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情報屋

港街のとある飲み屋。カウンターに5人座れるくらいの長さと、後ろには4人くらい座れるテーブル席が2つ。


薄暗い店の雰囲気と、長年通い続けても馴れ馴れしく接さないマスターが良く、この店を使い続けている。


今日も店に入ると、いつもの雰囲気だ。客層は良いとは言えない。チンピラの様な若者2人とホームレスみたいな老人1人がカウンターに座っている。奥のテーブル席には女性が1人、フード付きのコートを被って座っている。



「マスター、いつものやつを頼む」


そう言うと店主は軽く頷いて、手際良くカクテルを作り始めた。俺はそのまま奥のテーブル席へ、フードを被っている女の前に座った。


店の照明のせいもあるが、彼女の顔は良く見えないし、見た事もない。いつも口元しか見せない。


「相変わらずの格好だな」


店主が作り終えたカクテルをテーブルへ置いた。


「そちらこそ、相変わらずそのお酒が好きな様で…」


ふん、と言って俺は置かれたカクテルを口へ運ぶ。俺はこの女と話をしに来ただけだ。正直飲む酒はなんだっていい。安ければ。



「早速だが本題に入りたい。佐奈田を見つけたと言うのは本当か?」


「本当です、清水様」


先日、俺の部下の佐奈田が失敗をした。彼女はミスが少なく組織内での評価も高かったのだが、今回は金も取れなかっただけでなく、自ら商品の魔薬を2度も使い、魔法を使用して気絶し魔力探知機にもしっかりと記録を残すというお粗末っぷりだ。


さすがにここまでの失態をタダで許せはしない。3000万の金を用意しろと言ったが、佐奈田とは連絡もろくに取れず行方不明。


すると、今目の前に座ってる彼女が佐奈田の行方を掴めたと聞き、今に至る。



「そうか、因みにまだ生きてるんだろうな?」


「はい、彼女は元気に生きております」


「それで、佐奈田は今どこにいるんだ?」


「柊邸です」


「なんだと?柊って…あの柊か」


俺ら組織の事を追っている柊という刑事がいる。奴は主に佐奈田に目を付けていたみたいだが、証拠も行方も掴めずに苦労していたらしいが…まさかあの柊の家にいるというのか⁉︎


「だとしたら、もう佐奈田は警察の手中の中か。失敗の後始末を俺らを売って仇で返すとは…」


「ですが、警察は証拠不十分で彼女を捕まえてはいないようです。逮捕や取り調べは行われておらず、あくまでも佐奈田さんは柊邸にいるだけみたいです」


「いい待遇をされて、その上で俺らの情報を流してるわけか…ますます気に入らないな。だが逮捕や取り調べを受けてないなら、佐奈田を連れ出せる可能性はまだ残ってる」



「その事ですが清水様、今回は佐奈田さんを諦めた方がいい判断だと思います」


「なんだと⁉︎」


佐奈田といい、この女といい…俺のことをバカにしているのだろうか!思わず気持ちが昂り手を出しそうになったが、なんとか抑える。



「佐奈田さんを連れ出すということは、柊邸に侵入するという事です。今回はあちら方に戦闘のプロがいる為、相手が悪いです」


「戦闘のプロだと?俺がそいつに負けると思っているのか⁉︎」


「清水様とは決して短い付き合いではございません。もちろん清水様の実力は十分理解しているつもりです。それに私は清水様を過小評価してないですし、相手のことを過大評価もしてません。私が見ているのは真実のみです」


彼女とは、言う通り短い付き合いではない。何度もこうして会って情報を貰い取り引きしている。そんな彼女がこう言ってきたのは初めてだ。


「あんたにそこまで言わせるとは…相手のその戦闘のプロとやらは何て奴だ?」


「私が情報を提示できるのは佐奈田さんの現在地のみです。これ以上の事を聞きたいなら、情報の購入という事でよろしいですか?」


「ちなみにいくらだ?」


「3000万円です」


「ったく、ケチくさいな。長い付き合いだろ?教えてくれてもいいんじゃないか?」


「こうやって忠告しただけでも太っ腹と思って欲しいものですが…。それにあなたは私にとって上客です、佐奈田さんを追うあまり失敗して欲しくはありません」


「それならお互いの為にも教えてくれていいんじゃないか?」


「いえ、違います。私が教えたら、あなたは必ず佐奈田さんを追うでしょう。そして失敗します」


「そうか…でも俺が佐奈田を諦める様では組織のトップとしての面子が立たない。もちろんあんたの上客として今後取り引きもできないかもしれん」


「そうですか…」


彼女は残念そうにそう言うと、テーブルに置いてある水が入ったグラスを口に運ぶ。俺も目の前の酒を一気に飲み干した。


「じゃた、またな」


自分が飲んだ分の酒の料金を置いて店を後にした。帰る時ですら、マスターは礼も言わずグラスをただただ磨いていた。


今日はやけに腹が立った。店のマスターはともかく、情報屋の彼女が俺のことを馬鹿にしてるのかどうなのかわからないが、あんなことを言われたのは初めてだ。


「クソッ!」


道端に落ちていた空き缶を蹴り上げた。すると10メートル程飛んで、前を歩いている男の頭の上に当たって落ちた。


「痛っ!誰だ⁉︎」


振り向いた男はスキンヘッドで、体格の良い体をしている。俺より一回りは大きいだろう。見るからにして普通の一般人ではない。俺と同じく裏の世界で生きている人間だろう。


「すまん、俺だ。しかしラッキーだったな。今日の俺は機嫌が非常に悪いのに、当たったのが空き缶で運がいいよ君は」


「あぁ⁉︎何言ってんだお前は?ケンカ売ってんのか?」


男はズカズカと歩いてこちらに近付いてきた。人通りが少なく街灯も少ないこの場所でも、男は怒り顔が真っ赤になっているのがわかった。



「クックック…お前はどうやら運が悪かったようだな。俺に空き缶をぶつけるなんてよ」


「…あぁ、あんたの言う通り今日は最悪だよ」


男の後ろから、数人さらに男達が歩いてきた。薄暗くて見えにくかったが、どうやら1人じゃなかったようだ。


「お前達、やれ」


スキンヘッドがそう言うと、男達が俺に襲い掛かる。溜め息を吐きながら、そいつらの相手をした。



………。




「なんなんだ…なんなんだよお前は⁉︎」


俺の前には、襲って来た男達が倒れていた。その様子を見てスキンヘッドがそう言った。


ただ単に拳を振るう者や、考え無しに魔法を放ってくる者。俺から見れば躱して倒す事など造作もない事だ。例え数人…いや十数人いても問題ない。今よりも危険な修羅場をどれ程くぐってきたことか…。



「フフフ…まぁいい、俺にはこれがあるからな!」


スキンヘッドが何かを取り出した。薄暗くてもわかる。黒光りしているそれは、間違い無く銃だ。


銃口を俺に向けて、引き金を指に掛けている。だが僅かに銃は震えていた。恐らくこいつには俺は撃てないだろう。


「ほら…早く謝れ!撃たれたくなければな!土下座して謝るんだ!」


「お前は何か勘違いしているようだな。撃つ気がないのに銃で脅したって無駄だろう」


「なんだと⁉︎」


俺は胸ポケットから煙草を取り出した。ライターで火をつけて一息つく。


「どうした?撃ってみろ?」


「クソがぁ!馬鹿にしやがって!」


スキンヘッドは引き金を引いた。しかし銃口の向きは完全に俺から外れていた。銃弾は俺から横1メートルくらい離れた所を飛んでいった。


「ハハハ…次は当てるからな…」




「残念ながら次は無い」



スキンヘッドが何⁉︎っと驚くと、銃弾が戻ってきたかのようにスキンヘッドの左足を貫いた。


悲鳴をあげながら、左足を抑えて地面に転がった。俺は近付いて、貫かれた左足を踏んだ。そして体重を掛けて、ぐりぐりと足を動かし、捻るように踏み込む。



「だから言ったのに、当たったのが空き缶で良かったなって…どうやらお前も俺と同じく運がなかったようだ」


「ぐあっ!止めろ!止めてくれ…」


「あぁ⁉︎」


踏み込んだ足に更に体重を掛けた。


「イタタタッ!止めてください!すいませんでした!」


スキンヘッドから銃を奪い取り、胸ポケットへしまう。


「こんな物騒な物はお預けだな。俺が貰っておこう。あと持ち金全部出すんだ」


恐怖と痛みで震えながら、スキンヘッドは財布を取り出し俺に渡した。中身は1,000円札が5枚と小銭が少しあるだけだった。


本当なら彼を持ち帰り、金になるならなるだけのことをしたかったが、あいにく今日は1人だ。これで良しとするか。


「今日はこれで勘弁してやる。けど2度と俺の前に現れるな…とは言わん。何度現れたって結構、闇討ちでもなんでもするがいい。だがその代わり俺もどんな手を使おうが、何されようがお互い文句無しだ。来るならそういう覚悟で来いよ」



懐も少し温まったし、飲み直すことにしよう。俺は再び港町へ足を運んだ。

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