英雄の最期
「ルディ!!」
私は相棒に手を伸ばした。
神秘の紫の瞳が私を捉えた。
なにをしている、手を取れ!
いつもなら、私はそう怒鳴りたかった。しかし、今はそれが出来ないと分かっていた。
だから、名を呼んだのだ、手を伸ばしたのだ。
この最悪の状況下で、私だけはお前の最期を知っていると、知らせるために。
「コアロ!!」
あいつもそれを分かっているのだろう、私同様、届きもしない距離にありながら、手を伸ばす。
私たちは互いに最期を看取り合う。
私達より少し離れた場所には、世界を脅かしていた魔物がいた。
今はもう居ないが、その個体の強さゆえに魔王と呼ばれた自我のある強力な魔物だった。
国から依頼を受け、私達は魔物を倒す旅に出た。
結果として倒すことは出来たが、共倒れとなった。
最後の最後で、ヤツは魔力を振り絞り、私の両足と脇腹、相棒の肺と同じく両足を持って逝った。
私達は出血多量と身体の激しい損傷で死ぬだろう。
現に、既に視線が定まらなくなってきた。
私は伸ばした腕をそのまま大地に下ろした。相棒も私を見て伸ばした腕を下ろした。
「ルディ、そういえばお前、酔っ払って王城を一部破壊したことあったよなぁ!」
「うるさいよコアロ!君だって泣きながら剣振り回して貴重な植物ダメにしただろ!」
私達は今まであった面白おかしいことを言い合って、最期の時を笑っていけるよう、笑いあった。
次第に、私の視力が落ちてきた。
どんどん目の前が灰色がかって、黒に近づく。
「おい、ルディ」
「なに」
「ちょっと、私の身体、もう駄目みたいだわ」
「そう」
「ルディ」
「なに、コアロ」
「先、逝ってるわ」
「…あぁ、僕も、すぐ逝く」
私は最後、動かしにくい筋肉を総動員して動かし、ルディに笑いかけた。
上手くいったかは分からない。けれど、満足のいく最期だった。
「またな、ルディ……」
「またね、…コアロ」
後にこの話は、我が国で知らぬ者はいない悲しい英雄の物語として語り継がれる。