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この街の闇、人殺しの液体

とある港に建て並ぶ倉庫。通常ならば貨物船で運ぶ品物などが蔵われる場所だが、その倉庫のとある1棟のみ使用目的が違う。


違うというよりも、所有者が違う。外見は他の倉庫と同様に、潮風に当たって所々錆が目立ち、薄い緑色の壁は古くて色落ちしているのがわかる。


だか中は別だ。簡単な料理が作れそうなキッチンと冷蔵庫。テレビにソファとテーブル。ここまで言うだけなら普通の人が暮らしていると思うだろうが、目の前にいるこの男、清水速人はこの倉庫の所有者にして、このアジトのボスだ。


「今月の目標…達成してないのはお前だけだぞ?」


清水はソファに足を組んで座り、俺の事を見下す。


「…すいません」



今月の始め。魔公学園に通う女子学生から金を稼ごうと思ったが、彼女の魔力に圧倒され失敗。それからというものの仕事は失敗続き。今月の売上目標のボスへの上納金50万円が未だに0円だ。


今月も残り1週間。これから50万稼ぐのは無理に近い。だから俺はこうして清水から叱責を受けている。


「今月の目標が達成出来なかったら…わかってるよな?その不足分をお前からもらうだけだ。強制的にな。わかったらさっさと稼ぎに行ってこい!」


「…はい!」


俺は立ち上がり、アジトの出口へ向かった。ドアの引き戸に手を掛けた時、清水が声を掛けた。



「ちょっと待て、お前は今余裕がないってことはわかってるよな?サボったら容赦しねぇからな」


「…はい」



重いアジトのドアを開けて、一時だが緊張から解放される。深呼吸をすると、海の潮の香りがする。この香りにはいい思い出がない。このアジトでの辛い思い出しか思い出さない。


目的も計画もなく街へ出歩く。50万円を1週間で稼ぐ方法なんて思いつくはずもなく、気がつくと日が沈み、居酒屋などの夜の店の看板が灯りが目立ち出した。俺は適当に近くの店に入る。


中に入ると、まだ客は数人しかおらず、俺は静かなカウンター席へ。10人程しか入らないような、何処にでもある小さな居酒屋だ。俺はビールを注文すると、まずは御手洗に向かった。


用を済ませて、席に戻ると、隣に若い女性が座っていた。茶髪で長い髪は軽くパーマがかかっており、スーツ姿の彼女は俺が席に戻ってきた事に驚いていた。


「あら、ごめんなさい。隣に他のお客さんが居たとは知らなくて…。移動しますね」


「いや、いいんだ気にしないでくれ。それに席移動しても、これから混んできたら席を詰められ隣同士になる。それに話し相手もお互いいなさそうだし…どうかな?」


「では私で良ければお相手します、よろしくね!」



こうして俺は初めて立ち寄った居酒屋で初めて出会ったこの女性と話をした。彼女はこの近所で働くOLで、最近仕事が上手くいかなく、ストレスが溜まって居酒屋に来たらしい。


俺は自分がしてる仕事の事は言えなかった。法律に触れるような事ばかりをしてきた俺。服装からしてもヨレヨレのジーパンとジャンパーを着ている俺は、まともな事をしてる人には見えないだろう。彼女も察してか俺の事を聞いてはこなかったのだが…。



「も〜お兄さん、さっきから私の事ばーっかりしか話してないんだけど⁉︎お兄さんもなんか自分の事話したらどーなの⁉︎」


時間が進むにつれ、店内も人が入り賑やかに。その場の雰囲気の勢いに飲まれたのか、彼女は酒が進み、酔っ払い始めた。そして俺に顔を近づけてまでこうして迫っている。正直言って彼女は可愛い。こうして迫られると、恥ずかしくて直視できなかった俺は視線を外して、ビールを飲み一呼吸置いた。


「ちょっと落ち着いてくれ!俺も君と同じで仕事で上手くいかなくてここに来たんだ」


「ふーん、そうなんだ。仕事は何してるの?」


「それは…ちょっと言えないんだ。けど、このままだと、きっととてもヤバい事になるのは確かだな、ハハハハ…」


「そっかぁ、じゃあさ、辞めちゃえばいいんじゃない?そんな仕事」



その時、俺は何故逃げるという手段が思いつかなかったのか不思議に思った。そうだ!逃げればいい!清水から!あの集団から!


「君の言う通りだ!こんな仕事辞めてやる。そして普通の一般的な仕事について平凡に暮らしたい」


「フフフ、私も今の仕事を辞めて違う仕事がしたかった。同じだね!さあ思い立ったが吉日、準備しなきゃだね!店員さんお会計〜!」


酔っ払いの彼女は危なっかしい千鳥足でレジで会計を済ませて店を出る。心配になり俺も彼女に続く。


ヒールを履いている彼女は、バランスを崩してながら歩いている。そして倒れそうになったところに、何とか間に合って体を支えた。


そのまま彼女は俺の胸に倒れ込み、俺の顔を見上げた。


「ちょっと飲み過ぎちゃったかも…。仕事辞めて何処か行く準備の前にひと休みしない?それとも、…私とじゃイヤ?」


これは夢なのか…。


数時間前までは清水の叱責を受けて、この世の終わりの様な気分だったのが、今は可愛い女の子に誘われている。きっと嫌な事かあったから良い事が起きたんだろう。


千鳥足の彼女を支えながら、俺は夜の街の中を歩いた。







しばらく歩くと、彼女が指定したホテルへ入った。中へ入って受け付けを済ませて、部屋へ入る。


彼女は部屋のベッドですぐに横になった。先に俺はシャワーを済ませて戻ると、彼女も少し回復したのか、その後シャワーへ向かった。


俺は緊張しながら彼女が戻ってくるのを待つ。本当にこれは現実なのか?と何度も思った。それにちょっと初めて会った人とこんなことをして良いのだろうか…。思いとどまりそうになったが、シャワーを終えて戻ってくる彼女を見て、その気は無くなった。



「お待たせ…」


一糸纏わぬ姿で現れた彼女は、俺の理性を吹っ飛ばした。



彼女はゆっくりと近づき、俺の体の上へ乗り、お互い体をなぞる様に触り合う。


そしてお互い顔を見つめ合う。彼女は頬がまだほんのり赤く、まだ酔いが覚めてない様だ。



「本当に良いの私とこんなことして…」


「誘ってきたのは君の方じゃないか?」



顔を輪郭を撫でる様に触って、彼女と唇を交わした。


1度唇を離して、見つめ合ってから再び唇を重ね、口を開けて舌を絡め始めた瞬間…



「…⁉︎」


何が俺の口の中に入った。唾液にしては量が多い。するといきなり、彼女は俺から離れてニカっと笑った。



「フッフッフッ…アーッハッハッハ!やった!やりましたわ〜清水様!」


なんだ⁉︎なんで彼女から清水の名前が⁉︎何が起こったか状況を理解できずにいると、彼女が喋り出した。



「その様子だとまだ自分の置かれた状況がわかってないみたいね。私も清水様への上納金が足りなくてね、申し訳無いけどあなたを売って不足分を補って貰います」


「俺を…騙したってのか…この野郎!」


立ち上がり、彼女を捕らえようとした瞬間…


「無駄です」


喉の奥から水が上がってきた。そして口と鼻、呼吸器官を塞いだ。息ができずに、俺はその場に倒れ込む。



「私の水魔法の水を飲み込んだが最後。生かすも殺すも私次第ですから」


呼吸が出来ずに苦しむ俺に、彼女は俺を見下し、足で俺の頭を踏み出した。


一矢報いてやろうと、彼女の足を掴み引っ張ろうとするが…


「だから無駄ですよ」


「⁉︎」


俺の頬から、鼻から水が勢い良く吹き出した。あまりの激痛に彼女の足から手を引き、顔を押さえる。頬からは血が流れ始め、手が赤く染まっていた。だが彼女の水が俺の体外に出た事によって呼吸が少し楽になった。


「はぁ、はぁ…俺を、どうする気だ⁉︎」


「先程も言いましたけども、あなたを売るつもりです」


「ふん、そうか、なら好きにするといい。何処でも行ってやろうじゃないか」


俺の魔法は火の魔法。そして相手は水魔法でかなりの使い手だ。勝ち目はない。ここは大人しく従っていた方が、得策である。抵抗すると、今度は頬以外にも風穴が開くかもしれない。


「そうですか、では色んな所に行って貰いましょう。きっと素敵な持ち主にたどり着けるでしょう」


「何を言っているんだ?」


彼女の言っている意味がわからない。そんな俺を見下して笑っている彼女。そして、数時間前に会った彼女からは想像がつかない様な事を言い始めた。


「両目と骨や歯、肩や手などは大丈夫だと思う。心臓もきっと大丈夫だと思うけど、肺はダメね。さっきあなたから煙草の臭いがしたから。肝臓もお酒を飲んでそうだからなんとも…。まぁ少なく見積もっても上納金に当ててもお釣りがきますね」


「…」


俺は言葉を失った。彼女は俺の体を、臓器を売ろうとしてたのだ。俺を売るつもり…そのまんまの意味だった。俺を品定めする彼女は俺を人間だと思ってない。


このままだと確実に殺される。けども魔法が使えるこの世の中。こんな事が起こっても対応できる様になっている。



「ふっふっふ、だがこのまま俺を殺すつもりか?このホテルにも魔力探知機が付いているはずだ。これは今や建築基準法にもあって義務化されている。君が俺を魔法で殺せば、魔力探知機の記録を辿れば君が犯人だと特定できる」


「ふぅ〜…」


彼女がため息を吐いた。残念そうな、困った表情をして俺の方を見る。


やはり俺の思った通りだ!彼女は俺を殺さない、殺せないんだ!






「残念ながら、脳味噌は高く売れそうにありませんね〜」


「⁉︎」


彼女が残念がっていたのは俺の頭の悪さだった。


「何言ってんだ!お前が魔法を使ったら、魔力探知機に…⁉︎」


「気付くのが遅すぎます」


居酒屋を後にして、ここにたどり着くまでを思い起こす。このホテルは彼女が指定したホテル。だとしたら無いんだ。このホテルには魔力探知機が。


言うなれば、このホテルは魔法で人を殺しても証拠は無い。魔力探知機が無いんだから。



もう終わった…。何もかも。このまま俺は殺される。俺の魔法で、全魔力を出せばなんとかなるかもしれない!俺は魔力を右に集め始めた。


「クソッ!うぉぉぉー!」


「おっと!」


俺が集めた魔力と魔法も、彼女の水魔法に包まれ鎮火した。そして俺の頭も包み込んだ。


「私、人が苦しんでいるのを見るのが好きなんです。それも私が無防備で、あと一歩で私に届きそうなギリギリの距離で、足元で人が苦しんでいるのが、もう最高!」


彼女がなんか言っているが聞こえない。とにかく口を閉じて鼻を摘み、彼女の水魔法の水が入らない様にしていた。


「ああ、もう我慢できません!もっと苦しんで下さい!」


彼女の水は俺の頬の開いた穴から入ってきた。無理やり入ってくる水圧により、傷口が開き激痛が走る。そしてその激痛により思わず口が開いた。その隙に口の中へ一気に水が入り込む。



「あ〜イイです!イイですよ〜!」





数十分後、そのホテルの部屋には血だらけになった男性と、全裸で息を切らしている女性の姿があった。


「はぁ…はぁ、もう終わりですか。ではそろそろ仕事に戻りましょう」


彼女は得意の水魔法で身の周りの汚れを落とし、再度シャワーを浴びた。男性も彼女の水魔法で血を洗い流した。


シャワーから上がると、服を着替えて身嗜みを整えて、男性はベットへ横に寝かせた。


そして鞄から携帯電話を取り出し、とある人物へ連絡する。



「もしもし…はい、終わりましたので、宜しくお願いします。場所はいつものホテルで部屋番号は…」


用件を素早く伝え終えると、電話を切って部屋から出た。ホテルの玄関に出ると、黒いスーツにグラサン姿の体格が良い男性数名とすれ違った。おそらく先程電話してた相手の人間だろう。成人男性1人が入りそうな異様に大きいアタッシュケースを待っていた。軽く会釈して彼女は夜の街へ消えていった。

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