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早乙女大知の魔法

佐奈田に監禁されて、何度目だろう。


奏が店を飛び出してから何時間たっただろう。



「うっ⁉︎…ゲホッゲホッ!」


水を無理やり飲まされ、吐き出し、その度にキャッキャと甲高い声で喜ぶ佐奈田。最初はいらつきや悔しさがあったが、今はもう何とも思わない。というより意識が朦朧として何も思えない。



「ふふふ、まだ誰も来ませんねぇ〜。もしかして彼女に見捨てられたんじゃないですか?だとしたら私がいっぱい可愛がってあげます。あなたのその苦しそうな顔といきがってる時の顔を思い出すと…あぁ!興奮してしまいます!」


佐奈田に頭をグイッと掴まれる。


「さぁ!また飲んでくださいね〜」


無理やり口を開かされ、佐奈田の水魔法の水を飲まされる。息が思うようにできず、咳もできない。涙で歪んだ視界には佐奈田のうっとりとした笑顔が映った。


「ゲホッゲホッゲホ…」


水を飲み終えると、咳が止まらない。そして腹の中でぐるぐると水が動く。気持ち悪さに今すぐ吐き出したくなるも、佐奈田の水魔法は彼女の思うようにしか動かない。俺が何度嘔吐しても無駄である。


「さぁ〜て、今度はどうしましょうか?ひと通りやりたい事はやりましたし…そうだ!口から出すのはやめて、今度は下から出してみましょう!そして、それをまた飲ませてあげます!ふふふ…」


「なっ!や、やめろ!」


奴の水が腹の中で激しく動き出した。胃から腸に移動してるのがわかる。


「さぁ早くパンツを下ろさないと、汚れちゃいますよ?ふふふ」


ここで恥ずかしいような格好はしたくなかった。でも奴の言う通り、このままだと服が汚れる。もうすでに佐奈田の水魔法でびしょ濡れだが、自分の排泄物で汚すのは嫌だ。


「うぅっ!クソッ!…やめろー‼︎」


俺が叫ぶと、突然腹の中の水の動きが止まった。何が起こったのかわからず佐奈田の方を見る。すると彼女は店の入り口に目を向けていた。俺も同じく視線を向けた。



「面白そうだなぁ、俺も混ぜてくれないか?」



入り口に立っていたのは早乙女だった。奏や長谷部でもない。とにかく早乙女まで監禁されるのは避けなければ…。



「馬鹿野郎!早く逃げろ!今ならまだ間に合う!」


「せっかく助けに来たのに逃げろとは…まぁいいか。別に俺は小鳥遊の意思に関係なく助けるつもりだしな。ただ助けるには条件がある。それを飲んでくれるかどうか確認したかったのだが…」


こうして話している間に、店の入り口には佐奈田の水魔法で水が覆われた。もう早乙女も逃げられず、監禁されるだろう。あの馬鹿が!人質を無駄に増やしてどうするんだ!


「っておい…聞いてるか小鳥遊?」


「あぁ⁉︎ってか何でお前が来てるんだよ…俺は長谷部に来るように頼んだのによ…。お前みたいに魔法が使えない奴が来ても何もなんねぇだろうが!」


「やっぱり思った通りの反応だな。俺も正直、小鳥遊を助けるのは嫌だったんだ。君は俺の事を嫌いな様に俺も嫌いだからな。それに魔法が使えないから何もなんないっていうのは違うんじゃないか?魔法が使える君でさえも、こうやって人質に囚われる始末じゃないか?」


「魔法が使えないのに魔法で囚われてる俺をどうやって助けるつもりだって言ってんだよ!」


「まぁ普通はそう思うよな。それは助ける条件につき教えられない。言うのが遅れたが、助ける条件として、これから起こる事…いや、起こらない事について他人に他言しない事と、追求しない事だ。守れるなら君を助けてやる」



この馬鹿は何を言っているんだ?今の自分達が置かれている状況を理解してないのだろうか。俺が言うのよりも先に佐奈田が黙っていなかった。



「2人共会話の途中ですが失礼します、あなた名前は?」


「早乙女大知だ」


「では早乙女さん、あなたは私の魔法を充分に理解してないと思うように見えるのですが?でなければこの状況で小鳥遊さんを助けれるといった事は言えないはずです」


「小鳥遊を助けるのに、あなたの魔法を理解する必要があるのか?」



流石の佐奈田も今の言動に少しは腹を立てた様だった。早乙女の周りには佐奈田の魔力が集まっていた。


「そうですか…では私の魔法を理解してもらいましょうか!」


早乙女の周りに佐奈田の水魔法が発生した。そして水が早乙女の四肢を掴み取り自由を奪った。バランスを崩し早乙女はその場に倒れ込む。


「フッフッフッ…いいですねぇ!でもまだまだですよ〜」


早乙女の頭を水が覆い尽くす。息が出来ずに苦しみだす早乙女。やがて我慢できずに口を開いて息を吐き出したと同時に、水が無理やり口の中へ流れ込む。


それが終わると、早乙女は苦しそうな顔で咳をし続けた。その後も腹の中で水が暴れてるのが俺が見てもわかる様に何度も吐きそうになりながらも苦しみに耐えていた。


佐奈田も満足したのか、約5分早乙女を苦しませ続けて、一旦魔法が落ち着いた。



「ゲホッゲホッ…はぁはぁ、思ったよりもキツかったな…ふぅ、やっと喋れる。それでどうするんだ?」


「どうする?…フフフ、どうしましょうかねぇ!このまま2人とも私の所有物にして遊びましょうかね〜。それとも人身売買として売り出すか…新商品の開発の実験台…いや、やっぱり私の玩具として可愛がってあげます!」


すると早乙女は落胆して、ため息を1つ吐いた。


「言っとくが、俺はあんたに聞いてるんじゃない。小鳥遊に聞いてるんだ。助ける条件を守れるのかどうかってな」


コイツ…これだけの魔法を食らってもまだ俺を助けられると思ってるのか?余裕をかましてる早乙女に対して、挑発された佐奈田はもう気持ちに余裕がない様だった。



「今決めました!早乙女さん、あなたは今この場で苦しみ続けて死んでいただきましょう!」


「どうするんだ小鳥遊!条件守るのか守らないのか⁉︎」


条件を守る?守らない?正直なところ俺は条件を守ること自体なんも苦にならない。それよりも俺は早乙女の奴が俺を助けられると思っているのがおかしいと思っていた。絶対に助けれる訳がない。だが今のこの状況、どっちに転んでも絶望的だ。ならばいっそのこと、早乙女に助けを求めた方が得策か…。


佐奈田の水魔法が早乙女の周りに発生し、彼に向かって飛んで行く。俺はすぐさま早乙女に向かって叫んだ。


「わかった、条件を守る!だから俺を助けてくれ!」


佐奈田の水魔法が早乙女に当たり、水しぶきで姿が隠れた。水が当たる直前、彼は薄っすらと笑みを浮かべていた様に俺は見えた。



「フッフッフッ…アーハッハッハ!早乙女さんは馬鹿ですねぇ!今の魔法の威力は相当なものです。生身で受けたら無事ではいられません。手足に当たれば骨は砕け、立つことは無理でしょう。腹に当たれば内臓は破裂し、即座に…な…なんで…」


水しぶきが晴れ、佐奈田の水魔法をまともに食らった早乙女の姿がそこにはあった。彼は何事もなかったかの様に立っていた。あまりの予想外の出来事に佐奈田も言葉を失い、立ち尽くしている。


それよりも理解出来ないのが、彼の今の服装、頭髪、身体の全身が乾いている。さっきまで佐奈田の水魔法に捕まり、水浸しの床に横になっていたはずだ。


「小鳥遊、条件は守ってもらうぞ。もし条件を守らなかったら、君を社会的に殺すことにしよう」


早乙女はそう言うと、彼の方から何かが近づき、俺の体を通過した。何かはわからないし、気配も何もない。ただ変わった事は俺自身の魔力が一気に無くなったのと、腹の中の気持ち悪さが消えた事だ。


「そして監禁者のあんたに言おう。これからもうあんたの水魔法は一滴足りとも俺に当たる事はない。身代金で払った2000万を返してもらうのと、2度と俺達の前に現れないと誓うなら見逃してやってもいい」


動きを止めていた佐奈田が動き出す。肩を上下に動かし彼女は笑っていた。


「フッフッフッ…いや〜ごめんなさい。私とした事が何が起きたのかと思ったわ。おそらくあなたが待っているのは魔法制御装置の類ですね。自分の周りの魔法を分解すると言ったところでしょうか?」


佐奈田の言うことに早乙女は否定も肯定もせずにただ黙っていた。けど俺は、これは魔法制御装置の類のものではないということはわかっていた。何故なら今現在では魔法を分解、消すことができても、魔力自体を消すことは未だにできないからだ。


早乙女が何かをして、俺の魔力ごと、腹の中の佐奈田の水魔法を取り除いた。気分が良いのがその証拠だ。


そして、さっき早乙女が言っていた『社会的に殺す』とは、俺が魔法を使えないようにすることだと今理解した。


「ふぅ、まぁいいか。小鳥遊、帰るぞ」


まるで全て解決したかのように早乙女は俺にそう言った。彼にとっては今のこの状況は、なんて事ない普通の状況だというのだろうか?俺は早乙女の言う通りに帰ろうと足を動かさずにいた。


「くっ!」


俺が何もできずに、ただ座り込んでいる姿を早乙女は不思議そうな顔で見ていた。するとため息を1つ吐いて、仕方なさそうに言った。


「なんだ、立たないのか?どれ、手を貸してやろう」


早乙女が此方に向かって歩き出した。コツコツと、床は水浸しのはずなのに乾いた足音が店内に響く。


「彼には近づかせませんよ!」


佐奈田の水魔法が早乙女を襲う。頭を覆い、四肢を掴み取り押さえるが、水は弾け飛び落ちる。早乙女の全身は変わらず乾いたままで何も様子は変わらなかった。


「私が思っているよりも魔法制御装置は優秀のようね、ではこれならどう?」


早乙女の周りに生成される水魔法。型が槍のように先端が尖っている。身の丈程あるその槍が10本、早乙女を狙うようにして浮かんでいる。それでも早乙女は視線を向ける事なくこちらへ向かって歩き続けていた。


「ふふふ、この槍は本物と比べれば強度は落ちますが、致命傷を与えるには充分です。当たらなかったとしても、この水はあなたの口や鼻から体内に入り込みます。はたしてこの量の水を消す事ができますか?」



水の槍が早乙女に向かって飛んだ。弾丸のように凄まじいスピードで早乙女に当たり、目の前は水しぶきで視界が埋まった。周りには飛び散った水が床に落ち、豪雨の中のような音が店内に鳴り響いた。


数秒後、音は鳴り止み、店内は静かになった。早乙女の足音も聞こえてこない。



「フフフッ!アーハッハッハ!どうやら一片残らず木っ端微塵になったようですね〜!」


彼の足音が聞こえない事に、早乙女を倒したと思った佐奈田は高らかに笑い叫んでいた。だがそれも一瞬、ようやく視界が晴れて、俺の目の前には無傷の早乙女が立っていた。足音が聞こえなかったのは、もう俺の目の前に着いていたからだった。



「なっ⁉︎…馬鹿な…ありえない…」


相当なショックだったのだろうか…、佐奈田は驚き、水浸しの床にビシャッと音を立てて座り込んだ。



「ほら、帰るぞ。立てるか?」



早乙女が差し伸べた手を取り、立ち上がる。だが俺の不安はまだ完全には取り除かれていない。


先程は驚いていた座り込んでいる佐奈田も、俺の心を見透かしているかのように、次の瞬間には笑みを浮かべてこちらを見ていた。

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