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クミンズ(前)

 





 マヤに連れられたユキオとルミナはコクピットルームでパンサーチームの新しいメンバーを紹介された。


 (なるほどな)


 とユキオは一瞥して、カズマの言っていた感想を思い出す。


 「宋堂ソウジロウです、よろしく」


 丁寧に話すものの、態度はでかい。一言で言うなら慇懃無礼という奴だ。


 背は低く小柄だが自信に満ちた顔をしている。丸めの顔に丸いメガネ。その奥の小さくつぶらな眼にきっちりと刈り揃えられた髪がいかにもお坊ちゃま風に見える。


 「ウチに弾薬を卸してくれている宋現重工の社長さんの息子さんでね、新型武器の試作なんかもしてる優秀な技術も持っているけど実際の戦闘経験も積みたいという事でこの度パンサーチームに臨時参加という事になったわ。シミュレーションの成績も高い期待の新人ってトコね」


 マヤがそう紹介するが、ソウジロウと紹介されたその少年(一個下らしいが、知らなければ中学生に見えていたかもしれない)の態度を前になかなか親しくなりたいと言う気も起きない。


 「よ、よろしくね」


 多少引きつった笑顔でそう挨拶すルミナにならって、一応言葉だけでもと口を開いたユキオの前にソウジロウがずかずかと近付いた。下から半ば見定めるような視線を突きつける。


 「あなたが玖州さん?」


 「あ、ああ」


 「ボクの作った『Nue-04x』をボロボロにした?」


 そうだったのか、とユキオは内心少し驚いた。子供が作ったにしては大した性能だが、ユキオには苦すぎる因縁の機体だ。なにより、その言い様が許せるものではない。


 「好きでやった訳じゃない」


 「もっとうまく使えば壊れもしなかったし、より戦果も上げられたでしょう」


 挑発的に断定するソウジロウの言い様に温厚なユキオも堪らずキレ気味になる。


 「偉そうに言う前にもっと頑丈で使いやすいように作っとけよ!」


 「試作中の物をいきなり使わせろって無茶言うほうが悪いんじゃないか!」


 「俺が言ったんじゃねえ!だいたい開発やってた奴がトレーサーできんのかよ」


 「試作機をガラクタにするような人に負けはしない!」


 「言ったなテメエ!」


 ヒートアップする二人。それを止めようとするルミナの肩をマヤが掴んで制止した。


 「ちょっと姉さん、このままじゃ……」


 「まぁまぁ、オトコノコなんてこんなもんだから。もうちょっと様子見ましょう」


 二人の話はいつの間にかシミュレーションでの決闘でカタをつけるという事になっていた。


 「実戦経験も無いくせにデカイ口叩きやがって!」


 さんざんな言われように憤慨しながらユキオがスロットに『5Fr』のメモリーキーを差す。いつもの起動画面をチェックしている横から、スピーカー越しにソウジロウの声が聞こえてきた。


 「そんな一世代前のWATS一機で、僕のマシーンの相手が出来ると思うんですか?」


 「どうせ子供のオモチャだろ」


 「実際見てから泣いて謝ったって、遅いぞ」


 (生意気な!)


 実績も無いくせに!とユキオは内心で言い捨てる。どんなWATSを持ってこようと歴戦を潜り抜けた自分と『5Fr』に敵うような操縦スキルは無いだろうと高を括っていた。 


 「シミュレーション、開始デス」


 シータの声に正面モニターを見る。暗闇の向こうから現れたのは意外なシルエットを持つマシンだった。


 「なるほど、自慢げに持ち出すだけはあるようだな」


 予想外、異形のWATSが宙に浮かんでいる。いや、WATSというカテゴリーに当てはまるのかもわからない。それは人型では無かった。WATSの上半身のようなユニットを中心に両肩から巨大なコンテナが左右に接続されている。コンテナの下部には長く伸びるパーツがあり、下半身にあたる部分には奇妙なスタビライザーらしき装備がある。


 「どうだこの『トレバシェット』、そんな骨董品で倒せるようなスペックじゃないぞ」


 「能書きはいい、かかってきな」


 『5Fr』の右手を、クイっと挑発気味に振ってやる。このォ!とソウジロウは大型マシン『トレバシェット』を舞い上がらせた。


 (浮遊型の火力キャリアーと見たが!)


 ユキオもシールドを構える。と『トレバシェット』のコンテナの蓋が二つ開いた。連装ミサイルポッド。爆発でも起こしたかのような白煙と共に無数の小型ミサイルが群れを成して『5Fr』に襲い掛かる。


 「逃げられないぞ!」


 「安直なんだよ」


 20発以上のミサイルは次々と『5Fr』の周囲で火球を生んだ、が、寸前に展開したバリアツェルトがその全てを阻んでいる。バリア発生用の細いアームをパージし、更に回避行動に移ったユキオをソウジロウは慌てて追った。


 「逃がすか!」


 ギィィィィン!!


 コンテナの下、強化アームに併設されているレールガンが連続して火を吹いた。トレーニングモードの碁盤の目状にラインの引かれた白い床ごと『5Fr』を貫こうと襲い掛かる。しかし、ユキオはギリギリの距離でそれを回避し続けた。右に、左に『5Fr』がステップを踏むたび空しくその後に弾痕が刻まれる。


 「どうした、機械相手じゃなきゃ当てられないのか?」


 「お前こそ、そうやって逃げ続けるつもりか!?」


 「そこまで言うなら」


 ユキオの太い指が冷静にウェポンセレクターを回す。右肩に載せられた砲身、PMC砲が『トレバシェット』に狙いをつけるのを見て今度はソウジロウが回避行動に入る。


 ギュィィィィィイイイイイ……ン!!


 耳障りな金属音と共に灼熱の粒子砲が照射モードで発射される、がソウジロウは間一髪それを避けきった。


 「ハッ、ハハッ!自分が作った武器で、やられるものかよ!」


 「なら、これはどうだ!?」


 ユキオがトリガーを引いたまま、ターゲットスティックを傾ける。PMC砲が照射を続けたまま角度を変えた。輝く灼熱の帯は、そのまま炎の刀のように火の粉を散らしながら『トレバシェット』に振り下ろされた。


 「な、なにぃっ!!?」


 粒子砲が右側レールガンに接触し、砲身を融解させ切り落とす。


 「お前っ!そんな事をしたら砲口が焼けて使い物にならなく……!」


 「戦場でそんな事を言っている余裕があるのか?」


 「ふ、ふざっ!けるな!!」


 バランスを崩した『トレバシェット』が、傾きつつ機銃斉射を始める。さらに別のコンテナが開き中に格納されていた大型バズーカをサブアームが引き出した。ユキオも右腕を『トレバシェット』に向ける。2連装ビームガンから黄金の矢が空を切った。


 「弾頭を!?」


 ユキオは的確にバズーカ弾を撃ち抜いて爆発させた。その炎に飲み込まれ続く弾頭が連鎖爆発を起こす。至近距離の高熱と激しい光を避けるためにソウジロウは機体を引き、高度を上げようとするがその上空で轟音と共に衝撃波が起こり『トレバシェット』の機体を揺るがせる。


 「なんだ!?」


 「インパクト・ボムだ。既存の機体の装備くらい、知っておくんだな」


 スピーカーからユキオの声が聞こえると同時、不安定な『トレバシェット』の上部にジャンプした『5Fr』がのしかかり地面に叩き付けた。


 「ぐぅあっ!」


 「マシンのスペックだけが頼りで、このザマじゃあな」


 2連ビームガンの砲口を『トレバシェット』に向け、ユキオは勝利宣言をした。が、彼にもまた傲慢さがあった。


 グゥオオオン!


 コンテナの下に残っていた方のレールガン付きのアームがしたたかに『5Fr』の側頭部を打った。フィードバックしたダメージにユキオが眼を回す。


 「ぐっ!」


 「確かに、油断は禁物だよな!」


 「コイツ!」


 「やるか!」


 二人のマシンは、そこから見るに耐えない泥試合へもつれ込んでいった。











 暗く、しかし広い部屋の中に、ゴウン、ゴウン……という重苦しい音が微かに響いている。大型のエンジンが隔壁越しに鳴らす、巨人の胎動のような音だ。


 部屋の中央、巨大な白い円卓がその中に浮かび上がっていた。何人かの人間が席についているが、あまりに暗くその表情はおろか服装も判別がつかない。


 「……アタリが付いているのなら、なぜ回収できん」


 その中の一人が、理解できんと言わんばかりにそう言った。向かいに座る別の一人がそれに答える。


 「ニホンは気を使わないとすぐアシが付きますよ」


 「面倒な国だよ、全く……偽善者しかいない偏屈な島国だ」


 「あそこにも大口のスポンサーはいますからな」


 「だが、数としてはさほどのものではない。あのプログラムと天秤にかけられるようなものではあるまい」


 別の席の男がグラスの飲み物に口をつけてから卓上の小さなコンソールに指を伸ばす。円卓の中央にいくつかのプロジェクションディスプレイが浮かび上がる。それは、ある企業体の活動報告書だった。


 「我々も成り行きに任せているわけではない。米国の会社に潜入させて奪取を図った」


 「まんまと追い返されておまけに裁判沙汰ではないか。社員も見切りをつけて次々逃げ出しているのだろう?」


 半ば罵るような声を、別の一人が嗜めた。


 「海兵隊の協力など想定できるわけもなかろう」


 ゴウン……ゴウン……。


 部屋が、時折ゆっくりと揺れはじめた。


 「……嵐が近いのか?」


 「大した事はあるまいよ。この『シャントリエリ』にはな」


 それまで沈黙を保っていた一人が、重苦しい口調でそう告げた。声に深みがあり、そしてその場の誰よりも威圧感が含まれている。


 「『エージェント』を送れ」


 「……他に手は無いようですな」


 中央のディスプレイが切り替わり、若い、青年と少年の間のような年頃の男の写真と経歴が映し出される。


 黒髪、そして暗く日焼けした肌。感情の無い瞳もまた夜のように黒い。


 ゴウン……ゴウン……。


 脳の奥まで震わせるようなその響きの中で男達は黙ってそのディスプレイを見つめていた。


  






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