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クズの魔法使い

20XX年、人類はついに魔法を使いこなせるようになった。

一時は魔法を使った犯罪や暴動等で、世界各地で紛争が起こり、秩序が保てない状態が続いたが、科学の進歩により対魔法用の武器や防具、制御装置などで、犯罪や暴動を撲滅。世界は落ち着きを取り戻した。


それから数十年後。日本。

人類は、当たり前のように魔法を使い、日々の暮らしを豊かに、快適に過ごしていた。

だが、ここに魔法が使えない1人の男がいた。

名は早乙女大知。彼は幼稚園児でも使えるような魔法が一切使えない。その代わり、彼には魔法を消せる能力があった。


「おはよう」


今日から高校生。親に挨拶をしながら居間に行き、食卓に座る。朝の眩しい日差しが、朝食のハムエッグに反射して光っている。


「おはよう!今日から高校生だね」


親といい、ハムエッグといい、キラキラしてるのと裏腹に、自分は気分がすぐれなかった。


「どうしたの? 元気ないけど?」


親にこの話をするのは何度目だろうか…。そう思うとため息しか出てこない。


「今日から高校生。ってことは、また俺のことをバカにする奴が増えるかもしれないってことだよ!まぁ小学校と中学校もそうだったけどさ…。春休みで現実逃避してたのに…また今日から学校なんて…」


「そんなに嫌だったら、別の学校に行きゃ良かったじゃない。なんであの名門校の魔公学園に入ったんだか…」


「だから、それは魔公が卒業と同時に魔法免許が取得できるからだって説明してるでしょ…。他の学校だと取得するのに実技試験は避けては通れないからさ」


この世界では、高校生卒業と同時に魔法免許の取得が義務化されている。この魔法免許があれば、日常でも自由に魔法が使えるようになり、免許が無く魔法を使用すると、街中にある魔力探知機に引っかかり、すぐさま補導されることになる。

高校に入り、魔法の正しい使い方を学んで、世に送り出すって考えらしいが、魔法が使えない俺にとっては魔法の正しい使い方なんて学んでも学んでなくても、どうでもいいと思っている。だが義務化されているなら、そんな俺でも避けては通れない。


「まぁ、とにかく頑張って受かった学校に行けるんだからさ、これからも頑張って行きなよ」


「わかったよ」


魔法が使えない俺が、なぜ魔公学園に受かったのか。答えは単純だ。魔法以外で頑張ったからだ。自分で言うのも気がひけるが、勉強や運動は努力すればそこそこできる方だ。この世界が勉強や運動だけで評価されるといいなと思った事がどれだけあった事か…。勉強や運動が出来なくても、魔法が使える方が世間の評価は高い。


「はぁ、そろそろ行ってくるよ」


朝ごはんを食べ、登校の準備をする。顔を洗い歯を磨き、鏡を見て寝癖を直し、制服に着替える。


「行ってらっしゃい!」


母親が玄関まで迎えてくれた。家からトボトボと、元気無く歩く俺は、誰が見ても今日から高校生一年生の入学生とは思わないだろう。


10分ほど歩くと、前に見覚えのある姿があった。金髪ロングの髪型に、ミニスカと着崩した制服。両耳にイヤホンを付けて不機嫌そうに歩いてる女子高生。

彼女は、魔公学園の入試の魔法実技試験で、とんでもない魔力で、その場の人達を圧倒させた。おそらく魔法だけの評価なら、魔公入学生のトップクラスだろう。制服を見たあたり、魔公に合格したみたいだ。


「…」


何あったのだろうか?彼女が立ち止まっている。近づいて行くと、彼女の前に2人の男性が立ち塞がっていた。


「ねぇねぇ君高校生? 学校なんて行かずに、俺たちと遊びに行かない?」


「…」


全く…こんな時代にもナンパがあるなんて。しかも、こんな朝から、登校中の女子高生に対してだ。彼女は無視して、通り抜けようとする。


「シカトしてんじゃねえよ!」


男は彼女の腕を掴んだ。


「こう見えても、俺は魔法には自信あんだぜ。痛い目にあいたくなかったら、大人しくしな!」


彼女は男に引っ張られた。だが次の瞬間、彼女は腕を振りほどき、イヤホンを抜いて男達をキッと睨みつけた。


「私に手を出したな?」


男達は一瞬びっくりして止まっていたが、再び勢いを取り戻す。


「手を出したら何ですかー? まさか君も魔法で俺逹を懲らしめようと思ってるわけ? 無理だよね〜、そんなことしたら…」


突然男は喋るのを止め。俺も含めて、男達も感じていたようだ。彼女から発せられる魔力がだんだんと大きくなっていくのを。周りの電柱に設置されている魔力探知機が動き、彼女にレンズを向けた。


「どうした? 続きを言ってみろ? 魔法免許がなくったって、魔法は使えるんだぞ? その後がどんな罰則があろうか知らんけどな。それに、私が魔法免許持ってないって証拠はあんのか?」


「な、なに言ってやがる! お前はまだ高校生だろ⁉︎ 魔法免許は高校卒業しないと取れないんだぜ!」


「確かに私は高校生になったばかりだ。けどお前達も感じてるだろ? 私のこの魔力。私は幼い頃より魔法の訓練をしてきた。実力で言えば、そこら辺の魔法免許取得者よりも腕は上だ」


「だからなんだって言うんだよ!」


「私は実力で、既に魔法免許を取得済みだっていうことだよ!」


彼女の周りの空気が、熱気で揺らぎ初めた。男達は目に涙を浮かべ、土下座しながら謝った。


「ごめんなさい! まさか魔法免許取得者だとは分からなくて! すいませんでした!」


「まさかお前達、女子高生達にこうやって魔法使えない事につけ込んで色々と悪さやってたんじゃないのか? 土下座だけで見逃せってのか?」


「本当勘弁して下さい!」


「じゃあさ、お兄さん達いくら持ってるの?」


「えっ⁉︎」


流石にこれ以上は俺が見過ごせなかった。彼女に近づきながら、彼女の名前を思い出す。確か彼女の名前は…


「おーい雛形! 早くしないと遅刻するぞ〜!」


「えっ⁉︎ ちょ、なに⁉︎」


俺は彼女の腕を掴み、共にその場を走り去った。男達もすかさず逃げ出した。それを確認して走るのを止め、安堵の溜息をついた。


「ちょっと、いつまで掴んでんの?」


「あっ! ごめん」


「ったく、せっかくいい小遣い稼ぎできると思ったのによー。どうしてくれんの?」


「あのまま小遣い取ってたら、無免許で魔法使うよりも、もっと厳しい処罰があったと思うけど?」


「ふうーん、あんた私が免許ないの気づいてたんだ。」


雛形は自分の髪を指でクルクル巻きながら、薄ら笑みを浮かべる。


「魔法免許取得者は、国にその人特有の魔力波長が登録される。街中に設置されてる魔力探知機は、主に国に登録されてない魔力に対して反応する。雛形さんが免許取得者なら、魔力を放出したくらいで、あんなに魔力探知機がグルングルン動くはずがないんだよ。」


「なるほどね、けどびっくりしたわ。早乙女くんだっけ?その制服…あなた魔公に受かったのね。入試の魔法試験のアレは本当なの?本当なら納得できないんだけど」


俺は入試の魔法試験で、周りの生徒は魔法を発動してる中、全く魔法が使えなかったので、ある意味この彼女と同じくらい注目を受けていた。


「魔法が使えないのに受かったってことか。俺も何故かは分からない。けど俺は魔法が使えない分、他のことで努力をしたさ」


「そうだったんだ…。私も同じかな? 勉強が苦手だから、それ以外でって感じで、魔法ばかり訓練してさ。早乙女くんの気持ちもわかるよ」


俺は嬉しかった。以外にも、こんなギャルが俺の気持ちを分かってくれたこと。小学、中学と、バカにされた毎日だったが、高校からは違うんじゃないかと期待していた。


「ありがとう! 俺は早乙女大知、よろしく!」


「私は雛形奏、よろしくね!」


そのまま雛形と学校まで一緒に行くことになったが、学校に着く直前、やはり俺は高校生活も今まで通り違わない生活を送ると確信してしまった。

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