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現状からの脱却、そして…

魔公学園屋上。太陽が真上から光を照らすも、学ランを脱いでシャツ姿で昼飯を食べるには、まだ少し肌寒い。そして既に期末テストまで1週間を切った。


「奏、勉強してるか?」


「うーんと…してない…」


軽く笑いながら答える彼女。正直俺は勉強が得意だが教えるのは好きではない。彼女にも勉強を手伝ってやりたいが、気持ちが乗らない。


というよりも、この前の一件以来、勉強も部活も以前より打ち込まなくなっていた。



佐奈田という女に彼女を誘拐され、さらには自分も誘拐され、最も見下していた奴に助けられる。自分が今までどんな気持ちで校内で過ごしてきたんだろう…。そんなことを考えるようになった。



「そういえばさ、賢くんって変わったよね」


「ん?どこがだ?」


「なんか、人をバカにしなくなった。いい事だと思うよ」


彼女がこう言うのも、俺が日頃考える事が多くなったからかもしれない。少なくとも、早乙女には助けてもらった恩があるし、俺はまだ彼が妹の水奈を助けれるキーマンだと信じてる。


「人のことをバカにしても、実は自分の方が劣ってるって事があったからな…」


「まぁ、賢くんは魔法も勉強もできるから、魔法が苦手な人のことが気に入らないなら、勉強が苦手な私はどーなの?って話になるしね!」


「それはちょっと違う、俺は魔法が苦手な人が嫌いで、勉強が苦手な奴は嫌いじゃない。それに、奏のことは魔法が苦手だったとしても…俺は…嫌いになんか…ならない……ぞ…」


段々と声が細くなる俺の言葉に、奏は「えっ⁉︎」っと言って聞き返す。俺は何でもない!と言って顔を背けた。


だが後ろから奏が近付き腕を回して抱きしめてきた。男とは違う女性特有の柔らかい体の感触と、甘い良い香りがフワッと漂う。



「私は好きだよ、賢くんのことが。例えどんな苦手なことがあったとしても」


耳元で奏は囁くようにそう言った。同時に彼女の吐息も耳に当たり、自分の中から衝動が増していく。


「えっ!…きゃぁっ!」


振り返って彼女の肩を掴んだ。そして募っていく衝動に身を任せて、壁際まで押し込んで行く。


「えっいやちょっと待って!ここ学校だから…っ!」


彼女に顔を近づけ、あと少しの所だった。奏が俺の背後に人がいることに気付いた。誰だ!と声をあげる彼女と同時に、俺も後ろを振り向く。


目に入ってきたのは、屋上の入り口の扉。そしてその奥に人影が見える。その人影の主は逃げることなく、扉を開けて屋上へ入ってきた。


「いや〜ごめんごめん、声をかけようと思ったんだけど、かけにくい雰囲気だったからさ〜」


ヘラヘラと笑いながら入ってきたのは、魔法研究同好会の会長だ。


奏の話では、この前の監禁事件で、奏が解放されてから気を失って目覚めるまで、この男と生徒会長に面倒を見てもらっていたらしい。


「先日はどうも…奏が世話になりました…」


とりあえず礼を言っておいた。


「僕も君に礼を言おうと思っていてね。魔法研究同好会にも魔法館を使えるよう魔法研究部の部長に掛け合ってくれたみたいだね。まぁ結果は変わらなかったけど」


「…。」


「…あぁごめんごめん、別に責めてるつもりじゃないんだ。君だって魔法研究部としての立場がある。気にしなくていいよ」


「…すいません」


天野は、そのまま真っ直ぐ歩き屋上の端まで移動した。そしてフェンスの間から校内、グラウンドを見下ろす。



「実は君たちに言おうと思ってたんだけどね…この前早乙女くんが僕に散々と魔法制御不能症の事を聞いてきたよ。よっぽど気になっているみたいだよ」


「えっ⁉︎先輩なんで知ってるんですか…?」


何故天野が俺の妹のことを知ってるのだろうか?疑問に思ってると、奏が思い出したように言った。


「もしかして…あの時…」


「そう!君が早乙女くんに助けを求めてた時さ。僕も近くにいて聞こえてたんだよね。その時は彼女も必死だったし周りも見えてなかっただろうしね、許してあげなよ」



奏に目を合わせると、申し訳なさそうにチラッと逸らされた。彼女の反応とは逆に俺はそんなには怒ってないのだが…。


「まぁいいですけど…ところで先輩、本当は何の用事があって来たんですか?俺の妹の話題を出したくらいだから、大層大事な用事って事ですよね?」


「流石小鳥遊くんだ、この後話す事もこれぐらい飲み込みが早いと助かるんだけどねぇ〜」


「どういうことですか?」


天野は相変わらずマイペースでゆったりした様子だ。胸ポケットから扇子を取り出し、手の平をパチパチと叩いている。



「妹さんを助ける為に協力してくれないかな〜と思ってね。どう?」


「…何を言ってるんですか?」


「まぁそうなるよね〜」


妹の水奈を助ける為に協力なんて…本当なら俺から頼むのが筋ってもんだ。普通は逆だろう。それに、魔法研究部の下位の同好会の人が…まぁ会長だとしても、水奈を救える力があるとは思えない。


増してや、この男から感じられる魔力は人と比べて少ない。奏や俺の方が魔力量は格段に上である。


正直に思うところ、この男が水奈に対して力になれそうな事は無いと思う。とは言えないが…あくまでも相手は先輩で奏の恩人だ。



「説明してくれませんか?」


「わかった、できるところまで説明しよう。うちの同好会の早乙女くんがね、水奈ちゃんを助けたがっているのさ。いや、直接『助けたい』とは言ってないけど、彼の行動を見てれば分かる。そこで僕に考えがある」


「ちょっと待って下さい…自分が何を言っているのか分かってますか?」



キョトンと首を傾げる天野。イマイチピンと来てない様子だ。俺も気持ちを完全には抑えきれずにいた。



「魔法研究同好会の会長が水奈の病気を治す考えがある?魔法研究部にすら入れなくて、俺や奏よりも魔力が弱々しい先輩に協力なんてしたところで、結果なんて見えてますよ。そんなことに時間を割くくらいなら自分で魔法制御不能症の事を調べた方が良いと思いますけどね」


「…まぁやっぱりそう思っちゃうよね…」


「先輩は俺がこう思うと分かっているのに、この話をしたんですか⁉︎」


「最初に言ったつもりだけど?この後話す事もこれぐらい飲み込みが早いと助かるんだけどねぇって。まぁ君の妹を本当に助けれるかどうかは今のところわからない。けども行動する前にできないと決め付けて何もしないのはどうかと思うけどね」


「…少し考えてもいいでしょうか?」


「それはもちろん、僕の方こそいきなりごめんね。では気が向いたら同好会室にでも来てよ」


天野は後ろを向いて、手を振りながら屋上のドアを開けて戻って行った。


危うく言うところだった。俺の妹を助けれるのは早乙女かもしれないと。


「賢くん、どうしたの?」


「いや、何でもない。それより天野先輩に協力か…」


彼女の奏にも、もちろん早乙女の事は話していない。約束はきちんと守っている。



「もう少しで昼休みも終わるな、教室へ戻ろう」



…。



放課後になった。


夕日でオレンジ色に染まる校内。俺はいつもなら魔法館で部活をしてる時間に廊下を歩いている。そして魔法研究同好会の会室前で足を止める。


ガチャっと扉を開くと、そこに立っていたのは天野だった。外の景色を見ながら扇子で顔を扇いでいる。


「やぁ、よく来たね」


夕日で逆光になっている為、彼の表情は良く見えない。けれども声を聞く限り、きっと笑顔に違いない。


「なんか嬉しそうですね」


「君が来るのを待っていたからね。来なかったら僕が待っていたのは無駄でしょ?」


天野は湯を沸かし、茶を淹れる。その間に室内を見渡す。


漫画や小説の本棚があり、隅にはオセロや将棋盤などのボードゲーム類が置いてある。魔法関連の物は全くと言っていいほど無く、ここで何の活動をしているのか、逆に聞きたく無い。


中央にあるテーブルと3つの椅子。天野が淹れた茶をテーブルに置き椅子に座る。俺も向かい合うように座って茶を飲む。


「どうだい?学校でお茶を飲むなんて、初めてでしょ?」


「ええ…まぁそうですね」


いつもならこの時間は部活で校内は所々で騒がしい。けど今はテスト1週間前ということで、全部活が休みになっている。静かさも相俟って、ゆったりとした時間が過ぎていく。


「さて…では話をしようか。あまりにもゆっくりしてたら夜になっちゃうしね」


「…俺がここに来たってことは、どういう意味かもう分かってますよね?そしてこの会室に俺を呼んだって事は、奏に聞かれたくない話があるって事ですよね?わざと妹の話をして、俺の口から早乙女の事を言わせようとした。俺が彼女の奏に早乙女の秘密を話す様な奴かどうか…信用できるかどうか見ていたんですよね?」


天野は茶を飲み干した。空になった湯呑みを流しに下げる。


「君は本当に話が早くて助かるよ。単刀直入に言おう。僕のことを信用して欲しい」


一瞬、天野の雰囲気が変わった気がした。



「信用…ですか…?」


「これから話す話は君にとって、とても受け入れ難い話だ。それを聞いて大人しく従ってくれるとは思えないからね。だからまず僕を信用して欲しい。それと、必ず君の妹のことは僕が守ろう」




「…⁉︎」



突如、天野から多大な魔力が溢れ出してきた。通常の倍…いや3倍近くの魔力量だ。それに水と風の両方の属性の魔力だ。


屋上での天野は弱々しい魔力しか感じなかった。彼はそれ程までに自分の魔力を自由に使いこなせてるという事なのか?


「どうだろう?説明するより早いと思ってね」


「あなたは何故、魔法研究同好会なんてやってるんですか…?」


目の前に立っている彼は、間違いなくこの学園の頂点に立つ存在だと感じた。


キメラであり、圧倒的な魔力量。それに加え、その魔力の量を感じさせないように自在にコントロールできること。俺の所属する魔力研究部部長や、膨大な魔力を有している生徒会長よりも腕は上の筈だ。


そんな彼が何故?こんなところにいるのだろうか?俺は思わず口にしていた。



「君からその質問が出たってことは、僕の力を信用したということでいいんだよね?では先に話を始めよう」


「…えっ、は…はい」



天野は話を進める。けれども、天野は俺の質問に答えることはなかった。


というよりも、俺は質問の答えを聞く様な精神状態になってなかった。



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