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ロスト

情報屋と会ってから数日後。珍しく向こうから連絡があった。


この前会ったばかりだというのに、しかも彼女の方から連絡が来るなんて初めてのことだ。内容は話があると、ただそれだけ。きっと何かがあったに違いない。


夜になると、いつもの店に足を運んだ。いつもよりも歩くスピードが上がっていたのだろうか?それとも何か嫌な予感がするからだろうか?店のドアの取っ手を握った時に、自分の動悸を感じた。一呼吸置いて店内に入る。


中の様子はいつもと一緒で変わらない。その光景を見て少し安堵した。けれどもいつもと違うのが1つ。奥に座っている彼女、情報屋の様子がおかしい。


ぱっと見では誰もわからないだろうが、俺だからわかる。彼女とやり取りを繰り返してきた俺ならば。口元が僅かに歪んでいる。


店のマスターにカクテルを注文して、彼女の目の前に座った。いつもなら嫌味の1つでも出てくるのに、今日は雰囲気が違う。2人で頼んだカクテルが来るまで黙って待っていた。



やがてマスターが注文したカクテルを持って来る。そして無愛想なマスターがカウンターに戻ったのを確認して、俺は話を始めた。


「あんたから連絡してくるなんて珍しいな」


目の前のカクテルを1口飲む。彼女も同じように水を飲んで、一呼吸した。



「実は清水様には、お願いがあって呼ばせて頂きました」


彼女の話の流れは大体予想がついた。


「どうか、今回は佐奈田さんを諦めてはもらえないかと思いまして…」


「やっぱりな、この前も話したが佐奈田を諦める事は絶対にできない。なんとしてでも奴を取り戻す。生死は問わない」


「そう言われると思いました。ですが、実は…」


「どうした⁉︎何があった?早く話せ!」


「はっ…はい!実は、佐奈田さんを見失ってしまいました…」


「なんだと⁉︎」


思わずテーブルに拳を叩きつけ破壊し、彼女の胸倉を掴み寄せ問いただすところだった。気持ちを落ち着かせ、話を続ける。


「どういう事か説明して貰おう」


「はい、佐奈田さんがいる柊邸ですが、近くの魔力探知機をハッキングし、佐奈田さんの魔力を感知してるか毎日確認してました。ですが2日前から彼女の魔力を感知できていないのです。死亡してる可能性もありますが、逃げた可能性が高いと思います」


「なるほど…で今はどういう風になっている?」


「佐奈田さんの行方を調査中です。ですが範囲を広げて魔力探知機をハッキングしましたが、全く見つかりません」


「…そうか」



魔力探知機に魔力が感知されない。何かどこかで聞いたような気がした。


佐奈田の事を少し思い返した。


「ん、待てよ…もしかしたら…」


俺の中で考えが浮かんでくる。この前の事件の詳細を佐奈田に聞いた時に、魔法と魔力を消されたと言っていた。警察の家に世話になるくらいだ、その魔法と魔力を消す生徒の世話になったっておかしくない。


「なぁ、魔法や魔力を消せる男子生徒を知ってるか?きっとそいつが佐奈田の行方を知っている」


「魔法や魔力を消す⁉︎…そんなの聞いたことありません」


「そうか…」


「もし、その情報が本当で詳細もわかれば購入させて下さい!」


「なんでも、混合型キメラの2人分の魔法と魔力を消し去ったらしい。そしてその場には僅かな魔力すらも残さない程までにな。俺が知ってるのはそれぐらいだ」


もっと佐奈田から魔法を消す生徒のことを聞いとけば良かったかもな。俺はちょっとだけ後悔した。


「混合型キメラの2人分…今の技術でも魔法を消せるのは普通の1人分の魔法を消すのが精一杯ですが、しかも魔力も消せるとなると、とても信じられない話ですね」


「俺も正直なところ、信用していない。佐奈田が俺にした話なんだがな、どうも嘘っぽい。けれども今のこの現状から考えて、佐奈田が死んでないのなら、その魔法を消す生徒の手によって魔力探知機から流れてるのではないかと思ってしまう」


「なるほど…。清水様、私にもう少し時間を与えては頂けないでしょうか?必ず佐奈田さんの居場所を見つけ出します」


「何か当てがあるのか?」


「はい、1日2日あれば調べられると思います」


「わかった、では2日後にまたここに来る。その時までに調べといてくれ」



俺は立ち上がり、店のカウンターに代金を置いて店を出た。マスターは相変わらずに無口のままグラスを磨いていた。




…。




2日後、同じく店に入った。慣れた1連の用事を済ませて、情報屋の彼女の前に座る。


前回同様、彼女の様子がおかしい。それも悪化している。



「どうした?また佐奈田は諦めろって言うつもりなのか?」


「…えぇ、そうして頂くのが良い判断だと思いますが、清水様はそうされないでしょうから、今さらまた言いませんよ。それよりも、佐奈田さんが誘拐した人物の小鳥遊賢さんと雛形奏さんの通う魔公学園に例の生徒がいると思うのですが、佐奈田さんが魔法を消される前に、雛形さんが学校で天野風馬さんと紅蓮穂花さんに接触しているみたいです」


「紅蓮は俺でも知っている。火と土の属性を持つキメラだろ?もう1人の天野ってのは知らないな」


「正直に言いますと、清水様の実力なら紅蓮さんが相手でも問題ないでしょう。ですが天野さんが相手では話が違います」


「その天野とやらは…まぁいい、続きを話せ」


「はい、実はこの前佐奈田さんが柊邸で魔力反応が消えた後に再び魔力反応が感知された場所があったのです。それは街中でして、近くに天野さんの魔力反応も確認できました。そして2人はそのまま病院へ入って行きました」


「なるほど…だが、さっきの前半の話は何の意味があるんだ?する必要があったか?」


「実は佐奈田さんが魔法や魔力を消された時間に、学校内で雛形さんと会ったのを最後に天野さんの魔力反応も消えているのです。つまり、魔法を消せる生徒というのは天野さんの可能性が高いです」


「…なるほどな」


天野という生徒を警戒する彼女の様子から見ても、天野がこんな非常識で不可能な事をやってのけたとしても合点がいく。


「さらに、佐奈田さんは小鳥遊さんの妹を助けるという話を利用して小鳥遊さんと雛形さんを誘拐しました。小鳥遊さんの妹は魔法制御不能症により現在は魔力が完全に隔離される特殊な部屋に入院されているようです。病院へ向かった2人は、おそらく小鳥遊さんの妹さんの病院へ向かったのでしょう。そして佐奈田さんはそのまま小鳥遊さんの妹と同じ部屋へ入った。現在も佐奈田さんの魔力を感知できないのも、その為です」


「ついに場所を突き止めたな。よくやった」


「こちらも魔法を消せる生徒の話など聞いた事が無かったので、貴重な情報が貰えて感謝してます。ですが、問題はまだ残ります。相手が天野さんという事です」


「それはこちらで考える。何とかしてみせるさ」


「そうですか…」



俺は店を後にした。ようやく佐奈田を見つけ出した喜びに浮かれ過ぎないように、取り敢えず深呼吸する。


そして歩き出しながら、電話をかける。



「もしもし、俺だ。久しぶりだな…君にしか出来ない仕事ができた。やってくれるか?」



俺は計画を練りながら、準備を進め始めた。

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