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ポインセチア・レッド(中)



 「聞いた通りだ、マサ、頼むぞ!」


 「つったってよー……!」


 地上の三人の『ファランクス』のうち、メイン火力を担当しているのがマサハルの『2B』だ。バックラーを失いブレードも使えない『As』はもちろん、<点>での攻撃に優れる『St』もあの巨体の前には分が悪い。


 とはいえ、マサハルとて三体に分かれてしまった『ギガンティピード』を全て撃滅するのは至難の技だろう。一番大きい胴体部も、下手な破壊を行えばまた分断して数を増やしてしまうかもしれない。


 「どっか、コントロールブロックがあると思うんだよ!探してくれ!」


 三つに別れた『ギガンティ』は巨体であるにも関わらず、それぞれが互いにぶつかるようなルートは避けていた。その挙動がマサハルにそういう予測をさせた。


 「とは言っても……どのブロックも同じようにしか……」


 激しい弾幕をかわしながらもスコープで弱点らしきものを探っていたルミナが弱音を吐くように呟いた。ユキオが強敵に追われている事もあり、焦りで胃がギリギリと痛む。蒼白になった頬を嫌な汗が流れ落ちた。


 「分断したパーツに無線が飛んでるかも知れねぇ!AIに電波を拾わせてみろ!」


 「!!イータ!」


 カズマの指示にルミナがサポートAIを呼び出す。『ファランクスSt』の左肩に搭載された複合センサーポッドのアンテナが最大延長し、周囲の電波を無制限に拾い分析を開始した。


 その間にもマサハルは残った『バリスタ』のミサイルを斉射させていく。胴体部先端のブロックが破片を撒き散らしながら吹き飛んだが、残されたボディの機能にはダメージが通っていないらしく暴れ続けている。


 防衛対象の電力管理施設に直行しないところを見るとその戦術レベルは低いようだが、破壊力は手に負えない。まさに台風や地震などの天災のようなものと戦っている気分だ。


 「マヤ姐さん、『サンライト』だ!」


 「けど、右腕だけで使えるの!?」


 「やってやるよ!!」


 出し惜しみをしている場合ではない。強がるカズマの額にも大粒の汗が流れ落ちるのをブレるモニター越しに見て、マヤは急いで『Exg-01』の射出準備を始めた。






 広大な地下空間を逃げ続け、ユキオは完全に方向感覚を失っていた。マッピングはシータが行っているものの、真っ暗で複雑に繋がる網の目状の洞窟では、『ギガンティピード』の開けた穴が時折遥か高い天井に見える程度で他に目印らしいものもない。何より、苛烈な新型『スタッグ』の攻撃から逃げるのに集中しているせいで、周囲を見ているような余裕は無かった。


 (どうする……反撃をするのか……!)


 戦争をしている実感はあっても、ユキオには人が乗っているかも知れない機体に銃口を向ける決心がまだつかないでいた。フラッシュグレネードとスモッグボムは既に使ってしまっている。スプレッドも離れた距離から投げつけたが、僅かに距離を離す程度にしか牽制の役を果たさなかった。


 執拗に『5Fr』を追う『スタッグ』の動きは、普段相手にしているマイズアーミーにはない反応速度を見せている。何より先程感じた<粘り気>と<執念>を感じさせる人間らしい挙動だ。そのあからさまな敵意が、ケンカの嫌いなユキオをさらに及び腰にさせていた。


 (くそったれ……こうやって逃げていたって……!?)


 ふと、いつの間にか周囲の様子が今までの洞窟のような空間から大きく変貌しているのに気が付いた。明らかに開けたその空間には人口の壁と天井があり、その壁面にはびっしりとパイプが張り付いて様々な色のランプが明滅している。床にはベルトコンベアやコンテナのようなものも見えた。醜悪な機械迷宮という雰囲気だ。


 「なんだ……研究所……工場?……マヤさん!」


 嫌な予感に捉われたユキオは急いで周囲の画像を<センチュリオン>に転送した。その最中に、『ファランクス』と同じくらいの大きさの円筒形のポッドが立ち並ぶエリアに辿りついた。

 100近い数はあるのだろうか、警戒しながら『ファランクス』を接近させて正体を探ろうとした時。


 ウィィィィィィ……


 不気味な機械音と共にそのポッドが開き、中から『フライ』が次々と現れる。


 「!!?」


 「ユキオ君、恐らくマイズアーミーの前進基地だわ!できるだけ破壊して!」


 送られてきた画像を見たマヤが珍しく焦りに満ちた声を出す。ユキオとてみすみすこのような物を見逃すつもりは無かった。フライの出てきたポッド以外にももっと大きな、『スタッグ』や『リザード』クラスが入れる大きさのものも見える。急いで最後のグレネードをポッドの中心部に投げつけた。

 

 「接近警報」


 「くそ!」


 ハイボマーグレネードがうまくポッドや『フライ』達を破壊できたかを確認する暇は無かった。爆音の中シータの警告に弾かれるように背後を向き、二股の巨大な剣を振り上げる『スタッグ』を迎え撃つ。


 「……やがっ……ああああっ!!」


 ノイズ混じりの罵声を浴びせながら敵が振り下ろされた剣を、強化シールド『ヴァルナ』で受け止める。このシールドを破壊するのには『ファランクス』本体を破壊する以上の火力が必要だ。このシールドが健在である限りは『ファランクス5Fr』が負ける可能性は低い。


 相手もその事に気が付いたのか、『ヴァルナ』の側面から剣を打ち込み『ファランクス』から引き剥がそうとしている。ハイボマーグレネードで工場内のポッドが次々と連鎖爆発し、視界が真っ赤な炎と煙に染まる中で『5Fr』と新型『スタッグ』は組み合ったまま格闘戦に雪崩れ込んだ。


 押し倒されそうになるのを防ぐべく右肩の重ガトリングで『スタッグ』の肩口を狙おうとしたが、寸前に実体剣でターレットごと切り落とされ、ガトリングの銃身が炎の中に消えてゆく。


 「無粋…ろうがぁ!」


 「……知った、事かよ!!」


 繰り返される憎悪の込められた攻撃と、信頼している武器を破壊された事への怒りでいい加減ユキオの忍耐も限界を迎えようとしていた。顔も知らぬ敵の声に叫び返しながら、『5Fr』の太い脚で『スタッグ』の脇腹に回し蹴りを入れる。剣を振り終えてバランスを崩していた『スタッグ』はそれを避けられず炎と油にまみれた床面に転がった。


 しかし一息つく暇すら無く、新型『スタッグ』はバーニアで無理やり地面を離れ再び『ファランクス』に飛びかかってくる。


 「!?」


 首をグルンと回し、頭部の巨大なツノを逆袈裟懸けに振り上げる。予想外の攻撃と強靭なパワーに今度は『5Fr』が受け止めたシールドごと吹き飛ばされた。姿勢を崩したまま宙に浮いた機体を制御しようとするユキオにさらにビーム弾を浴びせながら『スタッグ』が接近戦を仕掛けてくる。強烈な擬似Gの中、必死にグリップを握り締めながら反射的にユキオは叫んだ。


 「バニティスライサー!」


 「ラジャー、バニティスライサー、セット」


 ユキオの命令に従い、サポートAI・シータがオートでシールドの裏からリング状の武器を右腕にセットする。追加されたバニティスライサーはウェポンセレクターの一番左端にセットされ、緊急時には使いにくい配置になっていたためユキオは緊急時用にシータに音声コマンドを対応させていた。


 「ツノか、右腕だ!」


 「レディ」



挿絵(By みてみん)



 ユキオの指示に忠実に従いシータが瞬時に『スタッグ』の頭部と右腕を狙える投擲コースを計算する。『5Fr』はシータの自動操縦でスライサーを力強く投げつけた。


 ギュゥ……ォォォォオオオオ!!


 回転するリングが光の刃に包まれ、美しく輝きながらも敵の首元を狙う凶悪な存在となった。縦回転でスライダーのような軌道を描き上空から『スタッグ』の頭部を狙う。


 ギィィィィィィィン!!


 ギリギリで反応し頭を背けた新型『スタッグ』だったが、スライサーのスピードからは逃げられず左側のツノが激しい火花を散らしながら?ぎ取られて飛んで行った。 

 (よし……)


 その隙にバランスを取り戻し着地をする。明らかに怯みを見せた『スタッグ』の姿に多少余裕を取り戻したユキオはレーダーを見て地上の三人と『ギガンティピード』の動きを把握しようとした。同時に、開放していた通信からルミナの短い悲鳴が聞こえてきた。


 「奈々瀬さん!?カズマ、どうした!」


 「敵が増える一方だ!俺達は捌けているが『St』の機動力じゃ……」


 マサハルが代わりに返事をする。レーダー上の小型『フライ』を示す点は画面を覆いつくすかのように増殖しており、その中を巨大な『ギガンティ』の光点が暴れまわっている。その中で『ファランクス』の位置を表す青い光はひどく窮屈な動きを強いられていた。


 「今増援の『バリスタ』を他の支部から回してもらっているわ!それまで持ちこたえられれば……!」


 「飛羽さん達はまだなのかよ!」


 (このままじゃ、マズイ!)

 

 カズマ達の叫ぶような通信を聞きながら、戦況の悪化を悟ったユキオはグリップを壊れんばかりに握り締めていた。今すぐ駆けつけてルミナを守ってやりたい。しかし、今の自分はそれが出来る状況じゃ……。


 (!)


 苦渋を噛みしめるユキオの脳髄に弾ける様に光が差した。そう、今このような時のために自分は何日も苦労してきたのだ。


 急いでメンテルームへの直通回線を開く。


 「アリシアさん、『アレ』を出して下さい!」


 「!ユキオくん!?使えるの!?」


 「背面装甲以外は完成しています!今使わなければ、他に使い時はありません!立ち上げはこちらから遠隔でやるので、とにかく投げ込んでください!」


 「……そうね、わかったわ!」


 理解の速いアリシアに心中で感謝する。ユキオはシータにメモリーキーへのアクセスをさせた。


 「シータ、起動プログラムブート準備!イータにも同期を取らせろ!」


 「了解シマシタ」


 (間に合ってくれよ……!)


 再度、剣を構えて接近してくる『スタッグ』に身構えながら、ユキオはモニターキーボードを表示させた。




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