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夏の始まり

魔公学園に入学し、ようやく1学期が終わろうとしていた。


明日から始まる夏休みに俺は喜んでいたのだが、現実はうまくいかないものである。


「早乙女くん…付き合って欲しいの…」


彼女にそう言われる迄は…。




時は少し遡る。佐奈田と天野を救出し、落ち着きを取り戻した俺たちは、平凡な日常を過ごしていた。


学校で授業を受けて、友達と他愛もない話をして、たまに遊んで帰る。


そして今回の事件の件も、解決したら柊の秘密と俺の魔法の秘密と佐奈田から魔法制御不能症の治し方を話し合うことになっていた。それも夏休み中に行うと皆に確認済みである。


同好会では、天野が学校を休む事は無かったが、魔法をまだ思い通りに使うことができないみたいで、魔法館での活動はしばらく中止となった。


そして全てではないにしろ順調に進んでいた学校生活も、一度休暇に入ろうとしていた。


そう、今日は1学期最後の日。朝の全校集会を終え、早く終わらないかな〜と思ってその後のホームルームを過ごしていた。


「えー明日から夏休みが始まる。事故など無いように気をつけて過ごすように。あと前回のテストで赤点がある者は補習があるので、忘れず来るように…」


集中してなかった俺は、先生のこの話を聞き流していた。もちろん魔法実技は0点だが事情も理解している学校から、補習は無いと確認済みだ。だから俺は補習とは無縁だと思っていた。



そのため、僅かに表情が強張った瀬川の変化にも気付かなかった。





ホームルームが終わり、生徒達が下校し始める。明日からの夏休みに心を踊らせ予定を話し始める生徒もいる。校内はガヤガヤとした中、俺も長谷部と話をしていた。


「明日から夏休みだな」


「そうだなぁ、けど俺は部活があるからしばらくはまともに休めそうにない」


「そうか、大変なんだな」


「大変だけど、どちらかと言うと楽しみだな!この夏で魔法の腕を磨いてみせる」


長谷部は笑顔で嬉しそうに話した。俺も天野が回復していたら、魔法の鍛錬に励みたいのだが…。どうやら無理だろう。


天野の容態は、特に問題なく学校には通えている。だが以前までの緻密な魔力操作ができなかったり、魔力量が回復してないらしく、本調子とは言いがたい。


この夏は天野には充分に休んでもらって、休み明けからは鍛錬に付き合ってもらおう。



今日は午前中で学校は終わりだが、長谷部はこの後部活があるようで、席を立った。彼はじゃあなっと言って教室から出て行き、俺も帰ろうと思い席を立つ。


教室を出て廊下を歩く。すると俺の後を尾行する様にとある人物が付いてくる。というよりも、気付いて欲しいのだろうか…その人物の魔力が俺の背中にガンガンと当たりまくる。


気付かないフリをして俺は早足で玄関まで歩いた。すると尾行する人物も早足になる。


俺は玄関に入ると、入り口の横隅に隠れた。そして尾行してた人物も玄関に入る。どうやら俺を見失った様で辺りをキョロキョロと見渡している。そのまま足を進めて玄関から出て外を見に行こうとするその人物に、背後から近づき俺は声をかけた。


「一体なんの用なんだ?」


そいつは一瞬驚いて体を強張らせ、足を止めて振り返る。


「あなたこそ、あんなに魔力をぶつけていたのに気付かないなんて、魔力感覚が鈍っているんじゃない?」


尾行してた人物の正体は瀬川だ。もちろん尾行された瞬間から俺には誰かわかっていたが…何故こんな事をするのかはわからなかった。


「気付いてないわけないだろ。よくわからないような事するから、様子を見ていただけだ。ところで用件はなんだ?」


瀬川は俺の問いかけに答えることなく背を向けた。


「付いてきて」


それだけ言って瀬川は歩き始める。黙って俺はその後を付いて行った。


そのまま瀬川は校門から出て、特に会話も無く北の方角へ歩く事約10分。いつものファミレスに着いた。


店内に入り席に着くと、瀬川はメニューを手に取り俺に差し出した。


「好きな物を頼みなさい。今日は私が奢ってあげるから」


得意げな表情を浮かべてメニューを渡す彼女。何かを企んでいるのは明らかだが…本人は多分隠してるつもりなんだろうなぁ…。


「いいのか?じゃあこの期間限定店長特製トロピカルフルーツ山盛りパフェを」


瀬川は声をあげなかったが驚きの表情を隠せずにいた。彼女はかなりの甘党である。それを考えた上でのこのチョイスだ。それに、彼女の反応を見るからにこの期間限定パフェはまだ食べてないようだ。それを他人の奢りで食べる俺はさぞかし羨ましいだろう。


それに加えて、値段の高さだ。パフェ1つで1980円は高校生にしては大きな出費だろう。


「瀬川さん、どうしたんだい?俺の頼んだ好きな物を奢ってくれるんだよね?」


瀬川は悔しそうな顔をしてこちらを睨みつけている。先程とは逆に、俺は得意げな表情をしてやった。



「くっ!…い、いいでしょう。そのパフェを奢ってあげる」


「ありがとう瀬川さん」


俺は店員を呼んで、パフェを注文した。そして瀬川は自分の財布と睨めっこした後、落ち込みながら水を頼んだ。


10分程時間が経ち、店員が山盛りパフェと水が入った小さなコップを持ってきた。珍しい事なのか、他の店員やお客さんもそのパフェに目を奪われていた。そして、そのパフェが俺の目の前に置かれる。少し周りの視線が痛く感じた。


向かいに座っている瀬川も、パフェに目を奪われていた。高さ30センチくらいあるだろうか?男の俺でも食べきれるかどうかと思うくらいの大きさだ。


「それでは、いただきます」


紙に包まれたスプーンを手に取り、紙を開き取る。そしてそのスプーンをパフェの上に乗っているフルーツと生クリームを合わせて取り口へ運ぶ。


瀬川はその様子を生唾を飲み込みながら見ていた。



「…うん、うまいな」


山盛りのパフェの生クリームは濃厚だが甘過ぎず、一緒に盛られているフルーツの味も生かされているのと、最後まで食べきれるようにくど過ぎないようになっている。これなら俺も全部食べれるかもしれない。


その後も俺の手が止まる事なくスプーンでパフェを口に運んでいく。山盛りの部分を食べ終え、容器の中に進んだ所で、中身はアイスへと変わっていた。流石に口の中が甘くなり、ちょっと飽きが来ていたのだが、アイスを口に入れると…


「これは…柚子だ、柚子シャーベットだ」


程よい甘みと酸味により、口の中はさっぱりした。また、シャーベット特有のあの食感がいい。さらに俺の手を加速させた。


残すのは、1番下に見える黒い物体…おそらくカフェゼリーと、その上に乗っている抹茶アイスだ。ここまでパフェが来てから大分時間が経っている。抹茶アイスも溶け始めていた。その抹茶アイスも食べれば普通に美味しいアイスだ。


ここまで食べて俺は充分に満足していた。だがここで最後に思いもよらない事が起きた。


抹茶アイスを2口目を食べようとスプーンを刺すと、溶けていたので、スプーンが下のカフェゼリーまで深く刺さってしまった。そしてそのまま下のゼリーも一緒に口へ運んだ。


そのゼリーの食感がとても妙だ。ゼリーみたいに噛み切り易くなく、モチモチしている。味もカフェって感じはしない…もっとこれは甘い…。俺はカフェのゼリーを再度よく観察する。


そのゼリーは形は角ばってなく丸い。そしてモチモチの食感…間違いない、これはタピオカだ!そして黒い蜜のような物がタピオカと合わさっている。これは黒糖だろう、甘さの正体はこれだ。


この食べるまでの時間でアイスが溶けるってのも計算の内ってことか…。なんと最後の最後で黒糖抹茶タピオカが完成するとは…!と驚いていると、気付けばパフェは完食していた。この山盛りのパフェ、食べきれるかどうかと思ったが撤回しよう。気付けば食べきっていた。その間、俺は驚いていただけだった。


「ご馳走様でした」


心身共に満足した俺は、一呼吸した。すると目の前にいる瀬川が、何か企んでいるような得意げ顔で再びこちらを見ていた。


「ふっふっふ…食べたわね?」


「うん、食べたよ。美味かったです、ご馳走様。それじゃっ!」


席を立つ俺の腕をガッと瀬川は掴む。


「ちょっと待ちなさい、私の用はまだ済んでないの!」


「瀬川さんの用って俺に何か好きな物を奢ってくれるって事なんじゃないの?」


「私がタダでそんな事する訳ないでしょ?条件付きに決まってるでしょ⁉︎」


「なんだって?それならそうと先に言ってくれないと、今更困るよ。それを先に聞いてたら俺だって瀬川さんに奢ってもらうの断ったのに…」


「えぇ…そんなぁ…」


わかりやすく項垂れる瀬川。力が抜けた手から俺の腕がスルリと抜けた。襟を正して服装を直して彼女に目をやると、流石に俺も可哀想に思えてきた。


1つ溜息をついて、瀬川に声を掛けた。



「仕方ないな、パフェも凄く美味かった事だし…瀬川さんの頼み聞いてあげるよ」


「本当⁉︎ありがとう!」


勢いよく顔を上げて彼女はそう言った。



「実は私補習があって…それで早乙女くんに勉強を付き合って欲しいの」


「……なんだって?」

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