脅迫
「賢くん⁉︎なんで⁉︎」
奏が突然声を荒げて言った。俺と佐奈田2人とも一瞬ビックリしてしまった。
「要するに佐奈田さんは水奈ちゃんを助ける為にお金が欲しいって言ってるんでしょ?そんなの賢くんが将来助けてあげればいいじゃない⁉︎それが夢なんでしょ?だったら今まで通り頑張ればいいじゃない」
「わかってるよ!けど…俺が水奈を救うまで、あとどれだけ時間がかかるか…。本当は今日だって水奈を起こしてしまって、自分の魔法で苦しむ姿を見た。もう嫌なんだ…水奈が植物状態の様に生かされてるのも苦しんでいるのも…」
「確かに…賢くんの言う事もわかるよ…。けど水奈ちゃんはこの事を知ってどうなるかな。それに研究資金を寄付したからって成功するとは…」
俺達2人が言い争いをしていると、佐奈田は眼鏡を外し、俺達の所へ近づいてきていた。
「はぁ〜全く、うるさい女の子ですね。いいからとっとと2000万円持ってくればいいんです」
薄ら笑みで俺の事を見下す佐奈田。突然の変わり様に一瞬驚いたが、それよりも腹が立っていた。立ち上がり、胸倉を掴んだ。
「どういうことだ?説明しろ!」
「2000万円持って来てくれればいいんです。あと、私に手を出さない方がいいですよ?」
「はぁ⁉︎」
後ろでバタッと倒れる音がする。振り返ると奏が倒れていた。
「…賢…くん、助けて…」
「奏!大丈夫か⁉︎」
佐奈田を離して奏に寄った。奏は、まるで今まで溺れていたかの様に息を乱していた。
「私に害をなす事をしたらこうなります。実はさっき飲んでいた彼女のお茶ですが、私の水魔法の水でできています。もちろん小鳥遊さんのお茶もそうですがね。今みたいに気道を塞いだり、お腹から水を飛び出したりすることもできますからね」
俺の前に置いてあるお茶が入っている紙コップが、所々穴が空きお茶が噴き出した。つまりこういう事もできるってことだ。
「とりあえずこの子の身柄は私が預からせていただきます。小鳥遊さんは親御さんを説得して2000万円持って来て下さい。そうすればこの子を解放しましょう」
「テメェ…ふざせるなよ…」
奴に手を出せば奏が危ない。俺はただ睨み付けて拳を握りしめることしかできなかった。
「もちろんですが、警察等の厄介な人達に知らせて助けを求めても構いませんが、その際はこの子の無事も構わないという事でよろしいですね?でも大丈夫ですよ、かの有名な小鳥遊財閥の1人息子の小鳥遊賢さん。見かけによらず成績優秀スポーツ万能。魔法実技成績も優れているようではないですか。そんな子の言う事ならきっと聞いてくれますよ」
「うるさい!最初から俺を騙すつもりだったのか⁉︎クソッ!」
俺の怒鳴り声でも佐奈田は臆する事なく、薄ら笑みで俺を見てくる。余裕があって俺のことを見下してる奴に腹が立って仕方がない。
「もちろん小鳥遊さんを騙すつもりでした。けど予想外に彼女さんも付いてくるとは思いませんでした。けど結果的には人質も確保できた事ですし、こちらとしてはありがたいです。あと、小鳥遊さんがもし2000万円持って来てくれなかった場合、この子に代わりに稼いでもらいますので、私としてはどちらでもいいですよ」
佐奈田がゆっくりこちらに歩み寄る。そしてしゃがみ込み奏の顔に手を添えた。
「顔も良いし、スタイルも良い。そしてまだ高校生。これは稼げますよ…この前の様に売り捌くのは勿体無い、生きて働いて稼いでもらいます…。おおっ!この攻撃的な目も良いですね!是非とも絶望を味合わせて歪んだ表情をさせてみたいです!ああっ!私のコレクションとして置いておくのもいいかもしれません!おっと失礼、この子を見てると抑えられなくなりました」
佐奈田の変貌振りに俺が感じた事は1つ。このままだと奏が危ない。今まで俺を支えてくれた彼女を必ず助けなければいけない。
「…わかった。2000万用意する…だから奏には手を出すな」
「そうですか、わかりました。いつ持って来れそうですか?」
「今夜…今日中には遅くても持って行く」
「ではこの地図を渡します。この場所まで来て下さい」
渡された地図には、港の近くにある居酒屋等が並ぶ繁華街の、とあるビルのスナックだった。
「警察に補導されない様に気をつけてくださいね」
病院の会議室から出ようとドアノブの手を掛け、奏の方を振り返る。
「賢くん…こんなことになって、ごめんね」
「お前が謝る事はない、むしろ俺の方だ。巻き込んで本当ごめん、必ず助けに行くから少しの間我慢してくれ!」
会議室のドアを開け、急いで自宅へ向かう。病院から出てすぐさま走りながら父親に電話する。
「もしもし、父さん⁉︎実はお願いがあるんだが…」
…
ここは病院の会議室。今、私はこの佐奈田という女性と2人っきりの危ない状態である。
「さて、この様子だと意外に彼が早く来そうだから、私達も移動しますか」
「何故私達を狙うの?あなた達は一体なんなの?」
「ん〜そうねぇ」
佐奈田は顎に手を当てて悩んでいる。とにかく彼女から少しでも情報を聞き出したり、時間を稼ぐのが得策だと私は考えた。
「まぁあなたにも全く関係無いと言えば嘘になるかもしれないけど…ん〜教えても問題ないか」
パッと佐奈田の表情が明るくなる。そして椅子に座り話を始めた。
「あなたが今月の初め頃、登校中に絡んできた男2人組み。覚えてます?あなたが原因かどうかはわからないけど、その後の彼らはスランプに陥ってうちの収益は右肩下がり。私は小鳥遊さんを標的にしてましたが、まさか彼の彼女さんがあなたなんて…正直最初に会った時は驚きましたよ。でもまぁ逆に人質とするのには何も躊躇せずに進めれました」
「…あの時のナンパ野郎の仲間だったのね」
「まぁそんなところです。あなたにはナンパに見えてたようですが、実際は…」
あの弱っちい男達の仲間なら私のあの脅しが効くかもしれない!私は魔力を拳に集中させた。
「あいつらの仲間なら、私のことは良く知っているはずよね?」
「ん〜やはり自分の立場が良くわかってないみたいですねぇ」
私はもっと魔力を拳に集中させる。だが佐奈田は怯える様子も驚く様子もなく、余裕の表情。そして私の中の彼女の魔法の水が動き出した。
「うぐっ⁉︎ゲホッゲホッ!…はぁ、はぁ…うぷっ⁉︎」
「ほらほら〜どうしました?せっかく集めた魔力が無くなっちゃいましたね〜」
自分の胃袋の中で水が暴れ回る。そして喉奥や鼻、気管にも侵入し息の自由を奪われた。
「確かにあなたの魔力は強力かもしれませんが、先程も言ったように私に害をなす行為をするとこうなります」
「はぁ、はぁ…」
息ができず咳き込んでしまえば、せっかく集中させた魔力も維持できない。それに腹の中で何かが動くのは気持ち悪く、意識を魔力に集中させる事自体が難しい。
「これから移動しますが、怪し気な行動をしてもそうなります。あくまでも平常で誰が見ても不信感が無いよう立ち振る舞って下さいね」
魔法で脅しといて、平常を保てとは無茶な事を言ってくれる。でもここは大人しく従うしかない。
「…わかったわ」
会議室のドアを開けて外へ出る。私は平常を何とか保ちながら佐奈田の後を歩いて付いて行った。




