奇襲開始(4)
テストも終わり、ようやく通常通りの学校生活が始まっていた。一般の生徒なら解放的になり遊んだり休んだりしてるだろうが、僕は違う。いつも通りに家に帰ると予習復習を行なっている。そして今日もそれは変わらない。
気がつくと約2時間ほど机に向かっていた。ひと通り気になるところは終わらせ、キリが良いから今日はこれくらいにしておこう。すると椅子から立った時に、珍しく携帯が鳴った。
この僕、柊辰馬は友達は少ない。というよりいないという表現が正しいかもしれない。携帯が鳴るのは親から電話があった時くらいだ。携帯を手に取り画面を見ると親ではなく、電話でもない。天野先輩からのメールだった。
慣れない手つきでメールを開いた。内容は「僕は捕まってしまった。助けて欲しい」と書かれていた。
もしかしたら天野先輩は危険な状況に置かれてるかもしれない。僕はもっと情報を引き出すためにメールを送った。本当は電話をかけたかったが、天野先輩はおそらく電話もできない状況だと思ったからだ。
その後も天野先輩の連絡を待ったが、メールが来ることはなかった。
…。
次の日の朝、学校でホームルームが終わると、すぐさま早乙女と瀬川を人通りの少ない廊下呼び出した。
「珍しいな、柊から声掛けてくるなんて…」
「そんな事より今は時間はない、事態は深刻かもしれないから聞いて欲しい」
早乙女の言うことを遮る様にして話を進めた。瀬川は何故かずっと不機嫌そうにしている。
「昨日の夜くらいに天野先輩からメールが届いた。内容はこうだ」
僕はメールの文章を画面に出し、2人に見せた。2人の表情が曇った。
「この後に先輩と連絡を取ろうとしてメールを送ったけど、返信はなかった。もしかしたら天野先輩は清水の連中に捕まっているんじゃないかと僕は思う」
「…」
早乙女はメールを見て何か考え込んでいた。瀬川も同じ事をしている様に見える。
「2人共、何を考えているんだ?」
「いえ、何故天野先輩は柊くんにメールを送ったのかなって…。普通なら天野先輩は親しい人に送ると思ったから。早乙女くんにメールが届いているなら納得いくんだけど」
「俺も瀬川さんと同じ事を考えていたよ。逆に天野会長と親しいのが柊だと思ったんじゃないか?メールを送った人は」
「って事はこのメールを送ったのは天野先輩本人じゃない?」
丁度1つの結論が出た所で、チャイムが鳴り始めた。周りの生徒達は急いで教室へ戻り始める。僕達も一度教室へ戻り、授業を受ける。話し合いはひとまず中断となった。
昼休みになると、今度は早乙女の方から話しかけてきた。そして彼の1歩後ろの位置で瀬川が立っている。
「柊、ちょっといいか?」
早乙女がそのまま教室から出て行く。僕も彼の後をついて行った。
階段を登り、着いた場所は屋上だった。心配な気持ちが吹き飛びそうな程に爽やかな風が吹いている。
「ちょっと人を呼んでいるんだ。少し待ってくれ」
早乙女はそう言って歩いて、落下防止のフェンスに突き当たり手をかけた。僕は瀬川と何も話すこともなく、ただ立って待っていようとしたが、彼女から何か視線が感じられた。
身体が小さい僕よりも、頭半分程背の高い彼女。長い髪はクセもなく真っ直ぐと伸び、制服すらもシワ無くピシッと決めている。もちろん姿勢も正しく、凛々しいという表現が合う人物である。
そんな彼女が僕のことを見つめている。友達がいないような僕だ、もちろん女性ともまともに話したことは少ない。けれども人並みに話すことはできるが、こうも見られては落ち着かない。
「な…何か?」
僕の声に気付いて、ふと我に返ったように瞬きをする彼女。
「あ、いえ…ちょっと考え事をして。柊くんの魔力量がなんであんなにも多いのかなって…」
「そうかい、それよりも僕は早乙女の方が不思議だよ。僕の魔力を前にしても、全く動じない。そのくせ魔力感知に関しては偉く敏感だ。一体どういう事だ?」
「確かに柊くんの言う通り、でも来月になれば彼が全て話してくれる。それまで待ちましょう」
「来月まで待つ…か、まるで佐奈田を守り切るのは出来て当然みたいな言い方だな」
ハハッと笑って冗談っぽく僕は言った。凛々しい彼女でも流石に佐奈田を守り切れる自信は無いだろう。揚げ足を取った僕の発言に対して、瀬川は今一度僕の方を見た。
「…もちろん、そのつもりで言ったんだけど」
怒ってはいない。ただただ彼女の強い意志が感じられる。当たり前のように言い放つ彼女の自信は何処から来るのか…?
「おっと、やっと来たみたいだ」
フェンス側にいる早乙女がそう言った。数秒遅れて瀬川も本当だと呟く。どうやら早乙女が呼んだ人物が来たみたいだ。その人物の魔力を感じて2人は言ってるみたいだが僕は彼らほど魔力感知に優れてはいない。目の前までその人物が来るまで気づけなかった。
ガチャリと音を立ててドアが開く。隙間から溢れんばかりの魔力が流れ込む。瀬川が身を縮めながら身震いする。
「早乙女〜!お前私がテスト明けで生徒会が忙しいと知って呼び出しているのか⁉︎」
屋上へ入って来るなり怒涛のように声を上げる彼女はこの学園の生徒会長、紅蓮穂花だ。校内でトップの成績を誇り、魔法も火と土の混合型のキメラで圧倒的な魔力量を持つ。瀬川と同じように凛とした態度はまさしく生徒会長と呼ぶに相応しい振る舞いだろう。
「生徒会長、とにかく落ち着いて下さい。その魔力に怯えてる生徒がいます」
「うっ⁉︎…す、すまん」
早乙女の言葉に従い生徒会長は魔力を抑えた。隣の瀬川も落ち着きを取り戻し深呼吸した。
「さて、では何用で私を呼び出したのか聞かせてもらおうか」
何故生徒会長と早乙女が親しげなのだろうか?理由もわからず話は進んでいった。
「では率直に聞きますね。天野会長と連絡を取りたいんですが、生徒会長は天野会長と連絡取れますか?」
「…⁉︎」
一瞬彼女の表情が曇った。早乙女はそれを見逃さない。彼の口元が僅かに上がった。
「本当は何か知っているんですか?」
「今日は天野は学校を休んでいる。それだけだ」
「そうですか…」
生徒会長は視線を早乙女から外し足元に向けた。すると早乙女はこちらに近付いて来る。丁度生徒会長の目の前まで来て、彼女の顔を覗き込んでいた。
「なんだ?」
不思議そうに生徒会長は早乙女にそう言った。早乙女は少し考え込んでから言った。
「会長、ちょっと目の下にクマがありますね…それに目も充血してるようですし。昨日なんかありました?」
「さっきも言ったが、私は生徒会の仕事で忙しいんだ。きっとそのせいだろう」
「そのせいもあるかもしれないですね…では別の質問をします。昨日天野会長と会っていましたね?会長から彼の魔力がかなり強く感じます」
「…あぁ、そうだな。君の言う通りだ」
生徒会長は観念したように、そう言った。
「何があったのか聞かせてくれますか?」
「いいだろう。2日前、私の元に塚原という警官が訪ねて来た。話の内容は天野がこの前の小鳥遊くん達を監禁した佐奈田という女性の身柄を匿っているという事だった。犯罪者を匿っているとして、天野の身柄を一度拘束したいとの事だった。私は昨日天野を呼び出し、佐奈田を匿っていると白状させ塚原に天野を引き渡した」
「…そういう事でしたか。話してくれてありがとうございます」
「私は天野が間違った事をしてるなら、一刻も早く正してやらないといけない、そう思ったんだ」
「それで自分は生徒会長の立場上どうしても正しい事を貫き通さなくちゃいけなくなり、天野会長を裏切ったみたいになって捕らわれて悲しくて泣いちゃったと…そういう事ですね?」
「なっ⁉︎これは生徒会の仕事が忙しいからと言っただろうがっ!」
生徒会長は赤面し、片腕で顔を隠す。ははーんと言って早乙女はニヤリと笑って生徒会長の顔を覗く。その後咳払いをして彼は続ける。
「まぁ冗談はこれくらいにして、生徒会長には伝えないといけない事があります。警察は天野会長の事を追っているはずはないんです」
「なんだと⁉︎」
早乙女を捕捉する形で僕も続けた。
「それは本当です。現に今は佐奈田を犯罪者として警察は見ていません。監禁されたとされる場所からは佐奈田の魔力は一切感知されておらず、証拠不十分となってます。原因は言わなくてもわかると思いますが、目の前の男が原因です。僕も最初は早乙女が佐奈田の魔力を消して証拠を消したとして誤解してました」
「まったく、あの時は何事かと思ったよな」
僕と早乙女は目を合わせて、フフッと笑う。横で一瞬瀬川が身を震わせた。あの時は本当に申し訳ないと思っている。心の中で彼女に謝った。
「つまりは、天野会長は普通の一般女性と病院に一緒に行っただけだ。警察の世話になることはない」
「…そうかぁ、良かった…!」
生徒会長は心から喜んでるようだった。あまりの安堵にしゃがみ込んで顔を埋めてしまう程だった。だがまだ問題が解決した訳ではない、まだ本題に入る手前である。そして彼女は質問をする。
「でも、それなら天野は今どこにいるんだ?」
「当然そうなりますよね、ちょっとこれを見て下さい」
早乙女が僕に携帯を貸すように言ってきた。言われた通りに携帯を渡し、それを受け取った早乙女は、例のメールを開いて生徒会長へ見せる。
「実は生徒会長に頼みたい事があります」




