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瀬川と柊の魔法

刃物を持って襲い掛かる男、金属バットを振りながら襲い掛かる男、ハンマーのような鈍器を持って襲い掛かる男、ある程度距離を置いて魔法を発動する男。それぞれ思い思いに攻撃を仕掛けていく男達の中心に瀬川はいる。


その光景を清水は眺めていた。いくら魔術で身を固めようとも魔力や体力が持つはずがないだろう。最悪ここには最後の人質の柊と天野がいる。ここはいっそのこと高みの見物といこうか…。


清水は余裕を持っていた。その筈が、思いもしないことを言われた。



「一緒に戦わないで、ここにいていいのか?」



柊がポツリと言った。どう考えても今のセリフは俺が言う方だろう!この状況で…まさか俺に言ったんじゃないだろうな…?


ゆっくりと柊の方を振り向く。


「…!」


柊は清水の方を見ていた。先程のセリフは間違いなく清水に放ったものだった。


これで普通なら怒るところだが…戦況は至って明白、怒りなど無く清水にあったのは呆れだった。


「お前も彼女を助けに行かなくていいのか?そこの使い物にならない男を守っている場合じゃないんじゃないか?」


「言ったはずだ、僕は天野先輩を守るだけだって。手を出すつもりは全くない」


「そうか。お前はあの女が力尽きて動けなくなり、俺達に弄ばれ続けられたとしてもこうやって傍観し続けるということなんだな?」


「もちろんそのつもりだ」


当たり前のように淡々と喋る柊に清水はこれ以上何も言わなかった。こちらの勝利は変わらない、ならば彼女とこの男がどんな姿で許しを請うのか。それを楽しみに清水は戦況を眺めていた。



数分が経過した。戦況は変わらないが、突如倉庫の入り口から光が漏れた。視線をそちらに向け何があったのか確認すると、人影の姿が見えた。


その人影は倉庫の中に入り再び扉を閉じて、倉庫は薄暗い空間に戻る。人影はゆっくりと歩いてこちらに近づいてきた。周りの男達は瀬川に夢中になり気付きはしなかった。


目の前まで歩いてきた所で、その人影の正体がわかった。



「お久しぶりです、清水様」


フード付きのコートを着た女が話し掛けてきた。この情報屋の女とは、よく行く酒場でしか会ったことがなかった。何か訳が…事情があるのだろうか?彼女はいつもフードで顔を隠し口元しか見せず、しかもその口元に笑みがこぼれている。


「こんな時に何の用だ?実は今立て込んでいるんだ。また今度にしてくれ」


「いいえ、そういう訳にはいきません。私は情報屋です。珍しい目新しい情報はいち早く手に入れお客様にお伝えするのが仕事ですから」


「…ったく、わかった!今忙しんだから手短に頼む」


清水の言葉を聞いて情報屋の女はキョトンとして首を傾げていた。


「何してる?とっとと要件を話せ!」


「あの、勘違いしているようですから言いますけど、私は情報を清水様に伝えに来たのではありません。その逆です。情報を手に入れる為に来ました」


「何だって?」


「私の元にメールが届きました。『清水率いる臓器及び魔薬の密輸密売組織が1人の女子高生に圧制される』と。私としては黙っていられなかったので実際に見に来たというわけです」


「誰だ!そんなメールを送った奴は⁉︎」


メール画面を見せた情報屋の携帯電話を清水は取り上げた。そして画面を見ると、メールの差出人の名前は天野と書かれていた。


バッと後ろを振り向いて天野の事を見る。相変わらず意識はあるが、一言も喋らない状態だ。しかも天野の携帯電話は取り上げたはず…。清水は胸ポケットに天野の携帯電話があるか確認する。


「携帯が…無い?何故だ?」


すると目の前で柊がポツリと言った。


「探し物はこれですか?」


携帯電話を持って画面を見せる柊。情報屋のメールと同じ内容の文章がそこには映っていた。


「犯人はお前か…一体いつの間に…」


「銃を奪った時に一緒に天野先輩の携帯も奪っていたのさ。その後僕が銃を撃って泣き崩れている時にメールを打って送ったってことだ」


「まさか…お前のあの涙は嘘だったのか…でもなんで天野の携帯に情報屋の連絡先があるんだ?」


「それは僕も知らない」



「…それは、天野くんは私の後輩だからです」


情報屋が天野に近付き言った。彼女はしゃがみ天野の顔を撫でていた。


「その男は最後まで俺に抵抗しきっていたよ。今となっては喋れない程衰弱しきっている。どうだい?可愛い後輩がこんな目にあってどんな気持ちだ?俺に腹が立ったりしたか?」


情報屋が心配そうにしているにもかかわらず、彼女の答えは予想とは違った。


「いえ、清水様には怒りや憎しみなど一切ありません。天野くんがこんな目にあったのも全て彼が悪いんです…。昔から言う事聞かないで自分がしたい事をするような子でしたから。それに…」


情報屋は顔を上げて清水の方に視線を向けた。いや、正しくは清水の背後に目を向けていた。


「例え清水様に怒りや憎しみを抱いていたとしても、今から『戦闘のプロ』があなたをコテンパンにするでしょう」


後ろから刃こぼれしたナイフを踏む音がした。振り返ると、そこには涼しい顔をして立っている瀬川の姿があった。


「さぁ、そろそろ終わりにしましょう」


周りの男達の中にはまだ戦える者もいたが、皆戦意喪失していた。


「お前ら何やってんだ!相手は女1人だ、早く片付けろ!」


「駄目だボス!この女むちゃくちゃ強い!俺らがやっても敵わない!」


「チッ!使えない部下どもがっ!」


清水文句を吐き捨てて、瀬川と対峙する。


何人もの部下に襲わせても倒れない瀬川だが、清水には実は勝算があった。得意げな表情で瀬川を見下すと清水は一言言った。



「俺に勝ったら全て好きにするがいい」


「元からそのつもりです」


「ふ〜ん…そうかよっ!」


清水は勢いよく走り出し瀬川目掛けて蹴りを繰り出すと同時に、落ちている刃こぼれしたナイフに魔力を込めた。同時に先程の銃弾に僅かに残っている魔力を使い近くまで引き寄せる。


瀬川は両腕を交差させながら清水の蹴りを受け止める。魔術が発動し、腕は何とも無いが威力が強く半歩後ろへ下がった。これを見て清水はニヤッと笑った。


これだ、いくら身体を硬く頑丈にしたとしても衝撃や威力を完全に防げるわけではない。つまりは銃弾の件もそうだろう。威力が強過ぎると、どうしてもダメージを受けてしまう。頭から流してる血が証拠だ。


つまり銃弾のような威力で攻め続ければ勝てる!


近くまで引き寄せた銃弾に再び魔力を込めて飛ばす。段々と加速させ、目にも留まらぬ速さで瀬川の頭部目掛けて飛んでいく。


「くっ!」


瀬川は咄嗟に両手で頭をガードした。瀬川は銃弾の威力を受けきれずに、その場に尻餅をついた。そしてキッと睨み返してきた。その顔を見た瞬間、清水は勝てると悟った。


再び銃弾を飛ばし、今度はさっきのナイフも飛ばした。魔力に鋭い瀬川はすぐに何かが2つ飛び回っている事に気付く。驚きの表情を隠せずに周りを見渡し、頭を両手でガードしている。その両手には傷ができており血が流れている。


今度は銃弾とナイフで瀬川を狙う。僅かにタイミングをずらし、怯んで無防備になった状態の頭部を狙った。



「うっ!…きゃっ!」


「クソッ、外したか」


一撃目で体勢がずれてしまい、2つとも両手に当たってしまった。


その場に両手を突いて倒れ込む瀬川。顔を上げて清水を睨むその顔には焦りが見えた。



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