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さよなら栄光の賛歌  作者: 金椎響
第一章 厄が来ませんように《ノック・オン・ウッド》
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作戦オーダー

 着地とはいうものの、実際は「衝突」もしくは「激突」と表現するのが正しいと思う。


 機体を覆うステルス外装の先端がひしゃげて、大きく陥没する。

 着地の衝撃を吸収し尽くすとともに、衝撃を利用して外装が剥がれ落ちていく。

 特に、ステルスペンキが塗られた部分は細かく割れて壊れるように設計されている。


 すでにステルス外装を脱ぎ捨てて警戒に当たっていたクレアの機体が、斥候(ポイントマン)として前方を走っている。

 そして、一番後ろで警戒するのがエリンだ。

 エリンの機体はマザーマンタこと空飛ぶエイ(フライング・マンタ)から飛び立った航空支援用の二機の無人機(UAV)の親機の役割を果たす――のだけれど、電磁封鎖をしているので、ほとんど自律制御(スタンドアローン)だ。

 支援用AIが「自ら」判断して、電子戦を仕掛け、スマート爆弾を降らせ、ガトリング式キャノン砲をぶっ放して、ボク達をさり気なく助けてくれる。


 ふたりの間に挟まれながら、ボクとキャロライナは道中を進む。

 電子音と共に、窓が表示される。戦術データリンクだ。

 エリンが飛ばした無人機(UAV)が、電子光学・赤外線(EO・IR)カメラとレーザー距離測定装置が押し込まれたセンサーボールターレットを、まるでフクロウの首のように動かして、せっせと戦場の情報をかき集めてくれる。

 このUAVはファイアファングという、無人攻撃ヘリだ。

 その前身が火力偵察兵(ファイアスカウト)なだけあって、情報収集能力が高い。それでいて、小翼(スタブウィング)には、対FHミサイル、精密誘導爆弾、レーザー誘導ロケット弾を搭載している大変心強い味方だ。


「なんだよ、電子欺瞞はないのかよ。張り合いがねえ」


 キャロライナが言った。

 とはいえ、遠隔操作だけに特化した無人機(UAV)があらかた戦場から駆逐されてしまった今、積極的に電子戦を仕掛ける旨味はかなり少なくなってしまった。

 ほとんどの兵器が電磁封鎖を行い、自己完結してしまっている。


「事前調査の通り、ギーツェン側と通信するためでしょう」

「そろそろだね」


 ただでさえ緊張したクレアの顔が、さらに強張る。

 優秀で経験豊富な戦闘要員(オペレータ)でありながら、いつでも初陣のような緊張感を維持している辺り、いつもボクは凄いと思ってしまう。

 クレアの真摯さは見せかけのものではない。

 そのことは、ボクもよくわかっているつもりだ。


「エリンから各機へ。UAVが取得した情報をどうぞ」

「サンキュー。電子妨害策(ECM)のない戦場は楽だから困るぜ」


 二機のUAVによる情報分析(プロファイリング)飛行で得られた各種情報が、瞬時に同期される。

 かつては人間がいちいち確認しなければならなかった情報。

 欧米が先んじた無人機(UAV)と自動化の技術は、アメリカの最新鋭UAVがイランの電子的攻撃でコントロールを奪われてしまうばかりか、イランの航空基地に着陸させられてしまうという事件のせいで、横槍を入れられてしまった。

 という訳で、普段は戦場の状況をいちいちボク達が調べられる範囲で地道に入手せねばならなかった。

 けど、幸いなことに電子欺瞞のない戦場では機械に外注することができる。


「エリー、ギーツェンの通信を傍受できる?」

「もうちょっと近づかないとダメね。傍受を恐れてか、電源を確保できていないのか……微弱なのよ」

「それは、どういうレベルで?」

「本当に通信をしているのか、疑うレベルで」

「なるほど、電子欺瞞を打ち止めにしてる訳だ」


 調査部との事前の打ち合わせでは、電子欺瞞下を想定していたけれど筋書きが変わるかもしれない。

 スーパーマン・シナリオ――敵を過大に評価した想定。

 用心し過ぎるということはない、なんて言われるけれど、実際のところ、敵の能力を過大に見積もるのも致命的だ。

 戦場における不確実性。

 とはいえ、ボク達にとって、圧倒的に有利な現状に変化はない。

 普段はただ高高度をぐるぐるしている空飛ぶエイ(フライング・マンタ)やその他諸々から航空支援が得られるからだ。

 地上のユニットリーダーと、上空で旋回する指揮統制(C2)ヘリコプター上の航空指揮官含むふたり、そして戦闘指揮所(CIC)のジョシュアとその他幹部連中達を繋ぐ指揮通信網(コマンド・ネット)。ヘリコプターの機長と航空指揮官の通信網から、各ユニットの部隊間通信網。

 電子欺瞞下では絶たれていた関係性が、ここでは全て一つに繋がり合うことができた。

 そして、作戦が続いている間はずっと、他の周波数の通信は全て妨害され続ける。

 電子戦というのは、互いに仕掛け合うと我慢比べだけど、一方だけが行うと本当に「一方的」で目も当てられない。

 とはいえ、これからの電子戦は「相手には一切使わせず、自分はフル活用する」という流れになる。

 他のユニットが傍受してくれていれば、話が早い。

 だけど、残念ながら、もっとも電波状況のいいボク達が傍受しなくちゃならなくなりそうだ。

 ボク達はFH用アサルトライフルを構えつつ、空高くを駆ける二機の無人機(UAV)が拾う砂嵐に耳を澄ませた。

 戦況状況が、常に更新され続けている。

 他のユニットも着々と戦闘準備を整えている。

 本来ならば、調査部が担う諜報作業さえなければ、とっくのとうに戦闘へと移行できるのだから、もどかしいことこの上ない。

 みんな口に出して言わないけれど、決戦の火蓋が切って落とされるのを静かに待っている。


「……もしもし」


 ボク達が期待していた声ではなく、今頃は高高度を飛行するフライング・マンタの戦闘指揮所(CIC)に詰めているジョシュアの声だった。


「なんだよ、ジョッシュ」

「そんなに嫌そうな声を出さなくても、いいんじゃないかな? そろそろ潮時だ。各員、作戦行動に移って」

「でも、いいの? 情報があった方が、後々楽なんじゃないのかしら」

「ああ。後はオランダに行くまでの道中、張本人たちからたっぷりから絞り出すから」

「そう」

「じゃあ。各員、そういうことで、くれぐれもナチュラルに頼むよ」


 どーん、と遠くで爆発音が轟く。

 各ユニットが作戦行動に移行した。

 つまり、発砲が許可され、各自戦闘行為に励む時間となった訳だ。

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