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マングローブ(中)


 カズマ達四人も、南側の戦線に現れた大型兵器の映像を見て一瞬言葉を失った。


 「これほどとは……」


 「おい、ヴィレ!」


 レーザーが干渉して青い火花が散る。強化型『スタッグ』の振るう二又の凶悪な大剣をレーザーブレードで受け止めながら、カズマがヴィレジーナに叫ぶ。


 「なんなんだ、あの馬鹿みたいなゆるキャラ野郎は!」


 「『テンペスト・フログ』、さっきも言ったが先月初めて確認された新型だ。あの竜巻砲だけじゃない、前面を中心に多数の対空レーザー、背面には高性能ホーミングミサイル。前脚には魚雷が多数搭載されている拠点攻撃用の大型兵器で、襲われたフィリピンの警備隊は全滅させられた!」


 「あんなのもう一発撃たれたらサーバーがやられちまう!何か手は無いのか!」


 「……あの竜巻砲はリチャージに時間がかかる、おそらく、7分か、8分……」


 推測で物を言うのは主義で無いレジーナが苦々しい顔でそう言うのを聞いて、カズマは今度はユキオに回線を繋いだ。


 「聞こえたか、ユキオ!」


 「ああ、破壊は出来なくてもあの砲撃だけは何とか阻止して見せる!」


 ユキオがそう答えて通信を切る。いつの間にか距離を詰められていた『スティングレイ』の群れを慌てて迎撃しつつレジーナが戦況を整理する。


 カズマは引き続き『スタッグ』と一騎打ちを繰り広げている。お互いの戦闘力は暫減しておらず勝負の行く末は全く読めない。


 眼下ではワタルとマサハルが新型『リザード』に挟撃を仕掛けていた。長大なクローの一本やアーマーのいくつかを破壊できてはいるが動きそのものに鈍いところは無く、迂闊に白兵距離に留まればすぐに大破させられてしまうだろう。共有データパネルを見れば二人のマシンも弾薬は底を尽きかけており、装甲やバーニアを多く失っている。


 (不利だ……これではユキオ達の援護には行けない……)


 ほぼ完調なのは自分の『フランベルジュ』だけだが、相手をしなければいけない『フライ』や『スティングレイ』の数は依然増加している。こちらの残弾はもう3割を切っていると言うのに……。


 (ここまでしなければいけないほど、重要な秘密がこの工場にはあるのか?でもそれなら破壊しておくなり防衛軍を置いておくなりするはず……いや)


 今はそのような事に気を回している場合ではない。目の前の脅威を早く排除しなければ。


 (『スタッグ』は『リザード』、どちらかのマシンを破壊できなければ戦況は好転しない。クソッ!)


 唯一、8人の中で本職の軍人である自分が一般市民のカズマやマサハル達に進退を委ねるしか出来ないなどと。レジーナは自分の不甲斐なさに胸が詰まる思いをした。正直、休暇半分の気分でやってきた数日前の自分を殴ってやりたい。


 『フライ』はまだ増え続けている。四機編隊から浴びせかけられる赤いレーザー弾の雨を避け、まとまっている迂闊なそのマシンをまとめてショットガンで葬り去る。


 「私は……、こんなものか!」


 苛立ち、吐き捨てるように意味の無い言葉を漏らしながらレジーナは一際強くペダルを踏み込んだ。










 「撤退しろだと?」


 「そうです!『テンペスト・フログ』が現れました。現状の防衛線では、残念ながら耐えられません……」


 モニター越しのルミナの顔は悔しさに染まっている。冷静で分析力も高いルミナがそういうのであれば、間違いないのだろう。


 飛羽は頷くとレーダーと正面モニタを改めて見る。あれから調査隊も戦闘は続いており、周囲を多数の『スタッグ』に囲まれていた。どちらにせよ最奥部までの進攻は無理に思えていた時にルミナから緊急通信が入ったのだ。


 とは言え、この戦力差では地上への撤退もそう容易では無い。


 「何分持ちこたえられる!?」


 「玖州君は、できて10分だと……」


 「15分持たせろと伝えろ!」


 「!!……わかりました」


 その言葉に何かを言いかけたが、ぐっ、と言葉を飲み込んだルミナが通信モニタが閉じる。


 「撤退か!」


 代わりにリック大尉から声が飛んできた。マイク越しに、リックのWATSが連射するアサルトライフルの重い発砲音も聞こえてくる。


 「そうだ!もう連中が持たないらしい」


 「どの道こっちももう限界だ。おとなしく逃げ帰るとしよう!」


 「それなりに成果もあったしな!……10分で上がるぞ!」


 15分と言ったのはユキオ達に最大限まで頑張らせる為だった。危険な指示だがユキオは安全を重視して余裕を持ちたがる部分がある。この5分は確保できると踏んだ。


 「しんどい事言ってくれるな」


 「早く帰らないと、将来の有望な部下を失うかも知れんぜ!」


 「そりゃいけねぇ。全機後退!撤退ルートを確保だ。弾は使い切っても構わん!」


 隊長の指示さえ出れば後は本職の軍人、調査隊は迷わずに命令を実行し始めた。背後でグレネードやマシンガンの派手な閃光と爆音が巻き起こる。


 (耐えてくれよ、ユキオ……)


 飛羽は口には出さずそう願いながら前から迫り来る『スタッグ』の群れに二丁のライフルを撃ちまくった。










 先行する『ファランクス5Fr』の背中を見ながら、ハルタは必死に『サリューダ』を走らせている。その先には聳え立つ様に徐々に前進を続ける『テンペスト・フログ』の巨体。


 (破壊できるのか……?)


 その前進は、ルミナとホノカの遠距離砲撃で鈍くなっているもののゼロにはできない。彼女達の手持ちの弾薬も間もなく尽きるはずだ。その前に自分とユキオで接近して『テンペスト』を破壊するか、少なくともあの竜巻砲を発射できないようにするしかない。


 (僕は、今回も何も出来ないでいるのに……!)


 被弾はチーム内で一番少ないが、比例して戦果も低い。共に島に来たワタルもホノカも、自分の目で見てもわかる程技術を上げている。大して自分は、さほど上手くなったとも思えない。


 今も、強固なシールドを持つ『5Fr』の後ろに隠れ、敵弾をかわしながら進んでいる有様だ。


 ユキオとルミナのコンビネーションは溜息が出るほど理想的に見えた。お互いがお互いの得意不得意を把握し、何も言わずに補い合っている。過去のパンサーチームの戦闘記録を見ても、四人は完成された戦闘小隊と呼べるものだった。


 翻って、自分達はチームとは名ばかりのバラバラな集団だ。それぞれが自分の事で精一杯で他の二人の面倒なんて見る余裕も無い。


 それではダメだと言われて、自分はせめてチームメイトのアシストに回ろうと立ち回っては見たものの撃破数は伸びず本当に貢献できているのかどうかも疑わしい。周りに辛いところを押し付けて自分だけ楽なポジションに納まっていると思われていないか。結果が努力に見合っているように思えずもどかしい。


 (時間があれば、なれるのかもしれないけど……)


 真にワタルやホノカ達とチームになれるのだろうか。


 ドォォン! 


 真横に、『テンペスト・フログ』の放ったホーミングミサイルが着弾し、巨大な水柱を上げた。バランスを崩した『サリューダ』が転倒しないように必死で踏ん張る。


 「大丈夫!?」


 「は、ハイ!なんとか!!」


 心配そうなユキオに応えて、空を見る。ホーミングミサイルは連続して接近している。数は六つ。肩のメイン武装を換装した『5Fr』は対空迎撃力が落ちている。代わりに自分が叩き落さなければ。


 (当たれ!)


 チェーンガンとマシンガンで弾幕を張り、ミサイルを叩き落す。辛うじて全部防御し、詰まっていた呼吸を再開した。


 「助かる!」


 「い、いえ!これくらいなら!!でもどうするんですか、あのバリアは!」


 「奈々瀬さん、『ゼルヴィス』を借ります!」


 上空で『フライ』迎撃に当たらせていた『ゼルヴィス』のコントロールを取ったユキオは、『テンペスト・フログ』をの周囲を一周するようにしてビームマシンガンを斉射させた。正面からの攻撃は先程のバリアに弾かれたが、側面、後方にはバリアが出現せずに装甲に直撃している。


 (やはり、全周囲に張るほどのエネルギーはないか!)


 『テンペスト・フログ』の対空レーザーが『ゼルヴィスバード』のウィングをかすめ小さな穴を開けた。慌ててユキオは回避行動を取らせてコントロールをルミナに返す。


 「正面からあの扇風機を壊すのは無理だ……しかし射線を通さなければいい!」


 「どうしますか!?」


 さらに近付いてきた『スティングレイ』にチェーンガンを撃ち込みながらハルタはユキオの後に続いた。海上に突き出ている大きな岩に二機で身を隠す。


 「あいつ、転ばしたら自分では起きれないと思わないか?」


 「?……そりゃ、あの図体だからすぐ立ち上がったりはしないでしょうけど……」


 「見たところ、バランスと推進を受け持っているのは後ろ足のようだ。左脚を破壊してそちら側に傾ければ、あの竜巻砲は島には撃てない……かもしれない」


 なるほど、可能性はあると納得したハルタにユキオが予想外の事を言いだした。


 「じゃ、頼むよ」


 「えっ!?な、ななな……!?」


 言っている意味が理解できないうちに『ファランクス5Fr』が『サリューダ』に大型シールド『ヴァルナ』を握らせてきた。


 「これで万全とは言わないが、防御力には自信を持っていい」


 「なんでですか、ユキオさんの方が……」


 「そっちの『サリューダ』の方が破損が少ないし小回りが利く。それに、正面の囮は自信は無いだろう?」


 「でも……こんな大役、僕には……」


 「やるんだ」


 ユキオの、今まで聞いた事の無い断固とした一言が鼓膜を打った。


 ハッとして顔を上げる。


 「これが一番成功率が高いし、迷っている時間が無い。調査隊の人たちの安全は俺達にかかってるんだ。……大丈夫、難しいとは思うけど、ハルタ君に不可能だとは思っていない。最善を尽くせば、必ず出来る……奈々瀬さん、ランチャー投下!」


 「了解!」


 いくつかのグレネード、それに上空から降ってきたクォレルランチャーまで手渡される。『ゼルヴィスバード』の脚部に掴ませていた物だ。


 ここまでされては、引きようが無い。


 「わかりました……やってみます。自信は、無いですが……」


 「みんなそうさ……俺達もそんな気分で戦ってきた」


 「ハルタ君、頑張って」


 ホノカも通信ウィンドウを開いてエールを送ってきた。島の反対側ではワタルも必死で戦っているはずだ。


 (ここで逃げられるわけもない……)


 覚悟は決めた。自信が無いとか臆病だからとか、そんな言い訳は通用しない世界がある事を思い知ったから。


 死ぬ気でやるしかない。『サリューダ』に飛び出させるように姿勢を取らせる。


 「行くぞ!」


 「ハイ!」


 『ファランクス』と『サリューダ』が盾にしていた岩から左右に分かれて飛び出した。







 

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