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闇に消える女

「…うぅ…」


「やっと起きたか?」


ここはどこだ?それよりも体が怠い。それと2日酔いに似た様な頭痛もする。


私はどうしていたんだっけ?


腕に力を入れて、上半身のみ起き上がる。


「はぁ…はぁ…うぅっ!」


起きると頭痛がさらに増した。痛みで少し体勢を崩してしまう。



「不様だな。まぁ魔力増強剤を2本も使えばそうなる。まだマシな方だ」


「はぁ…はぁ…その声は、清水様⁉︎」


視界がボヤけて良く見えない。が、声の主は間違いなく私のボス、清水に間違いなかった。何とか姿勢を正そうとするも、体が思う様に動かない。


「す、すいません清水様…お見苦しい姿を…」


「いい、気にするな」


何とか少しずつ記憶を思い出してきた。私は小鳥遊賢という高校生をターゲットに、入院中の妹を助けるという話を餌に魔法を使って監禁し、身代金を要求する予定だった。多少変更はあったが途中迄は上手く進んだものの、助けに来た高校生…名は早乙女とか言ってたっけか…?彼に私の魔法は一切効果が無く、魔法増強剤を使用しても尚、結果は変わらなかった。



「それにしても珍しい事もあるな、お前がミスを犯すなんてな」


「も…申し訳ございません」


「で、何があったんだ?」


「…え⁈」


清水は立ち上がって、コツコツと足音を立てながら、こちらに向かって歩いてくる。薄暗い中、清水の靴が黒光りしているのだけは分かった。


「魔法増強剤2本使用、それに伴い近くの魔力探知機のハッキングと記録改ざん。もちろん、このままだったら警察が来るのは当たり前だったからな。俺達は人身売買と麻薬取引、これからはお前も使った魔力増強剤の様に『魔薬』の取引もしていこうと思っている。これだけ迷惑を掛けておいて、まさか…何も収穫無しとは言わないよな?」


「うぅ⁉︎」


清水は私の髪を引っ張り、無理やり顔を上げた。ぼんやりとしか映らない視界に、やっと清水の顔が映り込む。


彫りが深い顔は、まるで外国人のよう。短髪で髭も綺麗に剃ってあり清潔感のある顔をしている。



「途中迄は私の予定通り事が進んでました…。けども助けに来た生徒が私の魔法を全て消したんです…」


「魔法を消しただと⁉︎それで隙を突かれて逃げられたって事か⁉︎」


「ち、違います!彼は私の魔法の全てを消したんです!」


「なんだと?」


清水は掴んでいた髪をパッと離した。私はその場に崩れるように横になった。



「ちゃんと説明しろ」


「…はい、彼は私がターゲットにしていた小鳥遊という生徒が、水魔法で監禁していましたが、魔法を消して監禁を解き、さらには私が魔力増強剤を使用して放った魔法も全て消しました。もちろん魔力増強剤2本分全てです」


「魔力増強剤2本だぞ?普通に考えて8人分の魔法を消したってのか?」


「そうです…それに彼は魔力増強剤2本目に関しては、私は魔法を放つことすらできず、魔力を消されました」


「…そんな事あり得るのか?」


流石の清水も言葉を失っていた。私だってそうだ…こんな事あったこともないし聞いたこともない。ちょっと考えて、清水は口を開いた。


「で、どうなんだ?」


「…え?」


「だから、その謎の現象は何なんだ?言ったよな?これだけ迷惑を掛けておいて、収穫無しとは言わないよなって」


「っ⁉︎」



そうだ…その通りだ。この方がこれだけで満足するはずがない…だけども、私には分からなかった。早乙女が何故私の魔法や魔力を消せたのか。


私が答えられないでいると、清水は察して、そうか…と言って私の近くから立ち去った。



「まぁ収穫があったのなら、今回の事は見逃そうとしたが、何もないなら仕方がないな…。魔力増強剤2本と魔力探知機ハッキングや、今回お前を現場から回収する際の手間賃やら全部合わせて3000万、今月中に用意しろ、いいな!」


「そ…そんな無茶な…」


「できないなら…分かってるよな?俺はお前みたいに使えない奴を殺したりはしない。だけどもお前みたいに優しくはない。死ぬまで俺のためにどんな仕事でもしてもらう。いや、違うな…死んだとしてもマニアな奴を知っている。死体じゃないと嫌な奴もいるみたいなんだ…そいつに高値で売れるからな」


この清水という男はこういう男だ。金にならない事はせず、金になる事しかしない。でも、だからこそ彼は今の地位の、この組織のトップに居座っている。


「…わかりました…」


「よし、これで話は終わりだ。おい!手を貸してやれ」


「はっ!」


暗闇から近付いてくる男2人。私に肩を貸して立ち上がらせて歩かせてくれた。


向かった先は、出口だ。この部屋なのか何なのかわからない空間から外に出る。出た瞬間、男達は肩を貸すのをやめて、また暗い空間へと戻っていく。


出た先で私はその場に倒れ込む。外だった。


夕焼けが出ていて、空が薄暗い橙色。爽やかに吹く春風が、近くの海の潮の香りを運んで来て、ここがアジトの倉庫の場所だったと理解した。


「…とにかく、体調を整えないと…くっ!」


未だに体は思うように動かない。立ち上がるのも精一杯だ。それでも壁に沿うようにして私は歩いた。



「はぁ…はぁ…」


30分は歩いただろうか。目的地の自宅には、まだまだ遠い。私が主に稼ぎ場所としている繁華街。居酒屋やバー、風俗やラブホテルなどの大人の遊び場であるこの一帯は言わずとも安全な場所ではない。


空は暗く、辺りはネオンの光でチカチカと眩しい。それでも疲労と空腹、加えて魔力増強剤の副作用なのか、体に力が入らず眠気も襲ってくる。こんな場所で寝ていたらどうなるか…?考えなくても想像はついてしまう。


「…はぁはぁ…きゃぁっ!」


足がもつれて転んでしまった。膝が擦りむいてしまい血が流れていた。もう立つ力は残っていなかった。


立って歩いて帰った所で、今月中に3000万用意できるわけもない。結局私はもう終わりだ。ならばもう頑張って帰らないで、ここで諦めた方が楽だろう。


膝を押さえて座り込む。ジンジンと痛むのにも関わらず、睡魔が私を襲う。絶対に寝てたまるか!と思っていても、気付くと寝ている。コックリコックリと寝て起きてを繰り返し、次第に意識が薄れていく。



「ここにいたのか…」


目の前から男の声が聞こえた。目を開けることすら私はできずにいた。


私はそのまま背負われて、何処かへ連れ去られた。

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