃんと来てね」


ニコッと笑う植田にお辞儀をして会室を後にする俺。知り合いの中で天野の事を知っていそうな人物が1人いる。そいつを探しながら学校中を歩き回った。

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