夏の始まり(5)
彼女は長い廊下を歩いて行く。
そして他の部屋よりも大きく立派なドアの目の前に立ち、深呼吸してからノックする。
「入れ」
ドアの向こうで声が聞こえる。
「失礼します」
ドアを開けて頭を下げ礼をする。そして部屋の中へ入りドアを静かに閉める。
「お前にしては結構時間がかかったのではないか?土谷?」
蓄えた顎髭を撫でながら話す目の前の男は、この屋敷を纏める瀬川早苗の父、瀬川元治だ。
「思いの外手こずりまして…早乙女は何故か嘘を何度も何度も言い続けたもので」
「そうか…」
彼は記録係の彼女が書いた記録用紙をペラペラとめくり眺めている。
彼は確かに力はある。魔法も勉学も運動も政治力すら持っている。けども『彼』と対峙した時の感覚とは違う。
もし今私が彼に魔術を使ってみたらどうだろう?上手くいけば瀬川元治をコントロールすることができると思う。そんなのはつまらない。
だが早乙女くんには魔術を使っても解除されてしまいコントロール下に置くのは不可能。更にその手法も謎に包まれたミステリアス感。それに彼なら逆に私をコントロールしてしまうのではないだろうか?そんなのはたまらない!
「どうした?息が荒いぞ?」
「申し訳ありません、先程の尋問で魔力を結構消費しまして…」




