清水の誘惑と魔法(2)
清水は周りの仲間達に指示を出した。男達は陣形を崩して各々自由に散らばった。
清水は柊に近づきしゃがみ込んで背中に手を置いた。
「安心しろ、俺達の仲間になるんだ。そうすれば今あった事は秘密にしといてやる。聞けば君は刑事の子供みたいじゃないか?いいか、親から警察の情報を聞き出して俺達にリークするだけでいい。簡単だろ?」
「うっうっ…本当にそれだけでいいんですか?それをするだけで僕が瀬川さんを撃った事を黙っててくれるんですか?」
「あぁ、いいとも。俺達にとっては警察の情報が手に入るのは大きな利得だからな」
清水は柊の背中をさすり続けた。いつまでも泣き止まない柊を見ながら清水は今後の事を考え始めていた。
天野と柊をどの様に活用するか?瀬川の遺体をどう処理しようか?天野に関しては反抗心があるから、新しい魔薬のテストに使うのがいいだろう。柊は先程言った通りに警察の情報のリーク、その後も他の仕事も徐々に増やそうと思う。瀬川はマニアに貸し出し充分楽しませた後で使えそうな臓器を密売する。
そう考えると、残る問題は塚原のみだ。彼が問題無く佐奈田を回収してくれれば全て解決だ。
「せめて、天野先輩に会わせてもらえませんか?」
柊は少しだけ顔を上げて清水に懇願した。
「いいだろう、天野は使いようによってはもうお前と会えないかもしれないからな。ゆっくりするといいさ」
柊は生まれたての子鹿のように脚を震わせながらゆっくりと立ち上がった。そのまま天野に向かって俯きながら歩いていく。
清水の仲間の男達は、身を引いて柊を見ながら黙って突っ立っていた。
歩いた距離は大体10メートルくらいの長さを1分ほどかけて柊は天野にたどり着いた。天野の姿が視界に入ると、柊はその場に立ち崩れた。
天野はただただぐったりと横になっていた。目は開いていて柊の事を見つめていて意識はあるようだが言葉は喋れないようだった。
「先輩、やっと着きましたよ…救出しに来ましたよ」
柊の言葉に清水はピクッと反応して振り返る。そして声を張り上げ問いかけた。
「おい、どういう事だ?救出しに来ただと?この状況で救出できると思っているのか?」
「…」
柊は問いにはすぐに答えずに天野の無事を確認する。身体中を見てとりあえず命の心配がない事を確認すると、清水の方を振り返る。
「思いますね。まぁ元々僕は天野先輩の身柄の確保することが目的でしたから」
「何だって?何を言っている?どういう事だ⁉︎」
「天野先輩を助けに来て、はいどうぞって天野先輩を渡すような連中じゃないでしょ?あなた達は。だったら戦闘は避けられない。天野先輩を人質にとられたらこっちとしては手も足も出せないですから、天野先輩の安全を確保する必要があったんです。まぁ色々と当初の作戦と違いますが…結果的に良しとしますか」
「俺が言っているのはそうじゃない!身の安全の確保だと⁉︎この人数差で天野を守りきれるとでも思っているのか?それにお前は仲間の女を撃ち殺しているんだぞ?それをわかっているのか?」
「おそらく問題無いだろう。それに安心して欲しい、僕は一切手出しをしない。あと僕は多分瀬川さんを撃ち殺してはいないと思うよ。ここに来る前に彼女は絶対に死なないとか絶対に大丈夫だとか何回も言っていたからね」
「なんだと⁉︎」
清水は瀬川の方をすぐさま振り向いた。ちょうど仲間の一人の男が瀬川を移動させようと近づいていた。
「止めろ!その女から離れろ!そいつはまだ生きている!」
仲間の男はキョトンとした顔をして、瀬川の片腕を掴み上げていた。ぐったりとした瀬川の身体を見れば誰だって死んでるか眠っているかのどちらだと思うだろう。
「大丈夫ですよボス。だってほら、こんなにもフラフラしてるんですよ」
男が腕を左右に振った。それにつられて瀬川の身体も波を打つように左右に振られていた。
「あのバカっ!」
男が瀬川を揺らして笑っていると、一瞬何かが起きて男はその場に倒れ込んだ。清水はそれを見逃さずに見ていた。
瀬川の片腕が男の手から抜け、瀬川の足が円を描くように振り上がる。その円の天辺で男の顎に丁度当たった。そして張り上げた足の力を利用し、彼女は華麗に立ち上がった。
「柊くん、迫真の演技お疲れ様。後は任せて」
「何故だ?なんで銃で頭を撃ち抜かれて生きているんだ⁉︎」
「その前にまず貴方の魔法の正体を説明しなくてはいけない。その器用な風魔法をね」
瀬川は髪をバサッと広げて、頭の後ろに髪留めで縛りポニーテールにした。そして額から流れる血を手で拭った。
「どう考えても柊くんが貴方の足元をかすめた弾道が跳弾で私の頭に当たるわけない。あの弾道は貴方が使った風魔法によるもの。弾が私の頭に飛んで来るまで何度も何度も魔法を繰り返し使っていたわね。正直銃弾がいつ来るかなんてバレバレだったわ」
瀬川の予想は合っていた。清水は何も言えずに黙って聞いていた。
「銃弾に魔力を込めて置き、柊くんが発砲した銃弾が何処かへ飛んでいった後に魔法を発動し、銃弾の周りに風を発生させて操り私の頭を狙った。そしてそれを承知で私は銃弾を頭で受けて吹っ飛んだってわけ。それでも私がこうやってピンピンしているのは、もちろん私の土魔法のおかげよ。魔法で石を生成し銃弾を受け止めたから。けどまぁ頭にちょっと傷が出来て血が流れてきたけど、別に問題はないわ」
何を言っているんだコイツは?清水には瀬川が言っていることが本当か信じられなかった。なにせ、清水が銃弾に魔法を発生させて瀬川に当たるまでの時間は、僅か2〜3秒程。その時間内で魔力を集中させて魔法を発動させるのは不可能に近い。それに何故魔法を使ったのだろうか?もちろんこの倉庫内も魔力探知機の察知範囲内であるのは確かだ。
瀬川は清水の心の中を読んだようにクスリと笑い解説を続ける。
「その様子だとまだ納得してないようね…。本当は秘密にしておきたかったけど教えてあげましょう。私が使ったのは魔法に術式を組み込んだ魔術というもの。貴方達が知る魔法とは少し異なるものよ」
「何だと?」
「この魔術は私の身体に衝撃や圧力がかかると自動で魔法が発動し、外部からの攻撃から身を守るようになっている。もちろん私の意識とは関係無く発動する為、銃弾のようなスピードだろうと関係ない。それに衝撃や圧力も強ければ強いほど生成される物はより頑丈なものができる」
瀬川は先程蹴りを食らわせて横で寝ている男の腰に、ナイフのような刃物を見つけて手に取った。そして服をめくり腹部を清水に見せたまま、ナイフでその部分を突き刺した。
するとナイフの刃先は体内に入ることなく、鈍い金属音を立てて止まっていた。瀬川の腹部には僅かに石面が生成されていた。ナイフが離れると、一瞬で石面は消え去り何事もなかったように元に戻った。
「とまぁ、こんな感じよ。これでわかったでしょう?」
瀬川は服を整えた。次はナイフの持ち手の方と刃の部分の両方を握りしめた。
そして勢い良くナイフを引っ張った。普通なら刃を握った方の手は切れて血だらけになるだろう。だが彼女の手は無傷のまま。代わりにガリガリと音を立てて引き抜かれたナイフは、そのまま勢いよく宙を舞い清水の足元に落ちた。
カランカランと音を立てて落ちたナイフの刃はボロボロに刃こぼれしており、りんごの皮剥きすらまともにできないような状態だった。
「これでもまだやる気?と言っても、私は逃す気は無いけどね」
「…調子に乗るのもいいかげんにしろよ。お前ら!やっちまえ!」
清水の一声で周りの男達が声をあげながら一斉に瀬川に襲い掛かった。




