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ホワイト・ローズ(前)



『アマギリ(サリューダ+)』


 <センチュリオン>静岡支部謹製

 簡易換装システム実装型戦闘用WATS(ウォールド・アーミング・トルーパ・システム)


 最高速力 143Km/h(通常装備時)


 武装

  

  大型ウォーアックス

  レーザーリッパー

  97Fデュアルマシンガン

  25口径C型対空砲

  各種攻撃・攪乱用ハンドグレネード

  


  その他、『サリューダ』シリーズの使用する武装を使用可能。




 <センチュリオン>静岡支部にて先行評価が進められていた『サリューダ』の試作強化機。各関節の強度や出力が増しており、オリジナル機よりも高速かつパワフルな接近戦闘を可能としているがその代償に連続稼働時間を40%も減少させてしまった事、さらに生産コストが83%も増加してしまった事から現状では量産計画から外され、再評価試験の為<センチュリオン>悠南支部に預けられている。


 『サリューダ』で実証された格闘用武器を用いた白兵戦への適応力を更に強化した設計になっており、ヘビーメイスを始め現行のWATS用武器を全て使用できる。更に専用に設計された大型レーザー武器・ウォーアックスの破壊力は他の物と一線を画すほどで、『ロングレッグ』の上部装甲にも通用すると目されている。(現在『ロングレッグ』の装甲を破断できた近接武器は悠南支部の『サンライト』のみである)


 白兵戦特化にチューニングされているものの最低限の対空用射撃武器を用意しており、特に二本の砲口を持つ2丁のデュアルマシンガンは(弾数こそ少ないものの)強力な近距離用火器で、短時間に強力な弾幕を作る事が可能。

 











 シータを交えたミーティングを終えた後、アリシアはヨーロッパに蜻蛉帰りするはずだったが話の流れからそうも行かなくなった。しばらく日本に滞在する事を上司に告げてそのまま古巣であるメンテナンスルームに入る。


 その左右のデスクにはユキオとソウジロウがそれぞれ付いていた。


 「よくここまで実用化にこぎつけたものね」


 ディスプレイに『ファランクスRs』の設計データと実戦記録を流しながらアリシアは小さく感嘆した。自分の基礎原案があったとは言えそれは青写真以下の設計イメージに過ぎず、それを実戦に耐えうるマシンに完成させるのは並大抵の知識と時間では叶わないはずだった。


 「いえ、『ファランクスAs』のデータもありましたし、結局のところコイツは『As2』と呼ぶべき機体になってしまいました」


 ソウジロウもプロの設計士としてのプライドがある。経験豊富な原案者の前で図に乗るようなことはしない。


 「それでも、このリアクターの接続なんかは私には思いつかなかったわ。これだけで特許が通るわよ」


 「やるじゃんか」


 アリシアのコメントにユキオがソウジロウの背中を叩く。御曹司もまんざらではないのか恥ずかしそうに鼻の頭をこすった。


 「それでも、これからの戦いを考えるとまだまだ強化をしていかなければならないわね……特に火力を諦めた分、他の機体の武装を増やしたいところだけど……『トレバシェット』にはまだ積載猶予がありそうだけど?」


 「確かに出力的にはまだ余裕がありますが……恥ずかしい話ですが自分の操縦スキルとバランサーの性能では、これ以上重量を増やすと上手く戦えないので……」


 肩身狭そうにソウジロウはそう答えた。『トレバシェット』は処女作とは言え多少は自信を持って作り上げた愛機である。設計屋としては完璧なバランスを追求したと言いたい所だが、現実的な壁を越えられない事にプライドを傷つけられた。 


 「それこそ、『As』のバランサーを流用して補助に組み込んでみたら?それだけでだいぶ変わると思うけど」


 「え!?でも<センチュリオン>独自開発のプログラムだし……」


 「構いやしないわよ、そのままパクって市場に流したりしなければ。今は戦争なんだから、使えるものはどんどん使っていかないとね。なんなら『サリューダ』のデータも持ってって良いわよ」


 リベラルすぎるそのコメントにユキオとソウジロウは若干固まったが、素直にコピーデータのメモリーキーを受け取る。ニッコリと微笑んでいるアリシアにソウジロウは真剣な顔で頭を下げた。


 「……ありがとうございます。その……恥ずかしついでにもう一つお願いがあるのですが」

















 悠南市から車で二時間ほど走った先にある海岸沿いの国道から、国府田のEVクーペが細い山道に入った。程無くして曲がりくねった先の闇夜の中に白い壁の清潔感のある小さな邸宅が現れる。


 車のドアを閉めながらマヤはまじまじとその別荘を見定めた。国府田は慣れた調子で高級そうな大きいドアを開けてマヤを誘う。


 「手狭な所ですが、どうぞ」


 「そんな、素敵だと思いますよ」


 応接間も高級そうなソファ、暖炉にシャンデリアと立派なものだった。ドラマのロケにそのまま使えるスタジオのようにも見えてしまう。


 (そりゃ、私がこういう生活に縁遠いからなんだろうけど)


 所謂、官僚の持ち家という感想で部屋の中を眺めていると国府田がワインセラーから二本、白と赤のボトルとグラスを持ってやってきた。


 「すみません、込み入った話になりそうなので……人気の無いほうがいいとおもいまして、こんな所まで」


 勧められるままにソファに座りながら、マヤは真面目な顔で聞いた。


 「ドクターマイズと会見して、どうしようって言うんです?」


 それは、シータに国府田が依頼した事だった。


 音を立てずに器用にワインをグラスに注ぎ、マヤの前に置く。


 「とりあえず停戦を呼びかけてみますが、まぁ応えないでしょう。ウォールドウォーでは向こうが絶対的に有利ですから……しかし相手も人間です。交渉の場に引っ張り出せれば、やりようはあります」


 自信過剰、という程でもないが確信を持ってそういう国府田の顔は、出会った頃とは比べるまでも無く頼もしくなっていた。白ワインを半分ほどグッ、と呷る呑みっぷりも男らしさを感じさせる。


 「この前もお話しましたが、日本への攻撃の集中っぷりは他国と比べても抜きん出つつあります。これの理由だけでも聞いておきたいですね」


 「ホントに、真珠湾攻撃の報復だったら?」


 「そんな過去の事にこだわるような頑固老人なら、正面から叩き潰してやるだけの事です」


 「やるのは、私たちなんですけどね」


 失礼しました、とマヤのグラスにすかさずワインを注ぐ。今夜でこの二本を空けてしまうつもりなのか。何度か一緒に呑んだがここまで早いペースで呑まされるのは初めてだ。


 「私も、職を賭して全力でバックアップします。罷免されることになっても、この局面は乗り越えなければなりません……これ以上サイバー攻撃が熾烈になれば遅かれ早かれ日本は立ち行かなくなります」


 「正念場、という奴ですかね」


 「はい」


 どうにも、入れ込み過ぎてるようにも見える。まるで一人で決起集会をしているかのようだ。真面目な男がこういう事を始めるとロクな事にならないのを、残念ながらマヤは知っている。


 「……この別荘は?」


 ふと、話をそらされてキョトンとした国府田は少し恥ずかしそうに笑って答えた。


 「バカンス用に買ったんです。が、もっぱらエライさん達との密談に使われてます。こうやって女性とお酒を飲むのは初めてですね」


 お恥ずかしい、と言う国府田にマヤは出来の悪い弟を見るような優しい視線を返した。


 「順調に出世してるのに、女の口説き方は全然上手くならないんですね」


 「へ?」


 間抜けな声を漏らす国府田の口が、ルージュ越しに柔らかい唇で塞がれた。


 

 










 

 翌日、意外な早さでドクターマイズからの返答があった。専用の衛星回線を使い悠南支部との通信に応じるというものだった。あまりに余裕が無かった為国府田は止む無く責任者としてマイズとの会談に応じることにした。それは、明らかに越権行為である。


 さすがに二日酔いではなかったものの、明らかに睡眠不足の国府田とマヤにルミナが特製のドリンクを振舞う。二人とも地獄の底を覗いたような顔をしていたがなんとか意識をハッキリさせたようだった。


 「失礼だと思わない?せっかく早起きして作ってあげたのに」


 不満を隠そうともしないルミナをユキオが宥めているうちに時計が9時を指す。ドクターマイズとの会談の時間だ。ミーティングルームには昨日と同じ面子が揃っていた。


 「じゃあ、繋ぐね」


 壇上のタブレットの上で、シータがマヤにそう言う。調子を取り戻し真剣な顔に戻ったマヤが頷くのを見てシータは壁に設置された大型モニタに手を振った。


 ブゥン……。


 鈍い機動音と共にモニタが灯る。が、そこに映されたのはまるでウォールドウォーの戦場のような漆黒だった。何の光も無い、深遠の闇。


 コツ……、コツ……。


 悠南支部のスタッフが喉を鳴らしながら待ち構える中、足音と共に闇から沁み出るように白衣の男が現れた。白い長髪に長い髭を蓄えた老人である。


 (コイツが……)


 両の目は細長く、その中の瞳は狂気と言うよりは冷徹の色を湛えていた。日本人では無いだろうが、どこの国の人間なのか誰にも見当はつかない。背は高くガッシリした体格だが一方肉付きは悪く、まるで浮世離れした仙人のようにも見える。


 老人が歩みを止めるのを待って、国府田が一歩モニターに近付きながら問いかけた。


 「貴方が、ドクターマイズか?」


 「いかにも。……ごきげんよう、親愛なるわが宿敵の方々」


 鷹揚に老人は頷いた。


 (コイツが、ドクターマイズ……)


 それぞれ、その場にいたものは驚き、怒り、呆然と様々な感情でその老人を見た。


 ユキオも憎しみの目を向けている。その震える拳を、ルミナは手に取る事は出来なかった。


 「始めまして、私は<センチュリオン>関東方面統括室長の国府田と申します」


 つい、丁寧口調になった事を反省しながら国府田は話を続けた。


 「今日は、わざわざ会見に応じていただいた事に、まずは礼を言わせていただきたい」


 「何、こちらにも礼を言いたい用件があってな」


 マイズはそういうと視線を国府田から外し部屋の壁際に向けた。そこには、マヤとパンサーチームの一同が並んでいる。


 「君が玖州君か。玖州、ユキオ君」


 特に感情の無い声でそう呼ばれ、ユキオは身を固くした。


 「フレッドから話は聞いている。君が彼の最後を看取ってくれたことも。その事にまずは礼を言わなければならないな」


 言葉とは裏腹にその口調、態度にはどこにも感謝の意を感じられない。ユキオは思わず声を荒げた。


 「アンタがこんな事を始めなければ、フレッドは死ななかっただろう!」


 「そうだ。だが私にもフレッドにも後悔は無い。必要だと思った事をした結果だ。辛い事だが、人がこういう死に方をしてしまうのも今の世界の現実の一部でもある」


 「お前……!!」


 激昂するユキオをマヤとルミナが押し留める。ユキオの気持ちはわかるが、貴重な時間を諍いで消費する訳にはいかなかった。


 「国府田君、だったか。私に何の用だね?まさかと思うが停戦を申し出るわけでもあるまい」


 「そのまさか、のつもりだったがその口ぶりでは聞いてもらえないようだ」


 「当然だ。私の決意を甘く見てもらっては困る」 


 まるで聖戦に向かう戦士のような顔つきでドクターマイズは国府田の発言を一蹴した。だが、国府田とてそれで納得して話を終わらせてしまうほど無能でもない。


 「貴方のウォールドウォーの目的は聞いた。宇宙開発は確かに必要な事だろう、他に人類を説得して平和に話を進めることはできないのか?」


 「時間が無いとも聞いているはずだ。それにウォールドウォーは私の予想よりも強固に戦争抑止に役立った。爆撃機が民間人を殺さないというだけでもウォールドウォーには価値があると私は考える」


 「だが、一方でライフラインを寸断されたために病院で亡くなってしまう人もいる」


 「実数では比べ物になるまい。些細なケースだろう」


 立ち上がって話に割り込む飛羽に一瞥をくれながらマイズはそう答えた。イーグルチームの面々が一気に怒りの形相と共に総毛立つ。


 「なんと言われようと、私はウォールドウォーを止めるつもりは無い。人類が意識を改めて国境を越えた協力体制ができるようになる事がウォールドウォーの目的だからだ。説得なら無意味……しかしフレッドの件で私は君達に一つ貸しを返さなければなるまい」


 「……どういう、つもりだ?」


 渇いた口で問いただすユキオにドクターマイズはゆっくりと口を開いた。


 「私と協力関係にある組織の一つが、日本に向けて大規模な攻撃を計画している。今週末、仮に諸君らが通常の警戒態勢からこれを迎撃した場合、予想される被害はこうだ」


 ディスプレイに日本地図が表示された。東京を中心に太平洋側の主要都市が次々と真っ赤に染まり、最終的には国土の7割近くが壊滅的な被害を受けるという予想図となった。


 「そんな……こんな戦力が用意されていると?」


 攻撃してくる戦力は56万以上、『ロングレッグ』や『ギガンティピード』など一機で驚異的な戦力となる大型機も200近く投入されている。国府田をはじめその場にいた全員がその数に凍りついた。そのデータが本当なら日本のネットワークはもちろん、その先にあるライフラインやサーバー、データ端末、さらには蓄電、発電系の全てが破壊されるという予想は疑いようも無い。


 「これが本当だとして、なぜこんな情報を私たちに?」


 震える声を押し殺し、マヤがドクターマイズを睨みつけた。身内の人間に手当をしてやっただけでこんな情報を与える義理など向こうには無いはずだ。


 「協力、とは言ったがこの連中は経済的利益しか見えてない連中でな。ここ一年の日本への集中的攻撃もこやつ等が独自にやっていることだ。他国にある君達の同業者からも金を集めてな」


 「そんな……」


 そのセリフにはさすがにマヤも言葉を失った。協力体制にあると思っていた組織の中に、自分達の弱体化を望みマイズアーミーに出資しているような人間がいるなど……。


 しかし、<メネラオス>の連中の事を考えればそれも無下に否定することが出来ない。


 「諸君らがこ奴ら……<シャントリエリ>とか名乗っている連中を殲滅してくれるのなら、情報を渡そう」


 「邪魔だと思うのなら、自分でやったらどうなんだ」


 「首領が自ら味方を処罰するのも立場上問題があってな。特に自分に牙を向いてないような連中には」


 「まるで悪党のような事を言うのね」


 飛羽とマヤの言葉に答えながら、ドクターマイズは始めて意思のある笑みを見せた。それは他人を見下す悪魔にも似た冷酷な笑みであった。


 「私は人類史上、最大の悪事をしているつもりだがね」


 「……」


 ユキオ達はその堂々とした発言に返す言葉を失い、沈黙した。


 ただ、怒りだけが沸々とそれぞれの中に湧き上がり始める。


 「罠を警戒するのもわからんでもないが……このまま座して待てば諸君らに待つのは壊滅だけだ。それこそ、旧大戦時に比肩するほどの被害が待っているかもしれない」


 その言葉は飛羽達ですら実感は無いものの、絶対に避けなければならないものとして心に刺さる威力を伴っている。


 「決断するがいい」





 

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