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魔法を消せる能力

………





驚く程に魔法館内は静かであった。


生徒達は彼の魔法に注目していたので、発動しない魔法にただただ驚いていた。


「それでは次の人、どうぞ」


鬼嶋は何事も無かった様に試験を続行させる。もちろん長谷部は黙っていない。


「ちょっと待ってくれよ! 今のは無しだ! やり直しさせてくれ!」


「何故ですか?」


「いや、今の見たろ!? 俺の魔法が発動しなかったんだ! みんなも感じてただろ!? 俺の魔力が集中していたのを! これはきっと何かの間違いだ。お願いだ、やり直しさせてくれ…」


「わかりました。ではもう一度お願いします」


「は!?」


「…? だから試験ですよ。今、もう一度魔法を発動させて下さい」


「いや…今は出来ない…魔力が無いんだ…」


「魔法を発動していないのに、魔力が無いんですか?」


「だから何かの間違いだって言ってるだろ!?後日また再試ってことにしてくれよ」


「最初に言っていますが、この試験では直接成績に関係することは無いので、再試が無くても安心して下さい。例えこの試験の点数が0点だったとしても、あなたの未来に…まぁ悪い影響は無いと思いますよ。それでは次の人、どうぞ」



俺の力のタイミングは一致し、無事成功したようだ。


安心して生徒達を見回すと、ひそひそと長谷部に対して何か話ている。内容までは聞こえないが、大体は想像できる。


魔法を使えないことを散々バカにしてたくせに、自分は魔法を発動できなかった。長谷部は俯いて悔しそうに歯をくいしばっていた。


その後も試験は進み、最も注目すべき生徒、柊の順番がきた。



入学生として答辞を読んだ彼だが、先程の試験まで目立った活躍は無い。その分生徒達は彼に注目していた。けれども、後ろから長谷部がゆっくりと歩き出した。


「そうだ…お前らがやったんだな…?」


ヨロヨロと歩き柊の試験を遮ろうとする彼は、柊の前に立ち、鬼嶋をじっと睨んだ。


「流石のあの魔公だ…しかも魔法館のここには、魔法対策の設備なんて整って当然だろう…。俺があまりにも魔法が使えないあのクズを馬鹿にした罰に、俺に恥をかかせたんだろう?」


「残念ですが、魔法館には魔法を発動させない設備なんてありません。私もあなたの魔法が発動しなかったのは何故かはわかりません。早くそこを避けなさい。柊君の試験ができないじゃないですか」


鬼嶋の注意を受けたにもかかわらず動こうとしない長谷部。すると、彼の肩に柊が手を置いた。


「だったら本当にないかどうか僕が確かめるよ。それでいいでしょ?」


全員が驚いた。柊が長谷部に協力するような真似をするとは誰もが考えてなかった。


「僕もさっきの彼が魔法を発動できなかったのは何故か興味あるし、それに原因がわかればみんなスッキリするでしょ? だから早く下がっていて」


「あ、あぁ…」


長谷部は大人しく柊に従った。彼が生徒達の所に戻ると、試験が始まった。


「それでは始めて下さい」




開始の合図があっても、柊はただただ姿勢を正して立っていた。



シーンと静かな中、いつまで経っても柊の魔法は発動しない。


「長谷部と同じく、柊も魔法発動できなかったんじゃないの? っていうか魔力自体彼から感じられないんだけど!?」


「入学式で答辞を読んだくせに、本当は大したことないのか?」


静かにしていた生徒達だったが、段々と騒ぎ出していた。長谷部も我慢が出来ずに柊に歩み寄る。


「おい、どういうつもりだよ! さっき言っていた事は何だったんだよ!」


「まあ焦らないでよ、流石の僕もこの魔力館を自分の魔力で満たすのには時間がかかる。」


「はぁ? お前何言って…!?」


長谷部はようやく気付いたようだ。柊に魔力が感じられないのは、ただの錯覚である。魔法館全体に柊の魔力が均等にゆっくりと広がっていくということは、この空間そのものから、柊の魔力が感じられるということ。


「ゆっくりと感覚を研ぎ澄ましてみな…。全方向から僕の魔力が感じられるだろう?」


長谷部は驚き声も出ずに、その場に座り込んだ。他の生徒達も気付いたようだ。全方向から、まるで柊に狙われている感覚。逃げ場もなく、ただ攻撃されるのを待つという恐怖を感じていた。


「柊! 何をするつもりだ!」


「先生、言ったじゃないですか。長谷部くんの魔法を発動できなかったのは、魔法館にそういう機能があるから。それが本当かどうか確かめるって。それだけですよ? それに僕の魔法は水ですし危ない事は出来ませんよ。排水溝も魔法館にありますし、溺れることはないですしね。」





…。





「ただ…。僕の今発動する魔法は、魔力を濃密にして発動させるから、あくまで水ですけど、普通の包丁くらいの強度はありますから」


柊がそう答えた瞬間、魔法館全体から柊の魔法が発動した。均等の間隔で発動していく柊の魔法。幾何学的な模様で広がっていく彼の魔法の先端は尖っており、生徒全員に襲いかかる。


「おい! 誰か奴の魔法を止めろよ!」


「魔法を止めようにも、俺は試験で魔力使ってしまって、もう何もできねえよ!」


「じゃあ魔力残ってる奴は!?」


「嫌よ! ここで魔力使ったら、この後の試験に影響が出るじゃない!」


生徒達はパニックに陥り、何もできずにいる。それを見て、柊は長谷部に言った。


「見なよ長谷部くん。彼らは評価を気にするあまりに、身を守ることすらできないんだよ。試験で魔力を使って魔法を使えない人もいるけど、魔法を使える人に使おうと説得もしない。そんな奴等なんだよ。魔公学園の僕達の同期の生徒はさ。君はどう思う?そんな彼らを見て、さっきと同じくみんなと一緒に早乙女くんを馬鹿にできるかい?」


長谷部の脳裏に浮かんだのは、先程の持久走での事だ。嫌味や足を踏んでもゴールした早乙女と、柊の魔法でピンチに陥っても己の評価を気にして何もできずにいる連中。


「…っ、俺は…!?」


ついに、視界が柊の魔法で埋め尽くされた。目の前まで柊の水の刃が近付いた瞬間、突如突風が吹いた。


「!? な、なんだ!」


柊の魔法が生徒達に届く直前に、水の刃が崩れていった。生徒達を守る様に周りに吹いてる風が、柊の魔法を崩していく。


「あなたの魔法は凄いけど、危ない真似はやめて下さい。それに普通の包丁くらいの強度があるというのは嘘ですね?」


突風の正体は鬼嶋の魔法だった。柊の魔法を防いだにもかかわらず、その表情は変わらず、余裕がある様に見える

辺り、流石教師と言ったところである。


「あの嘘がなければ先生は僕の魔法から生徒達を守ろうとしなかったですよね? でもそれより、先生が魔法を使ったって事は、やっぱり魔法館には魔法を発動させない設備がないってことですよね。あるんだったら僕の魔法を消せばいいですし、その方が安全で確実ですしね。僕の試験はこれで終了ですね」


柊は生徒達のところへ戻って行った。美しくも恐ろしい彼の幾何学的な模様の魔法は消えていった。



彼の壮大な魔力と魔法に、誰もが圧倒され、しばらく沈黙が続いていた。




その後の試験は続き、何事も無く無事に終了した。


ただ長谷部は柊の試験後、何も文句は言わず大人しくしていた。珍しく他の生徒達とも話していなかった。



「…はい、これで魔法試験を終了します。皆さんお疲れ様でした。この後は教室でホームルームですので、休憩終了までに戻るように」


鬼嶋はいつものようにスタスタと歩いて行く。


俺達生徒達も更衣室へ移動し、着替え始めた。


男子達は魔法試験の話題で持ち切りだったが、意外にも柊の魔法が特にみんな気になっていた。


「柊~!」


1人の生徒が柊の肩に手を置いた。


「うわぁ~!?」


「お前凄えな! あんな魔法どうやったら出せんだよ?」


「ん~? 頑張ったらかな?」


「なんだよそれ~?」


柊が他の生徒とじゃれてるのが、ほんの数時間前のことを考えると嘘みたいだ。だが最も意外だったのが…。


「おい早乙女」


「!?」


こいつ長谷部だ。何故か話しかけてきた。


「今まで悪かったよ。俺も嫌な事が色々とあってな、その…お前にぶつけちまったからよ。…すまん! 許してくれ!」


深々と頭を下げる長谷部。さっきまでの、持久走してた時の俺なら許せなかったが…。魔法試験の事もあり、俺は許すことにした。


「頭を上げてくれ長谷部、なんせ俺達は魔法試験0点コンビなんだから、お互い仲良くやろうぜ?」


「ありがとう早乙女!」


「そうだ長谷部、さっき嫌な事が色々あったとか言ってたけど、何があったかでも話してくれないか? 話した方がきっと楽になれる」


「いいけど長くなるからな~。放課後でもいいか?」


「ああ、大丈夫だよ。おっと、喋ってばかりじゃまた遅れてしまう。また先生から怒鳴られるぜ」


「そうだな、急ごう!」


着替えを手早く済ませ、教室へ向かう途中、本田と出会った。


「本田さんお疲れ様~」


「お疲れ~早乙女くん」


「よっ!お疲れ、おせっかい女!」


「お疲れ~って!? なな、なんでお前がいるのよ!?」


本田は長谷部を見て驚いた。俺は事情を説明する。


「まあ、さっきの試験の後に更衣室で謝ってもらってな。許してやる事にしたんだ」


「へぇ~そぉ。あんなにクラスのみんなの前でバカにして、持久走では早乙女くんのこと転ばして…。謝罪の言葉1つで許すなんで、早乙女くん良い人過ぎるんじゃない?」


本田は腕を組み、長谷部の事をチラッと睨んだ。長谷部は一瞬表情を強張らせた。けども長谷部も負けじと言いたい事を言った。


「まあ俺も謝っただけで許して貰おうとは思わなかったけども、早乙女本人が許してやるって言ってんだから、いいだろ?」


「あら~? 持久走で早乙女くんを転ばした事は否定しないの? それに謝って許して貰えなかったら、他に何をするつもりだったの?」


「コイツ…!」


せっかく落ち着いたと思った矢先に、目の前で火花を散らしている2人。


「やめろよ2人とも! 早く教室行かないと怒られるぞ!」


睨み合ってる2人の手を引き、そのまま教室へ向かった。



教室にはまだ先生は来ておらず、時間には間に合ったようだ。


本田と長谷部が睨み合ってるのをほっといて、俺は自分の席に座る。やっと落ち着ける。安堵のため息を吐いて、先生が来るのを待っていたのだが…。


「早乙女くん」


話しかけてきたのは、隣の瀬川だった。真っ直ぐに俺を見つめている。


「ん? 何?」


突如彼女は身を寄せて、俺の耳元に口を近づけた。


「放課後に体育館裏に来て。いい? わかった?」


俺は驚いた。体が近づき、彼女からする甘い香りと、耳元で囁かれる声に。俺は恥ずかしくなり、早くこの状況から脱したいが為に、すぐさま頷いた。


すると彼女は何事も無かったかのように、元の位置に戻った。表情を見ても何も変化はなく、俺だけが驚いていた。


再び俺が安堵のため息を吐くと、先生が教室へ入ってきた。



「それではこれからホームルームを始めます。これが終わったら今日は終わりですから、集中して下さいね」


ホームルームの内容は、至って普通だった。学校生活や規則の事等、鬼嶋が説明をしていた。


だが最後に、この魔公ならではの魔法のルールが存在し、その説明があった。



「魔法館では、各生徒が自由に魔法に鍛練出来るように放課後は開放されています。ですが人を怪我させる様な行為は原則禁止となっていますが、魔法の強度を考慮し、安全性が十分なら強力な魔法の使用を許可しています」


「安全性が十分とは、具体的にはどういった事をすれば大丈夫なんですか?」


「魔法の使用に対して、何か問題があった場合に対処できる者と同伴する事ですかね。先程の試験の時の様になったら困りますよね?」


クラス内の生徒全員に、柊の魔法に襲われた記憶が蘇る。


「でも強力な魔法を使用しないのなら、問題なく魔法館を使用できます。ただし、安全性が欠けた状態での強力な魔法の使用が発覚した場合、特別指導が待っていますので、決して行わないように…」


鬼嶋がメガネをクイっと上げる。光がレンズに反射し、生徒達を威圧させた。


「以上でホームルームを終わります。それと柊君はこの後、生徒指導室へ来るように」



鬼嶋はそのまま教室のドアを開けて出て行った。ドアが閉まった瞬間、チャイムが鳴る。


生徒達は自由に動き出した。帰る者や他の生徒達とはしゃぐ者。そんな中、少し柊の様子も気になった。


「おい柊~! お前さっそく呼び出されてんじゃねーか? 大丈夫かー?」


1人の生徒が柊に肩を組んで声をかけていた。


「僕は確かに強力な魔法を使ったかもしれないけど、誰も怪我させてないし、先生という対処できる人がいたから何も規則は破ってないし大丈夫だよ。」



柊自身は外見よりも中身はたくましいようで、特に心配するような事ではないようだ。


さて、後は俺の問題だな。入学初日からボッチ確定と思っていたのだが、意外にも予定がブッキングしてしまった。


隣の瀬川は立ち上がり、教室から出て行く。出る際に、一瞬俺と目を合わせた。


そして長谷部が近づいてくる。


「よー早乙女! 約束通り話そうぜ! それとも帰り際にどっか寄ってでもいいぜ!」


どうしようか…。瀬川か長谷部、どっちを優先するか…。仕方がない、長谷部には少し待ってもらうことにするか。


「長谷部ごめん、ちょっと用事できちゃって、少し待ってくれないか? すぐ終わる用事だから教室で待っててくれ。じゃあ行ってくる!」


「え! ちょっと待てよ!」


長谷部の後ろから本田が近づく。


「あらら? 長谷部くん振られちゃったみたいだね。」


「またお前かよ。ったく」


「早乙女くんがどこに行ったか気にならない?瀬川さんが、私とあなたと睨み合ってる時に、早乙女くんに何か耳打ちして、さっき教室から出て行く時に彼に視線を合わせた。何かあるよきっと」


「おお…、お前なかなか鋭いな」


「私は早乙女くんを追いかけてみようと思うけど、あなたは?」


「俺も付いてってやるよ。お前がおせっかいかけないように見張るために」


「あ~そうですか、素直じゃないんだから…」





…。




体育館裏に着いた。早く済ませて長谷部のとこに戻らないと…。俺はちょっと焦っていた。


「やっと来た」


瀬川は体育館の壁に寄りかかっていた。俺とは違って真顔で余裕がある。


「瀬川さん、すまないがこの後用事があって…」


「そう、わかった」


瀬川がこっちに近づいてくる。俺は何故か追い詰められ、体育館の壁を背にして、瀬川から壁ドンを喰らった。


「では率直に、どうやって長谷部の魔法を消したの?」


「…え?」


「とぼけても無駄よ、私にはわかる。彼の魔法を消したのはあなた」


「…フフッ…」


「な? なにを笑っているの? …教えないなら私が先生に言って、あの試験で起こったこと全てをあなたのせいにして責任取らせてあげる!」


「アーッハッハッハ! いや~ごめんごめん。で、俺が長谷部の魔法を消しただって? そんな証拠はどこにある?」


「証拠…ですって…!?」


「瀬川さんはまさか証拠も無く俺が長谷部の魔法を消したっていうのかい? それに俺が長谷部の魔法を消したとして、証拠も無くどう先生達に説明する?」


瀬川は視線を外し、唇を噛み締める。内心焦ってしまったが、やはり彼女は証拠を持っていない。なんとか誤魔化して、この場を乗り切ろうと俺は思った。そして彼女はため息を吐いて、話し出した。


「魔力超感覚よ。私は魔法が発動してない空間でも僅かな魔力があれば、それを感じることができる。もちろん常人には感じることはできない極僅かな少量でもね」


「それで、どうやって俺が長谷部の魔法を消したと思ったんだ?」


「あなたが長谷部の魔法を消した時に、あなたと長谷部の間の空間にあった魔力も消えた。これは魔力を消した何かがあなたから出て長谷部の魔法を消した証拠よ。」


「なるほどね、それなら納得できるな」


「意外ね、魔力超感覚ってことを素直に信じるなんて。この言葉も私が自分で付けただけだし、実際はなんて言う能力なのかわからないけど…。」


「魔力超感覚か。ところで、瀬川さんは魔力探知機がどうやって魔法を探知するか知ってるかい?」


「はぁ? いきなり何?」


「知らないなら俺が教えてあげようか」


瀬川は再びため息を吐いた。そして面倒くさそうに、説明を始める。


「魔力探知機は魔法を発動した際に出る魔力波を探知している。魔力も一種のエネルギーで、100%魔法に変換できない。魔法に変換されなかった魔力が魔力波となり、これは魔法を使ったら必ず出る物で、例外はない」


「なるほど、では魔力探知機はどんな魔力波にも反応するのだろうか?」


「どういうことだ?」


「弱い魔力波にも反応するのかってことだよ。例えば、走っている時に足の裏の地形をちょこっと変えるような、僅かな魔法を発動した場合とかは?」


「ちょっ⁉︎ あなたまさか‼︎」


瀬川は声を荒げた。一瞬焦った彼女だが、俺の顔を見るなり落ち着きを取り戻し、視線を外して話し始めた。


「いつから気づいたの?私が短距離走の時に魔法を使ってるって」


「その時に気づいたよ」


瀬川と並んで走った短距離走。彼女の加速はとても速かった。原因は彼女が走る時に、足の裏の地形を僅かに変えており、滑りやすいグラウンドの地形を滑りにくい地形に変えていた。


だが彼女の魔法はとても効率が良い為か、魔法に対して発生する魔力波も小さく、その魔法自体も小さいため、魔力波はとても小さいものとなっていた。


「私の魔力波は、魔力探知機でも反応しない程小さなものだったのよ。なのになんであなたは気づいたの?」


「そんなの瀬川さんならわかると思うんだけど。まさか自分しか持ってないと思った?魔力超感覚」


「あなたも持っていたのね…」


「でも実に見事だったよ。瀬川さんの魔力波は集中しなきゃ足音に紛れて気づかないところだったよ。それに走るタイミングに合わせて発動させる魔法。魔法試験でも観させてもらったけど、あんなに速く魔法を発動させるのは瀬川さんしかできないね」


魔法は強大であればあるほど発動までに時間がかかる。瀬川の魔法は小さいものだったが、常人でも何度も連続して、しかも走って踏み込む度に魔法を発動させることはできない。


「けどね、同じこと言わせてもらうけど、証拠はあるの?」


「…」


俺は黙って瀬川を見る。何も言えないと思ったのか、瀬川は得意げに話し始める。


「証拠が無いなら、全部今のは絵空事。私が早乙女くんが魔法を消したって言った事とか、私が短距離走の時に魔法を使ったとか全部無かった事に、聞かなかった事にしよう」


「そうやって何も無かった事にしたいのは、やはり瀬川さんが魔法を使ったということは本当だからかい?」


「本当かどうかは証拠を揃えてから言うことね」


証拠を揃えてない瀬川を笑った俺が、証拠がない訳がない。厳密に言うと証拠を見つける方法だが…。



「簡単な事だ。もう一度短距離走をすればいい。そして瀬川さんが勝ったら魔法を使ってない事の証明だ」


「フフッ…」


さっきとは逆だ。瀬川が笑い、俺が何もわからないようにポカーンとしていた。


「短距離走をして私が勝てばいいのね、それでいいのならやってあげる! けど、あなたまさか忘れたの? さっきの持久走で足にケガしてるんじゃない? そんな状態で私に勝つつもりなの?」


「瀬川さんが勝つかどうかは瀬川さん次第だ。それに勘違いしてるようだけど、勝負するのは俺じゃない。

瀬川さんのタイムだよ」


「⁉︎」


笑いと余裕に満ちた笑顔から、瀬川は一気に余裕がない驚いた顔に変わった。


「短距離走をした時に俺たちはタイムを知らされてない。だが状況が状況だ。魔公のグラウンドで魔法を使っても魔力探知機が作動しないとなれば、教師達も動かざるを得ないだろう。教師と立ち会いのもとで、もう一度短距離走をしてもらう。瀬川さんが自分のタイムより早いか同じなら魔法を使用していない、遅いなら使用したとして判断する。さっそく鬼嶋先生を呼んでくるよ。」


「待って!」


俺が教師を呼ぼうと歩き出した瞬間、制服の袖を瀬川に掴まれた。彼女はこの状況でもまだ自分がやってないと言いたげに、こちらを睨んでくる。


「きょ、今日は試験三昧で疲れたし、同じく短距離走してもタイムが出ないと思うんだけど…。」


負けず嫌いなんだろうか?俺は自分なりに、これは彼女が降参と言っていると解釈することにした。


「そうか、それなら仕方ないな。俺のこの証明する方法も使えないとなると、今回の事は無かった事にするか。」


俺がそう言うと、彼女は袖から手を放し、少し落ち着いたように息を吐いた。彼女は安心したようだが、俺は不安が募った。何故ならさっき鬼嶋を呼びに行こうとした時に振り返った際に2人の人影を見た。おそらくまだいる。


そこに走って向かうと、体育館の角の影に隠れていた2人を発見した。


「やぁ早乙女くん。意外にも隅に置けないなぁ〜!」


「よぉ…早乙女。あまりにも遅いから来ちまったぜ。あははー」


からかう本田と、気まずそうに笑う長谷部の2人が仲良くしゃがんでいた。

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