クズが最強の魔法使いに勝つ方法
俺と生徒会長。静かに向き合っていると、さすがに天野が止めに入った。
「ちょっと穂花ちゃん落ち着こうか?早乙女くんもあんな言い方は良くないよ」
「私は至って冷静だ。早乙女くんがやりたいと言ってきたんだから実験をやるだけだよ。あとお前の手助けはいらない、私だけで充分だ」
「俺も生徒会長の魔法を消してみたいんです。お願いです、やらせて下さい」
天野は諦めたように、ため息をついた。扇子を広げて顔を扇ぐ。
「仕方ないね、それじゃあ実験を始めようか」
俺と生徒会長は距離を取る。天野は俺達2人を見れる魔法館の隅に移動した。
早速生徒会長は魔力を右手に集め、それを地面につけた。すると横から身の丈くらいの筒状の岩のような物がゆっくりと出てきた。それは俺の方を向き、その筒の奥では何かが光っている。
「…⁉︎止めるんだ穂花ちゃん!」
何かに気づいて止めさせる天野。だが生徒会長は魔力を出し続け止める気配はない。
「早乙女くん、この筒の奥には今マグマを溜めている。火山が噴火する前のように、じっくりとゆっくりと…」
生徒会長の地面の下には、魔法館以上の大きさの魔力が感じられる。おそらくマグマだろう。それを一気に爆発させる気だ。それこそ火山の噴火みたいに。
横を見ると天野が少し焦っている様子だ。それ程までに凄い魔法なのだろう。
「よし、そろそろいいかな?早乙女くんは凄いね。普通ならこれだけのマグマを溜めたら、溶岩から発せられる魔力で平常を保ってられないはずなのに、そうも平気な顔をしているとは、正直感心したよ。それに危なくなったら、きっと天野が助けてくれると思うし安心するといい。あとはこの私の魔法を君の魔法で消してみな!」
凄い地響きを鳴らしながらマグマが上がってくる…。
「穂花ちゃん!」
天野の掛け声も聞こえてないようで、魔法が止まる事はない。
筒からマグマが飛び出してくる。もの凄い熱と光を出しながら。俺の魔法を消す能力は一瞬しか使えない。今目の前のマグマを消しても、地下から上がってくるマグマは、どうしても当たってしまう。ならば…
「…………えっ⁉︎」
まず最初に生徒会長が声を漏らした。驚くのも無理はない、目の前で自分の魔法が一瞬で消えてしまったのだから。魔法館内には、今そこに確かにマグマがあった事を伝えるように生暖かい空気が漂っていた。
「やっぱりこうなったか…。だから止めるよう言ったのに…」
生徒会長はその場にストンと座り込んだ。彼女からは魔力は感じられない。どうやら全ての魔力を使い果たしたようだ。
俺が生徒会長の魔法を消したカラクリは至って簡単。目の前のマグマだけではなく、地下のマグマごと一緒に消した。
「天野会長は、俺が生徒会長の魔法を完全に消せると思っていたんですか?俺のことは全く心配してなかったですね」
「ん?穂花ちゃんに魔法を止めるように言ったのに、何故そう思うのかな?」
「普通なら危険に晒されている方の人の名前を呼ばないですか?天野会長は生徒会長のことしか呼ばなかったですよね?」
「やれやれ、意外にも君は鋭いところ付いてくるね…」
天野は扇子と取り出し、顔を扇ぎながら歩き出した。
「キメラの総魔力量は、混合型なら混合されてる属性の数の自乗の数に相当する。穂花ちゃんなら2種類だから常人の4倍、君は4種類だから常人の16倍の魔力量を持っているはず。だから、例え僕が加勢したとしても君に敵うわけがないのだよ。見ての通り穂花ちゃんは魔力使い果たして、多分今日はもうダメだよ。メンタル的にもね」
「俺が…そんな量の魔力を…?」
「まぁでも今の君の魔法を見たら、全く使えこなせてないみたいだね。目の前と地下のマグマを一瞬で消したのは力加減ができず、全力でしか魔法を使うことができないから。1日に2回も使ったことないみたいだね」
流石は天野会長…なのだろうか。俺の中で天野会長に対する評価が変わりつつある。
「あと、君は消したい魔法と消したくない魔法を分けて消すことができない。万が一にも危なくなったら君を助けようと僕は魔力を君の周りに纏わせてたんだが、見事に全部消してしまったからね。ほら!大丈夫かい⁉︎穂花ちゃん」
天野は生徒会長の前に立ち、彼女の手を取り立たせる。良く見ると彼女の頬が濡れていて、次の瞬間ガバッと天野に抱きついた。
「天野ぉ〜なんで私の魔法全部消えちゃったの〜⁉︎ねぇなんで〜」
泣きながら天野に抱きつき、叫ぶ生徒会長。普段の様子からは想像できないことが目の前で起こっている。そして困った顔で天野は俺の方を見てきた。
「こ、この様に穂花ちゃんはプライドが高いくせにメンタルが弱くて、こうなるともう今日1日はダメな状態になる。だから君も穂花ちゃんにケンカ売るような事は言わないように…」
「ねぇ!天野ぉ〜、ちょっと聞いてる⁉︎なんで私の魔法が消されたの?これから毎週日曜日に昔みたいに特訓したら魔法消されないようになるかな?ねぇ?」
生徒会長に肩を掴まれゆさゆさと振られる天野。そしてそのまま押し倒されて、慌てふためく天野を完全に抑え込む生徒会長。これ以上は見てはいけないような気がした。
「待って!ほら早乙女くんが見てるよ⁉︎」
一瞬だけ俺の方を見る生徒会長。そして視線を天野に戻す。
「いいんじゃないの別に。いつも私の事を穂花って呼んでくれて、みんなの前では恥ずかしくて怒っちゃうけど、本当は嬉しいんだから。そういう風に呼んでくれるのは天野だけ。そして昔は魔法の特訓にも付き合ってくれたし…」
「いやいや良くないでしょ⁉︎早乙女くん助けてよ!」
俺はもう既に魔法館の入り口に移動していた。そして魔法館のドアと閉じながら…
「お2人でごゆっくり〜」
と言って、魔法館を後にした。
そして、誰もいない学校を歩き周る事にした。いつもと雰囲気が違う学校。物音ひとつしない静かな校内だが、みんなの微かな魔力は漂っている。
各クラスの教室や、違う学年の階など歩き周り、充分堪能した頃に誰かがこちらに来る足音が聞こえた。
「誰かいるのか⁉︎」
その足音の主は叫んだ。俺はこの声に聞き覚えがあった。確かこの学園の教師だ。
「早乙女大知です!」
「早乙女…お前か、脅かすなよ」
その声の主が、廊下の曲がり角から姿を現した。正体は片野先生だった。近くの教室に入り、綺麗に並んでいる椅子に2人で適当に座った。
「魔法の特訓してたんじゃないのか?」
「それが、生徒会長と天野会長が…」
「あぁ、なるほどな」
全部を言わなくても察してくれた片野。この人はあの2人の事を良く知ってるかもしれない。
「天野会長は一体何者なんでしょうか?」
「なんだ、本人から何も聞いてないのか?一言で言えば研究熱心な奴かな、あいつは」
「先生は知ってるかもしれないですが、天野会長はキメラなんです。なんで周りに隠すような事をしてるんでしょうか?」
「その事も知ってるのか、なら話は早いだろう。目立ちたくないからさ」
見た目や立ち振る舞いからして、どう見ても目立っていると思うのだが。俺が疑問に思っていたが、片野は続けた。
「お気楽で魔法研究同好会という名の遊んでる集団にいて、みんなはどう思うだろうか?だらしない奴とか、魔法研究部に負けた集団とか思っているはずだ。そこが天野の狙いだよ。その為、誰も天野本人の魔法の実力に注目しようとしない。そして彼が本当にやりたい魔法の研究とは、キメラとして魔法をコントロールすることだ。注目されてない環境だからこそ、彼はキメラの魔法の研究に取り組めるんだ」
片野の話を聞いても、俺はまだ完全に納得できてなかった。
「それなら、魔法研究部に入って毎日魔法館で研究すれば良かったんじゃないですか?」
「それじゃ意味無えのさ。わからねぇか?あいつがキメラとして魔法の研究をしてたら周りの奴らはどう思う?研究部にも研究部なりのやり方ってのがある。それを無視されるってんならいい気はしないだろう。要するに天野は1人で魔法研究ができれば、それで良かったのさ」
「全ては天野会長の思惑通りってことですか…」
俺が天野に対して抱いていた不安も、魔法研究同好会が研究部と比較されているのも、計算の内だった。ここ数日のモヤモヤが解消された。残るはあと1つ。
「天野会長の、本当の魔法の実力はどうなんですか?」
「あいつは、俺が思うに学園内で1番の使い手だ。まぁ魔力は紅蓮に劣るがな。ちなみに天野がキメラってのは内緒の話だからな。知ってるのは俺と校長と紅蓮とお前だけだ」
「片野先生、ありがとうございます。俺ちょっと安心しました」
「そうか、ならそろそろ魔法館に戻った方がいいんじゃないか?」
「はい!」
俺の天野に対する疑問がほぼ解けた。これからは魔法研究同好会のメンバーとして頑張れそうな気がする。まぁ当分は日曜日にしか頑張れそうにないが。
教室から出て魔法館へ向かう。さすがにさっきの生徒会長の暴走は収まっているだろうとは思うが、念のため様子を見る事にした。
魔法館の入り口の前に着き、扉を少し開けて中を覗いた。
生徒会長が床に座っていて、その横に立っている天野。暴走は収まっているようだ。そのまま扉を開けて中に入る。
「すいません、戻りました」
「おかえり〜、さっきは良くも見捨ててくれたね〜」
天野が冗談っぽく言った。俺がどう答えていいかわからず困っているのを見て楽しんでいるようだ。
生徒会長は頬を赤らめて俺のことを見ていた。俺が視線を合わすと、すぐに逸らされた。そしてボソボソと話し出した。
「早乙女くん、さっきはすまなかった。見苦しいところを見せてしまった。私は落ち着いたので、安心してくれ。あと、さっき見た事は秘密にして欲しい…」
「秘密にするもなにも、みんなに話しても信じませんよ。生徒会長が天野会長を襲うなんて…」
「うぅ…入って1週間の新入生に、しかも私が弱味を握られるなんて…」
「まぁまぁ穂花ちゃん、いわばこの場の3人は秘密を共有していると言ってもいいんじゃないかい?それなら秘密をバラす真似なんてしないよ」
「それもそうか…はぁ…」
溜息を吐いて俯く生徒会長。慰める様に天野が頭を撫でていた。生徒会長の表情は見えなかったが、体が僅かに震えていて嬉しそうだった。
「それと早乙女くん、くれぐれも僕がキメラということは秘密にして欲しい。君が魔法館に戻った時の表情からして、なんかスッキリした顔してたから、おそらく片野先生に色々聞いたんだろう?今のこの環境が僕が最も研究しやすい状態ってのもあるけど、僕がキメラの中でも混合型と単独型の両方の性質を持っているという事。これがバレたら、僕はこの学園から去らなければならない」
「どういうことですか?」
「いいかい早乙女くん、君も僕と同じで、4種類の属性を持つ混合型のキメラと混合型と単独型の性質を併せ持つキメラは世界で見ればとても珍しい。おそらく研究所かなんかに連れてかれるかもしれない。そうなれば僕の研究は終わりだ。もちろん君も研究は出来なくなる」
「…わかりました。気をつけます」
「よし!では今日はそろそろお開きにするかい。穂花ちゃんも早乙女くんも魔力使い果たしてるし、早く帰ろうか」
「そうですね、魔力が無けりゃ魔法研究出来ないですもんね」
俺たちは荷物をまとめて帰る仕度を始めた。タイミング良く魔法館に片野も顔を出してきた。驚いた表情で彼は言った。
「なんだお前達、今日はもう終わりか?」
「まぁ2人とも魔力使い果たしちゃってますしね。僕だけだったらまだやるんですけど、今日はもう終わりにします」
「そうかそうか…」
片野は嬉しそうにニヤニヤしていた。毎週のように天野に遅くまで魔法研究に付き合わされてる身からすれば喜ぶのも無理はない。
片付けも終わり、校門前。片野が学校の最後の戸締りチェックを済ませ、解散となった。俺は1人で、片野は自分の車で、天野と生徒会長は一緒に帰っていった。
生徒会長は天野と帰る際、終始不安な表情。お互いに特に何話す事なく帰路を辿る。
「それじゃあね穂花ちゃん、また明日〜」
2人の帰り道が分かれる所。呑気に振り返って後ろ姿で手を振る天野に、生徒会長は足を止めさせた。
「待て天野!」
「どうしたの?」
「早乙女が…早乙女が魔界から魔獣の声を聞く可能性はないか?」
「…」
「早乙女は常人の16倍の魔力を持っているんだろう?ならば魔獣召喚ができる。魔界にはこの現界で暴れ回りたい魔獣がたくさんいるはずだ。そんな輩が早乙女に…」
「穂花ちゃん」
天野は振り返った。いつもとは違う真剣な顔をしていた。そして近づいてきて頭の上に手をポンと置く。
「心配しなくていい、彼は僕の魔法研究同好会会員だ。決して悲しい結末になる様な事はさせないよ。それに彼は常人の16倍の魔力を持っている。それなら安心だよ」
「…そうか、ならいいんだが。って!何勝手に頭に手を置いてんだ!」
「おっと!やっといつもの調子に戻ったね。安心安心、じゃあまたね〜」
呑気な天野に対して、生徒会長の紅蓮には、嫌な予感がしていた。早乙女の強大な魔力は使い方次第では危険な物になり得るだろうと。




