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奇襲開始(2)

次の日の放課後。生徒会の仕事があらかた終了し、私1人生徒会室に残っていた。夕日が差し込みオレンジ色に染まる中、私がいる理由は仕事が残っているからではない。


「やぁ穂花ちゃん。久しぶりな気がするね」


生徒会室のドアが開き、入って来た彼がそう言った。私が今まで生徒会室に残っていたのは、この男に話があったからだ。


「そうだな、久しぶりなのかもしれないな」


「テスト期間中だったからね。そっちはどうだった?」


「私はいつも通りさ、生徒会長だからな。全く、いつ何時も気が抜けんよ」


「そうかい、僕もいつも通りかな。今回も平均点くらいの出来だと思う」


天野と毎回テストの話をすると、今みたいに言ってくる。彼は目立ちたくないが為に、わざと平均点くらいの点数しか取らない。真面目に取り組めば私よりも遥かに優秀だろう。


私はため息を1つ吐いて、話を続ける。



「ところで、テスト期間中は何か変わった事はあったか?」


「ん〜特に無いかな」


天野は私の問いに戸惑いも無く普通に答えた。彼は嘘をつくのも上手いから、例え何か変わった事があっても無くても同じ様に答えるだろう。


「そうか…ちょっと付き合え天野」


私は机に置いてあった鞄を抱え、生徒会室から出る。天野も私の後を静かに付いて来た。


玄関で靴を履き変え、校門を通る。昨日まで静かだった校内も、グラウンドから部活の掛け声やボールが飛ぶ音が聞こえる。それを横目に私はスタスタと歩き続けた。


10分程歩き、近くの公園に着いた。夕日もそろそろ沈み始めていた。入り口で、公園で遊んでいた子供達とすれ違う。賑やかな公園も、辺りは静かになっていき、外灯もチカチカと光り始めている。


私はそのままブランコに座った。天野も何も言わずに、隣のブランコに座る。お互いに何も言わず、ブランコが軋む音だけが公園内に鳴っている。


なかなか言いたい事を言い出せない私を気遣ってか、天野が先に話し始めた。



「らしくないね穂花ちゃん。いつも強気な君が僕に何を躊躇っているのかな?」


天野はブランコから立ち上がり、こちらに顔を向けた。私は思わず顔を背けてしまった。


「らしくないだと…これが本来の私の姿だよ。生徒会長という役に着いているから無理に気を張ってるだけだ。本当の私は弱い人間だよ」


「穂花ちゃんは弱い人間なんかじゃない。立派に生徒会長も務めてるし、勉強運動魔法も優秀な成績を収めてる。君は強くて誇れる人さ。だから遠慮なく言いたい事を言えばいいよ」


ギュッと私はブランコを強く握った。天野は私の背中を押してくれた。その結果、自分がどうなるか知ってか知らずか…いや、彼の事だ。大体の予想はついているだろう。


「天野…お前は佐奈田という女を匿っているな…?」


「それが君が僕に言いたかった事なのかい?」


「…昨日警察が私に訪ねて来た。天野が間違った事をしているなら、私は生徒会長として…見過ごすわけにはいかない。お前が取り返しがつかなくなる前に私は何とかしたいんだ!」


「なるほど、そうかい。確かに君の言う通りさ、僕は佐奈田という女性を匿っている。もちろん小鳥遊くん達を監禁していた人物と知ってのことさ」


「何故そんな事をするんだ⁉︎」


「悪いけど、いくら穂花ちゃんでも話すわけにはいかない。君を巻き込みたくはないんだ」


「…それなら仕方ない、私は生徒会長としてお前を止める事にする」


私は携帯で塚原にメールで連絡をした。塚原には事前に連絡を入れており、近くに待機してもらっている。10分と待たずに来るはずだ。


携帯をしまい、天野の方を見る。本当ならこんな事はしたくなかった。ずっと天野と変わらない日常を過ごしていたかった。


「うっ…」


気付くと、手の甲に頬を伝っていく涙が流れ落ちた。天野に見られないように涙を拭った。


「ごめんね、穂花ちゃん。どうやら辛い思いをさせていたみたいだね」


「こっちを見るなバカ!これはあれだ…目にゴミが入っただけだ」


天野は私に近付き、そっと頭に手が置かれた。そのまま優しく私の頭を撫でてくれた。


「君は生徒会長として立派に仕事をしているよ。生徒みんなの前で気を張って頑張っている。でも僕の前でくらい、別に強がらなくていいんだよ」


「ううっ、天野っ!」


私は天野の胸の中へ飛び込んだ。



「お前は大バカだ!私がこんなに辛い思いをすると知ってこんな事をしたのか⁉︎」


「…ごめん、ごめんね穂花ちゃん」


泣き噦る私の頭を天野はずっと優しく撫でてくれた。生徒会長という立場上、滅多に弱味を見せない私だが、今は悲しみと苛立ちが募り涙となって溢れて止まらなくなった。


このまま彼の腕の中で抱き締められたかったが、現実はそう上手くはいかない。近くで車が止まる音、そして人がこちらへ向かってくる足音が聞こえる。


「どうやらまだお取り込み中だったかな?」


私は涙を拭いて顔を上げて振り返る。目の前には塚原が立っていた。


「いえ、あなたを呼んだのは私ですから問題ありません。早くこのバカを連れて行って下さい…」


拭いても流れる涙を見られたくない。私は気付くと俯いていて塚原の顔を見て話せなかった。


「…そうか、なら早いとこそうさせてもらう。君が天野風馬だな?警察官の塚原という者だ。誘拐監禁犯の佐奈田を匿っている容疑で身柄を拘束されてもらう」


「…」


天野は何も言わなかった。何もせずにそのまま大人しく塚原に従っていた。塚原の車はパトカーではなく一般車のようだった。覆面パトカーというやつだろうか。


大人しく塚原の車に乗る天野。私は堪えられない涙を流して握る拳を震わせていた。すると塚原が声をかけてきた。


「どうやら俺が思ったより辛い事をさせたみたいだ、すまない」


「いえ、大丈夫です。それより彼のことよろしくお願いします…」


「まぁ彼の行い次第では早く戻る事も可能だ。それと、ご協力感謝する。ありがとうな」


塚原は礼を言うと車に乗り、そのまま走り去っていった。私はいつまでもその車の姿が見えなくなっても、ただただ立ち尽くしていた。


やがて辺りが暗くなり、街灯がつき始める。頭上が照らされ、ふと我に返ったように私は動き始めた。


そして気がつくと自宅の前まで来ていた。ここまでの帰路をどうやって歩いて来たか覚えていない。玄関を開けて家に入る。そのまま私は自分の部屋へ直行した。


親が、「おかえり、遅かったね」と言っていたようだが、私の耳には届いていなかった。ただただ私は自分のベットに横になり、枕に顔を埋めながら声を堪えながら泣いていた。

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