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友人達

「お待たせしました〜!」


店員はコーヒー4つとショートケーキ2つ、特大パフェを1つ運んで来た。伝票をテーブルの端に置き、ごゆっくりどうぞ〜と言い立ち去った。


「って言うか、何でお前らまでいるんだよ⁉︎」


長谷部が叫び、本田と瀬川の2人を指差す。大声に反応して他の客がこちらを向き、視線を感じた長谷部は申し訳なさそうに下を向く。俺らはどういう訳かファミレスに行く事となり、今は4人仲良くテーブルに座っている。


「ったく、俺と早乙女で放課後話でもしようか〜ってなっただけなのに…」


「全くですね。私も何であなた達と一緒にファミレスなんか行かなきゃいけないのか?理解に苦しむわ」


そう言う瀬川はテーブルに置かれたスプーンを手に取り、目の前のパフェを見つめて目を輝かせていた。3人が同じく、お前が1番ファミレスで楽しんでるだろ〜と心の中で思った。


学校から北に向かって歩いて約10分。街中にある学校よりは住宅街寄りに建つこのファミレスは静かで過ごしやすい。他にも魔公の生徒が何人かいる。


メニューも充実しており、コーヒーや茶菓子などもあり喫茶店代わりに使用しても良し、カレーなどの一般的なメニューの大盛りなど、ガッツリ御飯を食べたい学生にも対応している。テーブルの脇には他のメニュー表もあり、こちらは夜5時以降専用となっている。内容は酒やつまみなどといった、いかにも居酒屋さんらしいメニュー。


「まぁまぁお2人さん、そんなこと言わずに、せっかく同じクラスになったんだから仲良くしましょう!それにもう私達が知らないところで随分と仲良くなってる人もいるようですし…。そこのところも話を伺いたいですなぁ〜」


本田がふっふっふっと手を口に当てて笑いながら俺と瀬川を見た。長谷部も腕を組んで下を見たまま喋る。


「た、確かにそうだな、俺との約束をほっぽらかしにして女といやがって…。何があったのか聞かせてもらおう」


やはりこの2人…勘違いをしている。確かに男女が体育館裏で2人っきりで話すというのは、疑われてもおかしくはない。きっちり勘違いを正さねばいけないな。


「君達2人は勘違いをしている。俺は瀬川さんとそういった話はしていない」


「ではでは〜瀬川さんにも聞いてみましょうか? 瀬川さん? 早乙女くんと何のお話をしたの?」


特大パフェを頬張っていた瀬川は、スプーンをテーブルに置き、クリームが付いた口元を紙ナプキンで拭き、表情が緩みきった顔を引き締めて真顔に切り替えて言った。


「はぁ〜? そんなの言えるわけないじゃない?」


その言葉を聞いた本田はへぇ〜と言ってニンマリとした顔でこちらを見た。魔法を消した事や短距離走中に魔法を使った事を話したなんてのは確かに言えないが、そういう言い方はさらに誤解を産む結果になると計算して欲しいものだが、彼女は今は目の前のパフェのことしか頭にないようだ。


こうなったら話題転換するしかない。俺は当初の予定だった長谷部と話をする事に場を切り替える事にした。


「まぁまぁ待て待て2人とも、今日は長谷部と話をするのが目的だ。俺と瀬川さんが何かあったかどうかは置いといて、とりあえず長谷部の話を聞こうと思うんだが…」


長谷部があぁそうだな〜と言った次の瞬間、本田が謎のアイサインを長谷部に送った。長谷部は咳払いをして言い直す。


「今日は俺の話をするのが目的だが、先に俺の約束をほっぽらかしにした早乙女と瀬川の話を先にするのが筋じゃないのかなぁ〜?」


もう俺には逃げ場は無かった。観念しなさいと言いたげに本田は俺に微笑みかけてくる。もう言わないとダメかと思ったのだが、彼女のおかげで場が一転する。


「ご馳走様でした〜!」


パフェの容器に、スプーンがカラーンと音を立てて入る。特大パフェを平らげた彼女は満足気な表情をしている。俺達3人の視線に気付いた彼女は、急いで口元を拭いて、緩んだ顔を引き締める。


「んっ、な、何よ⁉︎」


「瀬川さんパフェ好きなんだね〜」


「悪い?」


「そんなことないけど、もっと美味しいパフェ食べたくない? 実はこのファミレスには裏メニューがあって…」


本田の甘い話に食いつく様に聞き入る瀬川。ふと本田が裏メニューらしきメニュー表をめくる手を止めた。何があったのかと本田の顔を見る瀬川。


「ここまでよ瀬川さん、これ以上聞きたかったら、体育館裏で早乙女くんとどんな話をしたのか…。いえ、早乙女くんに告白した事を白状なさい!」


「私が早乙女くんに告白? …あぁ、私が早乙女くんに好意を持っていると思っているの? あり得ないわ、出会ってまだ1日、しかも魔法を使えない人なんて、すぐに好きになるわけないじゃない。しかも今まで人を好きになった事ないし」


これで決まった、追い詰めたと自信満々な本田を完膚なきまでに打ちのめした瀬川。本田は一瞬気が抜けた様だったが、まだ諦めない。


「じゃ、じゃあ何で2人っきりで体育館裏で話したの?」


「さっきも言ったけど、何を話したかは言えない。けど私が早乙女くんに好意を持っている事は無いから」


「そ、そう」


真顔で、淡々と話す彼女の話を聞く本田。流石に観念したのか、これ以上追求することは無かった。ただ、分かってはいるが好意を持って無いと連呼されるとちょっと落ち込む。そんな俺に気付いたのか、瀬川は続ける。


「でもね、私は彼を味方につけた方が良いと思っている。魔法が使えなくても、彼は出来る男だと確信してるわ」


瀬川は俺の方を見て微笑みかけながら言った。パフェを食べてた時とは違う、優しそうなその表情を見ると、俺は恥ずかしくなり赤面して視線を外してしまった。本田は、はは〜んと言って俺の顔を覗き込む。瀬川は何もわからないようで首を傾げてる。


「ちょっ、もういいだろ! 長谷部、いい加減話を始めてくれよ。約束をほっぽらかしにした事はすまないと思ってる。ごめん」


「そうだな、流石にこれ以上は可哀想だから許してやるか。本田もそれぐらいにしておけ」


「うん、そうだね。ごめんよ〜2人とも。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」


2人ともと言っているが、おそらく困っていたのは俺だけだった。


瀬川以外の3人が、ようやくコーヒーに口を付ける。ぬるいコーヒーは苦く、ほんのり酸味も帯びていた。


ようやく長谷部が本題を話し始める。



「まず俺が魔公を目指す理由を話そうか。俺は見ての通りで喧嘩っ早くてな。最近ではいきなり手出したりはしないが、悪口言ったり喧嘩の原因作ったりと、どうしようもない奴だった。まぁいわゆる不良って奴だ。先生共からも見捨てられた様に扱われ、同じクラスの奴らも蔑まされた様な目で見られる。そんな俺でも魔法には自信があったんだ。中3の時に思ったんだ。魔公に受かってみんなを見返す。そして俺自身も変わろうと。


こんな扱いをされるのは俺が悪いってのは分かっていたから、自分を抑えて変わろうとするのはあまり苦じゃなかった。大変なのは勉強だった。赤点ばかりの俺は勉強しても勉強しても中々点は上がらなかった。けど俺が変わり始めて、周りの奴らが手を貸してくれたんだ。勉強を教えてくれたり、学校が終わった後も付き合ってくれた奴もいた。そうしているうちに、俺はそいつらと仲良くなり、一緒に魔公を目指す仲間となっていた。


その仲間の中でも、俺のことを凄く助けてくれた女子がいてな。成績も優秀で、魔法も申し分ない。一緒に魔公に受かったら付き合おうなんて恥ずかしい約束をしてたんだ。そして試験が終わって、合格者発表の時。一緒に見に行ったら、俺の番号だけがあって彼女の番号は無かった。彼女はおめでとうって言って祝福してくれたけど、帰りに別れる時に彼女の後ろ姿が袖で涙を拭いてるのを見たよ。


結局受かったのは俺だけだった。他の仲間達も一緒に魔公を目指してたのに、行けたのは俺だけ…。そんな中、俺の目に映ったのはお前だった。魔法が使えないくせに、なんで受かってんだよ…。俺達は魔法も使えるのに、なんで使えない奴が受かって、使える奴は落ちるんだよ!そしてお前に八つ当たりしてしまった。


フフッ、馬鹿だよな。結局俺は変わらないのさ。魔公に受かったのに、せっかく変われそうだったのに、また昔と同じことをしている。中学の時の仲間になんと言えばいいか…」



3人が長谷部の話を真面目に静かに聞いている。何もないまま長谷部は続ける。



「早乙女だけに聞いてもらうつもりだったんだがな。すまんな2人とも、こんな話しちまって。もう止めにしよう」


長谷部が雰囲気を変えようと話を終えた。


「こんな話をされると、俺はとことん頑張らないといけないなぁ…」


正直プレッシャーである。長谷部の素晴らしい仲間達を抑えて入学した俺は、それに見合う実力を発揮しなければならない。だが俺に嫌がらせをしてた長谷部が俺に謝ってくれたって事は、もう俺のことを認めてくれたという事なのだろうか。


「俺は早乙女のことを魔公に受かるべき人物だって事は納得しているつもりだ。最初は納得して無かったけどな」


「本当か! でも、それはなんでだ?」


「そうだな…。試験中のお前を見てたら、まぁ認めちゃったんだよなぁ」


長谷部は詳しくは答えなかった。俺はあまり言いたくないのだろうと察して、これ以上は聞かなかった。


「さぁ、これで俺の話は終わりだ。お開きにしよう」


瀬川以外の3人が、テーブルに置かれたコーヒーとケーキを食べ、お会計を済ませて店から出た。そこで解散となったが、帰路の方向が同じだった本田と途中まで一緒に帰ることになった。


「私と一緒に帰っても大丈夫?」


「からかうなよ。それより、体育館裏での俺達の話。本田さん、本当は聞いてたんじゃないか?」


聞かれていたとしたらまずい。俺と瀬川の2人が本田に弱味を握られたということになる。何をされるかわかったもんじゃない。


ふふんと笑って本田は俺の顔を見るなり、答えてくれた。


「残念ながらあなた達の話の内容はわからなかったわ。隠れてた所が遠くて聞こえなかったの。けど、早乙女くんがこんなに隠したがるんだから、気にはなるけどね。もし良かったら情報交換しない?」


「何の情報だ?」


「この学校での、生活や暮らし方について。と言っても、今日1日で手に入れた情報だけどね〜。数日過ごせば分かる情報だけど、どう?」


「そうか、それなら止めとくよ…」


「…だよね〜」



その後はお互いに他愛もない話を少ししてから別れた。


家に帰り今日1日を振り返る。入学式は毎回最悪な結果になっていた俺。なのに今日は友達ができ、いいスタートが切れたんじゃないかと、正直なところ満足である。


長谷部も最初は俺に酷い態度を取っていたものの、最終的には友達になってくれたし、分かり合えたと思う。後の他の生徒が気になるが、意外にも上手くいくんじゃないだろうか…。


と、この時の俺は安楽的に考えていた。明日の学校で、総合試験結果が貼り出されるのを目にするまでは…。

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