奇襲開始
5月も残りわずか。今日でテストも最終日である。魔公学園での学校生活も残すところ約1年。生徒会長という立場上テストの成績も上位でなくてはいけないと自分では思っている。
「テスト終了〜はい、後ろから集めて下さい」
チャイムが鳴るのと同時に先生が皆に言う。周りは終わった〜等と言って騒いでいる。
テストが終わったという事は、部活も再び始まる。生徒会の活動も同じで、また始まる。私にはテストの事を気にしている時間はない。
ホームルームが終わり放課後になると私は生徒会室へ直行する。生徒会のメンバーは誰もいない。
生徒会の活動は明日からだが、テスト前の休止中に溜まった書類の整理や、活動前の準備を行った。1人で黙々と作業をして気がつくと夕日が机を照らしていた。
「これぐらいにしておくか」
せっかくテストが終わり、やっと自由の身になれた自分。通常の生活に戻る前に、少しくらい楽をしてもバチは当たらないだろう。早めに切り上げて休む事にした。
生徒会室を片付け鍵を閉める。職員室で鍵を預け、玄関へ行き靴を履き替えて下校する。そしてちょうど校門前に差し掛かる所で、スーツ姿の男性がヌッと身を出してきた。
眼鏡をかけており、髪が整っていて服もシワがなく身なりがキチンとされている。いきなり出てきてびっくりした私。普段よりもついつい強めの魔力を出してしまったが、それに恐れる様子も無い。
「テストが終わったのに、帰らないで生徒会の仕事をしてたのかい?まさしく生徒会長の鏡だね、感心するよ」
その男は私に話しかけてきた。只者では無い気配を感じた私は、咄嗟に警戒する。
「あなたは一体誰ですか?」
「あぁ失礼、私はこういうものです」
男が胸ポケットから取り出したのは、警察手帳だった。2つ折りの中身を広げて見せてくれた。中には写真と警戒のエンブレムがあった。
「実は君に聞きたい事があってね、ちょっと付き合ってくれるかい?」
そう言うと男は軽快に歩き出す。どうやらテストが終わっても、まだ休めなさそうだ。
10分程歩くと、とある喫茶店に着いた。男は慣れたようにテーブル席に座る。店内は独特の雰囲気があり、暗いがそれは不自然では無かった。テーブル席は店内の奥の方にあり、カウンター席は入り口の近くにある。
他にも客は数名いたが、お世辞にも混んで繁盛してる様には見えない。
店内の様子を見て、目立たない様に私は極力魔力を抑えた。男と一緒にテーブル席に着くと店員が注文を取りに来る。
「いらっしゃいませ」
目の前に水を置きながら発せられた声は、全く覇気が無い。バイトの高校生ですら、もっと愛想良く接客するだろう。
「私はホットコーヒーだ。君は?」
「…私も同じのでいいです」
私達の注文に何の返事も無く、ただただ立ち去って行く店員。おそらく、もう2度とこの店には来ないだろう。不快な気持ちを落ち着かせようと、とりあえず置かれた水を飲む。
「早速だが話を進めよう、君もテストが終わって疲れているだろう」
「本当にそう思っているのなら、こんな時間まで待たずに明日に出直して来たら良かったんじゃないですか?」
「ハハッ、それだと君はますます帰る時間が遅いだろう?」
「いくら多忙な私でも、事前に言ってくれれば話をするくらいの時間は作れます。そうはしないって事は、つまり急を要する内容なんじゃないですか?」
「君の言う通りだ。そう、急を要する話だ」
テンポ良く話してた男が、一瞬間を置いた。そして目の前の水を飲むと、再び口を開いた。
「実は、天野風馬について話を聞きたい。学校ではよく話したりしているそうじゃないか。いいかな?」
目の前の男の口から、まさか天野の名前が出るとは思わなかった。彼については信頼しているし、罪に問われる事はしていないだろう。驚きはしたが、動揺はしなかった。
「何でしょうか?」
私は何事も無い様に、普通に振る舞う。男は質問を続けた。
「最近彼に変わった事は無いか?」
「無いですね」
「何でも些細な事でもいい。もし知っていたら教えて欲しい」
「無いと思いますけど」
普通に受け答えしながら考え、記憶を辿る。最近はテスト前という事もあり、生徒会や部活や委員会も休みとなっていて会う機会が少なくなっていた。それでも私が彼に異変を抱く事は特に無い。
「そうか…」
男は残念そうにそう言うと、胸ポケットから8つ折りくらいに小さくなったA4サイズの紙を取り出して広げた。
内容を見ると、魔力探知機魔力検知記録と書かれている。
「これはある日の街中の魔力探知機が記録した内容だ。魔力波長を読み取ると、この魔力は天野風馬に間違いない。記録によると彼はその後病院へ行き、一緒にもう1人の人間と行動を共にしていた。続いてこちらを見てくれ」
男は、また別の紙を広げる。同じ様に魔力探知機検知記録とある。
「こちらはある街で記録されたものだ。混合型キメラ並みの魔力が短時間の間に2回も記録されている」
私は見るとすぐさまピンときた。早乙女が小鳥遊を助けに行った時の記録だろう。言われなくても分かった。この魔力の持ち主は犯人の監禁者だ。
そしてその後の話の流れも予想できてしまった。平静を装っていたわけでは無いが、男が説明するより先に目の前の資料を手に取る。
「…そんな…バカな⁉︎」
「そうさ、天野風馬は1枚目の資料を見る限り、2枚目のバカでかい魔力を発した人物と共に行動している。魔力波長の一致率は100%だ。間違いないだろう。そしてそのバカでかい魔力の持ち主は、佐奈田千亜紀という女だ。この前小鳥遊という男子生徒を監禁していた人物だ」
天野が何故そんなことをするのだろうか?彼なりに何か理由があるのではないかと私は考えていた。
男はさらにもう1枚書類を出した。
「これは天野が佐奈田と病院へ行った後の記録だ。病院から出た天野は確認されたが佐奈田は確認できないでいる。そして今現在も全ての魔力探知機から佐奈田の魔力を感知できていない。考えられる事は2つ、佐奈田は殺されたか…」
「小鳥遊の妹と一緒の病室にいるって事ね」
「御名答、天野が何故そこまでして佐奈田の身を隠すのかが謎だ。それを君に探ってもらいたいのだが、引き受けてくれるかな?」
「…。」
簡単に引き受けると言えずに私は固まったままでいた。もし天野が悪事を行っていたら…今まで通りに彼と接していられなくなると思うと怖くなった。それならいっそ、この事を聞かなかった事にして今まで通りに過ごした方がいい…。
そんなことを考えていると、男は私の肩に手を置いて言った。
「君の気持ちは分かっているつもりだ。本当のことに向き合うのが怖いかもしれないが、天野が道を踏み間違えて、それを正せるのは君しかいないと思っている。それに今ならまだ間に合うかもしれない」
男の言う通りだ。このままじゃいけないと心の中では分かっている。危うく楽な方へ逃げるところだった。学園の生徒を指導し正さなくて、何が生徒会長だ!私は決心した。
「わかりました、引き受けましょう」
「ありがとう、助かるよ」
話が落ち着いたところで店員がホットコーヒーを運んで来た。何も言わずに置かれたマグカップを手に持ち、気持ちを落ち着かせ一口飲んだ。
「何…これ⁉︎」
男も同じくコーヒーを飲む。すると私の方を見て得意げに笑っていた。
「ふっふっふ、驚いたかい?」
日頃コーヒーを飲まない素人の私でもわかるほど、美味しいコーヒーだった。深みのあるコクと焙煎した香ばしい香りも良い。苦味も強過ぎずに飲みやすい。何よりもびっくりしたのが、店員の態度とのギャップである。
「ここの店主はコーヒーの美味さをこだわっている。ここいら一帯の中でも1番美味いんじゃないか?逆に接客の事はどうでもいいと思っているらしいぞ。それで離れていく客もいれば、俺のようにコアなファンもいる」
ついつい私は目の前のコーヒーを味わう事に夢中になってしまった。そして薄暗い店内はとても落ち着く静かな雰囲気に感じたり、店員の素っ気ない対応も先程よりは気にならなくなっていた。私もファンの1人になりつつあるのだろうか?
「ふぅ、ご馳走様でした」
「その様子だと、満足したみたいだな。良かった。そろそろ行くか」
男は伝票を手に取り颯爽とレジまで歩いて行った。機械のように店員が会計を済ませ、店内から出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「今日はありがとうございます。コーヒーをご馳走になってしまって…」
「いやいや、こちらこそ協力してくれるなんて助かるよ。お礼を言うのはこっちの方だ」
「ところで話が変わりますが、お名前を聞いてませんでしたね」
「ん?さっき手帳を見なかったか?俺は塚原って名前だよ」
「塚原さんですね、よろしくお願いします」
「おう、あとこれ俺の連絡先な。何かあったらここに電話くれ。じゃあまたな」
塚原は私に名刺を渡して、夜道を歩いて行った。私も同じく家に向かう。
「さて、どうしたものか…」
名刺を見つめながら、私は考え続けた。




