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伶人草(中)



 『Nue-04x』


 <センチュリオン>次世代飛行型WATS試験機


 最大速力 351km/h


 武装

  ヴァリアブルパワードカノン 一門

  レーザーソードガン 一基

  二連ビームランチャー 二基

  スローイングレーザーダガー 6本

  


 増加する飛行型のマイズアーミーマシンに対抗すべく、<センチュリオン>開発陣が民間会社の協力を得て製作した新たな飛行型戦闘用試験WATS。

 『ファランクスAs』のデータを参考にしているが、『As』とは違い専用のフレームから新規に設計されている。


 四枚の大型ウィングの内、二枚の翼端にメインスラスターを配しており、全身の姿勢制御用カナードと併せ従来とは段違いの鋭角的な空中機動力を実現した。『As』ではデッドウェイトと評された脚部は、先端に強力な大型クローを設け攻撃に使用する事ができる上に短時間であれば僚機を懸架し飛行する事さえも可能である。


 メイン武装として出力・射撃パターンを可変することが出来るヴァリアブルパワードカノンを持つ。『5Fr』がテスト運用していたPMC砲を実戦用に再設計したものであり散弾から精密射撃まで多用途に使用できる攻撃力の高いエネルギー兵器だが、エネルギー問題は完全な解決に至っておらず複数回の射撃の後長時間のリチャージタイムを要する。


 その他副武装として両肩のウィングバインダーに連装ビームランチャー、左腕にレーザーソードを発生させる事が出来るショートバレルのレーザーガン、そして左右の大腿部装甲内に投擲用のレーザーダガーを三本ずつ隠し持つ。


 当機は制式採用機を設計する為のデータ計測用最終試作機であったが、<センチュリオン>本部の一個人による強い要請から、非正規の手続き下で急遽実戦投入される運びとなった。その為ハード面に最低限の調整を済ませたのみであり操縦システムやオートバランサーは不完全、装甲板も試験用の簡易カウルを載せているだけであり、本格的な戦闘に耐えうる仕様とはとても言えない状態で戦線に投入された。


 












 悠南支部殴り込み隊、もといイーグルチームの隊員のほとんどは警察、自衛隊での経歴を持つ。もとより荒事に慣れている、他の支部に比べても『実戦』的な部隊だ。帰属意識もプライドも高い。自分達の仕事場を荒らされた鬱憤を晴らすかのように司令所へ突き進んでいた。オマケにどういうわけか米陸軍らしい戦闘部隊も支部内に侵入したらしい。


 「D通路の防火シャッターを下ろせ!データの吸出しまでは持ちこたえるんだ!……今度は何だ!?」


 司令所で矢継ぎ早に部下達へ迎撃の指示を出しているアレックスの耳に新たな警報音が突き刺さった。


 「ここの制御システムに侵入者です!マイズアーミーではありませんが……日本はおろかどこの国にも登録されていない不明機種がロックシステムへ向かっています!」


 「ただ突っ込んでくるわけはないと思っていたが……パトリック!」


 先程ドライブから帰ってきて、愛用のライフルを持ち出そうとしていた若い部下を呼び止める。


 「聞いたな?ここの制御システムを奪われるわけにはいかん。不始末の尻拭いをさせてやる、不明機を排除しろ!」


 「アイサー!」


 鬼のような剣幕に思わず敬礼を返し、パトリックはメモリーキーを持ってコクピットルームへ走り出した。


 (全く……いい加減、アイツもクビかな)


 さすがにお調子者一人のせいだけでこんな窮地に陥っていると判断するほどアレックスは愚かなリーダーでは無かったが、こうも進退窮まるとは予想外だった。


 「C通路、突破されます!」


 「階段部に火器は集中させろ!」


 (全く……どうしたモンかな……)


 支部内の防衛情報を表示するメインモニターを睨みながら、アレックスはプライドと将来を天秤に掛け始めた。


 










 『Nue-04x』は戦場よりも暗いその翼を広げ、悠南支部のWATS制御システムに向かっていた。


 推進用スラスターは腰の後ろから伸びる二枚の翼の先端にある。制動用などの小さなカナード翼が各部につけられ、実験機らしい華奢な印象を与えている。『As』のように前方に伸びる頭部、猛禽のような独特のランディングギアを持つ脚部も相まって、それは闇夜を飛ぶ物の怪のようでもある。


 (Nue……ヌエか)


 まさかな、と呟いてユキオはモニターの先を見た。余計な事に気を回している場合ではない。


 やがて闇夜の中に電波塔のように輝くタワーが見えてきた。<センチュリオン>WATS制御システムだ。今までの出撃でも悠南支部中枢まで攻め込まれた経験は無い為、実際に電脳世界でこのシステムを見るのは初めてだ。


 「アレか?」


 タワーの中腹を取り囲むように不恰好な赤い防護壁がついている。おそらくこれが<メネラオス>が仕掛けたロックシステムだろう。これを排除すれば悠南支部所属機の出撃が可能になるはずだ。マイズアーミーの攻撃は激化している。自動操縦の『バリスタ』だけではとても防ぎきれるものではない。


 「!?」


 足元から機関砲が重低音を伴って放たれた。三、いや四箇所の自動砲台がユキオに向けて牙を剥く。空を裂く曳光弾混じりの弾幕を、大きく弧を描いて回避しながら先へ進もうとした矢先に、別方向でピンク色の光条が輝くのが見えた。


 (今度は何だ!!)


挿絵(By みてみん)


 襲い掛かる荒い粒子のビームをスティックとペダルワークで避けるが、ギリギリだった。慣れない機体のコントロールに冷や汗をかきながら水平を保ち敵方向を見る。


 暗い地上からバーニア炎を煌かせて何かが接近してきた。一瞬『ローカスト』かと思ったがレーダーにはマイズアーミーの表示は無い。緑色の、<センチュリオン>所属機の表示だけだ。


 「<メネラオス>の奴らか!?」


 機影は明らかに『ローカスト』より大きい。一般のWATSクラスだった。シータが警告を発する。


 「<メネラオス>所属、『ピグ・ピルム』三機、及び『ベルグ・ピルム』一機ヲ確認」


 「データを!」


 ビーム攻撃を仕掛けながら体当たりをしてくるその一機を避わしながらシータに命令をする。サブモニターに表示された二機種のデータを全部読み取る時間は無かった。辛うじて『ピグ・ピルム』が『ローカスト』と同じ跳躍力に優れた機動型、『ベルグ・ピルム』はそれに短時間の飛翔能力を付与した強化型という事だけを把握して正面に気を戻す。


 「地上砲台ニハッキングヲカケテ沈黙サセマス」


 「任せる!」


 シータが気を回したのかそのような提案をした。サポートAIにそんな事ができるのかすらユキオは知らなかったがとにかく任せた。今は細かい事を考えている余裕が無い。シータのアシストを受けてさえ、スラスター出力の調整を間違えれば姿勢を崩して落下してしまうような危うい操縦を続けているからだ。


 地上砲台はすぐに沈黙をした。続く『ピグ・ピルム』からの多数の弾幕を加速力に任せて乱暴にかわす。


 「マイズアーミーが来ているっていうのに、お前らは!!」


 あくまで悠南支部を占有しようとする雇われ部隊に、そして日中、ルミナに手を出し二人を追い掛け回したあの外人連中の顔を思い出し、怒りがユキオの脳を熱くさせた。左グリップのボタンを弾きながらトリガーを引いた。


 ビィィィィゥゥン!!


 金属を擦り合わせた時の異音を周波数を変えて何重にも重ねあわせたような酷く耳障りな音を撒き散らしながら、ヴァリアブルパワードカノンが灼熱のビーム粒子を解き放った。眩いオレンジに輝く弾体が飛びあがってきた『ピグ・ピルム』の胴体を貫き、花火のような光を撒き散らしあっけなく両断した。


 「一撃で……!」


 引き鉄を引いたユキオ自身が息を飲むほどの火力だった。迂闊に地上に向けて撃てば肝心の本部施設を破壊してしまう恐れがある。


 敵(ユキオの中では既にそういう認識だった)にも相当の緊張を与えたようだ。『ピグ・ピルム』がユキオ機よりも高く跳びあがり降下してきた。袖から光のムチのようなものを抜き振り上げる。


 (レーザーチェーン!!)


 反射的にセレクターを回す。左手に握らせているブレードガンから同じ様に輝くレーザー刃を発振してうねりながら振り下ろされたチェーンを弾き飛ばした。電磁干渉波がプラズマ化し火花となって闇夜を奔る。


 続けて背後からも別の一機がチェーンを向ける。急いで転回して切り払うがリーチが負けていて反撃に転じる事が出来ない。肩のランチャーで牽制しながら距離を取ったが、更に死角からもう一機が切り込んでくる。『ベルグ・ピルム』がレーザーチェーンを乱舞させた。虚空に何本もの光の軌跡が奔る。


 「クソッ!」


 「ヒバってオッサンか?」


 ソードを左右に振りチェーンを退けるユキオのポッドに通信回線が開いた。『ベルグ・ピルム』を操るのは、ユキオに恥をかかせ、今日またルミナに手を出したあのパトリックという男だった。


 「まさか、お前みたいなガキが!?」


 「舐めるなァ!!」


 トレーサーがユキオだと知り一瞬驚きで動きを止めたパトリックに容赦無くパワードカノンを向ける。速射モードで放たれた弾丸をギリギリで避けながら『ベルグ・ピルム』が後退した。


 「クソッ!」


 「調子に乗るなよ、ガキ!」


 「お前こそ!無事に帰れると思うな!!」


 互いに罵声をぶつけあいながら距離を取る。その『Nue-04x』の下から再びビーム砲撃を仕掛けながら一機、『ピグ・ピルム』が接近してきた。


 (チェーンでないなら!)


 機体のクセは掴みかけてきた。スラスターは使わずにカナードだけで軌道を変える。紙一重で体当たりをかわし、目の前を通過するタイミングで踵を振り下ろす。猛禽類を思わせる巨大なクローが『ピグ・ピルム』の頭部を抉りながら胸元まで突き刺さった。その胴体を反対の脚で蹴り飛ばすと、『ピグ・ピルム』は力無く地上に落下しながら粒子となって霧散してゆく。


 「野郎!」


 「チェーンを使え!」


 一機になってしまった『ピグ・ピルム』がチェーンを振るう。ソードで立ち向かうが防戦一方で、パトリックの援護射撃まで避けきれない。何発かの攻撃が機体を掠めるたび、薄い装甲カウルに傷が刻まれた。


 「こんなに薄いのか!!」


 次々と赤くなるコンディションパネル。プレッシャーに表情を歪ませるユキオにシータが提言した。


 「ブレードガンヲパワードカノンノ先ニ接続シ、バヨネットモードデ使用スル事ガデキマス」


 「……!やってくれ!」


 「了解」


 回避行動を取りながら、シータがオートでパワードカノンの銃口の下にブレードガンを接続した。それを隙だと認識した『ピグ・ピルム』のトレーサーが一気に距離を詰める。


 「貰ったぞ!」


 「やらせるか!」


 カノンの先から再びレーザーソードが出現する。銃剣となったソードを認識した時にはすでに遅く、最後の『ピグ・ピルム』のトレーサーはなす術無く機体を切り裂かれてウォールドウォーから接続を断たれた。


 (やった!……けど……)


 不意打ちは手の内がバレれば無力となる。できれば、今の一手はあのクソったれなパトリックに使いたかった。『ベルグ・ピルム』は明らかにこちらを警戒している。


 「この……クソガキが……!」


 怨嗟の声を漏らしながら『ベルグ・ピルム』がビーム弾を乱射する。ユキオも回避しながら散弾で反撃するが、こちらのビームは振り回すチェーンに弾かれて無効化させられた。『ベルグ・ピルム』はそのままチェーンでシールドを作り飛び込んでくる。


 (回避だっ!)


 ソードではいなせない。翼の仰角を上げ急上昇をかけるが、『ベルグ・ピルム』は怒る毒蛇の如くその軌道を追った。


 ガシャァッ!!


 「うぁああああっ!!?」


 接触。掠めただけだと思ったが予想以上の衝撃がユキオの脳細胞を侵食する。コンディションパネルに大きく警告メッセージが表示された。


 (スラスターが!?)


 「左翼メインスラスター2番ニダメージ。危険回避ノタメ運転停止」


 「クソッ!!」


 四つあるスラスターノズルのうち一つが殺された。バランスが急激に崩れ落下しそうになるマシンを踏ん張らせて高度を保った。


 振り返れば旋回した『ベルグ・ピルム』が最大延長したチェーンを振り下ろしてきた。ソードで受け止めるが、勢いに乗った先端が肩フェンダーを無残に破壊する。一旦落下してチェーンから逃れつつパワードカノンをノーマルでぶっ放す。ロックは確実だ。音速の粒子弾が『ベルグ・ピルム』を捕まえるが、同じ様に回転させたレーザーチェーンが弾丸を打ち消す。


 「ちくしょう!!」


 「ガキが!威勢がいいのもココまでだな!」


 再び『ベルグ・ピルム』がすぐ傍を掠める。サブウィングが剥ぎ取られ闇夜の中に消えていった。


 (レーザーチェーンを何とかしないと……!)


 コイツに構っている場合じゃない。目的はカズマ達の出撃を阻んでいるロック装置の破壊だが、パトリックを無視して狙撃できるほど、このマシンに習熟していない。確実を期すためには『ベルグ・ピルム』を行動不能にしなければ……。


 「スローイングレーザーダガーデ敵ノチェーンニ干渉シ拡散現象ヲ引キ起コス事ガデキマス」


 「構えろ!」


 「了解」


 ユキオの苦戦を悟っているのか、いつもより積極的にシータがサポートをかけてくれる。ユキオは彼女(?)を信用し従う事を決めた。『Nue-04x』の細い指が大腿部装甲カウルの裏から三本のダガーを抜く。


 (そこだ!)


 ビームランチャーを乱発し、チェーンを回転させているところにダガーを投げつけた。青いレーザー刃を纏ったダガーがチェーンに絡まりお互いにエネルギーを過放電させた。雷同士がぶつかり合ったような激しい閃光が両者の目に突き刺さった。


 「なんだっ!?」


 「そこっ!!」


 シータが画面にシェードをかけてくれたお陰でユキオは一瞬早く敵の姿を捉える事ができた。バランスの悪いスラスターを全開にして懐に踏み込む。コントロールグリップを限界まで押し込み、最速で『ベルグ・ピルム』腹部に突き刺した銃剣をそのまま頭まで切り上げる!


 「グォォォォォォォオオオッ!!」


 パトリックが絶叫を上げる。機体の各部で爆発と煙が上がる。『ベルグ・ピルム』が飛翔力を失い頭部から地上に向けて落下し始めた。


 「チクショウ!テメェ、ふざけんなよ!!クソがぁぁぁああっ!!!」


 パニックを起こし罵声を上げるも、機体は指一つ動かない。やがて炎と黒煙に包まれた『ベルグ・ピルム』は地表近くで小さな破裂音と共に粒子となって消え去った。


 「ハァ……ハァ……」


 気がつけば肩で息をしながら、ユキオはその末期を見つめていた。高揚感も達成感もない。復讐を終えた満足感すらも。


 ただ、昼間の雨の中でのチェイスと慣れない機体の操縦によって積もりに積もった疲れを振りはらおうと本能が抗っているだけだった。


 「!……ロック装置を!」


 一瞬、目的を忘れていた。グラつく機体のバランスを整えながら慎重にパワードカノンを構え、本部の管制装置を傷つけないように慎重に弾丸を放つ。


 調整された粒子弾がロック装置を焼き、その機能を無効化させた。


 「やったか……?」


 「……ロック装置ノ無効化ヲ、確認。パワードカノンノリロードヲ行イマス」


 張り詰めていた神経を解きながら溜息を漏らし身体をシートに沈める。身体は休息を要求していたが、レーダーにはここへ近付いてくるマイズアーミーの影が映し出されていた。



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