表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/119

すれ違うは茨の如く

 『ファランクスAs』


 <センチュリオン>悠南支部・パンサーチーム所属

 前衛制圧用WATS(ウォールド・アーミング・トルーパー・システム)


 最大速力 273km/h


 武装


  速射型レーザーライフル 1丁


  対空バルカン 2門


  フェアリングバックラー 


  格納型レーザーブレード 1本



 <センチュリオン>活動プロモーション部隊、パンサーチームの為用意されたWATS『ファランクス』シリーズの一機。戦線を全域に渡り上空からカバーし、味方陣営の迅速なカバー、または敵主力へのけん制、強襲を主任務とする。


 プロモーションの要である機体のため、ホワイトとカーマインで鮮やかに彩られており、その外見はアーミング・トルーパーとして極めて異彩を放つ。性能も特異であり、基本的に航空戦力を持っていない<センチュリオン>の中で唯一、空間戦闘が行えるのが本機である。


 元々飛行型アーミング・トルーパーの需要はあったものの、出力不足やバランス調整からなかなか実現が出来ず、<センチュリオン>技術部の苦心の末に完成した試作マシンがこの『As』であった。

 しかしその実戦に対応できる運動性を追求した結果、乗り心地は劣悪で三半規管へのフィードバックから、まともに乗りこなせるトレーサーは長らくいなかった。パンサーチームの設立に伴い空いていた機体をとりあえず集め、若いトレーサー候補を乗せたところ『神谷カズマ』との適性が非常に高かったため急遽実戦装備を施され、戦闘に駆り出されることになった経緯を持つ。


 『マイズアーミー』の擁する飛行兵器を凌駕する出力と運動性を誇るものの、現在使用されているアーミング・トルーパーの中でも武装面では見劣りすると評価せざるを得ない。唯一、小型シールド・バックラー内部に格納したレーザーブレードは強力な破壊力を持つが、危険な接近戦を強いられる上に使用時間も最大10分と使用局面を制限されている。

 飛行ユニットには火力の低さを補う追加ミサイルパックなどのオプション火器が用意されているものの、それらを装備した場合空中での運動性や速度が大きく劣ってしまう。


 そのスピード感ある戦闘スタイルと派手なカラーリングは、トレーサーである『神谷カズマ』の容姿と相まって高い人気を得ている。パンサーチームの広報活動が成功


したのは、本機とトレーサーが大きな要因である事は疑問の余地が無いと<センチュリオン>上層部も評価している。

 

 


 

 クリスマスを目前にした年の瀬であっても、マイズアーミーの襲撃は苛烈を極めていた。


 「ドクターマイズは無宗教だったか?」


 「知るかよ、そんな事」


 上空を飛行しながらライフルで『フライ』の群れを追い払うカズマの問いに、マサハルはぶっきらぼうに答えた。


 連日の出撃で二人とも参っているのだろう。この10日間でカズマ、マサハル、ユキオの撃墜数はそれぞれ40を軽く超えていた。『フライ』のような脅威度の低いマシンだけではない、『ビートル』を主とした重甲部隊ばかりで『スタッグ』や『ホーネット』の数も多く、あの『リザード』すら再度襲撃をかけてきていた。


 今日はむしろ楽な方である。『フライ』20機に『ビートル』が3。『スタッグ』級などが増援で接近しているようだが、その数も5機以下との報告が来ている。


 ポッドの中でルミナは深呼吸してライフルを『St』に構えなおさせた。『ビートル』は既に一機撃墜している。パンサーチームの機体の中では、硬い装甲と機動力を持つ『ビートル』には貫通性能に優れる『ファランクスSt』のスナイパーライフルが有効だった。


 (つかまえた……)


 さらに一機、マサハルの背中を狙おうとしている『ビートル』に照準を合わせ、トリガーを引き絞る。炸裂音と共に撃ち放たれた徹甲弾が『ビートル』のメタリックグリーンの装甲をバラバラに砕きその動きを停止させた。


 「ありがと、ルミナちゃん」


 「どういたしまして」


 最近では戦闘中でも軽い調子で会話が出来る余裕も出てきたルミナは、最前線で『フライ』にガトリング砲の弾幕を張っているユキオの『ファランクス5Fr』の方を見た。

 被弾はしているものの損傷はほぼ無い。『St』とは違い最前線で長時間戦線を保つ『5Er』は、堅牢な装甲を誇る重戦士そのものだ。


 (今日も、ずいぶん疲れた顔をしてたけど……大丈夫かな)


 それを操っているユキオの口数はいつにも増して少ない。招集がかかってポッドに入る前に少し顔を合わせたがやつれたような表情をしているのに驚いた。


 (やっぱりバイトのかけもちとかキツイんじゃないの?)


 心の中で何気なくそう言ってから、自分がどこかでユキオに花屋のバイトをやめさせたいと思っているのではないかという疑念が浮かび頭を振った。


 (違う違う、玖州君は私の言葉で、変わろうとしてあのバイトを始めたんだもの。私がそれを否定するなんて……)


 ブンブンと頭を振ってユキオの援護の為にスナイパーライフルを向けたルミナのコクピットポッドに耳障りな警告アラートが鳴り響いた。


 「何!?」


 「敵機接近警報、直上、二機。『ビートル』級ト思ワレマス」


 「なんで察知できなかったの!?」


 サポートAI・イータの報告に文句を言いつつ機体をのけぞらせライフルを上空に向ける。が、接近してきた敵機はすでに目と鼻の先迄に急降下してきていた。


 「!」


 危険を感じたルミナは反射的に防護壁から横っ飛びに離脱する。上手く着地は出来ずに黒い地平に機体を転がせた。体当たりを掛けてきた襲撃者はルミナの立っていた防護壁を粉々に粉砕していた。通常の『ビートル』クラスが持ちえない破壊力である。


 「ルミナちゃん!」


 「だ、大丈夫……」


 マサハルに無事を伝えながら、瓦礫と粉塵の中から姿を現す新たな敵機の姿を睨む。


 (『ビートル』……?でも色が違う)


 襲いかかってきたのは紫色の『ビートル』だった。よく観察すると形状もやや違う。腹部にあるはずの火炎放射器が無く、頭部とおぼしき機体の先端には野太いツノの様な追加装甲が装備されている。


 「『ラム・ビートル』だ!」


 「『ラム』……?」


 二機の新型『ビートル』は態勢を整えると左右に分かれ弧を描く軌道でルミナに襲い掛かってきた。通常の『ビートル』より格段にその動きは鋭い。


 「ヨーロッパで先月確認された新型だ、『ビートル』の火力を取っ払って、速度と装甲を強化した……いわば特攻機だな」


 「回避行動ヲ取リマス」


 イータが緊急回避を判断し、背部バーニアで『ファランクスSt』を宙に跳ばす。コクピットポッドでグッと沈み込むようなGを感じながら(実際の体には慣性はかからず、脳がシステムからの疑似感覚を受けているだけなのだが)ルミナは空中で振り返り、ライフルを向けた、が。


 「速い……!」 


 距離が近いせいもあり、ライフルでの狙撃がままならない。急いでダブルガンパックを左手に握らせるが、冷静さを欠き始めているルミナの弾幕は、『ラム・ビートル』を捉えられなかった。


 「カズマ!」


 「おう!」


 マサハルの声に応え、カズマが『As』を急行させる。この速度と接近戦に対応できるのはこの中では『As』以外に無い。


 「奈々瀬さん、退がるんだ!」


 ユキオがルミナに通信を開いた。が、ルミナにもチームメンバーとしての自信とプライドがあった。慣れない新型が出てきた程度で毎度お荷物扱いされるのはいい加減卒業したい。


 「でも……このくらいで!」


 「敵はまた来る、ここで『St』に無理をさせてダメージを負いたくない!」


 「……っ!」


 理屈はわかる。ここ数日のマイズアーミーの動きを見れば、明日にも襲撃がある可能性は大だ。しかしユキオの、いまだに自分の実力を認めていない感じ、さらに自分より『St』の方を心配するその物言いにルミナは機嫌を損ねる。


 (いつもみたいにカバーに来てくれもしないで……)


 「頼むよ、ここはカズマにまかせて……」


 「……了解!」


 ふてくされながらグリップを捻る。大きくジャンプしながら後退する『ファランクスSt』を追いすがる『ラム・ビートル』の前に『As』が颯爽と立ちはだかった。


  


 (よし……)


 大人しく後退してくれた『St』の姿を確認してユキオが安堵の息を漏らす。『ラム・ビートル』と『St』の相性は悪すぎる。下手に無理をされて南雲のように後遺症でも負ったらと考えただけで両手が震える。


 「さて、カズマの分も頑張らないとな……」


 カズマにルミナのサポートを頼んだせいで前線を支えるのは『5Fr』だけになっている。ちょうど接敵してきた三機の『スタッグ』ユキオが面倒を見なくてはならない。


 「!」


 『スタッグ』が列をなすように連なった陣形を組んだ。重ガトリングの牽制をものともせずそのツノを振りかざし『5Fr』に連続して体当たりをかけてくる。しかし強化された大型シールド『ヴァルナ』の堅牢な防御を破ることはできない。


 (とは言え、これじゃぐだぐだと長引くだけだ)


 先日、訓練でルミナに言った自分の言葉を思い出す。


 (陣形を崩すか)


 ウェポンセレクター、インパルスグレネードを『5Fr』に握らせて投擲させる。強烈な衝撃波を発生させる手榴弾は三機の中央で爆裂し、『スタッグ』達を見事ばらばらに吹き飛ばした。


 「まずは……」


 近くに転がってきた『スタッグ』をロックする。高く飛び上がりながらビームガンの連射を浴びせ、うろたえる『スタッグ』の腹部装甲を剥いだ。


 (一つ!)


 そのまま自由落下で、もがく『スタッグ』のボディを踏み抜く。重量のある『ファランクス5Fr』の脚が『スタッグ』をバラバラに破壊した。

 ユキオが最近ひそかに練習していたコンボだ。敵を倒すのに弾丸を消費するだけが能ではない。装甲の厚い『5Fr』はそれだけ重量……質量エネルギーを持っている。これを活かした格闘戦で相手を撃破できれば、弾薬も節約できる。

 それでなくても最近のマイズアーミーとの連戦で、<センチュリオン>悠南支部の弾は予備がすっかりなくなりかけてしまっていた。


 「……次!」


 残る二機に向かい、ユキオは機体を転回させた。左右から起き上がった二機がビームを乱射しながらツノを向けてタックルを仕掛けてくる。いくつかの弾丸が『ファランクス』にヒットし、頭部のアンテナが折られセンサーが乱れた。しかし、すでに戦闘は至近距離だ。ユキオはダメージを無視してモニターを睨む。


 (右の方が、若干早い?)


 「使ってみるか……!」


 すばやくウェポンセレクターを一番左まで回す。シールドの裏面。『5Fr』へのアップデート時に追加された新たな武器、バニティスライサーを右腕に構えさせる。


 ユキオは細いドーナツのような、円月輪やチャクラムと呼ばれた旧世の武器に近いシルエットを持つそれを右から迫る『スタッグ』の頭部へめがけて投げつけた。


 投擲されたバニティスライサーは高速で回転し『スタッグ』に迫りながら、その外周から八本のレーザー刃を発振させた。光のリングと化したスライサーが『スタッグ』と激突する!


 ギィィ……ュゥイイイイィィィン!!


 耳障りな金属音を鳴り響かせ、バニティスライサーは『スタッグ』の巨大なツノを切断した。


 のみならず、そのまま『スタッグ』の頭部までも叩き割り、前のめりになりながら『スタッグ』はバッタリと事切れたように倒れる。


 「すげぇ……」


 予想以上の破壊力にユキオは一瞬唖然としてしまった。試作の牽制武器の一つだと思っていたが、これなら大抵の敵に致命傷を与えられる。


 感心しているばかりではいられなかった。僚機の撃破にも怯まず(所詮、人工知能にそのような挙動は無いのだろうが)残った一機が『ファランクス5Fr』を挟みこもうとそのツノを広げる。


 (させるか……!)


 左右の腕でツノを掴み、内側から抵抗する。以前の『5E』ならじりじりと力負けしていただろうが、今はビクともしない。むしろツノをへし折ることすらできるのではないかと思うほどのパワーを感じる。


 ユキオは優越感に一瞬ニヤリと口を歪ませてから、冷静にターゲットスティックに親指を当てた。僅かに残った肩の重ガトリングの弾を吐き出しつつその頭部を蹴り飛ばす。


 胸元からその穴だらけになった首が分断され、『スタッグ』の動きが停止した。おそらく駆動中枢に深刻なダメージが入ったのだろう。


 振り返れば、カズマの『As』もレーザーブレードで『ラム・ビートル』を始末した所だった。サポートAIのシータの無機質な声がユキオに戦闘終了を伝えた。


 


 「よう、お疲れ」


 無事四人は現実世界に帰還した。コクピットポッドから出てきたユキオの前に、いつもなら応援に来ている女子高生に囲まれているはずのカズマが立っていた。

  

 「あ、ああ、お疲れ」


 めずらしい事に多少驚きながらも返事を返したユキオに、カズマが耳打ちするように小声で話した。


 「ユキオ、さっきのはよくねえよ」


 「?」


 いきなり話しかけられた上に身に覚えの無い事を言われ、ユキオが混乱する。


 「な、なんだよ……」


 「ルミナに一方的に下がれ、って言っただろ」


 見ろよ、と親指をクイと向ける。その先には俯きながら黙ってコクピットルームを出るルミナの制服姿があった。


 「アイツだってもう素人じゃないんだ。上から目線で何もしないで下がれなんて言われたら、いい気持ちはしないぜ」


 「あ、ああ」


 ようやくカズマの言いたいことが伝わった。


 (よく気が回るな……コイツ)


 「最近距離遠いんじゃないのか?どうした、ケンカか?」


 多少のからかいを込めたカズマの顔を、ユキオが苦虫を噛んだような顔で見る。


 「奈々瀬さんの訓練が……俺の教え方が良くないのか、はかどらなくてさ」


 「そうなのか?」


 動きは、だいぶ良くなってると思うぜ、と言うカズマにユキオは前から考えていた頼み事をすることにした。


 「カズマ、……しばらく訓練を変わってくれないか?」

 

 「はぁ?」


 思いもしないユキオの言葉に目を見開き思わず大声で聞き返す。


 「俺なりに考えてやっては見たんだけど、奈々瀬さんの回避や、近距離での立ち回り方をうまく教えることが出来ないんだ。『As』なら、その辺うまくできるんじゃないか……って」


 複雑な表情だが、真剣なユキオの顔にカズマはニヤリと悪い笑みを見せつけた。


 「ユキオ……いいのか?」


 「?なにが?」


 思わせぶりな言葉に、反射的に聞き返す。


 「奈々瀬かわいいからさ、手を出しちまうかもしれないぜ」


 「!?……それは……」


 女好きの同級生の言葉は、ユキオには想定外で、驚きで呼吸まで一瞬止まった。


 (カズマが……奈々瀬さんに?)


 それは生理的に許せない想像をもたらしたが、一方でそれならそれで仕方ない、と思う染み着いた諦めの弱者根性もあった。


 (このイケメンが本気になれば、かないっこない……)


 「冗談だよ……とりあえずはな」


 あからさまに身を固くしたユキオの肩に、ぽん、と手を置いて軽い調子で背中を向けた。


 ユキオはそれを見ながら、やってしまったか……?という過ちの予感を感じたが、今更取り消せるものでもなかった。





 「で、どうなの?」


 <センチュリオン>悠南支部第一会議室電気(ファミレスや居酒屋ではなく、正式な会議室だ)は真冬の冷気に支配されていた。部屋に入るなり一人が暖房をつけるが、予算不足の悠南支部はウォールド・ウォー以外の設備に関しては10年モノなどザラである。多分にもれず年季物のエアコンも、重苦しい音と共に運転を始めるが部屋中に暖気が行き渡るのが十分後か二十分後かはわからなかった。


 ストーブの横に陣取って、ホットコーヒーで両手を暖めながら口を開くマヤに情報課の隊員が答える。


 「現状の当支部の状況ですが……」


 若い隊員は暗い部屋の壁にかかっているモニターを入れた。青白い無機質な光が、会議室に集まった悠南支部の主だったメンバー、二十人ほどの顔を照らす。


 「イーグルチームの『チャリオット』は稼働率87%、大破1、中破4、修理には93時間を予定しています。シャークチームは大破5、中破6。こちらは随時修理を


始めていますが、年内での対応は難しく予備の『チャリオット』及び旧型機『パイクD8』を補充に充てる予定です」


 モニターに映し出される数字にどよめきが漏れる。壊滅寸前とは行かないが、不利な状態であることは明白だ。悠南支部始まって以来の本格的な危機と言ってもいい。


 「パンサーチーム各機はいずれもほぼ健在……しかし予定されている月当たりの予定最大戦闘時間20時間を大幅に超えています」


 「よろしくねぇな」


 隊員の報告を受けて飛羽が厳しい顔で言う。他のトレーサー達も同じ思いだ。いかにアーミング・トルーパーの操縦に適応が高いとは言え、子供達に戦線を支えさせると言うのはプロとして、そして大人として忸怩たるものがある。


 しかし、現実はそのような感情を考慮したりはしない。


 「AI操縦の『バリスタ』は損傷の無い機体は17機……戦闘に出せる基準値を満たしているのは26機です。次に弾薬、推進剤関係……推進剤に関しては備蓄68%。生産も滞りなく現状まだゆとりがあります。問題は弾薬関係で、機銃類、ミサイル類共に25%を切りました。特にパルスミサイルの残弾は30ほどで、こちらの使用に関しては申し訳ないのですがパイロットの方々には熟慮の上ご使用いただきたいとメンテの方から……」


 会議室の隅にいたメンテチームの、年配の生産担当がでっぷりした身体を立ち上がらせて頭を下げる。


 「申し訳ない、生産ラインはフルで回しているがここまで消費が激しい事態は想定外で……」


 それを見てイーグルチームとシャークチームの面々が苦々しい笑いを見せる。メンテチームとて寝食を惜しんで修理や補給を頑張っているのはよく知っている。それに


消費しているのは彼ら自身なのだ。飛羽がトレーサー全員の気持ちを代弁するように、気にしてねえよと手を振ると生産担当は汗を拭きながらまた頭を下げて席に着いた。


 「弾薬に関しては、他の支部から融通が利くものは買い取ってでも回してもらって。私の名前を使って構わないから」


 マヤが情報課の隊員に告げる。普段の冗談混じりの雰囲気を微塵も感じさせない冷たい口調だった。


 飛羽がその隣に座るアリシアに視線をやりながら手を上げる。


 「ボウズ達が使った『サンライト』とかいうの、俺達には使わせてくれないのか?」


 「申し訳ないけどExgシリーズはまだ調整段階で、しかも『ファランクス』の規格しか用意してないの。もちろん緊急時には投入してもいいけど動作不良、最悪ハングアップしてもおかしくない試作品でね……」


 「そうか」


 アリシアの返答に飛羽はやれやれと頭を掻きながら内ポケットからガムをバラバラと取り出して一気に口に放り込む。物事はうまく行かないものだ。


 情報課の隊員がモニターを消し、かわりに会議室の照明が部屋を明るく照らす。まるでぎゅうぎゅうに押し込められた部屋から開放されたかのように全員が溜め込んでいた息を吐いた。マヤが立ち上がり会議を締める。


 「辛い状況が続いているけど、マイズアーミーの戦力も無限ではないわ。各員気を引き締めて任務にあたって下さい。くれぐれも体調管理には気をつけて、風邪はもちろん二日酔いで出られないなんて事が無いように」


 最後の一言と共に向けられたマヤの視線に飛羽の筋骨隆々の身体が若干小さくなる。着任以来、二日酔いで欠勤し、始末書を書いたのは片手では納まらない。


 解散、というマヤの言葉で、悠南市を守る兵士達は身体を気だるそうに立ち上がらせて持ち場に戻っていった。それらを見送りながら、アリシアがマヤの耳元でボソリと呟く。


 「本当に、『有限』なのかしらね」


 「そんなの、あたしがわかるわけ無いじゃない」


 コーヒーを煽るように飲んだマヤの顔にもまた、疲労が溜まっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ