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さよなら栄光の賛歌  作者: 金椎響
第一章 厄が来ませんように《ノック・オン・ウッド》
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無差別攻撃地帯《フリー・ファイア・ゾーン》

 ボクとキャロライナ、それにエリンの機体が先陣を切っていたクレアのグロリアに追いつく。

 そのまま、ボクとキャロライナ、クレアとエリンの二人一組(ツーマンセル)に分かれる。

 最初に発砲したのは、キャロライナだ。

 時より擲弾(グレネード)も織り交ぜながら、敵性FHに向かっていく。SOP――標準作戦手順《スタンダード・オペレーション・プロシージャー》に忠実な、それでいて確実な一撃が加えられて行く。


 ボクとクレアの兵装は標準仕様のアサルトライフルで、キャロライナはそれに加えて擲弾発射器(グレネードランチャー)をアサルトライフル下部に装着している。

 エリン機は火力支援にまわるための分隊支援火器(SAW)だ。他にも狙撃銃とミサイルシステムを装備している。


 他のユニットのグロリアに気を取られた敵FHに、キャロライナは的確に銃弾を叩き込んでいく。

 敵のFHは、ロシアが開発したV〇六六ヴォーリャという機体だ。

 単純さがそのまま堅牢性に繋がったこのFHはとにかく頑丈で整備もしやすいから、どこの紛争地でも見かける。

 単純さは模倣のしやすさでもある。今では中国もライセンス生産を行う一方で、それを上回る量の海賊版を非合法的に世界中へ供給していた。

 ラインセンサーの眼光といい、恰幅のいいその姿は西洋の甲冑姿と言えば聞こえはいいかもしれない。

 けれど、このグロリアを前にすると、陳腐でただ武骨なだけの印象しか与えない。

 せっかく大出力の推進システムが搭載されていても、肝心の推進剤が満足にないのか、ボク達に追い立てられているというのに、緩慢な二足歩行でお茶を濁そうとしている。


 牽制のつもりなのか、マシンガンや対FHロケット弾を放ってくるものの、有効射程を超えているので、明後日の方向へ抜けていってしまう。

 SOPの大切さを痛感する場面だ。

 有効射程と残弾数を意識した射撃をしなければ、無駄撃ちと弾切れに陥ってしまうのに。

 とはいえ、今では交戦機会がめっきり失われてしまい、ユーロの正規軍でさえたまに陥ってしまう少々厄介な問題でもある。

 アイルランドの停戦監視に派遣されたとある国の将校も、そんなことをぼやいていたような気がする。あれは、誰だっただろう。

 敵FHがマシンガンを放り投げると、腰にマウントされていたナイフを抜き取る。

 そして、一歩一歩踏み締めてこちらへと向かってきた。


「なぁ、あいつと遊んでいいか?」


 キャロライナのグロリアが背中に手を回し、腕にナイフ型装甲切断機を保持する。

 真昼(ハイ・ヌーン)決闘時(ハイヌーン)? またまた、嫌なご冗談を。


「だめ」


 そう言うと、ボクは強烈な掃射を浴びせる。

 一発目の命中で受けた運動エネルギーが拡散し切る前に、二発三発と直撃を受け、ヴォーリャの装甲が瓦解していく。

 集弾効果による装甲の破壊だ。

 プロは一発で仕留める。無駄弾は一発も撃たない。

 なんて、フィクションでは大真面目で語られることがあるけれど、実際はそこまでシビアでも杓子定規でもない。

 無論、一発で仕留めざるを得ないという、抜き差しならない場面もあるけれど。


「なんだよ。せっかくの白兵戦の機会が」


 キャロライナがぶうぶう文句を言いながら、グレネードを打ち出す。

 手痛い一撃が敵のFHに炸裂し、左腕を肩ごともぎ取る。

 上空で自律行動をとっていたUAVのファイアファングが、ロケット弾を手負いのヴォーリャ目がけ降り注いで、無慈悲にも木端微塵に吹き飛ばす。

 太い砂柱が立ち上がり、人影がかき消される。

 ボク達のユニットAがギーツェンら逮捕対象(ターゲット)を無力化し身柄を確保、他のユニットはそれの援護・支援に回る。

 敵はフライング・マンタや航空支援用UAV、それに有人攻撃ヘリの爆撃を受けて散り散りになっていた。

 もはや、僚機との連携だなんて言っていられる状況ではないのだろう。

 電子欺瞞がないので、精密誘導爆弾が確実に敵を破壊していく。


「なんだか、無差別攻撃地帯フリー・ファイア・ゾーンみたいだな」


 キャロライナは笑う。

 無差別攻撃地帯フリー・ファイア・ゾーンとは、ベトナム戦争で米軍が指定した戦域のことで、そこではあらゆる種類の兵器が司令部の承認なしで使用することができた。

 なるほど、放たれるスマート爆弾の数は確かに、ちょっと昔の空襲みたいだ。

 昔は、対空砲火を嫌って、高高度から都市を空爆していた。

 だけど、当然そんな高さからは目標をピンポイントで吹き飛ばすことは不可能だ。

 なので、爆弾をどかどかどかどか投下して、そこにいる軍人であれ民間人であれ、そこに住める者はみんな平等に、街ごと丸焼きにしなくちゃならなかった。

 エリン機のSAWが集中的な制圧射撃で追い打ちをかけた。

 支援ユニットの援護で、敵の側面や後方を突き、執拗で確実な銃撃を加えていく。


「で、あれがギーツェンの機体か?」


 最新鋭のFHと各種航空支援の攻撃に晒されて、次第に手駒を失っていく武装組織の一向。

 そのなかでも、特に整備の行き届いたヴォーリャを指してキャロライナが言う。

 こういった情報は、事前に調査部が調べてくれていたのだけれど、FHのその滑らかな動きからして、素人がぱっと見ても丸分かりだった。

 とはいえ、スフェール半島は動乱で電力供給が所々で寸断されてしまっている。

 末端の兵の充電や細かいところまでの整備や改修に、手が回らないのが現状なのだろう。

 兵站(ロジスティック)の重要性を痛感する場面でもある。

 ギーツェンが操縦していると思われる機体は僚機を従えながら、その猛攻をあっさりとかわしていく。

 その動きは、猿山の大将にしては悪くない。

 紛争地の連中は往々にして、非武装の民間人や練度の低い軍人に対してはびっくりするほど殺し慣れている。

 その癖、こういった場面では意外にも打たれ弱かったりする。

 肝心の対FH戦に不慣れ、というのもある。

 けれど、こっちはアメリカ資本が主体で、最新鋭装備で揃え、満足が行くまで訓練に訓練を重ねた人間達で構成された、「軍隊」と言っても通ってしまうような姿だから、というのもある。

 武器が市場にいくら溢れていると言っても、彼らには装備や練度の格差があって、しかも致命的なまでに「アマチュア」なのだ。

 警告音(アラート)がコックピットに鳴り響く。

 三機が一体となった発砲。ボクらは散開して回避行動に移る。

 スラスターを吹かし、グロリアの優れた機動(マニューバ)で避け切ると、一連の流れのまま、すぐに反撃に移る。

 クレアの正確無比な攻撃が、僚機の一機のコックピットに炸裂し、機体をその場に擱座させる。

 そして、残った最後の僚機も、エリン機の猛攻を避け切ったところで、空飛ぶエイ(フライング・マンタ)のスマート爆弾が足元で炸裂する。

 一瞬で、下半身がまるごと吹き飛ばされ、敵のFHは上半身だけの姿のまま、その場で二転三転する。

 よりにもよって、一番痛い一撃を喰らってしまった訳だ。

 マシンガンをフルバーストにして、最後の悪足掻きをしていた上半身だけのヴォーリャだったけれど、UAV二機のガトリング式キャノン砲を、十字砲火で浴びせられる。

 おびただしい砲弾が連なって、射線が炎の線になって見えた。

 それに絡め捕られてしまったヴォーリャは四方八方に爆散して果てた。


 それでも、ギーツェンの乗機らしき機体はやられない。

 被弾らしい被弾もなく、ぴんぴんとしていて、砂埃の舞う戦場を駆け巡っている。

 そして、隙あらばこちらにびっくりするほど正確な一射を放ってくる。

 こうしている間も、味方機が無力化されているというのに、その動きに動揺はまったく見られない。


「なんか、戦い慣れてるな」

「というか、慣れ過ぎてる感があるね」


 こんなにも戦い慣れた親玉(キングピン)がいるのだろうか。

 ボクはそこで、ある違和感を感じた。

 調査部の調べでは、とある武装組織は事前にギーツェンと連絡を取るはずだった。

 なのに、武装組織もギーツェンもそれをしなかった。

 まるで、ボク達の攻撃をあらかじめ予期していて、急遽取り止めたみたいに。


「……もしかすると、ボク達は一杯喰わされたかもしれないね」

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