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相棒はお前だけ!  作者: 沽雨ぴえろ
3/5

断れない依頼





りりりーん



りりりーん




「…ん?」



綺麗な鈴の音で目を覚ます。どうやら昼飯を食べてそのまま寝てしまっていたようだ。

しかしあの音色はなんだ?あの鈴の音はギルドから招集がかかった時に送られる魔術だ。

なにか送られてきているはずだと、きょろりと目を動かすと、何も無かった目の前に手紙が落ちてきた。これだ。

手紙を引っ掴み、ペーパーナイフなど使わずに乱暴に破り開ける。中から声が漏れてきた




『こんにちわぁコアちゃーん、ゴメンねぇいきなり!ちょーっと大事な話があるから、急いで来てね♡』


「………………」



私はマナさんののんびりとした声を聞いてため息をついた。あの人がちょっと、というのはどうしても信用出来ないからだ。毎回滅茶苦茶大事なものだった。

私はこめかみを摩って上着をとった。急いで行かなきゃ怒られるな、これは。











■■■■■






「……いらっしゃぁーいコアちゃん」


「…マナさん、なんのお話ですか?また指名ですか」



またもや緩い声で挨拶をしてくるマナさんに顔を引き攣らせながら、質問をする。大抵が依頼の指名なのだが、今回もそうだと鷹をくくって聞いてみた。

案の定そうだったらしく、マナさんは頷いた。



「そうなのよぉー、コアちゃんに指名依頼よぉ」


「そうですか。…で、どんな依頼で誰からですかね」



するとマナさんは珍しく眉を八の字にした。私はそれを怪訝に思い、思わずヤバイ仕事なのかと感じてしまった。すいませんマナさん。

マナさんは困ったように笑って、右手で頬を押さえた。



「実はねぇ、私も知らないのよぉ」


「…はぁ?」



思わず素が出た。仕方ないとおもう。受付が依頼主や依頼内容を知らないなどあり得るのだろうか?

私が疑惑の目を向けると、マナさんはギルドの奥を指さした。



「マスターがいるわ。奥にどぅぞぉ。今回は何かヤバそうねぇ」


「……マスターが説明してくれるってなったら、相当大事じゃないですか…」



やはり、マナさんのちょっと、というのは信用出来ないな…。

私は眉をぎゅっと寄せながら、マナさんに言われて奥のマスターのいる部屋に足を進めた。



「マスター、コアです」


「おう、来たかぁ」



入れ、と促され、ドアノブを掴み、押し開ける。

中には深緑のなんの革で出来たか分からない三人掛けソファが向き合った形で二つ、その間に低い背のテーブル、壁際に本棚がいくつかで、窓はない。



「掛けろ掛けろ!紅茶はいってっから!」


「失礼します」


「…あーん?お前、いつからそんな他人行儀な言葉遣いするようになったんだァ?お前はいっつも俺を敬わなかったってのによ!」



元々私の口調は荒い。マナさんのようなほんわかした女性には敬語になってしまうが、基本マスターでも荒い口調のままだった。

しかしだ、その依頼に変な予感しかしない私は少なからず緊張をしていたのか、自分でも気付かなかった。

私は一口紅茶を飲み、マスターに苦笑を漏らした。



「…あー、美味い。いや、ちょっと緊張してんだよ。あんたがこっちに私を呼ぶからさ」


「あ?あー、まあな、そりゃあこの依頼内容と依頼主を大勢の前で言うのは、俺もたばからぁな」



やはり大事だ。私はスッと目を細めマスターを睨む。

私はこれでも偽名を名乗りながら活動している。特に理由は無いが、敢えていうなら使い分けていた方が便利だと、以前両親に言われたからだ。

しかしそれも潮時か。



「…で、誰なんだよ、依頼主って?」



はっきり言えば、大事なら請けたくない。面倒臭いし長期に渡ることが多いからだ。まぁその分報酬はデカイが。

マスターは指をパチリと鳴らすと、何処からともなく巻いてある手紙を取り出した。

しかしだ。マスターが何かを言うより早く、私は気付いてしまった。



「……おいおいおい、ちょっとまてよマスター…それ王家の蝋じゃないのか?!!」


「おっ分かったか?さっすがコアだな!聞いて驚くなよ、依頼主は王家、もとい国からだ!!」


「驚くに決まってんだろうが糞野郎がっ!!断るの不可能じゃん!!!」



チラリと見えた蝋は王家を表す太陽を型どったものだった。一発で王家って分かるソレに、私はつい怒鳴ってしまった。

それに対して余りにも楽観的なマスターに軽く殺意を覚えた。仕方ない、これは不可抗力だ。

私は両手で顔面を覆い、項垂れつつ半腰になっていた体をソファに沈めた。



「最っ悪……厄介事にしか思えない」


「まぁ聞けって!ほれ!!」



マスターは私に手紙を押し付けてきた。開けば最後、音声を届ける魔術によって依頼内容が分かってしまい、依頼を請けたことになってしまう。

が、どのみち国からの依頼を断れるはずもなく、私は渋々手紙を捲ったのだった。



『ギルド所属のコア殿とお見受け致します。貴女の噂は常々聞き及んでおり、貴女のその能力をかい、依頼をさせて頂きました。

依頼内容は隣国との和平交渉の場での護衛、そして近頃一般人にも噂の広がる合成獣疑惑のある魔物の調査です。色良いお返事を期待しております』



「…断れねえって知ってる癖になんだよこいつは!しかも二つもかよ!!」


「そう怒るなって!どっちにしろ断れねえし、報酬も凄ぇだろ!!」


「そうは言ってもな…私につとまんのかこの依頼…」



と、弱音をはけど事実は変わらない。受けなければならない。

私は重い重いため息を深く深くつき、どんよりとした空気を醸しつつ立ち上がった。



「いつ行けばいいんだよ」


「明日」


「くっ…向こうも断れない事を前面に押し出してるな…依頼ギリギリじゃねーか……!!」


「ま、今回ので旅の費用は十分になるんじゃねえか?もっとプラスに考えろよ」



私はマスターみたいにそこまでポジティブにはなれないんだ!そう叫んで部屋を出る。

明日の準備をしないといけない。と言っても、ギルドに所属する者は正装なんてない。パーティなら用意するが、今回の様な護衛や戦闘が予測される依頼の場合、動きやすい普段の服装で良いとされる。

それでも少しでも綺麗な服を着ようと思い、家に着くと新しい服を下ろした。

暗殺者のように動きやすい服装だ。白いものは無い。黒や濃い青だ。

他にも大事な剣を念入りに磨いたり、髪の毛を整えたり。流石に身だしなみは整えておかないと色々と失礼だからな。

私は明日の準備を一通り終えると、飯も食べずにそのまま眠る事にした。

お腹いっぱいだとぐっすり寝てしまうから、朝沢山食べるのだ。


あぁ、緊張する。そんな事を思いながら、私は夢の国へと飛び込んだ。







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