救いの手と絶望
ゴールデンウィークという休日も終わり、唯一の魔法研究同好会の研究活動も小鳥遊を助けるという事件に巻き込まれ無くなり、さらには今月末の中間テストもあるということで、早乙女大知の気分は最悪という事態に陥っていた。
「はぁ〜」
昼休みの食堂にて、いつもの4人の面子で昼食を食べている中、俺の溜息は思ったよりも周りに、しかもわざとらしく聞こえたようだった。
「どうしたんだ〜早乙女?何かあったのか?」
長谷部は気にしてる素振りだが、目線は目の前の昼食の方を向き、手はその昼食を口にせっせと運んでいる。
「早乙女くん!もうゴールデンウィークは終わったの!現実を受け入れなさい!」
本田は俺がもっと休みたがっていると思っているみたいで、まぁあながち間違っていないが…。
「まったく、そんな溜息吐かないでくれる?不幸が移りそう」
瀬川は相変わらずの毒舌というか思った事を言うというか…。遠慮がない奴だ。
知ってるか知らないか、まぁ知ってるだろうけど、不幸のおすそ分けをしてやろうか。
「なぁみんな、知ってると思うけど今月末中間テストがあるんだ。俺はそれで憂鬱なんだが…」
チラッとみんなの顔を見る。すると俺の予想とは逆の反応をする3人。
「あぁそうだな、今回は成績にも響くし、ちゃんと俺の魔法を披露してやる!」
長谷部はテストに対してきちんと向き合っている。おそらく座学の方も問題無く勉強し、やり遂げるだろう。
「…。」
「…。」
比べて女子2人は箸の動きを止め俯いたまま動かない。さっきまでの元気はどうしたのだろうか…。瀬川にいたっては顔が真っ青になっている。彼女のこんな顔は見た事がない、不幸を移してやったぜ、ざまぁみろ!
「せ、瀬川さん、でも試験までまだ3週間はある。時間は充分にある!」
「そ、そうね!それに誰かさんみたく何かの試験で0点が確定してる訳でもないし、状況は彼よりマシなはず!」
励まし合う女子2人、そしてどさくさに紛れて俺の心にグサッと刺さる事をサラッと言いやがった。
「…あっ!おい早乙女!」
「ん?なんだ?俺は今心が傷付いているんだ、そっとしといてくれ…」
「が、そうはいかないみたいだぜ、あっち見てみろ」
長谷部の視線の先に、俺も目を向ける。そこは食堂の入り口。美男美女の金髪の生徒2人が入ってきた。その正体はこの学校で1年生なら知らぬ者はいない。小鳥遊賢と雛形奏だ。
小鳥遊はあの見た目でも成績優秀スポーツ万能、雛形は勉強は苦手だがスポーツに至っては小鳥遊を上回る。魔法は2人とも優秀である。魔法で評価されがちなこの世の中では才色兼備なカップルといったところである。
そのカップルは人を探しているようで、辺りを見回していた。ただでさえ目立つ2人だ、食堂内の生徒達も何事かと思い、金髪の2人に目を向ける。俺もその1人だ。
そしてそのカップルの1人、小鳥遊と目が合うと此方に向かって歩いてきた。すぐさま俺は長谷部を問いただす。
「おい長谷部…なんか知ってるな…?」
「ワリィ…ちょっとお前に用事があるらしくてな…」
長谷部も俺が小鳥遊の事を嫌っているのは知ってる。申し訳なさそうな長谷部の顔を見る限り、仕方なく小鳥遊の頼まれ事を聞いたんだろう。
小鳥遊が俺の前まで歩いてきた。小鳥遊が言葉を発する前に俺は喋り出した。
「何の用だ?また俺の事を笑いに来たのか?お前からしたら俺は魔法の使えないクズだからなぁ。安心しろよ、今月末の試験でもちゃ〜んと魔法試験で0点取ってやるからよ」
「…っ⁉︎…ちょっと面貸せよ…付いて来い」
小鳥遊は拳を握り締め、歯を食いしばりながらも気持ちを抑え、そう言ってその場から立ち去り、食堂の入り口で雛形と一緒に此方を見ながら待っていた。
長谷部もちょっとだが絡んでいることだし、仕方なく小鳥遊に付いて行くとするか…。
「すまん、ちょっと行ってくる」
昼食をすぐさま食べ、食器を下げて小鳥遊の元へ行く。小鳥遊と雛形は無言のまま歩いて行く。
彼らはただでさえ目立つのに、この俺、校内で唯一魔法の使えない生徒が一緒にいるというのは、更にインパクトを与えているのではないか…。周りの生徒の視線がいつもより増しているように感じる。
階段を登り、着いた先は屋上。生徒は他におらず、この場にいる3人だけだ。
暖かく心地よい春風が吹いている。それとは逆に俺の気持ちは不快なままだ。
「用事って何だよ?」
「…この前は、俺と奏を助けてもらって本当に感謝している、ありがとう」
「あ〜はいはい、どう致しまして〜」
小鳥遊の横を通り過ぎ、屋上を後にし帰ろうとした。だが出る直前に雛形に肩を掴まれる。
「早乙女くん待って!それだけじゃないの…」
「…。」
なんだこの男は…。彼女にこうやって俺を止めてもらってまでしなきゃ、自分の言いたい事も言えないのか?俺の気持ちはさらに不快になっていった。
「早乙女…すまん、もう一度だけ助けてくれないか?今度は俺じゃない、妹だ。お前がしたいというなら俺を社会的にころ…」
「ふざけんなよてめぇ‼︎」
俺は気がつくと小鳥遊の胸元を掴んでいた。ハッとして我に返り、雛形に聞こえないように小鳥遊に確認をする。
「まさか言ったのか?俺の力の事?」
「…言ってない」
「どこまで話した⁉︎」
「お前が俺の妹を助けれるかもしれないってことだけだ」
「そうか…」
確認を終えると俺は小鳥遊から手を離した。雛形はすかさず小鳥遊の元に駆け寄る。
「何で⁉︎この前は助けてくれたのに!お願いをしただけなのに、なんでこんなことするの⁉︎」
「いいんだ!いいんだよ、奏…」
クソッ!これじゃあ俺が悪者みたいじゃないか…。助けないとしても、事情くらいは聞いてもいいかもしれないか。
「…聞くだけ聞いてやる」
「すまない早乙女…」
小鳥遊は自分の妹のことを話してくれた。魔法制御不能症であり、病院で入院し睡眠状態になっていること。起きたら自分の意識と関係無く魔法が発動し、周りを焼き尽くしてしまうこと。そして、実の両親が我が子の妹の事を見捨てていることなど。
「なるほどな…そういうことか。でも勘違いしているようだが言うけども、俺は妹を救う事はできない。詳しくは言えないけどな…」
小鳥遊が俺が妹を救えると思うのも無理はない。この間小鳥遊を佐奈田から救出する時に俺は佐奈田の魔法を全て消した。最後に至っては魔法を発動させることなく魔力を消した。それが彼が妹を助けれると思ったきっかけだろう。
俺のこの力を魔法ではなく、魔法制御装置だと思ってはいないだろうが、何らかの機械の力だと考えているのだろう。それに俺の魔法は無限じゃない、有限だ。佐奈田の魔力増強剤も副作用が無く、4発も使われたら俺も流石に魔力が尽きる。実際は内心焦っていたのだ。
「そうか…もしかしたらお前なら救えると思ったんだが…すまなかった…邪魔したな」
小鳥遊が俺の横を通り過ぎていく。きっと彼は妹を救う事が全てなのだろう。本気で魔法制御不能症と向き合い、それを治すことに全力で生きている。そのきっかけになりそうな俺を見つけたんだ、気持ちも分からなくもないが…。
「待てよ小鳥遊!」
「⁉︎」
小鳥遊は足を止める。そして振り返り俺の方を見た彼は、まるでもう諦めかけていたようだった。
「前にも言っただろう?俺達は社会に出てない高校生だ。結果を求めるにはまだ早いだろう。お前にならきっと妹を救えるはずだ」
小鳥遊は目を見開き、ハハッと笑い、再度振り返った。
「ありがとな早乙女、俺は俺でもう少し頑張ってみるよ。…あ、そうだ!今俺は魔法研究部にいるんだが…まぁ知ってるよな。俺から部長にちょっと掛け合ってみようと思ってな…。魔法館を独占しないで、もう少し魔法研究同好会にも使わせてあげるようになって。じゃあな」
小鳥遊はそう言い残して屋上から出て行った。
「…な、何だよいきなり…あいつ…」
何度も言うが俺は小鳥遊が大嫌いだ。今回だってそうだ、俺が自分に有益だと思ったから、こうやって俺を呼んで話を持ちかけてきた。それを知らなかったら、すれ違う度に嫌味を言う最低な奴のままだったと思う。それに魔法研究同好会に魔法館を使えるよう掛け合ってみるだと⁉︎どういう風の吹き回しだ!
明らかに小鳥遊は魔法研究同好会を見下して潰そうとする。そんな奴だろう!なのにこの手の返し様だ。
チャイムが鳴り教室に戻る。午後の授業はモヤモヤしながら過ごし、放課後になると、すぐさま同好会室へ。
いつも通りに植田が数分遅れて来る。
「ごめんね〜お待たせ〜!早乙女くん久しぶりだね」
「久しぶりですね」
植田が同好会室の鍵を開けて中へ入る。いつもの流れでお茶を入れて、一息落ち着いた所で俺は植田に切り出す。
「植田先輩、魔法制御不能症って知ってますか?」
「ん⁉︎えーっと…魔法が思い通りに使えないって病気だよね…」
「そうです!それです!それを俺は知りたいんです!」
俺は何故か興奮して、植田の手を取り握り立ち上がっていた。そして同好会室に遅れて入ってきた魔法研究同好会会長の天野にも気付く事なく…
「俺は全てを知りたいんです!」
「こりゃ…お邪魔しました〜」
ニヤリと笑って、部屋から出ようとする天野会長。俺は会長の腕を掴み、植田は天野に顔を真っ赤にして必死に訴え、勘違いを解いた。
再度落ち着き、3人で机に座り、茶を啜る。
「では会長に聞きます、俺に魔法制御不能症について教えてくれませんか?」
「魔法制御不能症?一体どうしたの?さぁ今日は何して遊ぼ…」
「会長!」
「…と思ったけど、たまには魔法研究っぽい事やってもいいかもね、あははははー!」
俺の必死さのおかげか?何とか会長から魔法制御不能症について教えてもらえることになった。
まったく、俺がこんな目に合うのも小鳥遊のせいだ。俺は本当に小鳥遊の事が嫌いだ。




