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エピローグ(前)





 「荷物そんなにねーんだからよ、さっさと行くぞ」


 「レディの旅支度には時間がかかるものなのよ」


 部屋の奥でまだバタバタとしているレイミを待ちながら、ヒロムは冷たい風に吹かれて高層マンションに住むのもいいもんじゃないなと思った。


 (次は二階くらいの安いアパートでいいか)


 二本目のタバコが指の間でフィルターまで焼けそうになった頃、ようやくでかいグラサンをかけた相方がでかい荷物と共に現れた。


 「いやー、意外と荷物あるもんね」


 「たった1年しか住んでないじゃないか」


 「そうね、一年……いろいろあったわね……」


 二人がガラにも無くしんみりとほとんど家具の無くなった家の中を見納める。掃除をしてみればまだまだ新品と言える位にはキレイな室内に戻す事ができた。テーブルクロスも無い裸の食卓の上には陽に焼けて塗膜にヒビの入ったカバのプラモデルが残されている。


 「いいの?」


 「ああ、持ってたら……思い出しちまうからな」


 「意外とナイーブなのね」


 クスクスと笑うレイミの頭をぺし、と叩きながらヒロムはEVホールへ歩き出した。


 「何すんのよもー!」


 慌ててドアを閉めてキャリーを引きながらレイミも後を追った。管理人室のポストにカギを放り込んで自動ドアを出ると、上層階よりはやや温かいゆっくりとしたそよ風が吹いている。車道への階段を下りながらヒロムはサングラスを下げ、片目でレイミを振り返った。


 「ちゃんと見えてるのか?」


 「アンタと同じくらいにはね」


 笑顔でグラサン下げるレイミの右目も、ヒロムと同じ様に眼帯に隠されていた。最後の戦いでグロウスパイルから受けた後遺症だ。


 「なんだかペアルックみたいで気になっちゃうわね」


 「全く、この仕事が終わったらお前とは離れ離れになれると思ったのによ」


 「連れない事言うじゃない。二人とも全然お金無いんだから、頑張ってこれから稼いでいきましょ!とりあえずラーメン!食べ納めに行っておかないと!」


 「……金は無いから歩きだぞ」


 「はいはーい」


 


  







 穏やかな風が鼻先をくすぐるように通り過ぎるのを、ユキオは幸せに感じていた。


 12月頭だが瀬戸内の海を臨むこの島はまだ暖かい。もう真南に差し掛かろうという太陽を、枯れ草交じりの丘の斜面に寝そべりながらみあげるユキオの所にルミナがやってきた。


 「もうお昼だよユキオ君。帰る準備しないと」


 「いいじゃん、こんなにいい天気なんだし。もう一日泊まっていこうよ」


 「ダーメ。帰ったら新型のテストがあるって姉さんからメールが来ているもん」


 隣に座りながらニコニコとそう言うルミナから紅茶の入ったマグカップを受け取って、ユキオはやれやれと上半身を起こした。


 千切れ雲が浮かぶ高い青空にはトンビが呑気そうに弧を描き回遊している。それを見ながら温かい紅茶一口飲み、ユキオは老けた猫のように欠伸をした。


 「こんな日がずっと続けばいいのにねぇ」


 「ホントにね……」


 朝食の残りのサンドイッチを齧りながら、ルミナも小さく欠伸をして頭をユキオの肩に預けた。


 <シャントリエリ>の壊滅が関係しているのか、それともドクターマイズが礼代わりにそうしているのか日本へのマイズアーミーの攻撃は以前の4割程度に減っていた。


 それでパンサーチームもここしばらくの激務による疲れを癒すように休暇を貰い、それぞれプライベートな時間を楽しんでいる。


 ユキオとルミナは遠出をしようと思い電動バイクと共にフェリーに乗り、四国と広島を繋ぐ海道の小島に来ていた。


 「都会と違ってのんびりしてて、海も山もあるし……もう俺ここに住んじゃおうかな……」


 「悠南だって山の中でしょ」


 「そうだけどー……ふあああああ……」


 放っておいたらまた寝そうなユキオに、ルミナは少し真剣な口調で話を変えた。


 「ユキオ君は……これからも『ファランクス』に、ウォールドウォーを続けるの?」


 「……」


 ルミナの問いにしばし口を紡ぐ。カップの中の紅茶を飲みほして立ち上がり、背筋と両腕を伸ばして深呼吸をした。

 

 また、風が二人を撫でるように過ぎてゆく。


 「この戦いが終わったら、辞めようかとも考えた……いや、いつだってなんだかんだ辞めるタイミングを探してたような気がする」


 「……」


 「でも、カズマの事、フレッドの事……そしてあのクソジジイのセリフを聞いたらさ、辞められなくなったなぁ……って」


 ルミナも立ち上がりそっとユキオの手を握った。


 「それにマイズが考えている事、戦争を止めようとしている事は悪い事じゃない……やり方を否定するだけじゃなくて自分なりの答えも出さないと、って思って……嫌?」


 「ううん……ユキオ君が戦い続けて、危ない目に合うのは怖いけど……でも、そういう人だから……私が好きになったのは」


 少し潤んだ目でまっすぐに自分を見つめるルミナの目を、ユキオは恥ずかしさと罪悪感で直視できなくなった。


 「いや、ゴメン、なんか、ほんと……」


 「怪我とか、しないでね……ずっと元気で、私の傍にいてね……」


 「ああ」


 ユキオは一瞬だけルミナと視線を合わせると、そのまま彼女を強く抱きしめた。


 「わかってるよ」













 高校卒業後、ユキオ達パンサーチームは解散した。


 カズマも独力でWATSを操作できるまでには回復できず、本来のチームとしてのプロモーション活動が行えないと判断された為だった。


 もう一つの試作機の評価試験などを含め、パンサーチームの受け持っていた業務は全て静岡のオルカチームに引き継ぐ形となった。オルカチームはワタル達の後輩となる2期メンバーの選出も行っており、安定して継続した業務が行える見通しが立ったのも大きかった。


 カズマとマサハルはTVやネット、雑誌などで<センチュリオン>の活動の広報部の仕事を手伝う事になった。対<シャントリエリ>戦のMVP、救国のエースとなったユキオとルミナにもその誘いは回って来たものの人前で話すのが苦手な二人は謹んでそれを辞退した。


 ソウジロウは<センチュリオン>を離れた後、大学に進みながらも父親から会社を受け継ぎ新たなウォールドウォー用のマシンの建造に勤しんでいる。その独特の設計思想に則って作られたマシンに注目する者は多く、海外からも少しずつ問い合わせが増え始めている。


 イズミは悠南支部での仕事が減った為、都内に移り稼ぎを増やす事にした。時々ソウジロウの作った試作機のテストパイロットも引き受けている。


 ヴィレジーナは国に帰り飛行部隊の実戦配備に尽力する日々を送っている。カズマの協力を得て作成したトレーサー育成プログラムは効率よく機能していた。当のカズマとは年に2、3回ほど会っている様だ。


 飛羽はいい加減隊長を辞めて農業でもやりたいと言い始めたが、体育会系で集めたイーグルチームをまとめられる代役を育てていなかったのが響いて未だ悠南支部を離れられないでいる。最近また子供が産まれたので暫くは以前と同じ日々が続くだろう。


 マヤもまた悠南支部のトップとして勤務を続けている。元々支部長は別の人間だったが3年も入退院を繰り返し現場を離れておりていたため正式にマヤにその椅子が譲られた。嫌な顔をしたが飛羽と同じ様に他に押し付けられる人間もいなかったため仕方なく拝命した。酒の量がまた一段と増えたようである。国府田とはいい関係になっているようだ。


 そして。 






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