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チョコレート・コスモス(中)




挿絵(By みてみん)



 剛閃。


 接近する敵の大胆かつ高速の一撃に、シールドを構えながら急いでバックダッシュをかける。シールドの装甲面に派手な火花を散らせながら片刃斧が振り下ろされ、その刃先がそのまま地面を穿ち土砂が巨大な間欠泉のように立ち上がった。


 「玖州君!」


 ルミナの甲高い声が響く。


 「大丈夫、っと」


 立ち込める土煙の中から、二回、三回と小ジャンプをして『ファランクス5Fr』が『St』の前に姿を現して、ルミナとナルハを安堵させた。シールドもキズがついたがまだ健在だ。


 それを追うかのように、ゆらりと、敵も歩み寄ってきた。


 「デカイな……」


 三人はそれぞれに増援機を観察した。先日ユキオ達を襲った強化型『スタッグ』よりもさらに一回り大きい。『ファランクス』の二倍近くはあるだろう。

 『スタッグ』とは違い、戦国武将の兜を思わせるような装甲に包まれた頭部に巨大な一本のツノを備えている。首から下も堅牢なナルハの『エストック』よりも分厚い装甲を纏っていた。


 その装甲はチョコレートのようなブラウンに塗られ、ストロベリーカラーがアクセントとして配されており若干ファンシーではあるものの、全身にある鈍く発光する目玉のようなパーツに凶悪な形の斧と相まって、戦闘兵器というよりは魔界の戦士と呼ぶに相応しい異様だ。


 「『ヘラクレス』ってとこですかね」


 「オッケー、じゃあそれで……三人とも無理はしないでね」


 ユキオの意見を採用しつつ、マヤは警告する。どう控えめに見ても先日現れた強化型『スタッグ』より弱いとは思えない敵の出現に司令所がざわめき始める。


 (だからって、先手を許していいワケはない)


 敵が、その巨大な斧を掲げた。


 離れてはいてもルミナがすでに気圧されているのが手に取るようにわかる。こんな機体に攻撃のリズムを取られればどんな被害に遭うか……。


 同じくゲーマーで、戦闘経験も豊富なナルハもそれに気付いたのか、いち早く地を蹴った。


 「先行するわ!」


 「草霧さん!」


 「アタシは、雇われだからね!」


 踏み込んで加速してから跳躍、『ヘラクレス』の胸板に高速の蹴りを放つ。しかし『ヘラクレス』は機敏にそれをかわして見せた。AIの反応速度ではありえない動きだ。


 (やはり、有人か!)


 唇を噛むユキオの前で『エストック』が素早く反転しダンスのように連続攻撃を繰り出した。アリシアのメンテの成果か以前よりも速く、キレがある。ストレート、回し蹴り、逆水平……しかしいずれも斧で弾かれ、またはいなされてクリーンヒットを取れない。


 「やる……っ?!」


 攻撃の主導権を取っていたナルハの打撃に、『ヘラクレス』の膝蹴りが無理やり割り込んだ。咄嗟に平手で腹部をガードをしたものの、体格差に劣る『エストック』は宙に浮き、そのまま荒れた地表に転がる。


 『ヘラクレス』は止めを刺そうとでもいうのか、感情の無い処刑人のように巨大な斧を振り上げた。ユキオが慌ててポッド内でシータに叫ぶ。


 「PMC、最大出力!」


 「了解、ターゲット・ロック」


 「喰らえ!」


 トリガー。肩に搭載されたPMC砲から灼熱の金属粒子が帯になって『ヘラクレス』の胸板を襲った。さらにルミナの爆装弾が側頭部を襲う。強力な連携が『ヘラクレス』の体勢を崩し、そのスキにナルハが機体を跳ね上げて窮地を逃れる。 


 「二人とも、ありがと!」


 「……あまり、効かなかったみたいですけどね」


 ユキオが臍を噛んでモニターを睨む。最大の放射モードを直撃させたのに、『ヘラクレス』の胸部装甲は軽く炙られたように赤くなったのみで破損はしていなかった。PMCは、今の一撃で完全に残弾がなくなっている。側頭部を直撃した爆発も装甲を貫通するに至っていない。


 (まいったな……)


 予想以上だ。ここにさらにカズマやマサハルがいても攻めあぐねるだろう。マシンスペックが違いすぎる。


 『ヘラクレス』のゴツイ両肩アーマーの裏から拡散ビーム砲がせり出し、無差別射撃を始めた。赤いビームの弾幕が『5Fr』と言わず地面と言わずそこらじゅうを蹂躙する。


 「止めなきゃ!」


 『ヴァルナ』の装甲を抜く程ではないが間接部にでも直撃すれば破断されてしまう程の威力はあるだろう。ユキオが激しい弾幕で身動きできなくなるのを見てルミナは徹甲弾を連射した。が、こちらも次々と厚い装甲に弾かれる。唯一、右大腿部に一発が直撃し小さなヒビを作った。


 それに反応したのか『ヘラクレス』がビーム掃射を止め、『St』の方に視線をやった。ユキオは無意識に背後を振り向いて声を上げる。


 「奈々瀬さん、離れて!」


 『5Fr』の上を飛び越えて『ヘラクレス』が素早く跳躍した。そのまま凶悪なシルエットのチョコレートの影が黄昏を横切りルミナ機に踊りかかる。


 「……魔なんかして、……タシのターンでしょ!」


 (声!?女の……)


 スピーカーから不意にノイズ混じりの通信が割り込んだ、と思いきや、敵の『St』の胴ほどもある太い脚が、スナイパーライフルごと『St』を吹っ飛ばした。ライフルは真ん中から見事にくの字に曲がり、『St』の向こうに鈍い音を立てて落ちる。


 「奈々瀬さん!」


 「ルミナちゃん!」


 「ぐっ、ううううう……」


 『St』が砂埃を上げて転がる。ユキオとナルハが焦って通信モニターを開くが、脳を揺さぶる酷い衝撃にルミナは呻き声を上げるだけで答えることが出来なかった。だが、辛うじて働いている理性が今の声に引っかかっていた。


 (女の人の声……聞き覚えがある?)

  

 「……ぉンのォ!」


 怒りに燃えたナルハがリベンジをかける。両拳を握り合わせて勢いをつけて背面に叩き付けた。『ヘラクレス』がバランスを崩している内に倒れこんでいる『St』をユキオが救出する。


 「大丈夫?奈々瀬さん」


 「あ、頭がガンガンする……」


 「ご、ゴメン!」


 慎重に地面に『St』を下ろそうとするユキオにルミナも首を振った。


 「ううん、大丈夫。ありがとう……!?草霧さんが!」


 その声に急いでナルハの方を向くユキオの前で、『エストック』が虫でも振り払うかのように跳ね飛ばされていた。反射的にセレクターを回しスライサーを抜く。


 「肘か、手首……とにかく右腕だ!」


 「レディ」


 ユキオの指示に従い、シータが投擲したバニティスライサーが唸りを上げて『ヘラクレス』に迫る。強化型『スタッグ』のツノすら両断する威力を持つ光輪は、しかし巨大な片刃斧に迎撃された。


 ギャキィィィィィィィイン!!


 甲高い異音が鼓膜を刺した。直後、ビーム刃を失ったバニティスライサーが両断されバラバラに落ちてゆく。


 「ンな、バカな……」


 絶大の信頼を置いていたスライサーの衝撃的な末路にでユキオが目を見開く。しかしさすがに受け止めた斧の方も無傷ではすまなかった。刃の上側、三分の一が切り落とされ短くなっている。それでも武器としての性能を失ったわけではない。


 ショックを受けているユキオの『5Fr』は『ヘラクレス』のビームの直撃を浴びて『St』の隣に転がった。リアアーマーにセットされたグレネードのロックが外れて砂地に散らばる。


 そこに再三、立ち上がったナルハが接近戦の間合いに肉薄した。けれども、背面からの攻撃であるにもかかわらず『ヘラクレス』は素早く回頭し、短くなった斧を、空気を断ち切る轟音と共に振り下ろす。


 重い金属音、そして火花と共に『エストック』の左腕がコードやダンパーを撒き散らしながら斬り落とされた。。


 「草霧さん!」


 「クソッ!」


 舌打ちしながら『エストック』が後退する。三機は、それぞれ『ヘラクレス』を包囲しているものの、相手は依然無傷に近い。対して、ユキオ達は武器も装甲も次々と失っていく。


 (まるで、プロレスラーとケンカする幼稚園児じゃねーか……)


 彼我の戦力差に歯軋りしながらもユキオは打開策を探った。『ヴァルナ』にはまだ一つだけ、切り札と言えなくも無い武装が残っているが、性能が安定せずテストも不十分の為にアリシアがプロテクトをかけたままだ。使うには長大な解凍コードのダウンロードが必要で、今の状況ではとても使えない……。


 空はもう夕闇に近いほど暗い。その中で、威圧するように複眼のような頭部センサーを不気味に光らせている『ヘラクレス』を睨みつけて、ユキオは腹を決めた。


 「……マヤさん、『サンライト』を送って下さい」


 「ユキオ君!?でもアレは……」


 マヤは一瞬躊躇した。Exg-01『サンライト』は<センチュリオン>悠南支部の中でも飛びぬけて強力な破壊力を持つ兵器だが、その性能の為に使いやすさは大きな犠牲を強いられている。

 短い稼働時間に加え、長い刀身は重くバランスが悪い。カズマは天才的とも言える操縦センスと『ファランクスAs』の機動力でこれを使いこなしているが、『5Fr』のスペックでは同じ芸当は不可能だ。その上ユキオは『サンライト』を握った事が無い。


 「他にアイツに通用する火力がありません!やってみせます!」

  

 「わ、わかった、Exg-01、スタンバイ!」


 結局、ユキオの気迫に押されてマヤが発令する。何より迷っている時間は無い。すぐに『サンライト』の格納されたロケットブースターが暗いネイビーの闇を裂いて戦場に姿を見せた。


 (大丈夫……カズマの扱い方は何度も見た。できるハズだ……)


 ロケットの進行方向がインフォパネルに表示されるのを見て、その先に回りこませるように『ファランクス』のバーニアを吹かせる。


 通常、『As』の戦闘空域に合わせて高空に軌道をあわせて飛んでくるロケットは、オペレーターの配慮により低空で侵入してきた。ユキオはその気遣いに感謝したが、それが彼らにとってアダとなった。


 ロケットカウルが分離し、『サンライト』の赤い刀身が落下し始める。それに向かいブースターを全開にした『5Fr』の背後から、それをさらに上回る驚異的なスピードで、『ヘラクレス』が飛翔を始めた。


 「なんだと!?」


 後ろから抜きざまに『ヘラクレス』が『5Fr』を踏みつけ、地上に叩き落す。苦悶しながら荒野を転がったユキオが見たのは、上空で『サンライト』を掴み取る『ヘラクレス』の禍々しい姿だった。




明けましておめでとうございます

相変わらずの更新速度で面目ありません

本年もお引き立て頂ければ幸いでございます

よろしくお願いいたします

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