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初雪桜



 「終わった……」


 「まだよ」


 呆けたように立ちすくむユキオに、ルミナが氷の様に冷たい言葉を続けた。


 持っていたライフルを背中に回す。ここまで必死に運んできた電磁レール銃身。そのパーツが銃の先端に取り付けられ、長大な歩兵槍のように<シャントリエリ>のサーバーへ突き向けられる。


 しかし、狙いを定めようとしたところで『GSt』の左腕が肩から脱落し、地面に転がった。先ほどのダメージが致命傷だったようだ。


 片腕では長大なライフルで正確な射撃をすることは出来ない。それを見た<シャントリエリ>の男の嘲笑が響き渡った。


 「フッ、フハハ、ハハハハハ!健闘したようだがここまでだな、君らの頑張りは全部無駄に……」


 「大人のクセに、早とちりなんだな」


 「!?」


 ユキオもまた冷たく言葉を吐き捨てると、ゆっくりと『Rs』を『GSt』の傍へ歩かせた。ボロボロの残った左腕でスナイパーライフルを持ち上げる。


 「ユキオ君……」


 「照準をつけてくれ……俺が修正するから」


 「わかった」


 二人が片腕ずつで構えなおしたライフルの銃口が、再びデータサーバーを狙う。男の声が明らかに怯えた口調に変わった。


 「や、やめろ!そんな事をしてもお前達に得は無いだろう!マイズにいいように使われて……!」


 「人の国に散々ちょっかいかけてきて、今頃そんな事を言うのか」


 「望むものなら何でもやろう、財産も、地位も、何でもだ。我々にはそれを用意できる力がある!」


 みっともない早口で説得を図る大人に、ユキオは短く答えを返した。


 「俺が奪いたいのは、お前達のその力そのものだよ」


 「……!!」


 相手が言葉に詰まるその間、ルミナはシータから送られたサーバーの中心部ポイントにライフルの狙いをつけていた。


 「ユキオ君、左に6……それから上に1」


 「わかった」


 ルミナの支持通りに細かくコントロールスティックを操る。『Rs』の持つ砲身がゆっくりと左上に少しだけ動いた。


 「……いいわ、そのまま固定して」


 「了解」


 「やめろ、お前達……こんな事をして……よせ、必ず後悔するぞ……!やめるんだ!」


 ほぼ半狂乱で喚きたてる声を無視して、ルミナはその細い指でトリガーを引いた。


挿絵(By みてみん)










 予想以上の重い反動と共に、長大な銃身に回転をかけられた特殊弾頭が昏い闇の中を音速で駆け抜け……そしてイルミネーションでデコレートされているタワーのような<シャントリエリ>のメインデータサーバーに小さな穴を開けた。


 「バカな、こんな事が、お前らみたいな虫ケラのような連中ニ……」


 サーバーに亀裂が走り、塔頂部がゆっくり傾いて……やがて折れて落ちた。


 「バ…な、あリエ……絶……」


 うろたえる言葉がノイズに汚染されて聞き取れなくなってゆく。固唾を飲んで見守る二人の前で巨大なデータサーバーは光を失い、砂で作った城のように音もなく崩れ始めた。


 灰色の、細かい屑のように地面に広がったそれは、やがて只の小高い砂丘に姿を変えた。時折どこからともなくゆっくりと吹いてくる風がその砂を浚って虚空へと散らせてゆく。


 ガシャン、とライフルを地面に落とす音が響いた。『GSt』のマニピュレータが限界を超えたのだ。ユキオの『Rs』も銃身を支えきれず手を放した。


 「帰ろう、ユキオ君……」


 ルミナの優しい声が届く。が、ユキオの中でずっと引っかかっていた、くすぶっていた<何か>が急に火のついた花火のように燃え上がった。


 やおら上空を見上げ、大声で叫ぶ。


 「ドクターマイズ!出てこい!」


 「ユキオ君!?」


 驚くルミナに構わず、『Rs』の脚を前に一歩踏み出しながら。


 「見ているんだろう、出てこいよ!!」


 息も荒く虚空を見上げるユキオと、その後ろに駆け寄るルミナの前に、しばししてドクターマイズの上半身がぼんやりと立体映像で現れた。


 老人は腰まで届く長い髭を撫でながら老人が口を開く。


 「見事だった、ずいぶんと分の悪い賭けに勝ったな……」


 「テメェ……」


 目を充血させてライムグリーンの蛍光色で表示されているドクターマイズの映像を睨みつける。


 「お前もコイツらと一緒じゃねぇか!人を見下して争わせて!何が人類の未来のためだ!」


 「……」


 「降りてこい!今すぐ俺と戦え!!」


 「そんなボロボロの機体でか?」


 「関係ねぇ!俺は……!」


 「待って、ユキオ君!!」


 息巻くユキオとルミナの周りに、一つずつ、ぼんやりと赤い光が浮かび始めた。


 「!?」


 それは、マイズアーミーのマシンが持つセンサーアイの光だった。『ビートル』、『スタッグ』、『リザード』に『ヘラクレス』、見たことのないマシンに、遠くには近づいてくる『ロングレッグ』や『テンペスト・フログ』の姿も見え始める。


 「せっかく英雄として帰れるのだ、こんな所で無駄に散る必要もあるまい……」


 「この野郎……!!」


 予備のレーザーブレードを左手で抜く。ルミナが止める間もなく踏み出させた『Rs』の右足は、しかし直後四方から長距離レーザーで狙撃され崩壊し、片足を失った『Rs』は無様にも地面にひれ伏した。


 「クソッ!!」


 「君のような人間こそこれからは必要なのだ。諦めずに戦い続けることだ、そうすればいつか我々は、また逢う事になるだろう……」


 「待て、ドクターマイズ!!」


 無数に取り囲むマイズアーミーのマシンの中で倒れた『Rs』とそれをかばうようにしている『GSt』を光の粒子が取り囲み始めた。それは、ユキオ達を戦場に転移させた時と同じ現象だった。


 「若者よ、耐えて、迷い考え、そして伸びるのだ。それこそが我が願いである」


 「ちくしょおおおおおおおお!!」


 喉が張り裂けんばかりの叫びと共に、二人の視界は光に焼かれていった。









 日本中にサイバー攻撃を仕掛けていたマシンは、ルミナの狙撃と共に一斉に消え去っていた。


 <センチュリオン>をはじめ大多数のWATSや防壁に被害が及んだが、民間のサーバーや通信関係へのダメージはトレーサーたちの善戦のおかげで小規模なもので済んだ。非常時警戒態勢は解かれ、一般市民は夜にはいつもの生活に戻ることができた。


 悠南市も隣接する街とのライフラインを復旧し、人々はまるで避難訓練でも終えたかのように何事もなく平和が戻ってきたと考えていた。夜のニュースではパンサーチームの活躍の映像が繰り返し流され、玖州ユキオと奈々瀬ルミナの名前は日本中に知れ渡ることになった。流石に悠南支部の突入部隊の人間は長時間の戦闘の為、皆精密検査に入っておりインタビューなどは差し控えられたがそのうちカズマ達と共にメディアに引っ張られるのは避けられないだろうと、マヤは苦笑しながら高層ビルのように積み上がる書類と格闘を続けた。


 そんなマヤの横にあるTVが、気が付くと国内のニュースをいったん区切り海外のニュースを流していた。


 「キューバ付近の海域で国籍不明の豪華客船が転覆、漂流しているのが発見されました。火災が起きた模様ですが発生原因や転覆に至った経緯は不明であり、キューバ当局はこの船舶の持ち主などを調査する等して事件の究明を急ぐと……」









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