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ファイアー・クラッカー(中)

 

 

 暗く広大な鋼鉄の回廊に、リック大尉の隊が乗る『トマホーク』とイーグルチームの『チャリオット』、総勢12機の冷たく重い足音が響く。


 地下十階。このリック大尉と飛羽のいるチームと、もう一つ別のチームがそれぞれ探索を進めている。


 「とは言え、結局ロクな成果が得られそうに無いな……」


 リック大尉のボヤキがスピーカー越しに聞こえてきた。探索を始めて一週間。散発的に出現する、工場に残されたマイズアーミーとの戦闘を繰り返すだけでこれと言って有益な情報は何も得られていない。隊員達の疲労もかなり蓄積されている。


 通路はWATSの全高に少し余裕がある程度で、『スタッグ』クラスが直立状態で移動できるように設計されていると推測が出来た。壁面には大小のパイプが縦横に張り付き時折大型のポッドが埋まっている。マイズアーミーのマシンを生産する設備のように見えるが、すでに機能を失い長い時間が経過しているようだった。


 「元々、期待はしていなかったけどな。まぁあと一層あるんだ。もう少し頑張ろうぜ」


 「ブービートラップかもしれんぜ」


 リックの言葉に飛羽が首を捻る。


 「わざわざこんな島でか?」


 「二十機以上のWATSとトレーサーを一網打尽に出来るなら、やる価値はあると思わんか?」


 「わからんではないが……それだけの部隊が潜ると言い切れんし、ドクターマイズはそういう男ではないと感じるな……」


 冷静な飛羽の意見に少し、リック大尉は口をつぐんでから別の話題を出した。


 「地上のボウヤ達は、大丈夫かね。もう襲撃が無ければいいが」


 「あれで結構修羅場を潜っている連中でね」


 「三回目の襲撃を退けた手際でよくわかる。信頼しているが……子供に無理はさせたくないな」


 「耳が痛いな」


 センサーに反応。リックは素早く部隊に指示を発し12機は戦闘陣形を展開した。


 「早く終わらせて帰ってやることにしよう」


 「同感だ」


 リックは『トマホーク』に握らせたグレネードランチャーを通路の先へ向けた。マイズアーミーのマシン特有の、赤紫色のセンサーアイの光が数を増やしつつあった。















 それぞれテントを片つけたり、食器をしまっていたユキオ達のリストウォッチが一斉に耳障りなアラームを鳴らし始めた。


 カズマ達もユキオと同じ様に、マイズアーミーの襲撃は必ずあると踏んでいたしオルカチームもその雰囲気を感じ取っていたので一人として慌てふためく者はいなかった。全員が何も言わずにすぐにトランスポーターへ駆け出し始める。


 「数は!」


 レジーナがトランスポーターにとりつくなり叫ぶ。レーダーを見ていたホノカが振り返って答えた。


 「13!島の北側から横一線で……さらに後ろから10機!」


 「いよいよ本気を出してきたな」


 カズマが拳を鳴らしながらポッドのドアレバーに手をかける。


 「マサ、ワタル、ヴィレ!出るぞ」


 「カズマ、今度は俺達が……」


 順番で言えば自分達の方が出るべきと思い、ユキオが声をかけるがカズマはそれを遮った。


 「本命は、次だろうな」


 「……嫌な予想するなよ」


 「来なかったら、それでいいさ。頼んだぜ」


 皮肉を笑顔に混ぜてカズマがポッドに入り込む。ユキオの肩を叩いてマサハル、ワタル、レジーナがそれに続いた。


 すぐに四人のWATSが戦場に姿を現し始める。


 「……本命、ですか?」


 恐る恐るハルタが問いかけてくる。重いため息を吐きながらユキオは振り返った。


 「来なければそれでいいけど……」


 カズマと同じ言葉が繰り返し出てきた。


 「玖州さん達の予想では……?」


 ホノカが厳しい表情で問いかける。ユキオはルミナと顔を見合わせた。


 ルミナが頷く。


 「……『ロングレッグ』くらいは、覚悟しておいてくれ」


 その言葉が冗談でも大げさでも無いように聞こえ、ハルタとホノカは生唾を飲み込んだ。











 「楽をしようって気持ちはないんだぜ」


 カズマが『As』を離水させながら三人にそう言った。レジーナ機もそれに続く。


 「結構だ」


 相変わらず、抜けるような晴天に青い海が広がっている。遠くには白く高く立ち昇る入道雲。それを背負い『フライ』『スティングレイ』の編隊が接近しつつある。


 「ユキオ達に心配かけないようには、頑張らないとな」


 マサハルが『ファランクス2B』の両脇に置いた固定ミサイル砲台をぶっ放す。かつてルミナが単独で出撃した時に使用した転送武器と同じ物だ。幾本もの白煙が尾を引きながら『フライ』を火球に包む。 


 ワタルも『サリューダ』を前に進めた。ジャケットアーマーは新品に戻ったが、前回と同等以上の戦力を相手にすれば、撃破寸前まで追い込まれる危険は充分にある。


 (うまく、やらなきゃ……な)


 女のホノカや、気の弱いハルタよりも低い戦果で帰るわけには行かない。リーダーを自認するワタルは知らずに額に流れていた汗を拭った、その時。


 ドォウッ!!


 「!?」


 唐突に足元の海面から水柱が立つ。着弾ではない。何かが浅瀬の下から出現したのだ。


 「ワタル!?」


 赤く太い、触手のような機械だった。それが『サリューダ』に巻きついて動きを封じようとしている。そこから少し離れた所に丸い頭を持つ大型のマシンが水と砂を割りながら姿を見せた。


 正面に据えられた砲口からショットガンで『サリューダ』を攻撃し始める。ワタルは辛うじて動く左腕のシールドで散弾を弾いた。その向こうからさらに、『マーマン』が隊列を組んで接近してくるのも見える。このままでは危険だ。


 「ワタル!大丈夫か!」


 マサハルがモニターに回線を繋ぐ。無理やり、不敵な笑みを浮かべながら答える。


 「こんな奴、すぐ沈めますよ!」


 「任せるからな!ヴィレ!『マーマン』を牽制しろ!『スティングレイ』は俺が叩く!」


 カズマがレーザーブレードの光を引きながら空を裂くように突撃する。続けて『フランベルジュ』がミサイルとライフルで弾幕を張った。


 (ま、甘える気は無いけどよ)


 厳しいなと思ったが言った手前、一人で切り抜けるしかない。ワタルは雄叫びを上げ無理やりバーニアを吹かし、本体に接近しながらメイスを叩き付けた。ガードに割り込んだ別の触手が強力な物理ダメージをうけて粉々に砕け散る。


 「しゃらくさいんだよ!」


 セレクターを回しながら人差し指でボタンを押し込む。メイスの柄の下から、短いビーム刃が発生し、機体を縛り付けている触手を切り裂いた。

 

 アラート表示。上空から接近する『フライ』を見てオート迎撃パネルをタッチする。戦闘AIが右肩のチェーンガンを唸らせて二機の『フライ』を追い返す。


 構わずに『タコ』(のようにしか見えない)に踏み込んで右から左からメイスを叩きつける。力任せで直線的な戦いぶりだが、功を奏したのか触手を次々と失い『タコ』の本体もボコボコに歪み動きが鈍り始めた。


 (焦ったが、なんとかなりそうだな)


 ユキオほどではないが、その健闘ぶりに多少頼もしさが見え始めた。マサハルは残った『フライ』をガンランチャーで着実に落としながら戦闘ラインを引き上げてゆく。レーダーには、さらに第三波が出現し始めていた。












 ノートパソコン上で、青と赤の光点が激しく交差しながら踊り始めた。戦闘が激化していくのが手に取るようにわかる。


 「ふう」


 上がり始めた気温のせいで、うなじが汗ばんでいる。レイミが胸元をパタパタと仰いで群れた空気を追い出しながら首を回した。


 「ずいぶん乱暴な連中ね。これは、イケメン君達の方かしら」


 「じゃ、ユキオ兄ちゃんの方に大物をプレゼントってワケだ」


 「やだー、アンタ婿入りするの?」


 「ちげーよ!」


 下世話な言葉に唾を飛ばして怒ってから、ヒロムは自分の方のパソコンを見た。用意したマシンの接続が終わり、順次出撃完了表示が点灯していく。


 その一番下、一際大型のユニットが、準備中のオレンジの表示からグリーンに切り替わった。


 「よし、行けるな」


 「使えるの?」


 「フィリピン戦線では大暴れしたらしいけど、あいつらを叩きのめすとなれば機体はできないかもな。そもそも目的はサーバー破壊だから最大射程から一発ぶち込むだけでいい」


 ポキポキとヒロムが拳を鳴らす。こんな蒸し暑い鬱蒼とした山林の中で小さなノート一つで電脳戦を仕掛けようとしている自分が滑稽に思えたが今は深く考えまい。


 「うまく足止めしておいてくれよ」


 「そっちこそ、さっさとカタつけてよ。こんなところにはもう一秒も長居したくないわ」


 「わかってるよ」


 よし、と小さく気合を入れる。ディスプレイに指を伸ばしいくつかの部隊を選択して、意思の無い機械兵士を戦場へ送り込んでいく。










 

 レバーの固さと重さにまだ慣れない。静岡支部の物より一回り大きいのはお国柄だろうか。ホノカは少し憂鬱そうに溜息をついた。


 (慣れないなぁ)


 元々この手の物は得意ではない。ウォールドウォーによる被害を知るにつれ、<センチュリオン>にも興味を持ちそれに関わる仕事を将来の選択肢に入れていたのも確かだ。

 しかし、自分は趣味でやっていたプログラムは得意ではあっても、こういった反射神経を求められるモノは苦手なのだ。


 だから本当は新型機の開発とかそういう仕事を期待してスカウトに応じたら、いつの間にかトレーサーをさせられて苦労している。


 (この先、私どうするんだろう)


 このままトレーサーを続けていくのか、開発の仕事に移れるのか、もしくは何も関係ない仕事に就くのか。


 私は、本気でドクターマイズ相手に戦い抜こうとしているのか。


 同じ若さで戦士として迷い無く戦っているレジーナは尊敬に値する。それでも、自分はああ生きたいとは思えないし、そうなれるとも思えない。なにせ、未だに戦場で冷静に的確に戦えた事など一度も無いのだから。


 それでも、こうやってミサイルによる後方支援をやらせてもらってる分、ありがたいと言えなくもないのだが。


 「言えなくも、ないか……」


 「どうかしました?」


 独り言を聞かれたのか、ルミナがひょいと顔をのぞかせてきた。トランスポーターの簡易ポッドは正面側の機材しかなく、通常の物と違って背面側は何もない。ゲームセンターの大型筐体のようなものだ。


 「い、いや、なんでもないです。頑張ります!」


 「うん、頑張ろうね」


 優しい笑顔を残してルミナがシートに戻ってゆく。ホノカもメガネをかけなおして正面を向いた。


 (いいな、可愛くて)


 隣に座っている美少女に対して、初対面の時に抱いた小さな羨望はまだわだかまりとなって残っていることを自覚する。


 可愛くて、スタイルが良い上に気が利いて誰にでも優しい。トレーサーとしての腕前も自分より遥かに上だ。目が良くて増援が来ても次々と叩き落とす射撃の腕と冷静さも持ち合わせている。撃破数は10倍以上だ。何回か作ってもらった夕食も美味しかった。


 (……胸は、私の方があるけど)

 

 それだけが優位なのも女としてどうかとは自分でも思い、ますます落ち込むが今はそれどころではない。いよいよもってサーバーへの攻撃隊は増加し、このパンサー・オルカ混成部隊もフル出撃となった。これ以上来られれば対処の使用が無い。可能な限り早く片付けて増援に備えなければ。


 レバーを再び握る。大丈夫、少し扱いにくい程度だ。このくらいで文句を言っていたらやっていけない。ウォールド・ウォーだけでなく、人生そのものも。

 

 ふぅぅぅぅ、と長いため息を漏らすと、レーダーに赤い光点のラインが現れ始めた。予想通り(全員が望んではいない事だったが)別部隊がカズマ達の向かった戦線とは逆、南側から攻めてきたのだ。その規模も北側の部隊と変わらない。


 (とにかく、やるしかない)


 ホノカは覚悟を決めてコネクション・スイッチを押し込んだ。




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