それぞれの問題解決
「え〜であるからして…」
教室内に教師か黒板にチョークで文字を書く音が響き渡る。窓から木漏れ日が差し込み、気持ちの良い環境の中、俺は授業に集中できずにいた。
先日、俺が入部?入会している魔法研究同好会会長から魔法制御不能症について教えてもらった。わかった事は次の通りだ。
・魔法制御不能症は完治できない病気ではない。
・患者が火の魔法属性だと完治が難しい。
・患者が魔力切れの時は魔法は発動しない。寝ている時など意識が無い時も同じ。
つまりは、俺の魔法で小鳥遊の妹の魔力を断続的に消し続ければ魔法は発動しない。そして魔力の回復量は、その者の魔力量に比例するため、俺が魔力切れになる事もない。だが俺が小鳥遊の妹と四六時中一緒にいるのは無理である。
そして魔法制御不能症の治し方は、自分で魔法を制御できるよう訓練するしかないみたいだ。水や土や風属性の人は魔法が発動しても、本人にそれ程害は無い。でも火属性の場合は本人が火傷を負ったりとリスクが高く、それが完治が難しい理由となっている。
おそらく小鳥遊は、この事は俺の魔法の事以外全部知っているだろう。今更彼に説明する気も無いが…。それよりもまずは、今月末のテストを乗り切らないとな。小鳥遊のせいで授業に全く集中できない。
気がつくと授業は終わり、休憩時間になった。休憩と言っても次は魔法館での魔法実技の授業なので移動で時間は潰れてしまう。
10分という短い時間はあっという間に過ぎ、魔法館での授業が始まる。俺は最早言われる事なく魔法館の隅に移動し見学する。
そして教師の指導の下、生徒達は立ち並び魔力を操り魔法を放つ。
瀬川の魔法は、土属性。魔力量自体はそれ程多くは無いが、魔力の扱いに秀でて魔法発動までの驚異的なスピードと余分な魔力波が少なく効率の良い魔法を扱う。
長谷部の魔法は、火属性。魔力量は人並みよりは多く、魔力の扱いにも長けている。瀬川程の発動スピードは無いが、彼女よりも魔法自体は強力である。
本田の魔法は、風属性。魔力の扱いや量も特に秀でたものは無く、至って普通。ただ彼女の魔法はいつも同じように発動し、バランスが取れている。
そして忘れていけないのが、未だに謎が多いこの男。柊辰馬だ。
彼の魔法は水属性。水で幾何学的な模様を展開するのを得意とし、その魔法を見る度にクラスメイト達は声を上げる。過去に魔法館を埋め尽くすほどの魔法と圧倒的な魔力でクラス全員を恐怖に陥れたが、発動後も魔力を彼から感じられた為、相当な魔力量を持つと思われる。
「…待てよ…もしかしたら…」
俺は柊を見て、ふと思いついた。今のこの状況、今月末のテストを乗り切るのは厳しい。ならばいっそこの学校で1番頭の良い柊と勉強すればいいのではなかろうか?
だが、俺と柊は特に仲が良いわけでは無い。柊が了承してくれるかどうかが問題だ。それでもダメもとで聞いてみることにしよう。
授業が終わり、昼休みのいつもの食堂で、いつもの面子の前で俺はこの事を話した。
「そんなの1人で勝手に行けばいいじゃないの…」
「なるほど!それはいいアイディアだね!」
「てか早乙女お前勉強は大丈夫なんじゃないのか?…それとも、さては昨日やっぱり何かあったな…」
せっかく勉強が出来ずに困ってたから誘ってみたものの、突っぱねる瀬川と、乗り気な本田。そして俺が柊と勉強するのが不思議そうに思ってる長谷部。
だがそう言ってられるのも今のうちだ。俺の目の前の連中はなんと言おうが魔法で有名なこの学校の生徒。
「もしかしたら、勉強以外にも魔法についても何か教えてもられるかもな…」
俺のこの言葉にピクリと反応し、マイペースで食べ物を口に運んでいた箸を止める瀬川。キラキラと目を光らせていた本田は、さらに輝きを増し、長谷部は先程と変わらないように見えるが、何か考えているのか、ソワソワしている。
「ま、まぁあなたがそこまで言うのなら、一緒に行ってあげてもいいけど…」
そう言って瀬川は止めていた箸を動かし始めた。
「よーし!じゃあ放課後に柊くんを誘ってみるよ!」
逆に本田はやる気満々のようだ。言い出しっぺの俺がやるべく柊に話す事を進んで引き受けてくれた。
「なぁ早乙女、やっぱり小鳥遊の奴が原因なのか…?何かすまんな」
俺が勉強が進まないのは確かに小鳥遊のせいではある。そして昨日俺と小鳥遊を引き合わせたのは長谷部だ。少しは責任を感じてくれてるようだが、俺は全く不満には思ってない。
「いや大丈夫だ、気にしないでくれ。それよりも柊はちゃんと引き受けてくれるだろうか?自分でここまで言っときながら、そこだけが今のところ不安だ」
この話を受ける限り、柊に利点は無い。特に仲が良いわけでも無いクラスメイトと勉強をすることを快くOKするとは思えなかった。
「大丈夫大丈夫〜!いざとなったら、私がなんとか説得させるから。心配しないで待っていて」
とりあえず本田の根拠のない謎のポジティブに任して、放課後に待つ事にした。
…
今日の授業が全て終了し、ホームルームも終わる。チャイムが鳴ると同時に生徒達はそれぞれ帰宅や部活、委員会などの活動へと向かう。俺も本来なら同好会に向かわないといけないが、今日は長谷部と瀬川と教室の後ろで本田と柊を見守っていた。
「別にこうして待ってなくてもいいんじゃないの?帰って明日結果聞けばいいと思うし…」
瀬川がポツリと言った。確かに正論だと思う。
「けど、本田さんがこうやって頑張っているのに、任せて帰るのはちょっと酷くないか…」
「あ!おい!2人ともこっち来るぞ」
意外にも話は早く済んだようだ。本田と柊が歩いてきた。
「え〜っと、OK頂きました」
ガッツポーズを決める本田。隣の柊は相変わらずの長い前髪で眼鏡が隠れそうな程だった。
「君達に勉強を教えるのは別に構わないよ…それに、君にも興味はあったしね」
ちらっと視線を俺に合わせた柊。学年トップに匹敵する彼が俺に興味を持つなど、聞き間違いだろうか?俺は特に気にせずに、とりあえず柊に礼を言った。他の3人も続くように礼を言う。
「ところで勉強はいつからやる?僕は今からでも構わないけど、みんな予定があるんじゃないかな?明日は土曜で休みだし、明日はどうかな?」
「明日は、えっと長谷部は部活だよな?俺と女子2人は確か何もないかな」
困ったように長谷部の方を見ると、長谷部も察してくれた。
「俺は勉強は大丈夫だし、気にしないで行ってくれて構わないぞ」
「では明日に勉強会を開こう。場所は僕の家でいいかな?」
自分の家を勉強会の場所に指定してくる柊。意外にもやる気充分なのだろうか。否定する者もいなく、場所は柊の家に決まった。
「では明日、僕の家で勉強会を始めよう。時間は9時くらいからでいいかな?」
その後も柊と連絡先交換し、自宅の住所も教えてもらい、後に解散した。
「早乙女くん…ちょっと…」
同好会室へと向かう途中の廊下で、珍しく瀬川が声を掛けてきた。咄嗟の出来事に俺は少し驚く。
「彼はあなたに興味があるって言っていた。それに1度彼は試験で暴走したことがある。だから明日は気を付けた方がいいかもね」
「…なんだ、心配してくれてるのか?」
「別に明日一緒に行くのが本田さんもいるからよ。あなただけだったらこんなこと言わない。それに私の勘が言っている。彼は危険だと」
瀬川がこんなこと言うのは本当に珍しい。いつもは静かで冷静な彼女。食事の時の冗談を交えた毒舌を放つ時より、真面目に真っ直ぐな目で話しかけてくる姿に、俺はまともに向き合った。
「わかった、気を付けよう」
流石の柊でも、俺の魔力量よりは少ないはずだ。まぁ魔法館外なら魔法は使えないから大丈夫だとは思うが…彼なら魔力だけで脅す事も出来なくはない。
「それじゃ、また明日」
「…あぁ」
瀬川は振り返り、そのまま帰って行った。俺もその姿を最後まで見送る事なく自分の向かう同好会室へと歩いて行った。




