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夏の始まり(4)

「後悔しても遅い…ですか。この状況をわかっているんですか?私達使用人3人に対して、あなた1人。しかも、その赤い線から出られない。一体何ができると言うんですか?」


「それに俺が見る限り、土谷さん。あなたは相当できる奴のようだ。使用人の中では1番…いや、もしかしたら瀬川家全体で見ても1番腕が立つんじゃないか?」


「褒めて煽てる作戦ですか?そんなのは無駄です。さぁ早く犯人の事を話して下さい!」



こんな状況になって土谷に急かされながらも俺は、あの日…瀬川に体育館裏に呼び出された時の事を思い出していた。あの時は瀬川がお互いに弱味を握られてるとも知らずに得意げにペラペラと話していた。


ちょっと今の状況と似ていると思ってしまった。


「フフッ」


「…何がおかしいんですか?」


「いや、何でもない、ちょっと思い出し笑いをしただけだ。ただこの状況で唯一俺の武器になるとすれば、俺の言う事で真実がわかるという事だ。嘘を言えば俺の体の何処かに炎がつき、本当なら炎はつかない。」


「そうですね、それが何になるのですか?」


俺は振り返って、記録係の彼女と護衛の男に語りかける。


「あなた達も思いませんか?土谷さんの魔法が本当に嘘発見器みたいに本当に発動しているのかって。俺が最初に炎で焼かれた時に、あなた達は何も驚く事なく見ていた。つまりは土谷さんの尋問を何度も一緒に経験しているからでしょう?その時に思いませんでしたか?何もかも上手く行き過ぎだって」


「なっ⁉︎何を言っているの!」


土谷も立ち上がった。見るからに焦っている。だがこの際、真実などどうでもいい。本当に土谷の魔法が嘘を見分けているかどうかは俺にとって関係ない。


「こんな若い女性が、あなた達のチームのトップに君臨している。何故彼女がその地位にいるかというと、土谷さんの魔法で、自分のいいように事が進むように魔法を使ってたんだ。尋問する時に自分の無益な事を言えば魔法を使い、有益な事を言えば魔法を使わなきゃいい。それだけだ」


使用人2人は俺の話に耳を傾けてくれていた。それに伴って2人は土谷に対して疑いを抱き始めていた。


「2人ともダメです!彼の言う事を聞いてはいけません!嘘を付いてるんです」



ついに言ってしまったな。言ってはいけない言葉を、彼女は言ってしまった。それに気付いた護衛の男が口を開いた。



「土谷、君の言う通り彼が言っているという事が嘘であるなら、何故彼の体に炎が付かないんだ?」


「ええっ⁉︎」


パニックに陥っているのだろうか、土谷は完全に思考が追い付いてない様子だった。数秒固まってから、彼女は弁解をしようとするも…



「…すいません、わからないです…」


「わからないだと?俺達は今まであんたの嘘に付き合わされてたってことかっ⁉︎」


今度は男が土谷に対しての尋問が始まった。予想外の仲間割れに驚き動けない記録係の彼女に俺は声を掛ける。


「記録係のお姉さん、ぼーっと見てないでちゃんと記録して下さいよ!瀬川さんの魔術が他所にバレてるなんて事よりも重要な事が目の前で起こってますよ!ほら!」


彼女は俺の問い掛けに対して、コクリと頷き手元の紙にペンを走らせた。すると、目の前に火の玉が横切った。その火の玉は、護衛の男に向かって飛んで行き、彼は自分の水魔法を使い防御した。



「みなさん…取り敢えず落ち着いて。早乙女さんもこれ以上変なこと言うと…今度はあなたを狙います」


土谷の殺気だった言葉に、他の2人は一瞬怖気つき動きを止めた。そしてその一瞬で土谷は再度魔法を発動させた。


記録係の女と護衛の男の床に、彼らを中心に円を描くように火が灯った。直径約1メートルくらいの円を描くと火はすぐに消えた。その様子を見た彼らは、顔を青ざめて冷や汗をかいていた。何が起きたのか俺でもわかった。土谷は俺のみならず、他の2人まで自由を奪ったのだ。


「さて、皆さん落ち着いたところで、話を続けましょうか?」


「そうですね。確か土谷さんの魔法が本当に嘘を見分けているかどうかって話ですよね?」


「っ!?違う、そうじゃない!早苗さんの魔術の情報を漏らした犯人の事です!」


「まだその話をしてるんですか?それよりもまず自分の信用を取り戻した方がいいんじゃないですか?今のあなたが俺から犯人の情報を聞いたとしても、少なくともここの2人は納得しないですよ」


「ここの2人が納得しようがしまいが関係ありません。真実を知り、それを伝えるのが私の仕事ですから」


「成る程ね、どうやら土谷さんは仕事の為なら仲間の事なんてどうでもいいというわけなんですね」


俺を騙し、瀬川さんを悲しませてまでこの尋問を行ったのだ。仲間の気持ちを踏みにじったこの気持ちを、ここの記録係の女と護衛の男にも少しは伝わっているだろう。


俺は立ち上がり、床の赤い線の淵の側に移動ししゃがみ込んだ。目を閉じて魔力感覚を研ぎ澄ます。


「一体何をしているんですか?」


土谷の声に俺は反応しなかった。というよりも集中しているから反応できなかった。俺の周りに貼られた赤い線の土谷の魔術は本人に伝って、記録係の女と護衛の男の床に貼られた魔術と繋がっている。


ここまで俺はわざと土谷の魔術を受けて、彼女の魔術の特性を見抜く事ができたつもりだ。ちなみに土谷の嘘発見魔術は本物だ。理屈はわからないが嘘をつくと3秒以内に魔法が発動するようになっている。逆に3秒以内に魔法が発動しなければ本当ということだ。俺はこの特性を利用し、嘘をついて3秒間のみ俺の魔法を全身に発動させ土谷の魔法が発動してないように見せていたのだ。


床に貼られた魔術も、本人を伝って彼らの床に貼られた魔術まで伝われば、俺の魔法で消せるはず…。左手に魔力を溜める。


「1つ言わせて欲しい。俺がただ魔法が使えない男だと思わない方がいい。こう見えても一応魔公学園の生徒なんでね」


俺は床の赤い線の上に左手を置いた。すると直ぐに左手に炎が灯った。


「何をするかと思えば…左手を焼いて何をするつもりですか?たとえ火傷で負傷しても助けたりしませんよ」


物凄い熱さと痛みに思わず手を引っ込めそうになるが我慢し続け、魔力を込み続ける。時間にして2〜3秒の間の出来事だったが、魔力を込める事に成功した。



俺は直ぐ魔法を発動させ、土谷の魔術を解除した。



激痛が走る左手を抱えながら、俺はニヤッと笑った。得意気に笑って余裕があった土谷も俺の表情を見て、状況を把握し直す。土谷は直ぐに自分の魔術が解除された事に気付いた。


記録係の女と護衛の男も、ほぼ同時に土谷の魔術が解除された事に気付く。2人は同時に土谷目掛けて動き出した。


「な!なんで⁉︎どういう事なの?」


一瞬戸惑う土谷だが、すぐに切り替えて態勢を整える。俺と他の2人目掛けて再び魔術の発動させるが、俺にはとっくに対策済みである。床一面に既に俺の魔力を込めており、土谷の魔術は発動することなく消え去る。


「くっ!」


土谷は魔術が解除された事に瞬時に気付くと、今度は両手に魔力を溜め始めた。魔力の溜まる速さが異常に早く、他の2人が一瞬土谷から離れようと戸惑うが、それも俺の対策済みである。


俺の魔法スピードでは、土谷のスピードには敵わない。だから既に土谷に向かって魔法を放って置いた。


土谷の両手に魔力が溜まり、彼女が魔法を発動させようとした瞬間、俺の魔法は丁度届いた。土谷の両手から魔力が完全に消失した。


「なっ!どういう事⁉︎」


これを機に、護衛の男が土谷に駆け寄る。流石の土谷も、この距離まで詰まれたら魔法を放つ時間は無く、男に取り押さえられた。そして記録係の女は土谷の首元にペンを突き付け、土谷は自由を奪われた。


「あなた…一体何者なんですか?」


土谷は男に押されられ床に突っ伏している。そんな状態で俺に質問してきた。


「さっきも言ったが、魔公学園の生徒です。それよりも今の自分の立場をよく考えた方がいい。このまま仲間に裏切られて瀬川家での信用を無くすか、俺と取り引きしてこれまで通り過ごすか…どっちがいいですか?」


「それは…これまで通り過ごしたいですが、できますか?こんな状況にしておいて」


「土谷さんならそう言うと思っていた。取り引きしましょう。俺の望みはただ1つ。見逃してくれればいい、それだけです。その代わりに俺が本当の犯人を捕まえる事はできないかもしれませんが、瀬川さんの魔術の情報をこれ以上広げないよう頼んでみます」


「いいでしょう、あなたを信じましょう。それではまず最初のお仕事です。私を押さえ込んでいるこの2人に、私の信用を取り戻させて下さい。このままでは何もできませんからね」


「信用を取り戻すも何も、全てあんた達の勘違いだろう」


俺は立ち上がり、この部屋から出ようと土谷達に背を向けて歩き出した。


「待ちなさい!勘違いですって⁉︎何を言っているの?それにあなただけ上に行っても意味ないでしょう?私達がいないのを不審に思うはずです!」


「そうだ。だからそんな事してないで早く上に行きましょう。それともまさか…この状況にまだ頭が追い付いてないのか?」


「なんですって…?」


土谷は思考を巡らせた。これまでの事で、自分の信用を取り戻させる内容のものがあっただろうか…。そもそも先程早乙女とやりとりした時に、違和感を感じた。彼の言った言葉の『土谷さんならそう言うと思っていた』とは…


「あっ!あぁぁ…」


全てを理解した土谷、その次に落胆して気の抜けるような声を発した。そして押さえて付ける2人に声を掛ける。


「どきなさい、あなた達…」


土谷の言葉に彼ら2人は従わずに拘束を続けた。その様子を見て土谷はため息を吐き、説明を始める。


「どうやらあなた達はまだ気付いてないようですね。さっきあなた達に使った私の魔術が、どういう理屈かはわからないけど、彼によって解除された。これがどういう意味があるのか考えてみて下さい」


「なんだって…?」


よくよく考えてみれば簡単にわかる事だ。俺が嘘を言っても発動しない土谷の魔術に、護衛の2人は疑念を抱いた。土谷の魔術が本当は嘘と本当を見分ける物じゃないのかと。そしてその後土谷の魔術にかけられた護衛の2人。俺が彼らを土谷の魔術から解放してあげた時にも護衛の2人は疑念を抱くべきだった。土谷の魔術が本当は嘘と本当を見分けれる魔術であり、『俺』の影響でさっきは嘘を言っても発動しなかったのではないかと。


護衛の2人もようやく理解し、土谷の拘束を解いた。彼女は立ち上がり、服に付いた埃を払った。


「さて、上に行く前にひとつ教えてくれませんか?どうやって私の魔法や魔術を解除したんですか?」


「それはもちろん秘密です。何もかもが簡単に分かってしまったらつまらないでしょう?」


「フフッ、まぁそれもそうですね」



土谷はそのまま俺に近付いてくる。そして目の前に立つと、膝を突いてしゃがみ込み頭を下げた。


「どうか、早苗さんの件は宜しくお願いします」


「なっ?別にそこまでしなくても…」


流石に目上の女性が、俺に膝跨いでお願いされると罪悪感が生まれる。俺の言葉に土谷は顔を上げて、キョトンとしている。そして何か閃いたのか、ゆっくりと微笑みながら立ち上がって俺の手を握ってきた。


「もしかして別の事を御所望なのですか?早乙女さんなら私大歓迎ですよ!」


「いやいや、違う違う!そういう事じゃないから!」


その握った手を彼女は自分の胸に当てた。息を乱してる彼女の様子を見て、違う身の危険を感じた俺は手を振り解いて、先に上に登って行った。土谷もその後を追って行った。





残ったのは護衛の2人達…目の前の光景に驚き、ポカーンと立ち尽くしている。



「どうしたんだ?あいつ、様子がおかしかったが…」


「そういえば、昔土谷さんに好みの男性について話した事があったのですが、自分より強い人が好きって言ってましたね」


「まさかそういう事なのか?早乙女はまだ高校生だ、犯罪だろ」


「まぁとりあえず私達も後を追いましょう」



早乙女達に続き護衛の2人も、そのまま上に登って行った。

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