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甘い話

4月最後の日。明日から始まるゴールデンウィークに胸を踊らす生徒達。だが俺の心はこの親父の一言で気分は台無しになった。


「今月の病院からの請求額は約100万円か。まったく、とんだ金食い虫だな。あの娘は」


俺、小鳥遊賢には妹の水奈がいる。今は訳あって入院しているが、親2人ともそれを快く思っていない。俺のせいで妹は入院しているからだ。



「ご馳走様」


トースト、ベーコンエッグ、サラダにコーンスープなど、目の前に並ぶ朝食を俺は手を付けずに席を立った。毎朝俺は学校へ行く前に妹が入院する病院へ寄っている。妹の様子を見たり、着替えなどの荷物を持っていく為だ。


「賢くん、辛くなったら辞めてもいいのよ?私達にはあなたがいるから…」


玄関で俺が妹の病院へ持っていく荷物を持った姿を見た母が、俺に言ってきた。


「俺がいるからってなんだよ⁉︎それが水奈を見捨てていいって事になるのか⁉︎」


「そうじゃないの!賢くん、あなたが正しいわ。けどね、この世の中は正しい事だけじゃ生きてけないのよ!間違ったとわかっていてもしなきゃいけない事だってあるの!」


母親とは何回もこのやり取りをしている。もちろんわかってくれるはずも無く、話すだけ無駄だ。


「…行ってくる」


「賢くん…」


母親の声を最後まで聞かずに玄関のドアを閉めた。これから妹に会いに行く。天気はこれ以上にないくらい快晴だった。





徒歩で約30分。妹が入院する病院へ着いた。入るなり、すぐに総合案内へ向かった。



「すいません、小鳥遊賢です」


「あぁ、はい!ちょっと待って下さいね」


何年も病院へ通っていると、名前を言うだけで用件が伝わる。楽ではあるが、全く嬉しくはなかった。


看護師に案内され妹が入院している病室へ向かう。場所は知ってるが、俺1人では入れず、必ず看護師か医師の同伴が必要となっている。


病室の前に着くと、いつも通り頑丈なドアを開けてくれる看護師。中に入ると、1面真っ白な部屋。隣にはガラスの窓がある壁を隔てて妹が眠っており、こちらからでも様子を見る事ができる。


「看護師さん…妹を起こしてもらえませんか…?」


「何回も言ってますが、起こして1番辛いのは水奈ちゃんですよ⁉︎」


「でも…もしかしたら今回は大丈夫かもしれないですよ…」


「…もう、どうなっても責任は取りませんからね…それでもいいですか?」


「…はい」


看護師が部屋の中にあるコントロールパネルの様な物を操作し始めた。数分が経過すると、妹の瞼がピクリと動いた。


「水奈⁉︎」


俺は手をガラスの窓に付いて叫んだ。妹は目を擦りながら状態を起こす。



「…お兄ちゃん…⁉︎」


久しぶりの妹が起きている姿を見て、喜ばすにはいられなかった。妹も、水奈も同じ様に嬉しそうだ。


「水奈久しぶりだな!」


毎日会っているが、こうして目を合わせるのは久しぶりの事である。水奈もそれは知っている。


「本当は私がいつも寝てるだけで、毎日来てくれてるんでしょ?ちょっと待ってて」


水奈がベットから降りて、こちらに近付こうとした。寝たきりの妹の足は痩せ細っていて、歩く事すらぎこちない。


「水奈!無理しなくていい!」


今回は大丈夫かもしれないという思いは通じたのか…。何も問題無く意識のある水奈との再会を喜んでいた。


水奈がベットから立ち上がり、俺の方へ1歩近付いた時だった。悪夢のような事が起きた。


「看護師さん!」


水奈のいる部屋の隅で、一瞬炎の赤い光がユラっと光った。俺の様子を見て水奈も不安がる。そしてそれが引き金になった様に事態は悪化した。


「嫌!またなの⁉︎もう嫌だ!」


水奈の部屋には再びユラユラと炎が光り始める。次第に炎は彼女自身も包み始めた。


「熱い!熱いよお兄ちゃん!助けて!」


「看護師さん!まだですか⁉︎」


「もう作動させてます!スプリンクラーも薬も両方!あとは効くのを待つしかありません!」


俺は目の前で苦しんでいる妹を、ただ見守るしかなかった。無力な自分に腹を立て歯をくいしばった。


「熱い、苦しいよお兄ちゃん!辛い!もう嫌だ!…こんな思いするなら…いっその事殺してよ!」


焼け苦しむ妹を目の前に、数分後。永遠とも思えるように感じた。ガラスの窓の向こうにはスプリンクラーで濡れて床に倒れてる妹の姿があった。


「いくら水奈ちゃんの部屋が防火機能が万全で、服も防火だとしても、火に包まれれば熱いんですからね。それにこうして濡れて倒れちゃったら風邪もひきますし、後片付けも大変なんですからね」


「はい、すいません」



俺の妹、水奈は魔法制御不能症という病気である。意識があると、自分の意思とは無関係に魔法が発動してしまう。そして所構わず炎で燃やしてしまう。自分の体でさえも。


この病室は、水奈の部屋は常に睡眠薬が充満しており、水奈が眠っている状態を維持している。そして水奈の魔力も、この病室から漏れ出さないように密閉されている。万が一水奈の魔法が発動しても、この水奈の部屋だけで留めるためである。



この病気が発覚したのは、水奈が6歳の頃。水奈に近付くと自分の体がチクチクと刺さる様な熱さが感じた事がきっかけだった。不安がって母が病院へ連れて行き検査して魔法制御不能症だと発覚した。


入院することとなったが、病気の治し方は特に無く、水奈が成長するに連れ魔法も強力になり今は睡眠薬で眠らせたままの植物状態での生活を送っている。病気が発覚した時、こうなる事を予測していた父は水奈を諦めるという選択をした。母もそれに同意したが、俺が猛反対した。


確かに水奈は起きる度に自分の魔法で苦しむかもしれない。それなら寝たままの今の生活を続けるくらいならいっそ…と考えるのも一理ある。だが俺は諦めない。将来この魔法制御不能症を治す治療方法を見つける。それまで父親に水奈の入院費を建て替えて貰うという約束の元で、水奈は今の入院生活を続けていられる。


もちろんこの事は水奈には話していない。自分の事を両親が見捨てようとしたなんて言えるはずがなかった。



突如、病室のドアをノックする音が鳴る。


「失礼」


頑丈なドアをゆっくり開けて入ってきたのは、水奈の担当医師の先生だった。水奈の様子を見らなり、一瞬表情を曇らせた。


「賢くん、どうやらまた水奈ちゃんを目覚めさせたみたいだな」


「すいません…」


「またこういう事になるなら、もっと早く君に知らせるべきだったかもしれないな…」


「先生⁉︎それはどういう事ですか?」


「実は昨日、当院にお客さんが来てね。本当は君に会いたかったみたいなんだけど、昼間で君もいなかったからさ、今日朝来たら話そうと思っていたんだ。その人は魔法制御不能症に関して研究しているみたいで、是非お話しをしたいと言っていた。その時の名刺がこれさ」


先生は胸ポケットから名刺を俺に差し出した。受け取り見ると、魔法治療研究所、治療方法研究科部、佐奈田千亜紀と書かれており、連絡先も載っている。


「詳しい話は直接会ってしたいって言ってたから連絡してみるといい。もうちょっと早く言えは水奈ちゃんも今日は苦しまずに済んだだろうに…すまなかったな」


「いえ、先生ありがとうございます!」


先生は俺に謝ると、この病室を後にした。俺も看護師さんに先程水奈を起こした事を謝り、学校へ向かう。



病院へ出て、早速この佐奈田千亜紀という人物について連絡をしようと思ったが、さすがに朝は失礼だろう。昼休みに電話してみる事にした。


歩いて約20分。学校の校門には、彼女の雛形奏が俺を待っていた。


「おはよう奏!」


「おはよう賢くん!って何か今日は機嫌良いじゃん?何かあったの?」


「今日病院行ったらさ、水奈の魔法制御不能症に関する研究をしてる人を紹介してもらった。もしかしたら水奈の病気が治るかもしれない」


「本当に!良かったじゃん!」


奏は自分の事の様に喜んでくれた。俺がこうして頑張っている事や、妹の事を話しているのは奏だけ。彼女だけが俺の抱えてる悩みや問題を知っている。そして彼女の支えもあるおかげで俺は頑張れている。



その後は何事もなく通常の学校生活を送り、昼休みになった。先生の目を盗み携帯電話で佐奈田に電話してみた。


「もしもし…小鳥遊ですが…」


『もしもし!佐奈田千亜紀です!』


声を聞いた感じからは佐奈田は若い女性のようだ。


『この度はお電話ありがとうございます。是非とも小鳥遊さんとお話ししたいと思いまして…、今日はご都合の方はどうでしょうか?』


「大丈夫ですよ。良かったら学校終わってから病院で待ち合わせでもいいですか?」


『わかりました。では今日病院で…えーっと学校終わってからだから4時くらいですかね?宜しくお願いします』


「4時で大丈夫です!では学校終わったら行きますんで、お願いします!」


佐奈田との電話は終わった。側で俺の電話を聞いていた奏が俺の方を見る。そしてニカッと笑っていた。


「良かったじゃん!このまま良い調子で進むと良いね!」


「あぁそうだな!ありがとうな」


「ついでに私も行ってもいい?久しぶりに水奈ちゃんに会いたいし」


「別にいいぜ」


奏はたまに水奈のお見舞いに来てくれる。因みに実の両親達は見舞いらしい事は一切せずに、ただ金を出すだけだった。



放課後になった。俺は部活である魔法研究部を初めて欠席し、奏と共に水奈が入院する病院へと向かう。


そして朝と同じように総合案内へ声をかけた。



「小鳥遊賢です」


「あぁはい、佐奈田さんがお待ちですよ。2階の会議室へどうぞ」


「ありがとうございます」


2階の会議室へ向かう。何年も通っているから、学校の様に何処に会議室があるかはわかっていた。


歩くスピードが徐々に早くなってしまう…そんな気持ちを抑えながらも落ち着いて会議室の入り口へ着いた。


「ここが会議室ね」


「そうだ」


扉をノックする。中からどうぞ〜と声が聞こえた。


「失礼します」


「はい、どうぞ〜」


中に居たのは、スーツ姿の眼鏡を掛けた女性。茶髪で長い髪は軽くパーマがかかっている。


「小鳥遊さんと…えーっと彼女さんですか?」


「は、はい!雛形奏と申します!私は居ない方がいいですか…?」


「いえいえ大丈夫ですよ。そういえば自己紹介がまだでしたね、佐奈田千亜紀と申します。魔法に関する病気や治療法を研究してます。どうぞお掛けになって下さい」


彼女に言われるまま、俺達2人は席に着いた。コの字に並ぶ机と椅子。3人で話をするには充分すぎる広さだ。俺と奏は並んで座り、佐奈田は向かいの席に座った。


「早速ですが、本題に入りましょう。水奈ちゃんの魔法制御不能症ですが、当研究所で対処できそうな機器を研究中です。今までの対魔法制御装置は、発動後の魔法のみを対象としてましたが、魔法制御不能症はランダムで魔法が発動するため、場所を特定するのに時間がかかります。最初から発動場所が特定できれば発動する瞬間に機器を作動させればいいのですがね」


俺は佐奈田の話を聞いていたが、奏はちょっと話を理解できていないようだった。佐奈田は話を続ける。


「そこで私達は魔法制御装置の機器の発動場所を制限し、少しでも作動スピードを上げて被害を無くそうと考えました。要するに水奈ちゃんの体には魔法が発動することはない。厳密に言うと発動した瞬間に機器が作動するので発動した瞬間に魔法が消えます」


「それは素晴らしいですね!でもその魔法制御装置は、もっと発動場所の制限を広げることはできないのですか?」


「いい質問ですね、今現状の発動場所の制限は、約頭1個分の広さしかありません。体全体を発動場所の制限とするならば、もっと機器の性能を上げるしかないのですが…」


突如話が止まる。佐奈田の顔が僅かに俯き、表情が曇った。これには目の前に出されてるお茶を飲んでまったり落ち着いている奏も彼女に注目していた。


「じ、実は恥ずかしながら研究資金が足りなくて…これ以上は性能を上げることができません」


「なるほど、それで自分に話があったということですね」


つまりは、佐奈田は俺の妹を助ける代わりに研究資金の寄付を要求したかったようだ。


「因みにいくら足りないんですか?」


「不足分の資金は約2000万円あれば足りると思います…。あっ!もちろん研究が成功して魔法制御装置が完成しましたら、その機器は無料で差し上げます!全然割りに合わないとは思いますが…」


2000万円という大金。我が家の小鳥遊家は自分で言うのもなんだが金持ちだ。けども流石に2000万円を自由にできる権限は俺には無い。父に相談するのが当たり前だが、水奈の為に2000万円を出してくれるだろうか?


「ちょっと考えさせて下さい…」



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