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短編集

勇者が魔王より邪悪過ぎる件について

作者: 神城 奏翔

数ヵ月前――。

お、『勇者が魔王より邪悪過ぎる』ってタイトルでちょっと作ってみようと思い書いてみた作品です。


パソコンに眠りっぱなしよりは、載せた方がいいかなと思い載せましたw



あ、性転換ものです。





 魔王と勇者――。

 相容れない両者の戦いは何年にも、何世代にも渡って行われ続けてきた。

 決して争いのない安息の地などありはしないと言わんばかりに戦う両陣営。しかし、終わりは訪れた。



 第二十九代勇者が同じく第二十九代魔王に打ち勝ったのだ。それも完膚なきまでに、魔王陣営に復活の兆しを与える意味はないと魔王城付近の魔物を掃討した。



 犠牲者は数百万をも超える奴らで、全て魔王陣営の魔物のみ。勇者陣営の人間は一人も欠けることなく正面衝突は終えた……。


 勇者は犠牲者なく魔王を打ち倒したと王様や姫様から大いに祝福を受け、王国の住民からも英雄視されているだろう。



 ◇



「あー、うぜぇな。ホント、死んでくれないかな。勇者」


 箒を片手に城内の掃除を行いながら、オレは溜まりに溜まった本音を吐露する。

 現在オレがいる場所は勇者と魔王が激戦を繰り広げ、所々が崩壊している魔王城の玉座の間。

 そこに勇者の姿はない。なので、今のうちに言いたいことは言ってスッキリしようぜと考えたオレの心が暴走した。


 オレ――『ミヤ』の口からは勇者の暴言しか出てこなかった。



(……夜道に女の子から刺されて死んじゃったりしないかな。んで、ポックリ逝ってくれないかな) 



 オレが勇者に死んで欲しいと願う理由はただ一つ――。


「いけませんよ。魔王さま。今や我々の陣営は遠征中の軍を除いて全滅状態なのですから」

「わかっているっ! だけど、早く復讐したいーー!」


 あの猫被り勇者が存在するから、“今のオレ”が存在してしまうからだ。


 オレの正体は第二十九代魔王。

 数日前まで勇者陣営と壮絶な戦いを繰り広げていた悪の親玉と称されていた魔王だ。

 しかし、オレは人間達に魔王らしい行いは何もしなかった。腹心である悪魔に勇者に対抗する手段は全て任せていたのだ。



 なのに、勇者はオレの前へと現れ「皆の敵だ」等とほざいて、オレは勇者と戦う羽目になった。

 道中で何が起こったのか、腹心であった悪魔は勇者に何を行ったのか結局他人事というスタンスを貫いていたオレは何にも解らず。そんな態度が勇者にとっては不愉快だったのだろう。決定的な力の差を見せ付けられ、敗北してしまった……。

 挙句の果てには、死にたいと懇願しても絶対に解けない“戒め”を掛ける。と、オレは何の力も持たない人間にされてしまった。


 オレが負けた時に殺せば良かったのにと思うことが何度かあったが、勇者はオレを精神的に殺すつもりなのだろう。

 じわじわといたぶって、自身に懇願させると。




(まさに、外道だな)





 オレが以前の魔王と同じ姿だったならば、そこまで外道とオレに称されることもなかった。

 だが、あの腐れ外道と言える勇者はオレに魔力がまったく使えない人間にする“戒め”だけではなく、オレを少女へと変える“呪い”まで掛けやがった。


 戦闘でのダメージがデカく深い眠りについてしまったオレがそれに気付くまでに約二日間掛かってしまったが、鏡を見た際のショックは計り知れないものだった。

 オレの体を勝手にしやがった外道がどうしても許せなくて、ボロボロになった魔王城の玉座の間に勇者はいると聞いた直後、オレは一刻も早く勇者に会ってボコボコにすると意気込み、玉座の間へと向かった。


「腐れ外道勇者、何処だ」

「……あ、起きたんだ。魔王ちゃん♪」


 そいつはオレらの戦いで奇跡的に傷一つ負わなかった玉座に悠々と座っていた。

 オレの居場所だった場所を、特等席を奪われた。

 偉そうにしている勇者にオレは腹が立って、ブカブカになったシャツの懐から一つの指輪を取り出し、勢いのまま指へと付ける。


「っ!? 勇者さまっ!」


 オレが何をしようとしたのか本能的に理解した勇者パーティーは、勇者の前に立ちはだか

ろうとしていたのだが、勇者はそれを阻止した。


「君達に助けてもらう程でもないよ。……それに、君らに怪我を負ってもらったら困るからね」


 とても整っている顔で、甘い台詞を間近で言われた為か、勇者パーティーの面々は顔を赤く染めながら勇者の後ろへ引いていった。

 そんな彼女らのことを不憫だと思いながら、オレは魔力を放出する。


「オレに“戒め”や“呪い”を付ける前に、持ち物ぐらい確認しておくべきだったな」


 充分な魔力が体に満ちた瞬間。

 指輪はパキンっという音を発し、粉々に潰れた。


 即席で作った簡易式魔力回復リングにしては上出来だと、自分の作品を褒めながらオレは勇者へと駆ける。



「喰らえっ!! 『レーヴァテイン』」


 赤黒い剣を魔力によって生成し、油断しきっている勇者の首を刎ねたとオレは確信した。


「とった!!」


 ……のも束の間。

 攻撃が勇者に当たると思われた瞬間。勇者の口角が少しだけ上がった。


「残念。そんな攻撃じゃ、ボクに攻撃なんて当てられないよ」

「なっ!?」


 不可解なナニカに剣は弾き飛ばされ、木っ端微塵に砕け散ってしまった。


「う、うそ……」


 一度足りとも二度も負けた――。

 一度目は全力で、二度目は呪いが掛けられているからとはいえ、隙を狙って殺したと思ったにも関わらず不可解な能力によって封じられ、勝てなかった。


「さて、一回は許してやったけど、二回目はどうしようかな」

「勇者さま。もう黙ってはいれません。即刻、殺すべきです」

「そうですよ。だって、こいつは私らを苦しめ続けた魔王なんですよ?」


 二回に渡って勇者を殺そうとした罪と、悪魔に任せて怠けていたオレ自身の罪により、オレは死ぬことになるだろうな。

 けど、最初からこうなることは予想していた。

 ――むしろ、死ぬことで、これ以上のトラウマを作ることなく逝けると考えていた。



 だが、しかし……。



「そうだなぁ」


 玉座から立ち上がる勇者の視界に入れたオレは、体をこれでもかと言わんばかりに震えさせながら後退していく。

 不可解なナニカに弾かれたのが、結構きてたのか尻もち付いたまま腰を抜かしていたので、引き摺る形でしか後ろに下がれない。



「っ!? こ、来ないで……」


 口から出たのは、“死”を恐れる少女のような言葉――。

 

 勇者はこういう構図を待っていたのか口角をニヤリと上げ、笑顔を浮かべながら一歩二歩とゆっくりと歩みを進める。

 まるで、オレが逃げるのを待っているかのように……。


「来ないでーーっ!!」


 リングによって得た魔力を全部使い切って生成した巨大な魔力の塊。

 それを発現させたと同時に勇者は動いた。


「なっ!? がはっ……」


 魔力の塊に触れないように回り込み、震える少女の喉元に手を差し出す外道。

 立たせてあげようという親切心はなく、ただ単に少女の首を絞めるためだけに手を出す。


「くっ」


 地に足が付かない状態で首吊り状態。

 それが思っていた以上に辛く、どうしようもない状態であるが故にオレの目尻に涙が溜まっていく。



(……怖い。死にたくない)



「た、助けて。殺さないで……」


 涙や喉を押さえ付けられていたので、相手に届いたかどうかはわからない。けれども、オレは必死に口を動かし伝えた。何でもするから殺さないで、と。


 その真剣な想いが届いたのか。

 勇者はその場にオレをドサっと落とした。

 短い期間ではあったが、地に足付かない状態でぶら下げられていたので、地面の感触が心地よく感じる。

 勇者に開放されて、小さくゴホゴホっと咳き込むオレの姿をせせら笑う勇者パーティーの姿に、少しムッとするも反抗した所で、勇者によって無力化されるのは目に見えてわかるので諦める。



「じゃあ、とりあえず服従心を見せてもらおうかな」


 手を差し出してきた勇者の手のひらにそっと隠していた兵器の数々を置く。


「……次はこれを着けてもらおうかな♪」

「こ、これは……」




 その後日からオレは、メイドとして勇者を奉仕することとなった。

 勇者から手渡された物は、勇者が手作りしたらしい丈が短く露出面が多いメイド服に、首輪。


 逆らってもオレに得はないと着けたはいいものの、首輪を着けた瞬間からオレの体に生えた猫耳と猫尻尾については勇者に文句を言いたい気分に駆られる。





「あー、ホント、誰か勇者を殺してくれないかな」


「ダメですよ。そんなこと言っては……」



 またお仕置きされちゃいますよ。と溜め息混じりに言い放った女性。


 彼女の名前はエレナ。

 魔王の右腕として事務仕事に始まり、戦闘面でも補助として頑張ってくれていた女性だ。オレが魔王としての生活をきちんと送れていたのには、影ながらに努力してくれた彼女の頑張りあってこそだ。


「だ、大丈夫だし。次は逃げ切るし」


 “お仕置き”という単語が耳に入った瞬間にオレの手足は意思とは関係なくブルブルと震えだす。

 頭に生えた猫耳もしゅんとなって、尻尾はビクンと張ったままブルブルと震えた。


「どんだけ悲惨な目にあったんですか……」


 エレナは魔王軍対勇者一行の戦いに一切参加することがなかったが故に、勇者や勇者一行から好意を持って接しられている。

 だが、オレは彼女とは違い、魔王だ。

 仮にも部下が勝手に行ったこととはいえ、責任は全て上司に来る。

 だからこそ、彼女らは……。


「ほら、ミヤ。サボってないで、仕事しなよ? でないと、勇者に懲りてないようなんで、また鳴かせてやってくださいって進言するよ?」

「やります!! 仕事しますから言わないでー!!」


 死ぬ気で魔王城の玉座の間を掃除した甲斐あって、崩壊した跡は完全になくなっていた。

 屋根や壁に穴が空いていた場所は、本当に少ない量だけ残してもらっていた魔力を全部使って治すことに成功した。




 帰ってきた勇者が片付けた後の玉座の間を見て、関心していたのは素直に嬉しかった。







 けれど――頑張って仕事をして、お仕置きから逃れられたと安心したのに。ご褒美だといって勇者に啼かされることになったのは、本当に納得がいかない。







 

 オレこと第二十九代魔王『ミヤ』は、心の底からこう思う。






 ――勇者が魔王より邪悪過ぎる、と。












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