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夏の始まり(3)

「うっ…ここは?」


目覚めると、薄暗い部屋の中。目の前に机があり俺は椅子に座って突っ伏した状態で眠っていたようだ。


向かいに座ってこちらを見ているのは土谷。そして他にも周りに2人程使用人がいた。よく見る刑事ドラマの取り調べ室のようだった。だが俺には特に拘束具が付けられていない。


「どうやら目覚めたようですね」


土谷が口を開いてそう言った。周りの使用人の内の1人が何かメモを取っていた。その様子を見て土谷は説明する。


「ああ、彼女は記録係です。気にしないでください」


「そうですか…もう1人の、そちらの男性は?」


「彼は念の為に備えていてもらっています。まぁあなたがこれから受ける質問に正直に答えてくれれば何も害を加える事はありません。ですがあなたが暴れたり、攻撃してきたりした場合は、私と彼で対処します。そういう備えの為にいてもらってます」


「成る程、でも俺はあなた方に攻撃する気はない。それに質問に答えるだけなのに、こんな事をするのかおかしくないですか?」


「まぁ、事が事ですから」


ふと目線を下に落とすと、机に赤い線が横に引かれているのに気付いた。丁度俺と土谷の距離の半分くらいに引かれている線は、そのまま続くように床にも引かれていて、俺を囲むように四角形に引かれていた。


「何ですか?これは」


「あぁ、それはそこから出たらダメっていう印です。あなたの移動許容範囲スペースとでも言いましょうか」


「ここから出ると、どうなるんですか?」


「嫌でも許容範囲スペースに戻っていただきます」


「へぇ、そうなんですか」


俺は目の前の机の赤い線に手を伸ばしてみた。丁度赤い線を過ぎた時だった。


「あっつ!」


指先が激しく光を放った。そして猛烈な熱さを感じて、それが炎だと理解した。引っ込めた手の指先は、火傷でジンジンと痛む。


この炎は間違いなく土谷の物だ。彼女とは出会った瞬間に、魔法の属性はわかっていた。だが問題は魔法の発動スピードだ。俺でさえ魔法が発動するまで魔力の気配を感じられなかった。つまり、何処から魔法が発動するのかわからないという事だ。


「まぁこうなるとわかってもらった所で、質問といきましょうか。あと質問に正直に答えない場合も、こうなりますから気をつけるように。私も早苗さんの数少ない友達を火傷で痛めつけたくないですから」


俺は周りの状況を把握し直した。記録係の使用人は魔法属性は風、魔力量は普通。二十代後半くらいで、肩までのショートヘアーで眼鏡をかけている。続いて男の方は魔法属性は水で魔力量も普通。体格が良くて俺がまともに闘ったら、まず勝てないだろう。年齢も三十代といったところか。


そして、この目の前の土谷。この場にいる使用人の中では1番若く見える。おそらく二十代前半だろう。魔法属性は火、魔力量は普通だが、魔法発動スピードが異常に速い。これもおそらくは彼女の魔術になるのだろう。俺の魔法で防ぐのは難しそうだ。



「それでは質問を始めます。あなたは瀬川早苗の魔術の内容を知っている」


「…」


「沈黙は『はい』とみなしますよ?」


「…い、いいえ。…あっつ!」


俺が答えると、右肩にいきなり炎が上がった。立ち上がって、左手で肩を急いで叩き消した。


その様子を見た記録係は、何食わぬ顔でペンを走らせていた。俺は黙って歯をくいしばる事しかできずにいた。



「それでは次の質問です。瀬川早苗の魔術の内容を誰かにリークした事がある」


「はい…。…あちっ!」


次は左足に炎が上がった。先程と同じ様に手で叩き消した。



「おめでとうございます、これであなたは犯人じゃない事がわかりました」


「ちょっと待ってくれ。犯人って…もしかして瀬川さんの魔術の事がを誰かにバレたから、その犯人を探してるって事なのか?」


「そうです。その通りです」


「じゃあ俺が犯人じゃない事がわかったのであれば、もういいですよね?早く解放して下さい」


俺がそう言っても、土谷達が簡単に解放する筈がない。それはわかってはいた。彼女は微笑みながら言った。



「それでは次の質問です」


一瞬場の空気が変わった様に感じられた。緊張感が高まる中、俺は次の質問はとても重要な内容だと理解した。



「瀬川早苗の魔術の内容をリークした犯人をあなたは知っている」



「…いいえ」



俺がそう答えると、次の瞬間。先程と比べると大きな炎が、今度は胸元から上がった。


「あっっっちっっっ!」


何度も何度も胸を叩き払って炎をなんとか消した。そして状況は更に悪化している事に、俺は言われなくても気付いていた。



「この質問であなたが犯人を知らなければ解放するつもりでしたが…どうやら違うようですね。犯人が誰なのか?それを聞く前にちょっと気になる事があります。何故あなたは私の質問に嘘をつき続けるんですか?」


「そんなの、あなた方が嫌いだからです。反抗したくて嘘を付いてるんですよ」


俺が答えると、数秒後に土谷は話し始める。


「その答え、今回は本当のようですね。あなたが私達の事が嫌いでも、犯人の情報を教えてくれないと此処から解放する事は出来ません。もしかして犯人から口止めされてるんですか?」


「そんな事はない。それにその犯人と話したこともない」


「…。どうやらそれも本当のようですね。では尚更犯人の事を言ってしまえばいいんじゃないでしょうか?もしあなたの身に危険が迫るのなら、私達の方であなたを守る為に尽力を尽くしますよ?」


「尽力を尽くす…か。それは頼もしい限りですね。でもその前に俺にも教えて下さい。瀬川さんの、瀬川家は何故そこまでして魔術の事を隠したがるのか?」


土谷は少しの間、黙って考えていた。肘をついて手を組み俯きながら、その表情は険しかった。


やがて土谷は顔を上げて、険しい表情のまま説明を始めた。



「いいでしょう、教えてあげます。この瀬川家は戦闘のプロと言われる家系です。格闘はもちろんの事、魔法技術など戦闘に関するあらゆる事柄を代々受け継がれています。魔法が使えるようになって各地で紛争が起こっていた時は、その沈静化にとても貢献した人物が早苗さんの祖父にあたります。その功績を考慮し、今でも政府から武力による解決を秘密裏に依頼される事もあるのです。これでわかりましたか?早苗さんの魔術に関する情報が漏れているというのは、あなたが思っているより重要な事なのです」


「…そういう事だったのか」


土谷は終始真剣な表情で、俺の事を真っ直ぐに見つめながら話していた。その様子から、この事はとても重要であり、極秘な情報であるとわかった。


「この事をあなたに話した事は、内緒にしておきます。本来なら話していい情報ではないですから」




だとしても、俺は納得いかなかった。



「理由はわかりました。でもだからといって、瀬川さんに俺を騙すことをしていいのだろうか?あなたは瀬川さんは友達が少ないと言った。その少ない友達を裏切るような事をさせていいんだろうか?」


「何を言おうと無駄です。早苗さんを傷付けたのは悪いと思っています。ですが今回は早苗さん1人よりも、瀬川家全体の問題となっているのですよ?どちらを優先するかなんて、考えるまでもな…」


俺は机をバン!と叩き、立ち上がった。ビクッと驚いた土谷を俺は見下ろしながら言った。



「そこまで言うなら、俺にも考えがある。後悔してももう遅いからな。瀬川さんが苦しんだ以上に、あんたには苦しんでもらう」

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