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キメラ

金曜日の6時限目。この魔法学の授業が終われば放課後、遊びという名の同好会活動を行い1日が終わる。また今日も魔法研究らしい事をしないんだろうなぁ〜と、俺早乙女大知は思っていた。


けど明後日の日曜日には魔法館で魔法研究を行う。その事を考えてモチベーションを保っていた。



「魔法は体内の魔生核で生成された魔力を元に発動されます。魔生核は種類が4種類あり、それが魔法の属性となります」


黒板の前ではクラスの担当教師、鬼嶋が魔法学の授業を教えている。魔法に熱心な生徒達は、この授業だけは真剣に聞いている。


「中には魔生核が2種類持っている人もいます。その人は『キメラ』と呼ばれ、それぞれ2種類の魔法か混合した魔法を使う事ができます。キメラは2種類の魔法を使える魔生核単独型と混合した魔法しか使えない魔生核混合型に分かれます。キメラは特徴として魔力量が多いです」


みんなが真剣に聞いているこの授業も、この学校に通う生徒なら誰もが知ってる内容だ。ちなみに俺は復習だと思って授業を聞いている。



「この学校にもキメラはいます。知る限りキメラは校長先生と生徒会長ですね。校長先生は単独型、生徒会長は混合型です」


鬼嶋が校内にキメラがいると言った瞬間、クラスメイトの集中力が一気に増した様な気がした。俺もちょっと驚いてしまった。


キメラはとても珍しく、混合魔法を使える数少ない存在だ。これまで魔法を混ぜるという実験は幾度と無く行われてきたが、魔力波長が合わないと混ざらないという結果になった。なので他人の魔法を、魔力を混ぜるというのは不可能なのだ。



「まぁ何でキメラの話をしたのかというと、キメラの双子が行ったある実験、魔獣召喚魔法は皆さんもご存知かと思いますが…」


魔獣召喚魔法は禁魔法として有名だ。というよりも普通ならば召喚魔法を行うこと自体が不可能である。


「魔獣召喚魔法には常人が持っている5倍の魔力を使用します。キメラの双子が、しかも魔力波長が良く似ていると魔法を混ぜることができ、魔力量も充分で魔獣を召喚することができました。ですがその結果…」



クラス全員が気になっていた。鬼嶋が結果を言う前に、生徒達は唾を飲み込んだ。



「召喚した双子は魔獣の圧倒的な魔力に気を失い、魔獣は周りの建物や施設を壊し、人々を襲い散らかして、燃え盛る建物と飛び散った血で街を赤く染め上げた後、魔界へ帰っていったようです」


シーンとなる教室内。魔獣召喚魔法が禁魔法なのは、今の話のように召喚された魔獣のコントロールが難しいからである。数秒の沈黙があった後、鬼嶋は話を続けた。


「要するに私が言いたかったのは、魔法は生活を豊かにするけども、使い方を間違えば不幸な結果にもなりうるという事です。皆さんも魔法の使い方には気をつけましょう」


鬼嶋の話が終わるとタイミングを計ったかのようにチャイムが鳴る。そして軽いホームルームを済ませて、放課後になった。先程の授業の沈黙が嘘のように賑やかな教室の中、帰宅する生徒、部活動へ行く生徒。委員会に所属して業務へ携わる生徒もいるが、俺は同好会に行き遊ぶ生徒だ。



「おう!早乙女、今日もお遊び同好会か?」


席を立ち上がり鞄を背負い込む俺に話し掛けてきたのは長谷部だった。彼は俺とは違って魔法研究部に入り、毎日魔法研究に励んでいるようだ。


「その通りだ、今日もみんなが頑張っている間に遊んでくるわ」


なんだかんだ俺は毎日同好会に顔を出している。そしてトランプやボードゲームなどを行い時間を潰している。本田達とファミレスで話した時から、まだ天野会長の事に関しては進展がない。


だが明後日の日曜日には、待ちに待った魔法館での魔法研究ができる。それをするが為に今は大人しく同好会で遊んではしゃいでいる。



長谷部と言葉を交わし、教室から出て廊下を歩き同好会室へ向かう。大体俺が一番乗りで、後から植田先輩が来て鍵を開ける。少しばかり談笑してお茶が入る頃に天野会長がやってくる。今日もその流れだろう。



同好会室のドアの前に着いた。ドアノブに手を掛け回して引くと、ガタガタと音がするだけで開かない。今日もいつもの流れだった。


数分間待っていると、植田が手を振りながらやってくる。


「ごめんね〜お待たせ〜!」


植田は慣れた手つきで同好会室の鍵を開けてドアを開ける。入るなり鞄などの荷物を置いて、コンロに水を入れたヤカンをセットして火を付ける。湯が沸くまで湯呑みと急須の準備をする。その一連の動作を毎回俺は見ることしかできない。


準備が整ったのを待ってたかのようにヤカンの湯が沸騰し、急須と湯呑みに注がれ、お茶が完成した。そして外で様子を見ていたのではないかと疑いたくなるタイミングで、同好会室のドアがガチャリと開いて天野会長がやってきた。


「やぁ〜皆さんお疲れ〜。今日もいつものように遊び…じゃない、活動しますか!」


胸ポケットにしまってあった扇子を広げて顔を扇ぐ天野。そして活動を遊ぶなどと失言したのにもかかわらず突っ込まない俺は、もう既にこの同好会に染まりつつあるのだろうか…。慣れとは怖いものだ。


「今日は何をするんですか〜?」


「うーん、今日は久しぶりに将棋でもしようか?早乙女くんは将棋わかるかな?わからなかったら今2人でやってみるから見ていて。一応これがルールだよ」


そう言われて天野は将棋のルールが書かれた紙を渡された。正直に言うと将棋のルールは知っている。


天野と植田は盤面に駒を並べ始める。パチパチと順調に並べていたが、ふと同好会室の外に人の気配を感じた。ずっと動かずにこちらを監視しているようだった。気になったので確認することにした。


「会長すんません、ちょっと外に出てきます。すぐに戻りますから」


「ん?そうかい、いいよ」


会長は楽しそうに将棋の駒を並べている。特に俺のことを気にしてる様子もない程にだ。


ドアを開けて、外に出る。そこに立っていたのは凛とした雰囲気の長い黒髪の女子生徒。実際に見なくても誰がいたのかはわかっていたが、こうして会うのは初めてである。


「あなたが…生徒会長さんですか?」


「ほう…、こうして会うのは最初のはずなのに、何故わかった?それとも天野の入れ知恵かい?早乙女くん」


彼女から発せられる魔力の属性が、通常の物ではないとすぐにわかった。多分キメラ特有の混合された魔力なのだろう。


「漂ってくる魔力が凄い魔力量でしたから、生徒会長なのではないかと。先程の魔法学の授業でキメラは魔力量が多いと習いましたので」


「確かに私は学園内で1番の魔力量を持っているが、他にも魔力が多い生徒はいる。なのに何故私だと?」


「っ⁉︎」


魔力超感覚の事を言っていいのかどうか…、迷って俺が黙っていると…


「まあいい、それよりも今日は君を見に来たんだ。あの天野が一緒に日曜に魔法館を使うって言ってきたから、気になってな」


「…そうですか」


会長を呼び捨てにするあたり、生徒会長とは親しい仲なのだろうか…?もしかしたら会長の事を詳しく知っているのかもしれないな。俺は聞いてみる事にした。


「生徒会長は天野会長の事を良く知っているんですか?」


「は…はぁ?」


「いえ、会長の事を呼び捨てにしていたので、親しい仲なのかと思いまして…。俺、本当は天野会長の事を信じきれていないんです。魔法を使えるようになりたいのに、こうやって遊んでばかりで…。この同好会に入って良かったのかなって悩んでいるんです」


俺の話を真剣に聞いてくれる生徒会長。話し終えた後、彼女はハッハッハと笑い出した。凛とした雰囲気とは逆な反応に俺は少し驚いてしまった。


「全く可愛い奴だなお前は、正直言って認めたくはないが天野の事は心配しなくていい。っていうかアイツ言ってなかったのか…」


俺の頭の上に手をポンポンと置く生徒会長。何を言ってなかったのかはわからないが、なんだが慰められているようだった。


「とりあえず、日曜は魔法館で研究するんだろう?その時に、きっと天野から説明があるさ。よし、そろそろ生徒会に戻らないとな。ではまたな」


「はい、ありがとうございました!」


振り返り後ろ姿で手を振る生徒会長を見送り、同好会室のドアを開けて戻る。2人はまだ将棋の真っ最中であった。


「おかえり〜」


「時間かかってすいません、戻りました!」


「いいよいいよ、そんなに気にしなくても大丈夫だよ!」


いつも陽気な天野会長だが、今は一段と陽気な気がする。そして肝心の盤上は意外にもか植田の方が優勢。


「…強いんですね、植田先輩」


「フフフ…今日こそは勝ちますよ会長!」


「簡単には勝たせないよ」


将棋を指している2人を見ると、ここは本当は将棋部ではないかと錯覚してしまいそうだ。さっきの生徒会長の言葉が本当なのかどうか…今の天野を見ると信じきれない自分がいた。しかも持っている扇子が似合い過ぎている。


数十分後…、結果は天野の逆転勝ち。植田は本当に勝ちたかったようで相当悔しがっていた。


「さて、早乙女くんも指すかい?どう一局?」


指す気など全くなかった。それよりも別にやれることがあるはずだと考えていた。なのに俺は何を思ったのか…


「是非一局お願い致します」


「お!いいねぇ!」


「ですが、もし俺が勝ったら1つ質問に答えて下さい」


天野の本当の正体を知りたい気持ちが勝ってしまった。手際よく駒を並べていた会長の手が止まる。


「早乙女くん、どうしたの?別に賭けなくったっていいじゃん?」


「では俺は飛車と角を落とします。これでどうです?」


ハンデとして強力の駒を2枚除外した。これなら勝負を受けてくれるだろう。




「…そこまでと言うなら仕方ないねぇ、じゃあそれでいこう。僕が勝ったら…今度購入するコーヒーサーバーの代金を少し協力してもらうよ」


「…わかりました」


俺と会長との勝負が始まった。不穏な空気に植田はどうしていいかわからず、あたふたしていた。

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